昨年のカンヌ国際映画祭脚本賞に加え、本年度ゴールデングローブ賞外国語映画賞を受賞。アカデミー賞にもノミネートされるなど、世界中の映画祭を席巻しているアンドレイ・ズビャギンツェフ監督最新作『裁かれるは善人のみ』がついに10月31日(土)より公開される。
それに伴い今回は、数ある実際の事件をもとに作られた映画作品の中でも、生涯忘れられないような衝撃的な力強い作品を合わせて紹介。
『裁かれるは善人のみ』- キルドーザー事件
2004年にアメリカのコロラド州で起こった改造ブルドーザーによる大規模な建築物破壊事件。自動車修理工のマービン・ヒーメイヤーは修理工場に隣接する土地の再開発に反対して市役所に異議を申し立てていた。当初は賛同者もいたが、地元新聞に再開発反対運動の非難記事などによって孤立。さらに市役所による抜き打ち検査が原因で工場は業務停止となり、父親も他界してしまう。孤独を深めたヒーメイヤーはブルドーザーを改造して市役所、工場、新聞社、市長自宅などを破壊し、その末に自ら内側から溶接したブルドーザー内で自殺した。この事件は、全米はもちろん、日本国内でも注目を集めた。」
映画あらすじ
自動車修理工場を営むコーリャは、若い妻リリア、そして先妻との間に生まれた息子ロマと共に、住み慣れた家で暮らしている。1年後に選挙を控えた市長のヴァディムは、権力に物を言わせ、彼らの土地を買収しようと画策する。自分の人生の全てともいえる場所を失うことが耐えられないコーリャは、強硬策に抗うべく、友人で弁護士のディーマを頼ってモスクワから呼び寄せ、市長の悪事の一端を掴み、明るみに出そうとするのだが……。
上記キルドーザー事件に加えて、『ヨブ記』『ミヒャエル・コールハースの運命』『リヴァイアサン』など、聖書、小説、政治哲学書などの様々な書物からインスパイアされて完成。どの国にも善は虐げられ、悪は蔓延る……無力感漂う力作。アメリカで実際に起きた事件に着想を得て生まれたこの映画は、一人の善良な男が巨大な悪に巻き込まれ、数珠繋ぎのように人間関係が悲劇的に綻んでゆく様子を描いた作品。欲が肥大化した悪に抗えぬその様は、同じく実際の事件をもとに作られた園子温監督作品の『冷たい熱帯魚』を彷彿とさせる。
映画『裁かれるは善人のみ』予告編
『冷たい熱帯魚』- 埼玉愛犬家連続殺人事件
1993年に日本の埼玉県のペットショップをめぐって発生した殺人事件。経営に行き詰った元有名ブリーダーの元夫婦は、詐欺的な商売を繰り返し、トラブルの発生した顧客らを、犬の殺処分用の毒薬で殺害、計4人が犠牲になった。遺体は店員宅の風呂場でバラバラにされ、骨はドラム缶で焼却し、山林や川に遺棄。物証が見つからなかったため、「遺体なき殺人」と呼ばれた。マスコミ報道が先行した事件であり、完全犯罪を目論んだ残忍な結末が明らかになるなど異常性の高さが注目された。
映画あらすじ
小さな熱帯魚店を経営する社本と妻の妙子は、ひょんなことから大規模な熱帯魚店を経営する村田に気に入られる。村田の熱帯魚の養殖ビジネスに協力する事になるが、村田はクレームを入れる顧客を殺し、バラバラ殺人を繰り返していた。夫婦はどんどん深みにはまっていき…。
実在事件の異常性、犯人たちのカリスマ性を保持しながら、舞台をペットショップから熱帯魚店に変えることで映画的な魅力を増幅させたスリラー。それでも名台詞「ボディを透明にする(=遺体を消す)」は実際の犯人の口癖だった。
『冷たい熱帯魚』 予告編
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