盟友エグベルト・ジスモンチとのデュオによる日本公演を目前にして伝えられたナナ・ヴァスコンセロスの突然の訃報は、日本のみならず世界中のファンに大きな衝撃と悲しみを与えた。ブラジルはこれまでに数えきれないほどたくさんの革命的音楽家を生み出してきたが、他の誰とも比較できない圧倒的個性とパッションを前面に出しながら、ジャンルや文化や国籍の壁を超えたグローバルなコラボレーションを展開し、結果的にブラジル音楽の神髄を広く知らしめたという点において、この二人ほどの貢献者はほとんどいないだろう。
ブラジル音楽は、クラシック音楽を軸にしたヨーロッパ系音楽、アフリカ由来の黒人音楽、そして南米先住民(インディオ)の音楽などが複雑に化合し、溶け合ってできたハイブリッド・ミュージックだが、ジスモンチの音楽キャリアはまさにその成り立ちを検証する旅のようなものだったとも言える。彼は1960年代末期からブラジルEMIや自身のレーベル〈CARMO〉、更にドイツの〈ECM〉などから膨大な数の作品を発表してきた。共演者リストにはヤン・ガルバレクやチャーリー・ヘイデンといった欧米ジャズ系からヨーヨー・マなどクラシシック系まで世界の超一流音楽家たちの名前がキラ星のごとく連なっているわけだが、そうした華々しいキャリアの中でも、とりわけ、ブラジル人としての性(さが)、そして感性と野性をダイレクトに伝えてくれたのがナナ・ヴァスコンセスとのコラボレーションだったと思う。それは、ナナもまたジスモンチ同様に、世界中を飛び回りながら越境的活動を続ける中で、ブラジル音楽の本質と可能性を検証/探求してきた孤独な求道者だったからにほかならない。
Naná Vasconcelos – Africadeus(live Rome ’83)
ミルトン・ナシメントやガトー・バルビエリから始まり、ピエール・バルーのサラヴァ・レーベルのアーティストたち、ドン・チェリー、ジョン・ハッセル、ブライアン・イーノ、パット・メセニー、アート・リンゼイ、ポール・サイモン、更には日野皓正や坂本龍一、矢野顕子などに至るまで、ナナの共演歴はジスモンチをしのぐ幅広さであり、ある意味無軌道とも言えるが、どこで誰と一緒に演奏しても、ナナは常に悠揚と空を舞う大鷲のように自分の音を奏でながらフラジルの魂、その一点のみを照射していた。亡くなった今改めて感じることだが、ジスモンチとナナは、ブラジルの太陽と森と水がこの世に送り出した双子の兄弟だったのではないか……。
今回のジスモンチ単独日本公演では、急遽、ナナとの完全デュオによるジスモンチの〈ECM〉デビュー作『Danca Das Cabecas(輝く水)』(77年)や、その8年後のデュオ第2弾『Duas Vozes(ふたつの声)』(85年)などジスモンチとナナのコラボ作品の楽曲も演奏する追悼プログラムが組まれることになったという。とりわけ、パリで偶然出会ったその数日後にオスロのECMスタジオで即興的に録音された『輝く水』は、ジスモンチの名を一躍世界に知らしめたキャリア最重要作の一つである。一筆書き的コラボレーションだからこそ、むき出しの二つの魂による無邪気な交感/交歓が一種霊的なまでの音/響きへと昇華されている。
ステージ上ではジスモンチは一人である。だが、観客はきっとそこにナナの魂を感じ、声を聴けるはずだ。
collection petites planètes • volume 16 • NANÁ VASCONCELOS
EVENT INFORMATION
エグベルト・ジスモンチ・ソロ 〜ナナ・ヴァスコンセロス追悼コンサート〜
2016.04.20(水)
OPEN18:00/START19:30
練馬文化センター 大ホール(こぶしホール)
ADV ¥8,500/DOOR ¥9,000
INFO:株式会社ディスクガレージ 050-5533-0888(平日12:00-19:00)
※練馬文化センターでのチケットの再販売はございません。
RELEASE INFORMATION
[amazonjs asin=”B01B4C6E2U” locale=”JP” title=”ナナ=ネルソン・アンジェロ=ノヴェリ / アフリカデウス”]
ナナが70年代サラヴァに残した名盤! スピリチュアルで瑞々しい、大自然の声と共鳴したようなビリンバウの音色が世界中に衝撃を与えた名作2枚のカップリング。【サラヴァ・レーベル50周年記念リリース】
[amazonjs asin=”B00IFK65R4″ locale=”JP” title=”輝く水”]
ナナとの完全デュオによるジスモンチの〈ECM〉デビュー作。78年にはドイツ・レコード大賞を受賞した名盤。(1976年録音)
[amazonjs asin=”B01BMIRFO2″ locale=”JP” title=”ふたつの声”]
名盤『輝く水』から8年後に実現したデュオ第2弾。ブラジル的な情緒と〈ECM〉らしい透明感が溶け合うサウンド。(1984年録音)