最近、何かと話題の麻薬問題。映画では幾度となく取り上げられてきたが、関わった人間に天国と地獄を見せる取り扱い注意の危険物=麻薬は、映画の題材にはうってつけなのかもしれない。今回は麻薬ビジネスから常用者まで麻薬にまつわる映画を紹介。くれぐれも、映画のマネだけはしないように。
ドラッグストア・カウボーイ
麻薬常用者で売人でもあったジェイムズ・フォーグルが獄中で書いた自伝小説を、ガス・ヴァン・サントが映画化して大ヒットした話題作。舞台は70年代のアメリカ。麻薬に溺れた若いカップル、ボブとダイアンは、麻薬欲しさに仲間たちと薬局(ドラッグストア)を襲いながら、あちこちのモーテルを転々とする日々を送っている。金を盗んで麻薬を買うのなら、直接、薬局を襲って、睡眠薬など中毒性の強い薬を盗んだ方が早いからだ。しかし、仲間のナディーンがオーヴァードースで死んだことにショックを受けたボブは、荒んだ生活から足を洗おうと決意するが、皮肉な運命がボブを待ち受けていた。麻薬を楽しむことが生きるうえでの最優先事項。そんな麻薬に取り憑かれた若者たちの刹那的な日々を青春映画として描き出した本作は、『トレインスポッティング』と並ぶ青春ドラッグ・ムービーの名作だ。ボブを演じたマット・ディロンは、本作で10代のアイドルから個性派俳優へと脱皮した。一方、原作者のフォーグルは、映画がヒットして以降も、何度も薬局強盗を繰り返して逮捕。麻薬と強盗からは縁が切れなかった。
レクイエム・フォー・ドリーム
麻薬にハマってしまった男女をめぐる群像劇。夫を失ってから、一日中、テレビを見て過ごしている老婦人、サラは、お気に入りのドレスを着るためにダイエットを決意。医師のすすめでダイエット薬を飲み始めるが、それは覚醒剤の一種だった。一方、サラの息子のハリーは、恋人のマリオンと店を開くため、資金稼ぎに親友のタイロンと麻薬の密売に手を染める。商売は順調に行くように思えたが、3人は商品に手を出して次々と麻薬中毒になっていく。監督のダーレン・アロノフスキーは、後に『ブラックスワン』で精神崩壊していくバレリーナを描いたが、本作では麻薬を疑似体験させるような強烈な映像で、登場人物全員が麻薬中毒になっていく過程を描き出していく。なかでも、自分の身に何が起こっているのかわからないまま廃人になっていくサラのエピソードの恐ろしい。身体を張ってサラを演じて強烈な存在感を発揮したエレン・バースティンは、本作でアカデミー賞主演女優賞にノミネートされた。登場人物全員が恐ろしい地獄を見る本作を見れば、麻薬に手を出そうなんて思わないはず。
ブロウ
麻薬と言えば組織犯罪のイメージが強いが、70年代のアメリカで、平凡な一人の若者が麻薬王にのし上がったことがあった。その男、ジョージ・ヤングの半生をジョニー・デップが演じたのが本作だ。小さな会社を経営するマジメな父親と金にうるさい母親のもとで育ったジョージは、自由を求めてカリフォルニアへ。そこで小遣い稼ぎのために大麻を売り始める。そんなある日、東部に大麻を持っていけば、もっと売れることを知ったジョージは、あの手この手で事業を拡大するが逮捕されてしまう。しかし、刑務所で知り合ったディエゴに誘われて、出所後はコカインの運び屋として再出発。その見事な仕事ぶりがコロンビアの麻薬王、パブロに気に入られたジョージは、パブロと直に取り引きして億万長者に。マーサという美女と結婚して贅沢三昧な日々を送るが、そんな彼を次々とトラブルが襲う。ジョニー・デップは、20代から50代まで、30年間に渡るジョージの変貌ぶりを熱演。ベンチャー・ビジネスのように麻薬を扱い、頂点に登り詰めて行く様子は歪んだアメリカン・ドリームだ。ジョージ自身は麻薬に溺れることはなかったが、彼にとっての麻薬は金とスリルだった。セレブからどん底へと転げ落ちていくデップの堕ちっぷりも見どころだ。
Text by Yasuo Murao