2015年7月6日から12日までの一週間に渡って開催された<Worldwide Festival>に行ってきた。実は今年で10周年を迎える、南フランスはモンペリエ近郊の港町セットで2006年から開催されているフェスティバルだが、日本ではあまり知られていないようだ。実は筆者も約2年前に友達になった常連から聞くまでは、その存在を知らなかった。
このフェスティバルを主催するのはジャイルス・ピーターソン。彼のラジオ番組で日本でもJ-WaveやInterFMで放送されていた、『Worldwide』と同じ名前だ。その名の通り世界各地の優れた音楽を発掘し、世界中のリスナーの耳に届けている彼の活動を、そのままフェスティバルという体験型イベントに具現化したものだ。運営はマンチェスター発の、現地のスタッフと共に構成されているイベント・チームFreshly Cutが担っている。
もともとは3日間の数百人規模で始まったというが、10年の間に規模も動員数も大きく成長した。月曜日から日曜日にかけて、昼間のDJタイムと夜のコンサート、週末の深夜は朝までクラブ系のDJがプレイするという構成になっており、それぞれの会場が数千人規模なのでヨーロッパでは中型のフェスティバルだ。
筆者は国内外のかなりの数のフェスティバルに行っている方で、裏方のスタッフとして関わったこともあるのだが、これまで行った中でもトップ3に入る最高の体験だったと断言出来る!
フェスティバルの良し悪しの決め手となるのはプログラム、ロケーション、プロダクション、そして客層の4つだと思うが、その全てが完璧でさらに相乗効果をもたらしていた。
プログラムはアメリカのジャズ・ファンクの重鎮、ロイ・エアーズから、タイ国の伝統楽器を取り入れたグルーヴ集団ザ・パラダイス・バンコック・モーラム・インターナショナル・バンド、ブラジルの個性派シンガー、エヂ・モッタが名を連ねているかと思えば、ヤング・マルコやフニーといった若手注目株のハウス/ディスコ系DJ、デジタル・ミスティックス率いるDMZ10周年記念DJチームにスウィンドルやワンマンといったUKベースの層も厚く、往年のドラムンベースのパイオニアLTJブケムやファビオに、NYハウスのルイ・ヴェガやDJハーヴィーも含まれている。出演者が何百組もいるような大型フェスティバルならあり得る幅の広さだが、この規模でここまで多様なスタイルを横断しながら良質なラインナップを実現しているフェスティバルはちょっと他に思いつかない。
そしてロケーション。これがにわかに現実とは信じがたいくらい素晴らしい。このフェスティバルを最も象徴していると言えるのが文字通り砂浜に設営されたビーチ・ステージ。真っ青な空と海が広がり、眩しい太陽が照りつけるここでは、みんなが水着姿で集まり、海水浴と日光浴と音楽浴を同時に楽しむ。午後3時から8時頃まで毎日3組ほどのDJが出演し、ステージ前で踊るもよし、砂浜でゴロゴロするもよし、あるいは隣接されたレストラン・バーでロゼ・ワインを飲みながらムール貝に舌鼓を打つもよし。そして10時以降は海辺に面した石造りの劇場テアトル・ドゥ・ラ・メールに会場を移し、(日照時間が長いので)沈みゆく太陽を眺めつつ生牡蠣をほおばりながら上質なコンサートを楽しむ… 優雅としか言いようがない贅沢さだ。木曜から日曜は、夜の部が港の灯台のふもとのより大きな会場に移る。こちらもヨットが並ぶハーバーの先にある潮風が気持ちのいい場所だが、ビーチと劇場が他のフェスティバルではなかなかないスペシャルな環境だと誰もが口を揃えていた。
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