WILDER MANN(ワイルドマン)
-欧州の獣人-仮装する原始の名残

面を被ったり黒く塗りつぶして顔を隠し、動物の毛皮や植物でできた装束をまとい、木の枝切れやこん棒のような武器を手にしている、怪しげな存在。彼らは「ワイルドマン」(ドイツ語では「ヴィルダーマン」、フランス語では「オム・ソヴァージュ」)と呼ばれ、今日も冬の間ヨーロッパ全土で行われている伝統的な祝祭の儀式に登場する。

今回紹介するのは、シャルル・フレジェというフランスのフォトグラファーがふた冬をかけてヨーロッパ19カ国を周り撮影。約200体のワイルドマンを収録した書籍『WILDER MANN 欧州の獣人-仮装する原始の名残』。

西洋のなまはげと呼ばれることもあるオーストラリアの“クランプス”、色とりどりのボロを着たポーランドの“マチヌラ”、かつてはドイツ全土の田舎で見られたワラ男やワラの熊、ルーマニアに広まる伝統的な仮面劇に登場するカラフルな布をまとって山羊…。ワイルドマンは人間に似たもの、動物の仮面をつけたもの、仮装する動物など、種類によって役割や儀式の意味するところが違うが、本書に収められている約160点を見るだけでも驚くべき多様性がある。

▼バブゲリ〈ブルガリア/ブラゴエヴラト州/バンスコ〉
バブゲリは山羊の衣装をまとい、毛皮でできた“スラティ”というフードを被っている。グレゴリオ暦に従って1月1日に行われる儀式の最中に、既婚の女性たちに身体をこすりつけて多産をもたらす。

▼シュナップフィーシェ〈イタリア/南チロル地方/テルメーノ〉
角が生え、耳はなく金属の舌を持ち、3メートルもの高さになる。隔年の懺悔の火曜日に行われるカーニバルの行列に参加し、ワインの村の通りを恐怖で満たす。

▼ヴィルダー(獣人)〈オーストリア/チロル州/テルフス〉
1980年以来5年ごとに行われているシュライヒャーラウフェンと呼ばれるカーニバルに登場する。仮面は木製で、牛の尾やたてがみ、尾で作ったヒゲがつけられていて、手には長い杖を持っている。彼らは先祖の化身とも、冬の悪魔と暗闇の化身とも言われている。

現代のヨーロッパ人にとっては伝統的な祭りの目的は娯楽であり、行為の象徴的な意義は薄れてしまっているが、シャルル・フレジェが捉えた美しい写真から映し出されるワイルドマンの姿は、人外のものに対する畏怖の念と、本来的な神聖さに満ちている。そして、それらはネット技術の進歩により、バーチャルな世界に常にアクセスしている現代に生きる我々が、心の奥底に持っている野生の存在に気付かせてくれる。

巻末には各地域の祭りと衣装の説明もあり、アートはもちろん、民俗学、ファッションと、様々なジャンルで楽しめる一冊となっている。

シャルル・フレジェ
1975年、フランスのブールジュ生まれ。ルーアン美術学校で写真を学んだ後、フリーランスの写真家として活動。ユニフォームをテーマに、スポーツ選手や学生、兵士などの社会的集団を、詩的かつ人類学的な視点から撮影していることで有名。2005年に横浜美術館アートギャラリーで写真展<RIKISHI>開催。日本で刊行された写真集に「成人式/SEIJINSHIKI」(赤々舎)がある。現在もルーアンを拠点に活動している。

Release Information

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