2017年は、アメリカのインディ・シーンにとって、間違いなく一つの節目として記憶される年になるだろう。何しろ、年明けからダーティ・プロジェクターズ、フリート・フォクシーズ、グリズリー・ベアと、2000年代後半以降のシーンを牽引してきた大物バンドがこぞってニュー・アルバムを発表。
繋がりの深い隣国カナダからもブロークン・ソーシャル・シーン、アーケイド・ファイアという二大巨頭の新作が届けられ、9月早々にはザ・ナショナルのアルバムも控えている。そんな錚々たるトップランナー達の中でも、とりわけ復活を祝福され、新作の発表を待ち望まれてきたバンド。それがジェームス・マーフィー率いるLCDサウンドシステムだ。
復活前のラスト・アルバムとなった2010年発表の3rd『ディス・イズ・ハプニング』と、それに伴うツアーの千秋楽を締めくくった2011年4月のマディソン・スクエア・ガーデンでのラスト・ライブから6年強。昨年2016年に再結成を発表し、同年の<コーチェラ・フェスティバル>でヘッドライナーとして劇的なカムバックを果たしてからちょうど1年。
ツアーやフェス出演に忙しく世界各地を飛び回る中でレコーディングされた通算4作目の最新作『アメリカン・ドリーム』は、両A面の形式をとった先行シングル“コール・ザ・ポリス/アメリカン・ドリーム”のリリース段階から大きな話題を呼んできた。チャート成績においても、全米初登場10位だった前作を大きく上回る記録を残すことはまず間違いないだろう。
では、なぜLCDサウンドシステムはこれほどまでに多くの音楽ファンに活動再開を熱望される、唯一無二の伝説的な存在となっているのか。その理由を知るためには、ジェームス・マーフィーが2000年代を通して音楽シーンに残してきた大いなる功績を辿る必要がある。
ジェームス・マーフィーの大いなる功績を辿る
〈DFA〉がもたらした影響
当初、ジェームス・マーフィーという名前は、バンドのフロントマンとしてではなく、プロデューサー兼レーベル主宰者という裏方として、音楽シーンに浮上してきた。トリップホップのパイオニアであるアンクルのメンバーだったティム・ゴールズワージーと共に、プロデューサー・チーム「The DFA」としての活動を始めたのは1999年。その発展形として、彼らは2001年にニューヨークを拠点とするレーベル〈DFAレコーズ〉を立ち上げる。
それらの名前を一躍世に知らしめたのは、2000年代前半のクロスオーバー・シーンを象徴する名曲、ラプチャーの“ハウス・オブ・ジェラス・ラヴァーズ”だろう。それまで一介のパンク・バンドに過ぎなかったラプチャーが〈DFA〉の洗礼を受けてハウスとダンス・カルチャーに邂逅したこの楽曲は、ロックとダンス・ミュージックが交配しつつあった当時のNYアンダーグラウンドの刺激的なムードを見事に捉え、世界中のDJがこぞって自身のセットに加えるフロア・アンセムに。
これ以降、人力の生音とエレクトロニック・プロダクションが融合したサウンドは、「ダンス・パンク」「ポストパンク・リヴァイヴァル」とも呼ばれる一大潮流となっていった。
SPINHouse L!VE: The Rapture “House of Jealous Lovers”
デビュー曲“ルージング・マイ・エッジ”
〈DFA〉周辺への世界的な注目の高まりに合わせて、その首謀者であるジェームス・マーフィーと、彼によるプロジェクト・LCDサウンドシステムの名前は一気に知名度を獲得していく。2002年にリリースされたデビュー曲“ルージング・マイ・エッジ”は、“ハウス・オブ・ジェラス・ラヴァーズ”にも比肩するフロア・アンセムに。
その最たる特徴は、カンからダフトパンクまで、ロック、ヒップホップ、エレクトロニック・ミュージック等々、ありとあらゆるアンダーグラウンド・ミュージックの歴史的瞬間に立ち会ったのは俺だと自慢しつつ、同時に「今の俺はエッジを失いつつある」と自虐を口にするリリックだ。当時すでに30歳という決して若くない年齢だった自らの内に渦巻く、虚栄心と嫉妬と不安と焦り。ユーモラスでウィットに富み、同時に感動的で胸を打つ言葉のセンスは、デビュー当時から現在に至るまで、LCDサウンドシステムの大きな魅力の一つとなっている。
LCD Soundsystem – Losing My Edge
その後、LCDサウンドシステムは、アルバムを出すごとに必ず批評メディアの年間ベスト・アルバム上位に名前を連ねる、インディ・シーンを代表する大物バンドとなっていく。それまでにリリースしたシングル曲を集めたディスクとアルバムとしての流れを意識したディスクの二枚組となった2005年のデビュー・アルバム『LCDサウンドシステム』。
『ピッチフォーク』の「2000年代のトップ・トラック」第二位に選ばれた名曲“オール・マイ・フレンズ”を収録し、グラミー賞のベスト・エレクトロニック/ダンス・アルバム部門にノミネートされた2007年の二作目『サウンド・オブ・シルヴァー』。
そして、活動停止発表後にリリースした2010年の三作目『ディス・イズ・ハプニング』。その尖鋭的なセンスに全く衰えを感じさせないどころか、作を追うごとに研ぎ澄まされていく最中での解散だっただけに、彼らの復活を望む声は今日まで後を絶たなかったのだ。
LCD Soundsystem – All My Friends