「低音なんです」とKyokaは言う。「高い音はしかたなく出してる。低音をもっと聞こえるようにするために高い音を出してるんです」と。〈raster-noton〉初となる女性アーティストとして耳目を集める、Kyoka待望のニュー・アルバム『IS(Is Superpowered)』がリリースされた。アルバムには、これまでに彼女のライヴを目にしたことがある者ならばきっと誰もが体験しているにちがいない、過激にフィードバックされた低音の壁に対峙するような感覚と、スタジオ作品ならではのしなやかさと艶やかさが同居している。アグレッシヴでエキセントリックで、そしてある種の過剰さ(こここそが彼女が〈raster-noton〉に迎え入れられた理由だろう)に貫かれているが、肌触りは奇妙にポップでさえある。ベルリンと東京を行き来しながら世界を飛び回る彼女に話を聞いた。

〈raster-noton〉アーティスト集合写真。中央には紅一点のKyokaが

■Kyoka・プロフィール

坂本龍一のStop Rokkasho企画やchain musicへの参加、Nobuko HoriとのユニットGroopies、 Minutemen/The Stoogesのマイク・ワットとのプロジェクトを行う、ベルリン~東京を拠点に活躍するスウィート・カオス・クリエイターKyoka。これまでにベルリンの〈onpa)))))〉からの3枚のミニアルバムを発表後、Alva NotoとByetone率いるドイツの〈raster-noton〉からレーベル史上初の女性アーティストとして2012年に12インチ『iSH』をリリース。日本盤は2012年4月にCDで限定300枚プレスでリリースされ、瞬く間にソールドアウト。そのポップとエクスペリメンタルを大胆不敵に融合させた、しなやかなミニマル・グルーブは様々なメディアで高く評価され、<SonarSound Tokyo 2012>、<FREEDOMMUNE 0[ZERO]ONE THOUSAND 2013>へも出演を果たす。

■raster-noton

ドイツのケムニッツ/ベルリンを拠点とする〈raster-noton〉は、90年代後半に「音」をその最小構成要素であるサイン波にまで還元化し、「音楽」なるものの再定義を形作った。カールステン・ニコライことNoto/Alva Noto、オラフ・ベンダーことByetone、フランク・ブレットシュナイダーことKometの3人を中心に、池田亮司、Atom TM、AOKI takamasaらを擁し、電子音楽の急先鋒として常に君臨し続ける名門レーベルである。

Interview:Kyoka

──2012年のEP『iSH』を経て、〈raster-noton〉からは初のアルバムとなりますが、制作はいつごろから始めていたのですか?

2010年ぐらいからライヴでお客さんの様子を見つつ、というかんじですね。ライヴでよかった時に自分がなにをどうやっていたか、それをなるべく覚えておくようにしてて。それを曲作りに生かしていくんです。

──それはライヴの仕込みの段階からお客さんの反応をどうみるか、ということを意識して仕込んでいるのでしょうか。

そうです。仕込みの時には意識して一番単純なループになるようにしていますね。単純なループのほうが意外と振れ幅があるんですよ。先に凝ったものを作り込むと、その作り込んだものをその通りにやることしかできなくなる。

──ライヴではコンタクトマイクをフィードバックさせて低音の土台を作りながら、そこにコンピュータでループを重ねて曲を構築するスタイルをとられていますが、その組み合わせを変えながら振れ幅を出す、ということなのですか? コンタクトマイクのフィードバックは完全にアナログであって、それゆえ制御が難しいから、それによってシンプルなループに予想外の変化が生じる?

いや、もしかするとむしろ逆ですね。アナログのフィードバックのほうがまだ楽器的なかんじで、自分の手で制御ができるんです、機械とちがって。むしろコンピュータのほうが自分には制御が難しい。ライヴでは、演奏する会場によってフィードバックする帯域も音もちがうので、その会場で一番よく鳴る音をコンタクトマイクのフィードバックで探して、そこにその一番よく鳴る音を固定していくんです。だからアナログなフィードバックのほうは、むしろ制御できている。それで“あ、今日はこの会場でこういう音がこう鳴るんだな”ということを探って、そこに合わせてコンピュータのほうの音をどう使うか考えていくんです。

──フィードバックを固定することによって、コード感のようなものが決まっていく、ということなのですか?

うーん、なんていうか、体感的なアドレナリンを引き出すツールになってるんですよ。コンピュータの操作は自分にとって失敗することもある行為なんですけど(笑)、フィードバックがしっかりしていれば、たとえコンピュータのほうで失敗しても、フィジカルな締まりを生み出すことができる。

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