1997年に活動を開始し、EPとアルバムをそれぞれ1枚残し2000年に解散。にもかかわらず大きなインパクトを残し、伝説となったエモ・バンド、アメリカン・フットボール。
解散から約14年後の2014年には奇跡の再結成を果たし、2015年6月には来日。来日公演のチケットは瞬く間にソールドアウトとなった。そんな再結成ツアーを経て、ついに新作『American Football』が2016年10月に発売となった。
今回は、完全復活を果たしたバンドのフロントマンであるマイク・キンセラが新作『American Football』の制作プロセス、先に行われた再結成ツアーから新作の制作に至った経緯から17年前と現在の音楽性の違いまで語ってくれた。
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Interview:マイク・キンセラ(American Football[Vo&Gt])
——まずは、先頃の再結成ツアーを振り返って、いちばんの収穫は何でしたか?
長いことソロでやっていたから、収穫というとバンドで演奏することの楽しみを再発見したことかな。他の人たちと一緒にステージに立って、演奏中にサプライズがあったりすることさ。誰かと一緒に演奏することの楽しさに、また火が灯ったような感じだったよ。
——また、再結成ツアー、ならびにアルバムのリイシューに寄せられたリアクションは相当なものだったと思いますが、そうした一連の出来事を通じて、アメリカン・フットボールというバンドについて新たに発見したこと、あらためて再確認したことを教えてください。
自分たちがまだ少年だった頃よりも、お互いに良い付き合いができるようになったんだ(笑)。再結成してみてうまくいったことで、自分たちが想像していたよりも楽しいことなんだって気づいたよ。
音楽がヘヴィというか、必ずしも楽しい感じの音楽ではないから、それほど楽しい経験になるとは思っていなかったんだけど。とりあえず演奏してみたら、今でも(アメリカン・フットボールの音楽に)興味を持っている人たちがいることに驚いて、そのまま一緒に演奏して作曲も続けるようになったんだ。
——そうしてバンドを再結成してツアーを行うことと、いざ新たなアルバムを作ることとの間には、大きな決断なり、クリアしなければいけない問題があったと思うのですが、この現在のメンバーで新たにアルバムを作ろう、となった決め手、あなたを突き動かしたものとは何だったのでしょうか?
さっきも言ったように演奏を続けるようになって、そのうちに同じ12曲ばっかり演奏し続けるわけにもいかなくなったんだよ。続ける理由が必要だった。「再結成」って名目だけでやれることはやりつくしたから、これを続けるなら新しい曲を作らないといけないねってことになって、僕らは全員違う都市に住んでいるし、仕事も家族もあるから全員のスケジュールを調整した。去年の8月にアルバムを作ろうと決めて、今年の3月に全員で集まって制作を始めようと決めたから、それまでに曲を作ることになったんだ。
——では具体的に、今回の17年ぶりとなるニュー・アルバムの曲作り、レコーディングはどのように始まり、どんなプロセスをへて進められたのでしょうか?
作曲作業の多くは、Dropboxのフォルダーでネット上のファイル共有をしながら進めたよ。誰かが曲の冒頭やアイデアを送って、そこからドラマーのスティーヴが家にあるドラムキットでドラムのパートを作って、ときには携帯のレコーダーとかでざっくり録音して僕らに送ってきて、それから僕ら残りの全員が加わる、って感じの流れだった。
そうやって18曲くらい書いた時点で、2回ほど週末に集まって全部を通して演奏してみて、方向性を確認してみる機会があった。実際のレコーディングは全員一緒に9日間やって、ドラムパート全部、ベースのほとんど、ギターパートの一部を録音した。ギターパートの残りは後日シカゴで別のセッションをやって、その時はほとんど僕とエンジニアのジェイソン(・カップ)だけだったよ。
細かいパートやヴォーカルをやるためのセッションで、他のメンバーが同席する必要がなかったからさ。結構バタバタしていたけど。今までやったどのセッションもそうだけど、終わるたびに「あともう数日時間があればいいのに」って思うものなんだ。でも、全体的に今回はよく計画を練って、うまく実行できたと思う。
——また、レコーディングにあたってあなた自身が重要だと考えていたことや描いていたイメージ、あるいはメンバー同士の会話で何か印象に残っていることがあれば教えてください。
うん、僕ら自身の間でも話し合ったけど、もう(前のアルバムから)かなり時間も経っているから、同じようなアルバムは作りたくなかったし、自分たち自身に無理に前と同じような音楽を作らせたりしたくもなかった。人々が前のアルバムのどんなところに惹かれていたのか、どういう部分を楽しんでもらえたのかについて話し合って、そういう要素を今回のアルバムにも組み込もうとしたんだ。
以前と今回とでは曲の作りかたも変化している。昔はただギターパートの連続だったのが今はもっと曲らしくなっているし(笑)、コーラスとヴァースもはっきりして、とっつきやすくなっていると思う。僕も自分自身の(ソロ)曲を書き続けてきたし、他のみんなもそうだから、その自然な結果じゃないかな。
——ソングライティングの意識や狙い、あるいは演奏に関するメンバー同士の関係性において、17年前と今回のアルバムとの最大の違いとなると、どんなところになりますか? 逆に変わらないところはどんなところですか?
曲は一見して前よりも直球になっていると思う。前よりも削ぎ落とされているんだ。前のアルバムでは殆ど自分たちのそれまでの経過をそのまま記録するつもりでやっていたし、自分たちが解散することも分かっていたから、短期間に一気にレコーディングしたような感じだった。今回はもっと自分たち自身で曲を分かった状態でレコーディングに臨んだから、より効率的になったんだと思う。
変わらないところは、僕らの間でも話していたんだけど、ロック・バンドじゃないんだ。あまりマス・ロッカーとか呼ばれたくはないんだけど、僕らはただ静かに演奏しても平気なんだよ。前より削ぎ落とされたと言っても、今回のアルバムでも一つのパートを長く演奏し続ける部分もあるし、すべてのパートで次の展開を急いでいるわけではないんだ。そういうのは前のアルバムを15年ぶりくらいに聴いて、みんな「これってクールだったね」って思った部分でもあったし、今でもやっていて気持ちのいいものでもあった。録音の点ではより今の時代らしく聞こえるようになってもいると思う。
最初に新しい曲を聞いた人たちのリアクションの中には、ヴォーカルが前に出過ぎていてラウドだっていう苦言もあったけど、僕らに質の悪い録音をして欲しいのか? 17年前と同じようなサウンドにするために、音質を劣化させて欲しいのか? と思うよ。
ジェイソンは素晴らしいエンジニアで、いい耳を持っているから、サウンドも良いものになっていると思う。前のアルバムのようなうぶさは無くなっているし、あのアルバムにあった、とにかくうぶだった故のひたむきさみたいなものが今回は無くなっているかもしれないけれど、僕らはもう成長した人間だし、今の僕らにできる最高のものを作ったのさ。
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