クールなところ③ 音楽だけじゃない。自然体なルックスとアートへの造詣も超一流
そうしたベックの活動を支えるそもそもの哲学は、音楽を幅広い意味でのアートとして捉え、新しいアイディアに嬉々として飛び込んでいくこと。この価値観を決定付けた原体験は、LAでの幼少期にさかのぼる。当時不定期に家に現れてはベックと弟を連れて遊んでくれた祖父のアル・ハンセンは、オノ・ヨーコなども参加していたアート集団フルクサスのメンバーで、彼がタバコの吸い殻をアート作品に変えるのを見た時、ベックの中で現在に繋がる創作への視点が開花。『インフォメーション』でのステッカーを同梱してリスナーがそれぞれの独自ジャケットを完成させる仕組みや、音源ではなく“楽譜”としてリリースされた12年の『Song Reader』には、そんなベックならではの音楽とアートをつなぐ魅力が確かに詰まっている。また、そうしたユニークな遊び心に加えて、つねに肩の力が抜けたナチュラルな雰囲気や、ライヴはもちろんのこと“Sexx Laws”や“New Polution”のMVなどにも顕著なステージ映えするルックスの持ち主でもあることで、彼はポップにもアンダーグラウンドにも同時にアプローチできるアーティストとして傑作を量産していった。
BECK -“Sexx Laws”(『ミッドナイト・ヴァルチャーズ』より)
BECK -“The New Pollution”(『オディレイ』より)
クールなところ④ 脊椎の損傷を克服。新作発表でふたたび充実期へ
とはいえ60年代サイケに接近した08年の前作『モダン・ギルト』が彼なりのミッドライフ・クライシスを乗り越えた傑作として好評を得て以降、ベックは一旦創作活動を休むことになる。というのも、その制作前にMV撮影で負った脊椎の損傷が次第に悪化。一時期はギターを持つことすらままならなくなっていた。しかし、そこから体調を立て直して制作を始めた本作では、彼が当時感じていた「ギターをもう一度弾きたい」という願望を実現させ、宅録ではなくバンド・サウンド=生音を生かしてアルバムを制作。全編を覆う『シー・チェンジ』と比べてもどこか温かな雰囲気には、再びミュージシャンと集まって演奏できることの喜びが反映されている。つまりこの『モーニング・フェイズ』は、身体的な問題を克服したベックによる新たなキャリアの始まりを告げるレコードなのだ。そして “Blue Moon”などを筆頭にしたメロディの妙や、1曲目の“Cycle”や“Phase”といったインスト曲や“Wave”などで見せる豊かなストリングスには、キャリアを経た今ならではの大人の余裕と無邪気な遊び心が絶妙に同居。その内容をして、英MOJO誌などは早くも満点の絶賛を贈っている。90年代のUSオルタナティヴ・シーンに登場し、ボーダーレスな折衷感覚でシーンの方向性を変えたベック。彼はここへきてまた、未曾有の充実期を迎えているようだ。
(text by Jin Sugimura)
Beck -”Waking Light”(『モーニング・フェイズ』より)
Release Information
2014.02.26 on sale! Artist:Beck(ベック) Title:Morning Phase(モーニング・フェイズ) Hostess Entertainment HSE-60180 ¥2,490(tax incl.) |