偏執的な実験精神やスタジオワーク、そして並外れたテクニックによって、後の音楽シーンに多大なる影響をおよぼしたポストロック。今年に入って2冊のディスクガイドが上梓されるなど、あらためて再検証・再評価が進められているが、その筆頭的存在として真っ先に名前が挙がるのが英グラスゴーの5人組、モグワイである。
インストゥルメンタル(例外あり)とは思えないほど温かく、激しく、感情を揺さぶる音楽を鳴らす彼らが、日本でも強力なファン・ベースを持っていることはご存知のとおり。そんなモグワイも、今年でバンド結成から20周年。それを祝福するかのように、メンバー自らが選曲した3枚組(ヴァイナルはなんと6LP!)のベスト・アルバム『セントラル・ベルターズ』もリリースされる。初期から追っている熱心なファンにとっても、最近彼らを聴き初めたという若いリスナーにとっても新しい発見がある大充実のベスト盤であると同時に、ポストロックという音楽ジャンルの底知れぬ魅力を味わうことができる作品だ。そう、モグワイの歩んできた20年は、そのままポストロックの歴史としても置き換えられる。
今回はバンドの中心人物であるスチュアート・ブレイスウェイトに、モグワイの20年を振り返ってもらいつつ、日本との深い繋がりや地元グラスゴーへの想い、さらには次の10年、20年といった未来についても大いに語ってもらった。
Mogwai – 『Central Belters』(Official Trailer)
Interview:Stuart Braithwaite(Mogwai)
バントとしては何も変わってないよ。
昔も今も自分たちの好きな音楽を、自分たちが楽しむためにやっているだけさ
——まず、結成20周年おめでとうございます! 大きなメンバーチェンジや休止期間もなくバンドを続けてきましたが、この20年間でもっとも「変わったこと」 と「変わらなかったこと」を教えてください。
ありがとう! おもに変わったのは、バンドを始めたときには誰も僕らのことなんて知らなかったから、(当初は)僕ら3人だけでただ音楽を作っていたのに対して、今は人々がバンドのことを知っているってことかな(笑)。音楽を制作するプロセスは、ほとんど何も変わってないと思うよ。
——あなた自身の感覚として、何か変化はありましたか?
いや、何も変わっていないよ! そりゃ僕らの演奏は昔よりも上手くなったと思うし、最初に始めた頃のアナログでシンプルなセッティングに比べて、テクノロジーを活用するようになったとは思う。でもベーシックな部分では、昔も今も自分たちの好きな音楽を、自分たちが楽しむためにやっているだけさ。
——3CD/6LPにもおよぶベスト・アルバム『セントラル・ベルターズ』がまもなくリリースされます。EPやサウンドトラックを含め、これだけ多くのディスコグラフィからセレクトするのは大変な作業だったのでは? 実際のセレクションはどういったプロセスで進められたのですか。
僕らはただベスト・アルバムに入れるべきだと思う曲の長いリストを作って、自分たちの間でどの曲を入れるべきか話し合ったんだ。想像していたほど大変じゃなかったし、むしろ1〜2曲を除いて、各アルバムに収録された曲のほとんどは入れるべきことが明白だったよ。選曲にかかった期間は、大体1ヶ月前後くらいかな。アルバムの構想は1年くらいかけて練っていたけれど、実際の作業自体はそのくらいだった。
——選曲作業では自らのディスコグラフィを聴き返すことになったかと思いますが、いかがでしたか? 普段自分たちの過去の作品を聴き返したりすることはありますか。
いや、普段はやらないことだけれど、聴き返してみるのは楽しかったよ。特にCDの3枚目はややマイナーな曲が中心になっていて、レコーディング以来一度も聴き返したことのなかった曲も多かったから、自分でも面白かった。
——ファン投票をもとにベスト盤を制作することも可能だったかと思うのですが、やはり自分たちの手でキャリアを総括したい……という意志があったのでしょうか。
もしも僕らのファンにベスト・アルバムの収録曲を選んでもらったとしたら、ファンの多くはさらにマイナーな曲を選ぶと思う。アルバムのうちCD3はよりコアなファン向けで、CD1とCD2は過去のアルバムどれか1枚を持っているようなファンや、最近僕らのアルバムを聴き始めたようなファンも含め、誰でも楽しんでもらえるような内容になっているんだ。僕らを長年支持し続けてくれているファンの多くは、CD1やCD2に入っている曲はどれも知っていると思うけれど、CD3に入っている曲をすべて知っているなんていうファンはかなり少数だと思う。それほどすべてのリリースを知り尽くしている人なら、そもそもこのベスト・アルバムを買う必要がないかもね(笑)!
——もっとも思い入れの強いモグワイのアルバムは? また、それはなぜですか。
どのアルバムにも思い入れがあるけど、一番を選ぶなら2作目の『カム・オン・ダイ・ヤング』(99年)だと思う。バンドにとってすごくエキサイティングな時期のアルバムで、僕らにとっては初めて、周囲の期待を背負って作ったアルバムだったから……。1stの『モグワイ・ヤング・チーム』(97年)にもある種の期待はあったけれど、外部からの干渉もなく一切自由なものだった。バンドにとっても良い時期で、僕らみんなとても興奮していたし、アメリカでのレコーディングを含め、入念に準備されていた。あらためて聴き返してみて、色々とノスタルジックな思い出が浮かんで来たよ。
——昨年バリー(・バーンズ)にインタビューした際、「曲のタイトルはいつも適当に付けている」とおっしゃっていましたが、それを踏まえた上でお聞きします。『セントラル・ベルターズ(Central Belters)』というタイトルに込められた想い、もしくはエピソードを教えていただけませんか?
言葉遊びみたいなものだよ。スコットランドにある僕らの出身地方は「Central Belt」って呼ばれていて、「belter」には「良いもの」っていう意味があるから、単純な語呂合わせさ。誰が思いついたのか忘れたけど、僕ではなかったし、たぶんバリーじゃないかな。
——あなたにとって、史上最高のベスト・アルバムは何ですか? また、『セントラル・ベルターズ』の両隣に置くなら誰の、どの作品がフィットすると思いますか。
うーん、その時によって変わるけど、ザ・ストゥージズの『ロー・パワー』(73年、ベスト盤ではない)はとても好きなアルバムだし、僕にとって大きな意味のあるレコードだよ。両隣に置くならそうだな……。実はちょうど僕自身のレコード・ラックの整理をしていたところで、アルファベット順に並べていたから、その方法でいくなら次に来るのはたぶんモーターヘッドかモリッシーだね(笑)。アルファベット順でなければ、このアルバムはアンソロジーだから、それに合わせて僕の好きなアンソロジーであるニュー・オーダーの『サブスタンス』(87年)と、ジーザス・アンド・ザ・メリーチェインの『21シングルズ』(02年)を置くかな。
『セントラル・ベルターズ』ジャケット
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