海外の人が話すカタコトの日本語は、何故だか奇妙な愛嬌と可笑しみを携えている。
例えば、かつての各界では千秋楽に故・デビッド・ジョーンズ氏による「ヒョー・ショー・ジョー!」という独特の抑揚の付いた授賞式が名物の一つとなっていたし、ちょっと心許ないイントネーションと語学力による日本語を操る外国人テレビタレントの存在は、いつの世もお茶の間に欠かせない存在だ。
また、サッカーのネイマールによる薬用シャンプーのCMや、デヴィッド・ベッカムが商品名を連呼するジーンズのコマーシャル、映画俳優のトミー・リー・ジョーンズ出演のコーヒー飲料のテレビ広告などなど、スポーツやハリウッドのスターにカタコトの日本語を喋らせることでキャッチーさとインパクトを演出したテレビコマーシャルは一種の定番となっている。
音楽の世界でもそれは同様。ロック・ミュージックの歴史を紐解いてみれば、海外アーティストによる奇妙で愛らしいカタコト日本語ソングが沢山あるのだ。メジャーどころからちょっとマニアックな隠れた名(迷)曲まで、愛すべき楽曲たちを紹介してみたいと思う。
外国人ミュージシャンによるカタコト日本語曲10
クイーンの“Teo Torriatte (Let Us Cling Together)”
Queen – “Teo Torriatte (Let Us Cling Together) ”
伝説のロックバンド、クイーンが1976年にリリースしたアルバム『華麗なるレース』収録曲であり、日本ではシングル盤もリリースされた楽曲。この曲は、バンドにとっての母国語となる英語と日本語が混在した歌詞となっている。故・フレディ・マーキュリーによるちょっとたどたどしい歌詞の発音が聴く者に強い印象を残すナンバーだ。
幅広い声域と空前絶後の素晴らしい歌唱力を持つフレディも流石に日本語のイントネーションには苦戦を強いられたようで、ややぎこちなさを感じてしまうものの、感動的な歌詞の内容は如何にもクイーンによるロックソングという趣で、結果的にビザールながらもバンドの個性がシッカリと出た良曲に。ちょっとだけスペルを間違っているタイトルの綴りも愛おしさに溢れている。
ポリスの“ドゥドゥドゥ・デ・ダダダ”(Japanese Ver.)
上記のクイーンの楽曲と同じく、日本でも高い人気を誇る大メジャーバンドによる日本語曲の有名ドコロだろう。スティング、アンディ・サマーズ、スチュアート・コープランドの三人による強靭なるトライアングル、ポリス。80年代のニューウェーヴ・ムーヴメントを代表するバンドだが、そんなポリスも日本語詞による楽曲を残している。
アルバム『Zenyatta Mondatta』収録曲の日本語バージョンで、本曲はバンドの来日記念盤として当時、リリースをされたとのこと。原題は“De Do Do Do, De Da Da Da”で、オリジナルの発音をより正確にカタカナ表記すると「デドゥドゥドゥ・デダダダ」になると思うのだが、日本人にとっての発音のし易さを優先してか、邦題は『ドゥドゥドゥ・デ・ダダダ』となっている。このヴァージョンは、現在でもいくつかの編集盤やベスト盤で聴くことが可能だ。
その高い文学性で評価を受けることの多いスティングの歌詞も、ぎこちない発音の日本語に変換されると、そこから不思議なユーモアが生まれてくる。魔法の呪文の如きタイトルもあいまって、何とも味わい深い一曲だ。
ニュー・オーダーの“Krafty”(Japanese Ver.)
ワールドワイドな活動を行っているバンド、アーティストがリリースしたアルバムの国内盤に、日本語版の楽曲が収録されるというケースがあるが、この曲はその作詞を有名ミュージシャンが担当し、奇跡的なコラボレーションを果たしたというレア曲。ニュー・オーダーが2005年にリリースした8枚目のオリジナル・アルバム『Waiting for the Sirens’ Call』の国内盤ボーナストラックに収録された楽曲で、リードトラック“Krafty”の日本語バージョンなのだが、何とその作詞をアジアン・カンフー・ジェネレーションの”ゴッチ”こと後藤正文氏が手掛けている。
“翻訳”というよりは、原曲のニュアンスを汲み取りつつ、新規に書き起こした歌詞を乗せた日本オリジナル版というべき内容で、この意外なコラボは当時のニュー・オーダーファンの度肝を抜いた。是非とも、オリジナル版の歌詞と見比べながら、楽曲を聴いて欲しい。
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