日本ではゴールデンウィークが明けたせいで、少し鬱屈とした空気感が漂っていた2017年5月8日、自分のTwitter上でその空気感を煽るように心配なニュースが飛び交った。TTNG(from UK)とMylets(from US)というバンドの香港公演にて、会場であるライブハウスHidden Agendaがガサ入れにあった。結果、TTNGとMyletsのメンバー、Hidden AgendaのオーナーであるChung-Wo Hui、ライブハウス・スタッフ1名、観客1名の計7名が逮捕されたとのことだ。TTNGとMyletsは、正式なワーキングビザを取得しているかという不法就労の疑い、Chung-Wo Huiはそのような不法就労の斡旋等の疑い。TTNGとMyletsのメンバーは、その後発表された声明によると、逮捕より数時間後保釈され、それぞれUKとUSに帰国することに。だが、6月5日に香港の移民局での取り調べに戻ってこなければならないそうだ。Chung-Wo Huiは5月9日現在も、拘留中のよう。

アジアン・インディー・ミュージックシーン 〜号外「香港」TTNG&Mylets香港公演・Hidden Agendaへのガサ入れと、香港ミュージックシーンの困難と希望〜 sho-06_3-700x525
連行されるChung-Wo Hui
photo by Hidden Agenda

つい先日までTTNGとMyletsは、LITEやcinema staffを迎えたジャパン・ツアーを終えたばかりだったので、TTNGやMyletsがこれから大きな困難に直面しないか心配だ。でも、この事件は降って湧いたような話ではなく、これまで会場であったHidden Agendaや香港のミュージックシーンが抱えてきた、長年の背景がある。大事なとこなので前置き長いですが、最後に言いたいこと書くので、最後まで読んでほしいのです。

香港ではこれまで、どメジャー級のアーティストがライブをするようなホールしかなく、若手バンドやインディー・アーティストがライブをできる場所がほとんどないに等しかった。そんな中、現在300名キャパの規模で営業を続けるHidden Agendaは、2009年にオープンして以来、国内外問わず多くのアーティストの公演を行い、香港のインディー・ミュージックシーンを支え続けてきた。ここでは名前を出さないことにするけど、日本からも多くの素晴らしいバンドたちがこの場所でライブを行い、そこからまた他のアジア各国へ進出していき、アジア全体のミュージックシーンが栄えていった。

だが、Hidden Agendaはその違法性を問われ、これまで4度場所を変えている。その場所はいずれも工業地帯に位置するのだが、その理由は香港のバカ高い家賃のせいで、商業地域でこのサイズのライブハウスだと営業が絶対に成り立たないから。以前話を聞いたところによると、中心地の商業地域でこの規模のライブハウスをやろうとすると、家賃は月1,000万円とかの規模の話らしい(正確な数字ではないと思うが、ニュアンスとしてありえなさが伝われば)。それで比較的家賃の安い工業地帯が唯一の選択肢であり、そこで営業を続けてきた。だが、工業地帯における、音楽などの興行は認められないという違法性が政府より指摘され、立ち退き命令が出て、その度に場所や方法を変え続ける。香港のミュージックシーンを支えていきたいという情熱だけで、何とかこれまでHidden Agendaを存在させてきた。

アジアン・インディー・ミュージックシーン 〜号外「香港」TTNG&Mylets香港公演・Hidden Agendaへのガサ入れと、香港ミュージックシーンの困難と希望〜 sho-06_2-700x700
Hidden Agenda
photo by Hidden Agenda

じゃあ、家賃の安い工業地帯で正当な興行ライセンスを取得して営業すれば? という話になるが、それが現実的な話じゃないそうだ。その点について、Hidden Agendaから今回の事件を受けて、5月9日に発表された声明にコメントが含まれている。

Hidden Agenda「ライセンスを取得して合法的に営業すればいいじゃないかと度々問われますが、1967年と1973年に制定された借地法によって、工業施設では、工業を行うか倉庫としてでしか使用してはいないと定められているため、ライセンス自体取得できず、合法的に営業は不可能なのです。」

もちろんHidden Agendaも、ただただ違法性のある営業をほけーっと続けているわけではない。何度も何度も新たなやり方を模索し続け、昨年末の4回目の移転時には屋台としての食品工場ライセンスを取得し、屋台の営業もしながら「合法の場所」として成り立たせた。その上で、そこでもライブ・ミュージックが聴ける、という営業の仕方をとったのだ。それでも今回起こったこの事件。政府は、今回不法就労斡旋の疑いという理由を探し出し、Hidden Agendaを潰しにかかった。この不法就労についてもHidden Agendaは、

Hidden Agenda「私たちはこれまで、海外アーティストのビザ申請を行ってきました。ただ、その申請プロセスは非常に困難です。更にHidden Agendaは政府より非合法なことを行っていると捉えられ、そのプロセスは更に複雑なものになり、結果、何度も申請が却下されてきました。」

それでもこれまでHidden Agendaがワーキングビザを正当に取得したことは、実際にあるそうだ。今回、TTNGとMyletsが不法就労に当たるのかは調査中と思われ、そのために6月5日(月)に再度香港に来なければならないということだろう。

今回の事件を受け、香港「公民党」議員Jeremy TamとTanya Chanも、工業地帯での興行ライセンス取得の問題や、ビザの問題に関しては、申請プロセスの複雑さや規則そのものについて、疑問を投げかけている。そして、この一言も。

Jeremy Tam「政府はあらゆる方法を使って、Hidden Agendaを潰したいように見える」