tofubeatsが2018年10月3日(水)にリリースする4作目のオリジナルアルバム『RUN』の発売記念トークイベントが2018年9月20日(木)に〈ワーナーミュージック・ジャパン〉で開催された。
元『WIRED』編集長でジャーナリストの若林恵氏を迎えて、新作に込めた思いやサブスクリプションサービスが主流になりつつある音楽シーンの現在について語り合った。
tofubeats最新作『RUN』はなぜソロ作品となったのか?
「自分らしさを問われた『RUN』」
映画『寝ても覚めても』主題歌“RIVER”やドラマ『電影少女-VIDEO GIRL AI 2018-』のタイアップ曲“ふめつのこころ”を含むtofubeatsの4thアルバム『RUN』はメジャーデビューから5年を経て、はじめてゲストを迎えずに制作された純粋なソロアルバムである。
tofubeats「RIVER」
tofubeats「ふめつのこころ」
「自分らしさをこれまでの中でいちばん問われていたのが『RUN』」。ポスト・トゥルースをキーワードに音楽の存在意義を問いかけた前作『FANTASY CLUB』で自身の立ち位置を見つめ直したことが今作への伏線になった。
コンセプト先行の『FANTASY CLUB』リリース後、タイアップで“ふめつのこころ”と“RIVER”を作ったら「ゲストで呼びたい人がいないというモードに入った」。
その理由について「『FANTASY CLUB』でやったポスト・トゥルースとかいろんな問題を考えたときに、自分と同じことを考えてる人は実はあまりいない。格好いい人はいるけど、一緒にやってもいいと思う人が思い浮かばなくて。一人でがんばろう」と思ったことがはじまりだった。
『RUN』の根底にあるのは一人走るという決意
「自分なりにこれだと考えて出した答え」という『FANTASY CLUB』に対して『RUN』は「聴き味を軽くしたいというか、コンセプトをもうちょっと剥ぎ取りつつも、規模感的にはもっと小さい半径で」という意識のもと制作された。
「明確な意図がある」という今作の根底にあるのは一人走るという決意。「言いたいこと自体は変わっていないし、前回よりも絶望感はある」という。
「“RUN”も、共通認識を持っている人はいないけど1人でも頑張らなきゃという曲で。メジャーでもソロでもオルタナティヴなクラブミュージックをやっていて、2010年代に4枚アルバムをリリースしたのは僕しかいないから当たり前なんですけど」。
その結果「自分で頑張るしかないとはっきりしたから、作りとしてはポップなんですけど、紐解くと今回のほうが言葉遣いはストレート」なソロアルバムが生まれた。
アルバムというフォーマットへの挑戦
ドレイク(Drake)の曲が大量にチャートインし、カニエ・ウェスト(Kanye West)が7曲入り作品を連続リリースする2018年。tofubeatsはアルバムについてどのように考えているのだろうか?
若林氏の問いに対して「アルバムであることの必然性はそんなにない」と答える。
「こういう枠組みでやるというのは決まっているから、その中で何をやるかというのは嫌いじゃないしおもしろい」。たとえば“Don’t Stop The Music”が「森高(千里)さんがいなかったら絶対に書けなかった曲」だったように「テーマに反応することで自分が出そうとしなかったものが出る」。「今回はそれが映画やドラマだった」と語る。
tofubeats – Don’t Stop The Music feat.森高千里 / Chisato Moritaka (official MV)
すべての曲が1分ということで話題になったティエラ・ワック(Tierra Whack)を例に挙げて再生フォーマットがアルバムの概念を変えるという指摘に対しは、SNSや媒体の違いを踏まえながら今作の挑戦を明かす。
アルバムの表題曲“RUN”。「YouTubeでの満足率が高いためサブスクにあまり流入しない」という1分54秒のナンバーは「日本のラッパーがやるといいなと思ってたけど、誰もやらなかったので自分でやった」。当初はもっと短かったというがそれでも「言いたいことは言い切れている」という。フォーマットではなく作品が先行するというスタンスはぶれていない。
tofubeatsにとってのアルバムは「長く聴き続けられるもの」。その意識は作品の隅々に浸透している。
「前作なら間違いなく5分で切っていた」という7分前後のインスト群。それらを繋げたアルバム中盤の構成にはtofubeatsの考える「歌ものとインスト」の黄金比が反映されている。
「30曲以上のモチーフ」を選別した『RUN』の制作過程では手持ちのストックも活用された。7拍と8拍のポリリズムになっている“SOMETIMES”はお蔵入りした海外アーティストのリミックスを差し替えたもの。対談を通してトータルな作品としてのアルバム『RUN』の姿が浮き彫りになっていった。
閉塞感の漂う時代を生きるというテーマ
アルバム制作の実質的なスタートは映画『寝ても覚めても』。自身初めてのサウンドトラックについて「めっちゃおもしろかったけど大変だった」とふり返る。
主題歌について現場で監督から出されたオーダーは「川が主役の2人を見ているような曲」。そこで川について知ることから楽曲制作ははじまった。
長い時間をかけて築かれた川と人の関係。「浸食」「運搬」「堆積」という川の働きから広い意味での「愛」というコンセプトにたどり着いた“RIVER”。「自然は抗えないけれど人が介入することでバランスを取る」という能動とも受動とも異なる関係性は、ドラマタイアップ曲“ふめつのこころ”のテーマにも通じあう。
今作の制作中に読んでインスパイアされたという金子淳『ニュータウンの社会史』。新興のニュータウンで交通問題を解決するために住民が起こした運動から「自分でやって考える」姿勢を学んだ。
アルバム収録の“NEWTOWN”では《目新しいものはなんにも無い世界》と歌われる。現在の河川行政の問題点を「当事者の関与が限られていること」と話す若林氏。閉塞感の漂う時代を生きるという『RUN』の大きなテーマが明らかになった。
配信終了後の質疑応答では影響を受けた書籍(梅棹忠夫『知的生産の技術』)やサブスクリプションサービスのユーザーデータ活用等について活発な質問が交わされた。
5年後にどうなっていたいかと尋ねられ、メジャーデビュー当時は「5年後もメジャーにいるとは思わなかった」と語るtofubeats。「このペースで存在感を大きくしていけたら」と話すその視線は『RUN』からはじまる未来を見据えているようだった。
EVENT INFORMATION
tofubeats 4thアルバム『RUN』発売記念トークライブ feat. 若林恵
2018.10.10(水)
OPEN 18:30/START 19:30
ロフトプラスワンウェスト(大阪市中央区宗右衛門町2-3 美松ビル3F)
RELEASE INFORMATION
tofubeats 4thアルバム『RUN』
2018.10.03(水)
tofubeats
<収録曲>
01. RUN
02. skit
03. ふめつのこころ
04. MOONLIGHT
05. YOU MAKE ME ACID
06. RETURN TO SENDER
07. BULLET TRN
08. NEWTOWN
09. SOMETIMES
10. DEAD WAX
11. RIVER
12. ふめつのこころ SLOWDOWN
※初回プレス分のみブックレット特殊仕様
※tofubeats 本人によるアルバム・ライナーノーツ封入
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text by 石河コウヘイ