■デヴィッド・リンチの音楽パートナーも参加!

そうして完成した本作は、初期の作品を覆っていたリバーブの霧が晴れ、彼女のヴォーカルが伸びやかに舞う新境地。とはいえ、全編はエイフェックス・ツインにも通じるアブストラクトなビートが飛び出したり、ブラス・セクションが追加されたりと、デヴィッド・リンチの音楽面での相棒ディーン・ハーリーを迎えた音には持ち前の前衛志向もしっかりと閉じ込められている。そんな奇抜なプロダクションと、ポップ・ミュージックという新たな興味が混ざり合い、彼女にアーティストとしての大きな変化が起きているのだ。その変化は本人が「私にとってこの作品がデビュー・アルバムのようなもの」と語るほど……!

■新作にはクロサワ映画からの影響も?!

そんな本作だからこそ、もともとロシアの血を引くゾラ・ジーザスは、自分のアイデンティティをふたたび見つめることになったのだろう。その結果、彼女は黒沢明が監督したソ連・日本の合作映画『デルス・ウザーラ』の影響も作品に取り入れている。

『デルス・ウザーラ』では過去と未来の対立構造が、全く異質な二人の男性によって具現化されていて、彼らは予期しない形で意気投合し、結局のところ二人にはそんなに違いがないと悟ることになる。思うに鏡の中の自分みたいなもので、自分自身を別の時空から見ているような感じ。つまり別の未来もしくは別の過去。また、私は極東ロシアのネイティブの人達にすごく魅かれていて、クロサワが、その民族を讃えているこのような映画に労を惜しまなかったことを素晴らしく思う。

クロサワは伝説的な映画監督のひとりで、いまの現代映画で彼の影響を受けてない映画はないくらい、重要で影響力の大きい人。『デルス・ウザーラ』は私の好きな黒澤映画で、シベリアの未開の地を調査するというテーマをはじめ、この映画にクロサワがこめた情熱を感じ、彼にとってもこの作品を実現するのはいつもと違って生半可なことではなかったのが想像出来るわ(ゾラ・ジーザス)

『デルス・ウザーラ』予告編

今回のタイトル『タイガ』とは、人が住めない未開の地として知られるシベリア地方の針葉樹林地帯のこと。そして本作は『デルス・ウザーラ』と同じように、ゾラ・ジーザスがこれまでたどり着いたことのない、音楽的な未開の森にぐんぐん足を踏み入れていくような作品になっている。一見ポップで煌びやか。けれど同時に底が見えないほどダークで、とんでもなくシネマティックで美しい。細部まで凝りに凝ったプロダクションの成熟も相まって、その完成度はFKAツイッグスのデビュー作やカリブーの『アワ・ラヴ』、もしくはエイフェックス・ツインの新作といった今年屈指のインディ作品にも肩を並べるほどだ。「ダークで刺激的なポップ・ミュージックが聴きたい!」。そんなあなたはぜひ本作を。

(text by Jin Sugiyama)

Release Information

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