どれだけ音楽のジャンルが細分化されようとも、アコースティック・ギター1本と声だけで表現するフォーク・ミュージックは無くならないし、これからも我々リスナーを魅了し続けるはずだ。しかしフォーク・シーンも(ゆるやかではあるが)変化しており、ソングライティングが優れていることは大前提として、ビジュアルからアートワーク、MVに至るまで、トータルで自分たちの「世界」をつくり上げることができるアーティストのみが生き残れる時代になってきたとも言える。そういった意味で、Beau(ボウ)の2人は完璧だ。
あの〈キツネ〉が目をつけた、美しすぎるフォーク・デュオ
本稿の主人公であるボウは、もともと「The Boos」の名義で活動していたヘザー・ゴールデンとエマ・ローズによるフォーク・デュオ。ともに現在21歳で、生まれも育ちも生粋のニューヨーカーだ。Beau(ボウ)とはフランス語で「美しい」という意味があり、英語でも「Beauty」「Beautiful」といった言葉に含まれる文字列だが、2人はモデルとしても活躍しているそうなので、その名に恥じない美貌の持ち主であることはアー写からも伝わってくる。ちなみにヘザーは広告の学校に通っていたそうだが、たった2週間でドロップアウト。音楽にかける情熱は紛れもなくホンモノということだろう。
>> Beau – One Wing
そんな彼女たちにいち早く目をつけたのが、パリのクリエイティヴ集団にして音楽レーベルの〈キツネ〉だった。昨年3月、まだ世に知られていないダイヤの原石を集めたコンピ・シリーズの第2弾『キツネ・ニュー・フェイセズ 2』に大抜擢され、スティーヴィー・ニックスの名も引き合いに出される初期の代表曲“One Wing”を提供。〈キツネ〉とサインを交わすと、続いて5月には5曲入りのデビューEP『ボウ・EP』をデジタル配信のみでリリースし、早耳のリスナーの間で話題となる。さらに、同年6月にはUSインディーのアーティストだけを厳選した『キツネ・アメリカ 4』にも“C’mon Please”が収録、グレース・ミッチェルやトロ・イ・モワといった錚々たるメンツと肩を並べていたことからも、〈キツネ〉がいかにボウへ期待を寄せているのかがうかがえる。
>> Beau – C’mon Please
そして2016年、〈キツネ〉の創業者=ジルダ・ロアエックの紹介でUKのアル・オーコンネル(ブルーノ・マーズ、マーク・ロンソン、ザ・ラプチャー他)をプロデューサーに招き、ロンドンとナッシュビルを往復しながらレコーディングした作品が、1stアルバム『ザット・シング・リアリティ』だ。作詞・作曲はすべてヘザー&エマ自身によるもので、生々しいサウンドと憂いを帯びたヴォーカルは、最近だとラナ・デル・レイやフロー・モリッシーの系譜に連なるものがあるかもしれない。ここからは、彼女たちの魅力をいくつかのアングルから紐解いてみよう。
「ニューヨーク出身」という揺るぎないアイデンティティ
まず、「ニューヨーク出身」であるということが、ボウのアイデンティティを形成していることは間違いない。NYといえばファッションもアート・カルチャーも最先端の都市だが、マンハッタンやブルックリンを中心にいつの時代も刺激的な音楽が生まれ出ていることはご存知のとおり。
とりわけフォーク・シーンにおいては、「フォークの神様」として知られるボブ・ディランが大学を中退してまで移住したのもNYだし、あのジョニ・ミッチェルが名を知られるようになったのもNY。コーエン兄弟の映画『インサイド・ルーウィン・デイヴィス 名もなき男の歌』(2014年)でも描かれていたが、60〜70年代のNYはフォーク・ミュージックの聖地だったし、今もなお才能あふれるシンガー・ソングライターたちを魅了している。ボウの奏でる音楽は、そんな古き良き時代の「空気感」をナチュラルにまとっているし、「NYで過ごした日々があったからこそ」生まれた音楽と呼べるかもしれない。
>> Beau – Soar Across the Sea
「私たちはこの都市のエネルギー溢れる感覚にいつも触発されている。この街のおかげでずいぶん賢く、強くなったわ。ここにいるといつだってホームを感じるの」(ヘザー)
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