SIONは今年でデビュー30周年を迎えるシンガーソングライター。数多くの熱狂的なファンを持つ一方で、全く知らないという人も今では多い。現に自分も、SIONという名前こそ知っていたものの、彼の音楽に初めて触れてからまだ10年も経っていない。年がら年中聴いているわけではないが、ツラい時、悲しい時には必ずそばに居て欲しい音楽だ。あの温かみのある嗄れ声が、あの歌詞が、自分の中にたまった澱を溶かしてくれる。

例えば、25枚目となる最新作に収められている“諦めを覚える前の子供みたいに”という曲には、こんな歌詞がある。

きっといつかその想いは叶うから
夢を諦めたりしちゃダメだって

聞こえのいいことばっかりよ 言ってらっしゃる
言われなくても諦めちゃ生きちゃいけない
だけど堪えきれないこんな夜もあるのさ

夢が叶った人の言葉は 時に響かないよな
人並み外れた努力があってと分かっていても
それでも何が違うと叫びたい夜もあるのさ

人の事はどうだっていいと言いながら
人がいるから今日までこれたかな

SION『俺の空は此処にある』(15年)収録“諦めを覚える前の子供みたいに”より一部抜粋

心の中にひっそり抱えていた言葉にならない思いを、SIONはこんな風に歌にしてくれる。彼にはケツを思いっきり蹴りあげてくれるような曲も多い。しかし、今作ではそういったタイプの曲は影を潜め、その分、聴き手の肩を優しく抱いてくれるような包容力を感じさせるものが多い印象だ。好みによって評価は別れるかもしれないが、少なくとも自分は傑作だと思う。

SIONのことを全く知らなかった若い人、名前しか知らなかった人、恐らくたくさんいるだろう。だから、この機会に聴いて欲しい。もがき苦しみながらも今と戦っているあなたに、是非聴いて欲しい。

ちなみに、この日のカメラマンは太田好治氏。今や映画のポスター撮影までをも手掛ける彼だが、ルーツにあるのはアンダーグラウンドのエモ/ハードコア。SIONの音楽もちゃんと通っており、「まさかSIONさんを撮れる日が来るとはなぁ……」と感慨を漏らしていた。撮影はデジタルではなくフィルムで、短時間ながらもじっくりと行われた。すっかり忘れていた感覚だが、フィルム交換を待つ時間もいいものだ。その間、スッと手を掲げ、澄み切った青空をiPhoneのカメラに収めているSIONの姿が印象的だった。今作のタイトルは、『俺の空は此処にある』だ。

Interview:SION

【インタビュー】デビュー30年のSIONが語る—“俺は息をするために歌を書かなきゃいけない” interview150302_sion_sub1

――今年でデビュー30周年を迎えますが、これまでのキャリアを振り返ってみていかがですか?

最初は「レコード一枚出せたら死んでもいいよ」ぐらいの気持ちだったから、こんなに長く続くとは想像もしてなかったですね。デビュー当時は30歳になってる自分なんて想像できなくて、「(そんな歳になったら)もう生きてちゃいけんだろう」ぐらいに思ってたから、こんなに長い間、自分に歌が必要になると思わなかったな。

――ほぼ毎年作品をリリースされてますよね。その創作意欲はどこから湧いてくるんでしょう?

音楽をする人は大抵そうだと思うんだけど、自分の好きなミュージシャンがいて、でもその人は自分ではないから、当然自分が思い描くようなことはやってくれない。曲は大好きだとしても、歌ってることまで自分の思うようにならない。だから、自分の大好きな人たちに教わりながら、「俺だったらこうするのに」って思うことをやったのが最初なんだよ。それから、「自分が書いた歌は、どこを切っても自分の血が流れないといけない」とか言って自分で自分を窮屈にしてきたけど、こうして続けてこられたのは聴いてくれる人がいたから。(横山)健とかTOSHI-LOW(BRAHMAN)とかが、若い子たちにおじさんのことを知らせてくれたり、ああいうのはすごい感謝してますよ。TOSHI-LOWの野郎は俺のことを「クソジジイ!」とか言ってくるけど(笑)。あの野郎、馬鹿野郎(笑)。でも、俺も昔は泉谷(しげる)さんのことを「クソジジイ」って言ってたから、「順番なんだなぁ」って。あっはっは!

――SIONさんに「クソジジイ」の順番が回ってきたんですね(笑)。

言われるようになっちゃった(笑)。

――そのうち今度はTOSHI-LOWさんが言われるようになるんでしょうけど(笑)。

そうそう(笑)。

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