最近のクリープハイプの活動ペースが尋常じゃない。2月に作品集『もうすぐ着くから待っててね』をリリースしたと思ったら、もう4月には、菅田将暉主演の映画『帝一の國』主題歌となる11枚目となるシングル『イト』をリリース。その間にクリープハイプモバイル会員限定ツアー<「秘宝館」〜満開栗の花〜>で全国を回り、フロントマンの尾崎世界観(以下:尾崎)にいたっては、雑誌の連載やラジオのレギュラーを抱える。いったいどこからそんなバイタリティが出てくるのか。そのモチベーションの源とは。いったい尾崎はどこに向かおうとしているのか。武道館2daysを成し遂げたバンドが、さらなる目標を持つとしたら、それは何なのか。知りたい。尾崎は何かのメディアでこんなことを言っていたような気がする。

クリープハイプ – 「イト」MUSIC VIDEO (映画「帝一の國」主題歌)

「俺たちは一度バンドとしての役目を終えたと思っている。僕たちのピークはやはり武道館2daysをやったときで、そのあとは、自分たちの存在理由については常に考えながら音楽をやっている。」と。バンドとしてのアイデンティティを失いかけているなか、今ある仕事を全力でこなし、本当のことを忘れようとしているのか。それとも。一度頂点を極めたバンドが必ず通る道とは言え、それは苦しいに違いない。そんな葛藤も表に出さず、作品に昇華させることに成功している稀有なバンド、それがクリープハイプだ。

僕は、作品集『もうすぐ着くから待っててね』の店舗特典のブックレット作成を担当させてもらったのもあり、この怒涛のスケジュールの内幕を少し垣間見させてもらうことができた。でもそれは、非常に穏やかで、和気藹々としたものだった。ピリピリしていないし煮詰まってもいない。まるでアイデアが溢れ出しているようだ。バンドの勢いを嫌でも感じる。バンドのレコーディングを見るのは今回が2回目だった。一度目は、元相対性理論の真部脩一と西浦謙助が結成したユニット、アゼル&バイジャンがプロデュースしたアイドル、タルトタタンのデビュー・アルバムのレコーディングだった。もう何年前のことだろう。しかし、クリープハイプのレコーディング風景を観て、バンドによってこんなにもレコーディングのやり方が違うのかと驚きを隠せなかった。尾崎は途中までできた歌詞をプリントアウトして持ってきていた。途中まで歌入れするのだという。まだ断片しかできていない楽曲に歌が吹き込まれる。するとメロディができて、本当にまるで曲が生き物のように生命を持つ。一気に音楽っぽくなる。片や、元相対性理論のコンポーザー、真部脩一は、即興でその場で歌詞をつくって、そのままレコーディングしていた。真部の歌詞と言えば、絶妙なセンスで繰り広げられる言葉遊びの数々が有名だが、あれが即興とは、と当時驚いたものだった。話がそれた。とにかく、クリープハイプのレコーディングは、バンドの充実度を如実に反映したものだったということだ。

そもそもの尾崎氏との出会いは、美容文芸誌『髪とアタシ』での取材だ。『髪とアタシ』は髪に関するものなら何でも特集する雑誌で、そのときは、髪と音楽という特集で、僕は尾崎氏に自身の髪というテーマで取材をする予定だった。はじめ、僕は、クリープハイプのインタビュー担当ではなかった。別の女性ライターがインタビューすることになっていた。しかし、クリープハイプの歌詞には、ピンサロを筆頭として、エロにまつわるエピソードが数々出てくる。そこで、編集長が男のほうがいいだろうと、僕に話がまわってきたのだ。編集長GJすぎる。ちなみに僕はピンサロにいったことがない。チャンスがあれば、尾崎氏に楽しむコツを教えてもらいたい。そして、そのときのインタビューが凄く盛り上がったのだった。僕は、髪型は社会に対する違和感の象徴と言う尾崎氏にすっかり共感してしまって、一発でファンになってしまっていた。また一緒に仕事をしたいと思っていたところ、まさかの尾崎氏からのオファーだった。凄く嬉しかった。なんとしてもいい仕事をしようと思った。僕は喜び勇んで取材日に備えた。

僕が取材のために、お昼過ぎに都内のレコーディング・スタジオに着くと、もうメンバーは集まって、曲を録音しているところだった。かなりBPMの早い曲で、すでに撮り終わるところだった(のちに“は?”という曲だということが判明する)。レコーディングは主に尾崎が中心となって行われる。そしてディレクションの指示がはっきりしていて早い。曲録りもほぼ一発録りで、だらだらと何回も録ったりしない。これは、昔お金がなくて、レコーディング・スタジオに長くいられなかったことの名残だとか。テキパキした尾崎の指示に、メンバーもテキパキと答えていく。ギターの小川、ベースの長谷川、ドラムの小泉、3人は、口を揃えて、尾崎がクリープハイプのリーダーだと即答した。そこには完璧な信頼関係が見て取れた。僕は尾崎以外の3人の自意識の出し方が絶妙なところがとても素敵だなと思った。本当はもっと自分も前に出たいはずだ。しかし彼らは必要以上に前には出ない。尾崎を優先させる。それは、リスペクトと信頼関係がなければできないことだ。

作品集『もうすぐ着くから待っててね』はある意味非常にわかりやすい構成のアルバムだ。曲順でいえば2曲目にきている東京メトロfind my tokyo.CMのイメージソングでもある“陽”が小林武史をプロデューサーに迎えて、ストリングスをフィーチャーした超ど真ん中のポップチューン。今までのクリープハイプにはないタイプのポップさを備えた曲だ。それに対し、他の楽曲、“ただ”、“は?”、“校庭の隅に二人、風が吹いて今なら言えるかな”は、これも今までのクリープハイプにはないタイプの曲で、様々な実験が試されているたぐいの、一風変わった曲群だ。世間が望んでいるクリープハイプと、自分たちがこうあろうとしているクリープハイプ。そのふたつの折り合いをバランスよくつけている絶妙の作品集と言っていいだろう。この狙いはわりと常道だが、王道でもある。“陽”のポップネスから入ったリスナーが他の楽曲でよりディープなクリープハイプの世界に引き込まれ、ファンになっていく姿がありありと想像できる。

クリープハイプ – 「ただ」MUSIC VIDEO (from 2017.2.22 Release 作品集「もうすぐ着くから待っててね」)

また『もうすぐ着くから待っててね』というタイトルの意味は、「待ち合わせをするときに、少し遅れそうなとき、ケイタイ電話で、もうすぐ着くからと電話できる仲が、一番いい距離感だと思っている。」と尾崎氏が言った。「あまり仲良くないと、そもそも遅刻しないし、電話なんてできない。逆に距離が近すぎるとそんな電話はしない。そう電話で伝えられるほどの距離感がやっとファンとの間に構築できたんじゃないかなと思った。」と続けた。この話を聞いてファンはどう思うのだろう。素直に喜ぶのかな。たぶんそうだろうな。

クリープハイプは、4枚目の最新アルバム『世界観』から、今までのクリープハイプのイメージを覆そうという戦いをずっとしていると思っているのだが、尾崎がラジオをやったり小説を書いたり、テレビに出たりすることは、とてもバンドにとっていいことだと思う。それは尾崎の「世界観」の拡大を意味するから。世界観という名前は、周りから世界観がいいよねと言われることが多いから、つけた名前だと聞いたが、明らかにその世界観の奥行きが広がっているのがここ最近の作品を聴いていて思う。これからも、いくつもの世界観を切り取り、我々に多様な世界の見方を提示してほしい。

RELEASE INFORMATION

11th SINGLE『イト』

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作品集「もうすぐ着くから待っててね」

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