音楽は大きく分けると、歌モノとインストゥルメンタルにカテゴライズされる。世の中のヒットチャートには、当たり前のように前者がランクイン。後者は、歌モノの影に隠れることがしばしばだが、歌が入っていないから聴かないというポリシーを持っている人がいるならば、それはとても残念なことだ。
京都を活動拠点に置くjizueもヴォーカルがいない、いわゆるインストバンドだ。大きな括りとしてはロックだが、音楽性を紐解いていくと、そこにはジャズ、ラテン、ポストロック、プログレッシヴロック、クラブミュージックなど、多種多様なエッセンスが散りばめられていることに気付く。彼らがリリースした最新アルバム『journal』には、ジャズ特有のスウィング感と叙情的なピアノの旋律を軸にしたサウンドを中心に、ダイナミックな曲展開、骨太で緩急自在なリズム、昂るグルーヴ感などが余すことなく詰め込まれていて、小説や写真集を読むように、自分だけのストーリーを描いて自由に音楽を楽しむことができる。生身の人間が演奏する音に自然と体が反応してしまう、音楽の根本的な楽しみ方を突いた素晴らしい作品だ。また今作ではバンド初の試みとして、ゲストヴォーカルにYeYeを迎えた歌モノや、Nabowa のバイオリニスト・山本啓との競演にもチャレンジ。同じ京都在住のミュージシャンたちの協力を得て、バンド史上最も音楽的な拡がりを感じさせる作品に仕上がっている。
現在jizueは『journal』のリリースツアーに取り組んでいるが、多忙な状況にもかかわらず、ギターの井上典政がメールインタビューに答えてくれた。新たなフェーズに辿り着いた彼らの集大成的なアルバムを題材に、要注目のインストバンドの魅力に迫る。
Interview:井上典政(jizue)
――Qeticでは、これまでにjizueの関連情報をピックアップしてきましたが、今回は初のインタビューということで、まずは自己紹介を兼ねてバンドのことを教えてもらえますか?
初めまして。jizueギターの井上です。jizueは2007年結成、ピアノ、ギター、ベース、ドラムの4人組インストバンドです。2006年に僕とベースの山田、ドラムの粉川の3人で始め、翌年ピアノの片木が加入しました。僕と山田と粉川は小学校の頃からサッカーをやっていて幼馴染です。
――jizueの音楽は大分類としてロックですが、ジャズ、ラテン、ポストロック、プログレといった、曲展開やアンサンブルが際立った音楽を昇華していますよね。4人の音楽的な共通言語としてはどんなジャンルやアーティストが挙げられるのでしょうか?
それぞれ聴いてきた音楽、演ってきた音楽はバラバラです。例えば僕なんかは、学生時代はメロコアやミクスチャーを好んで聴いていましたし、ピアノの片木は幼い頃からクラシックを演っていて、学生時代はクラブミュージックをよく聴いていたみたいです。ただ、共通して皆が意識している音楽はジャズです。インスト音楽をやる上でより自由な演奏と表現力を持つジャズに魅力を感じています。アーティストでいうと個人的になりますが、pat metheny、wes montgomeryをよく聴きます。どちらもギタリストなので、ギタリスト目線ですが、楽曲はもちろんサウンドも大好きです。
――最新作『journal』を含むこれまで発表してきた3枚のアルバムは、『Bookshelf』、『novel』と、本に関連するタイトルが続いていますよね。そこにjizueの表現したい音楽を紐解くポイントがあると捉えているのですが、その辺りはどうでしょうか?
『Bookshelf』を作った時に一つひとつの曲自体をそれぞれ一つの物語のような音楽にしたいという思いがあり、出来上がった曲達をアルバムにパッケージする事を本棚に例えてタイトルを付けました。『novel』は同じく小説のような物語のある作品と「新しい」などの意味も込められています。今回の作品には、ジャンルやサウンドなどでより多くの情報を詰め込みたいという思いから『journal』というタイトルを付けました。僕たちの音楽は言葉の無いインストなので、本や小説を読むように自由に物語を想像して自由に音楽を楽しんでもらいたいという思いがあります。想像から心に響くものがあったり、ワクワクする感覚を楽しんでもらいたいと思っています。
――昨年は2ndアルバム『novel』のリリースをきっかけに、<FUJI ROCK FESTIVAL’12>への出演を経験して、jizueにとって大きなトピックをもたらす一年だったと思います。バンドとしても、環境の変化や手応えを感じていますか?
手応えというか、環境が変わった事は凄く実感しています。野外での演奏も増えましたし、イベント出演の幅が広がった気がします。自分達の音楽性も、今迄はメンバー内で音楽を楽しむ、僕らが楽しく演ってるものを見てもらうというライブが多かった気がしますが、今は僕達が出すエネルギーで一緒になって、沢山の人に音楽を楽しんでもらいたいという思いが強くなった気がします。
――今作『journal』には、jizueと同じく京都を拠点に活動するシンガーソングライターのYeYeさんが“life”に、レーベルメイトでもあるNabowaのバイオリニスト山本さんが“holiday”に参加していますよね。どちらも交流のあるミュージシャンとは思いますが、第三者とのコラボレーションを取り入れようと考えたのはなぜですか?
楽曲が出来た時に、どうしても歌とバイオリンが欲しかったからです。それぞれの曲が出来上がった時にもう一つ曲を引き立たせるものが欲しいと思い、お願いしました。どちらもイメージ通りで、素晴らしいアーティストと曲を作れた事を嬉しく思っています。
――アルバム毎に1曲目は必ず“intro”から幕を開けますよね。『journal』に関しては最後の“lamp”にエンディングの役割があると思いますが、オープニングとエンディングを付ける構成は、何かからの影響ですか?
映画や小説などでもそうなのですが、これから物語が始まるという時間が凄く好きなので、そのワクワク感みたいなものを楽しんでもらいたいという思いから“intro”を付け、エンドロール的な役割を“lamp”に込めています。
――京都はjizueの他にも、先に挙げたNabowaや LOW-PASSといったインストバンドがいたり、bed、OUTATBERO、dry river string、LLAMAといった、個性的なバンドを多く輩出していますよね。京都の音楽シーンはとても興味深いのですが、実際にそこに身を置くバンドとしてどんな特徴があるのでしょうか?その中でもjizueは、どんなシーンで活動してきたのですか?
どのアーティストも特に好きな事だけをやっているだけだと思います。今でもそうですが、有難い事に僕達はハードコアや歌ものなど様々なジャンルのイベントに誘っていただいて、好きな事をやり抜いて個性を出しているアーティストがたまたま京都に多いのだと思います。京都の街並みや空気感は僕自身大好きですし、同じ思いで京都にいるアーティストも沢山いるとは思います。住み心地が良い街です。
――インストは歌がない分、リスナーはなかなか手を伸ばしづらい部分がありますが、裏を返せば歌がないからこそ、国境や言葉の壁を越えて最も広く聴かれる音楽だと思うんです。jizueとしてはインストの醍醐味をどう捉えていますか?
演奏で何をやってもいいのはインストの強みというか楽しさの一つですね。自分たちが演奏していて高揚出来る。おっしゃる通り言葉の壁も無く世界中誰もが音だけで楽しめるし、感動出来ます。ただ、だからこそ楽曲へのこだわりや、想い、演奏力は常に高めていきたいと思っています。
――jizueはライブをコンスタントに続けてきただけでなく、ここ数年は1年単位で作品をリリースしているんですよね。アウトプットのペースが崩れない理由を教えてください。
僕達は今迄も歳をとる度に聴く音楽や好きな音の幅が広がってきました。沢山の刺激も受けますし、やれる事も増えています。そんな中でより多くの楽曲を作り続けていきたいと思っています。今年出来た音楽は去年には想像も出来ていなかったですし、昔の曲を聴くと、こんな事も出来たなーと改めて思う事がたくさんあります。常に新しい音楽を演奏していたいんです。
――最後に、『journal』リリース以降の活動について聞かせてください。
全国ツアーもありますし、今年は所属レーベル〈bud music〉の5周年でもありますので、それに向けた音源制作と、アルバムの曲をさらに磨きつつ、沢山の場所でそれぞれ進化した姿をお見せ出来るようライブを楽しんでいきたいです。
Interview&text by Shota Kato[CONTRAST]
Event Information
jizue live
2013.06.30(日)@京都タワーレコード京都店
2013.07.05(金)@札幌SPIRITUAL LOUNGE
2013.07.06(土)@札幌Sound Lab mole
2013.07.12(金)@長野MOLE HALL
2013.07.14(日)@宇都宮Nohkin’s
2013.07.15(月・祝)@東京O-nest ※チケット残り僅か!
2013.07.19(金)@神戸cafe FISH
2013.07.21(日)@名古屋TOKUZO
2013.08.11(日)@岡山BLUEBLUES
2013.08.17(土)@京都METRO
2013.09.16(月・祝)@東京UNIT
2013.09.21(土)@名古屋NAGOYA CLUB QUATTRO
2013.9.22(日)23(月・祝)@京都府民の森ひよし
Release Information
Now on sale! Artist:jizue Title:journal bud music, inc. DQC-1074 ¥2,500(tax incl.) Track List |