downy、yahyelといった映像作家を擁したバンドはもちろんだが、都内のライブハウス、クラブでもステージのバックスクリーンに映像が投影された空間でバンドが演奏を行う光景はもはや珍しいものでは無い。D.A.N.と中山晃子の刺激的なコラボレーションも記憶に新しい様に、特に若手のミュージシャンはライブやプロモーションヴィデオのビジュアルイメージに特別なこだわりがあるように思える。

DAX × lute:yahyel「Why」

音楽自体は目で見えるものでは無いが、音楽を聴いているときは必ず目で何かを見ている。iPhoneで音楽を聴きながら見た街の光景や、クラブで見た楽しそうな友人の顔を思い出している時に音が聴こえるのは、音と映像が相互して記憶に刻まれているからなのだろうか。今回は、体験した者の記憶に強く刻まれるであろう、目と耳で「音」を体感する”オーディオビジュアル”について書く。

オーディオビジュアルとは?

オーディオビジュアルとはその名の通りだが、音と映像による音響、視覚芸術である。とりわけ今回はその手のジャンルの中でも有名なものをいくつか紹介するが、音に関して言うと所謂”ノイズミュージック”が主に使用されていることが特徴だ。視覚表現を追求した結果、作成される映像は非常に複雑な情報を纏ったものになるわけだが、これを音に変換した結果が”ノイズ”となる。その逆も然りだ。
ノイズミュージックも様々だが、多くのノイズミュージックはコンピューターを使用して作られる。音のダイナミクス、周波数特性はMax/Msp Jitter等のプラグミングソフトウェアに送信され、アーティストが設定したプログラミングにより、映像へと変化する。音が具現化するのである。

今回紹介するのは前述した事象が実際に確認できるビデオだ。あれこれ書いたが”音楽”、”映像”という枠組みを意識せずに”現象”として楽しんでもらいたい。

具現化する音

Ryoji Ikeda: test pattern [times square]

もはや説明は不要だろう。世界で最も先端的なエレクトロニック/ヴィジュアル・アーティストの池田亮司によるタイムズスクエアのデジタルスクリーンをジャックするという前代未聞のパフォーマンスだ。2008年から続くシリーズ《test pattern》を投影させたものだが、白と黒、つまり「0と1」のバイナリ表現を音と映像で表現している。

Alva Noto – Unitxt (Derivative Version)

Carsten NicolaiことAlva Notoが2008年にリリースした『Unitxt』のオーディオヴィジュアルパフォーマンス。坂本龍一や池田亮司、また相対性理論、渋谷慶一郎とのコラボレーションもあり、エレクトロニカのリスナーでなくても彼を知る者は多いだろう。ビジュアルプログラミングソフトウェアのTouchDesignerの外観をVJ用にアップデートしたものを映像として使用しているように予測されるが、さながら宇宙船の内部にいるようなSF的な刺激が楽しめる。

Seismik by Herman Kolgen

<MUTEK JP 2016>。WWWにて観客の度肝を抜く圧巻のオーディオビジュアルを体験させたカナダのアーティスト、Herman Kolgen。彼の代表作”Seismik”は地震の揺れをセンサーで検知、解析し音と映像に変換するという非常に広大なスケールの作品だが、そのようなコンセプトを意識できる余裕はこの作品を目の前にして果たしてあるのだろうか。

Ryoichi Kurokawa: Parallel Head

デジタルで形成された映像でもここまで情報の解像度が高いと自然に近い美しさと荘厳さがある。オーディオビジュアル表現の最前線を走り続けるアーティスト、黒川 良一は、Sketch Show及びHuman Audio Spongeのライブ映像の制作や、op.discのアーティストであるDARTRIIX、AOKI takamasa、ditchのPVを手掛けていることでも国内では周知されているが、近年では宇宙物理学データを基にした、視覚、聴覚そして触覚を刺激するインスタレーションも発表している。生き物のように蠢くデジタルの粒子が見慣れた風景を形作り、また壊れていく様には畏怖の念さえ感じられる。

3DESTRUCT/Scopitone 2011 HD

欧州を拠点とするヴィジュアルレーベル”AntiVJ”のインスタレーション作品。プロジェクションマッピングは既にありふれた表現となりつつあるが、巨大な建築物からサボテンのような有機物まで、様々な立体物に投影される光、映像のプログラムは、レーベル名を関する”ANTI”の通り十分に挑戦的だ。

pe lang – moving objects | nº 628 – 691

映像作品では無いが、スイス出身のキネティックアーティスト・pe langの作品を紹介しよう。彼が操るのは均一な動作をし続ける時計の歯車では無く、複雑な制御信号を送信するMax/Mspだ。この美しい機械は作り手の手を離れて自走しているかのように見える。そしてその動作音は紛れもない機械の声”ノイズ”である。

Takahiko iimura: Between the Frames

実験映画作家、飯村隆彦の映像作品。月のような正円形の光が高速で点滅し続ける。天井からは16mmフィルムが垂れ下がり、恐らくこのフィルムを壁に映写していることが見て取れる。そしてフィルムは正円形の光を分断している。静謐な空間に映写機の駆動音だけが静かに鳴る。何か見てはいけないものを目撃してしまったような不穏な気持ちにさせる作品だ。空間全体がノイズと化している。

ASA-CHANG&巡礼 – 告白 (Official Music Video)

今回紹介したオーディオビジュアル作品は音、映像ともにかなりラジカルなものばかりだが、最後に紹介するASA-CHANG&巡礼の”告白”のPVはそれらとはまったくと言っていいほど毛色が異なる。PVを制作した勅使河原一雅のプロフィールをそのまま歌詞にした曲で、温かくも悲し気なピアノと声の中に、ぶつ切りとなった壮絶な氏のプロフィールが淡々とシーケンスされる。映像は、膨大な数の大小異なった少年のアニメーションが、ぎこちなく、ランダムに動き回るもので、不安や恐怖を覚えるが、同時に何故か心が安らぐ感覚もある。

text by SHO MOMOSE