音楽、映画、ファッションなど、多方面で大きな革命が起こった60年代のロンドン。“スウィンギング・ロンドン”と呼ばれ、世界中に影響を与えたカルチャー・シーンはどのようにして起こったのか。その全貌を、貴重な映像や選りすぐりの音楽を通じて紹介するドキュメンタリーが『マイ・ジェネレーション ロンドンをぶっとばせ!』だ。60年代にタイムスリップする旅のホストを務めるのは、イギリス映画界を代表する名優、マイケル・ケイン。さらにポール・マッカートニーや人気モデルのツィギー。ミニスカートを発案したメアリー・クワントなど時代のアイコンたちも登場する。様々な切り口でスウィンギング・ロンドンの魅力に迫った本作の監督、デイヴィッド・バッティに話を訊いた。

Interview:デイヴィッド・バッティ

──60年代のどんなところに惹かれたのでしょう。

私は62年生まれで当時は子供だったけど、60年代はとても多くのことが変わった時代だった。1つは初めて若者たちが支配した時代だということ。そして、2つ目は、初めて労働者階級が支配した時代だということだ。マイケル・ケインはロンドンのイーストエンドという貧しい地域に生まれて、労働者階級の家庭で育った。その地域の人々は魚市場で働くのがお決まりのパターンで、明るい将来なんて望めない。マイケルも若い頃から「成功したい!」という野心はあったけど、階級の壁を破るのはとても難しかった。その頃のイギリスでは、どこの出身で、どこの学校を出て、両親がどんな階級に属しているかによって将来が決まっていたからね。でも、60年代になってそれが変わったんだ。

──マイケル・ケインは60年代のイギリスを象徴する存在なんですね。

そうだね。彼がブレイクするきっかけになった映画で、『キングスマン』シリーズに影響を与えている『国際諜報局』という作品がある。これは、『007』シリーズと同じスタッフによって製作されているけど、ジェイムズ・ボンドが上流階級の人物の特徴を持っているのに対して、マイケルが演じた『国際諜報局』のハリー・パーマーは、実際のマイケルと同じく労働者階級出身の人物ということが大きな違いなんだ。だからリアリティを大事にしているし、アンチヒーロー的でもある。そして、マイケルの初期代表作『アルフィー』の主人公、アルフィーも労働者階級出身だ。当時、労働者階級出身のキャラクターが映画の主人公になるのは、とても珍しいことだったんだ。

──映画では、ポール・マッカートニーやツィギーなど、時代を代表する人物がマイケルと対談しています。音声だけで、対談している映像を使わなかったのはどうしてですか。

映画を作るにあたって、「どうやったら観客を60年代に連れて行けるか?」ということを考えていた。ストーリーテラーでもあるマイケルを通して、観客に60年代を体験してほしかった。現在のシーンを多くしてしまうと、60年代に連れて行く魔法が解けてしまうと思ったんだ。

60年代のロンドンをデイヴィッド・バッティ監督が語る。映画『マイ・ジェネレーション ロンドンをぶっとばせ!』の魅力とは? 011-1200x1209

──対談はスムースにいきました?

対談相手はみんなマイケルの友人だから、和やかな雰囲気だったよ。でも、ポールのインタビューシーンは大変だった。彼は有名人だし多忙だから、マイケルとスケジュールを合わせるのが難しかったんだ。それで撮影の日、ポールがドアから入ってくると、私の方をじっと見ているんだ。私がインタビューすると思ったんだろうね。そこで「今日あなたにインタビューするのはマイケルです」と言ったら、彼は「えっ、マイケルって?」って訊くから、「マイケル・ケインですよ!」と答えると、「マイケル・ケインだって? 彼は友達だけどここにいるの?」って(笑)。ポールのスタッフが、きちんと情報を伝えていなかったんだ。最近の有名人は直接やりとりができないから、こういうことがよく起こるんだ。60年代の面白いところは、クラブでも街中でも、有名人と出会ったり話をすることができたこと。今では有名人は1人で出歩いたりしなくなった。いつも取り巻きに囲まれて、彼らは「何か問題が起きないか」って心配ばかりしているんだ。

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text by 村尾泰郎