06年、エンター・シカリがデビューシングル”Sorry, You’re Not a Winner”でロックシーンにもたらしたインパクトは強烈だった。ハードコアやメタルといったラウドなサウンドに、アップリフティングなレイヴ要素をミックスした“レイヴ・ミーツ・メタル”スタイルは今でこそ珍しくはない。しかし、当時はかなり斬新なサウンドであったことは間違いなく、シーンの話題を一気にかっさらい、社会現象にまでなったのである。
正直に告白すると、あの当時は、革新的なサウンドよりも一発屋っぽい印象の方が優っていた。実際、本国イギリスや他の国での評判は別として、ここ日本で彼らの名前を聞く機会はいつの間にか減っていた。だからこそ、今月14日(水)に日本先行でリリースされる4作目『ザ・マインドスウィープ』の充実度には心底驚いた。従来のスタイルはそのままに見事な深化を遂げた、ヘヴィミュージックの新たな可能性を示す傑作だったのだから。
ファンの予想を裏切るミディアムテンポな1stシングル“The Last Garrison”、ストリングスを効果的に使った中近東風ヘヴィチューン“There’s A Price On Your Head”、ミニマムで繊細な音作りの冒頭から一転、ヴォーカルの咆哮が轟き、アンセミックでキャッチーなコーラスパートへとなだれ込む“Myopia”、ピアノの弾き語りから壮大に展開する“Dear Future Historians…”など、新機軸の楽曲の出来がどれも素晴らしい。丁寧に練られたアレンジとキャッチーなメロディ、そして表現力豊かなラウのヴォーカルが上手く溶け合い、これまで以上に幅広い楽曲にトライしながらも整合性がとれた“聴かせる”作品に仕上がった。これは、バンドとしてはもちろんのこと、2015年のロックシーンにおける重要作の一枚と言っていいだろう。
昨年12月、約3年振りとなる来日公演の中日に、ちょっとお疲れ気味なクリス(B)とロブ(Dr)に話を聞いた。30分という短い時間ではあったが、真摯に受け答えをする2人の姿が印象的だった。
Enter Shikari -“The Last Garrison”
Interview:Enter Shikari[Chris Batten(B)、Rob Rolfe(Dr)]
―― 3年振りのアルバムということで、途中シングルリリースもあったとはいえ、これまでで最もリリース間隔が空いた作品になりました。この3年間はバンドにとってどういう時間でしたか?
ロブ ……覚えてる(笑)?
クリス 覚えてるよ(笑)。この3年間は、ほとんどライヴをやってた。俺たちはラッキーなことに、いろんな場所でライヴができたんだ。この世界はデカいから時間がかかったね。
――そんな風にたくさんライヴを重ねてきたことが、今作にも影響を与えてると。
ロブ ライヴだけじゃなくて、この3年の間にやってきたこと全てが影響を与えてるよ。むしろ、与えないなんて不可能だね。レイヴやメタルに限らず、世界のあちこちで経験してきたこと全てが俺たちの音楽的な表現に変換されてるんだ。
――では、今作の聴きどころを教えてください。
クリス 高揚感のある、自分の中からパッションが湧いてくるようなパートがこのアルバムには特にたくさんあると思うから、そこを聴いて欲しいね。
ロブ 今回は時間をかけて一生懸命作ってて、全体的に誇りを持っているアルバムなんだ。だから、特にここっていうのは選べないな。クリスが言ったように、高揚感のあるパートがあったり、それとは逆なパートもあったり、いろんな感情が一枚に詰まってるんだ。最初から最後まで、ジェットコースターみたいにね。だから、全体を楽しんでもらえたらいいな。
――なるほど。たしかに今回はストリングスやピアノを取り入れたり、楽曲の振り幅はこれまでで一番大きいですね。
ロブ ただヘヴィなだけじゃなく、ソフトな部分も表現できるんだっていうことがこのアルバムで伝わると思う。いろいろな要素を詰め込み過ぎないように、自分たちができることをとにかくたくさん試したアルバムだね。