スケートボードがカルチャーに与えた影響は大きい。

スケボーの流行や発展にともなって、シューズをはじめとしたスケーターファッションや「スケートロック」と呼ばれるスラッシュメタルがうまれ、ボードの裏側に描くグラフィックはアートの分野へと拡張した。スケボーの歴史を紐解いていくと、様々なカルチャーの流れも見えてくる。

もちろんそれは映画も同じ。本記事では、スケーターをテーマにした作品を3本紹介。

『KIDS』(1995年)

写真家ラリー・クラークによる監督デビュー作『KIDS』。セックスや暴力、アルコール、ドラッグなどが日常化した少年たちの生態を扱っており、アメリカでは非常に物議を醸した。

のちに『ボーイズ・ドント・クライ』や『ドッグヴィル』などに出演するクロエ・セヴィニーの女優デビュー作でもある。クロエ・セヴィニーはそれ以前、モデルやファッション雑誌の編集をしていた。脚本を担当しているのは、当時彼女の恋人だったハーモニー・コリン。

スケボー青春映画の代表的作品だと思われているが、実はスケボーのシーンはほとんどない。にもかかわらず当時の少年たちの心に刺さったのは、それまで描かれていたKIDS(キッズ)の世界と異なり、綺麗事なく少年少女たちのリアルに迫っているからだ。

自覚なくふるわれる暴力、アルコールやドラッグといったワルへの憧れ。さらには性への強烈な目覚め。男女ともに、とにかく口を開けばセックスの話ばかりで、自分の数少ない性体験を武勇伝のように語り合う。振り返ってみれば恥ずかしくなる過去の自尊心も、思春期の少年少女にとっては重要な世界との邂逅であった。

そして10代の無軌道な欲望の発露は、やがて取り返しのつかない傷になる。

ドキュメンタリータッチに描かれた本作は、インディペンデントという作品の性質も込みで、日本でも当時の少年少女にとってカルト的な人気作品となった。フィルム感や未来の見えないけだるい雰囲気も、世紀末感があっておすすめ。

『ワサップ!』(2005年)

こちらも『KIDS』のラリー・クラークによる作品。製作総指揮をシャロン・ストーンが務めている。本作では、LAに暮らす7人のラテン系少年たちにフィーチャー。キャスティングは現地のストリートで調達された。

ヒップホップ主流の黒人コミュニティのなかで、パンクとスケボーを愛し、スキニージーンズやスタッズ・ベルトを身にまとったラテン系少年たちの日常。『KIDS』と同じくドキュメンタリータッチで描かれているが、黒人とラテン系の対立、警官からの尋問、そして死というテーマなど、本作の方がテーマとしてずしりと重く感じられる。

スケボーシーンは『KIDS』にくらべてはるかに多いが、むしろ「パンク映画」としての評価が高いようだ。というのも、本作は少年たちが自分の居場所を探す物語であり、彼らのアティテュードに関する映画だからだ。

そして、そのことを映画のファッションが象徴している。移民の多いLAでは、ファッションの違いは肌の色や宗教の違いと同じくらい大きな差異として認識されるらしい。ファッションによって彼らは差別され、命の危険にさらされ、あるいは逆に評価され、そして自分たちの姿勢を主張する。日本のファッション関係者がラリー・クラークに憧れるのも頷ける。

しかしまあ、それにしてもラリー・クラークは素人を演出するのがうまいなあ。

『ロード・オブ・ドッグタウン』(2005年)

1970年代アメリカ西海岸のカルチャーを描いた『ロード・オブ・ドッグタウン』は、今回紹介する3本のなかでもっともポップでスピード感ある作品。伝説のスケボーチーム「Z-BOYS」の実話をもとに製作され、関係者の多くがカメオ出演していることも話題になった。脚色されている部分も多いが、楽しみながら70年代のカルチャーを感じ、スケボーの歴史を知ることができる。音楽もすばらしい。

「Z-BOYS」結成の立役者として出演するヒース・レジャーにも注目。ヒース・レジャーといえば『ブロークバック・マウンテン』で絶賛され、『ダークナイト』のジョーカー役でアカデミー賞助演男優賞を受賞したことで有名だが、本作を彼のフィルモグラフィーにおけるベストと評価する人も多い。たしかに、主役ではないのに圧倒的な存在感を放っており、忘れられないキャラクターを演じている。

Text by Sotaro Yamada