「何度も見返したくなる癖になる映画」
北野武監督の「ソナチネ」について、書こうと思う。
まず北野映画の体験は、小学校の頃見た「その男、凶暴に尽き」「3-4×10月」それから18~19歳頃映画館で見た「HANA-BI」など強く印象に残っているが、やはり高校の頃見た「ソナチネ」が何度も繰り返し見たくなる映画として、強く印象に残っている。あらすじはシンプルだ。東京のヤクザ、村上(ビートたけし)が組長からの命で、沖縄の友好団体が同地で敵対する組織と抗争になっているため、助っ人として舎弟らを連れて向かう。しかし、村上らが本土から来たために抗争は激化していき、海の近くの民家に身を潜めるが。。。
当初「沖縄ピエロ」と言うタイトルがつけられるはずだったと言う作品。砂浜でアロハシャツを着たヤクザたちが暇を持て余し行われる相撲、落とし穴への落とし合い、突然始まるロシアンルーレット、裏切り、流れる血、いとも簡単に死んでいく人々、宙を舞う赤い花びら。。。「生」も「死」も当たり前の様にこの世界の中では存在していて、だがあくまでも大袈裟に北野監督はそのテーマを描く事は無い。濃厚な死の匂いそれゆえに、生のテーマもあくまで自然に顔を出してくる。
ソナチネ (1993) – 劇場予告編(Takeshi Kitano)
「3-4×10月」で見た沖縄との親和性も実にはまっていて、まるでスクリーンの中で時間の流れもかわり、アロハシャツを着たヤクザたちの無邪気な暇潰しが永遠と続く様にここでは語られているのも好きな部分だ。そしてクライマックスのホテル内での銃撃シーン、その前のエレベーター内での殺し屋との壮絶な撃ち合いのシーン、前者ではほぼ暗闇でマシンガンの様なものをぶっ放しているのにも関わらず、音と閃光だけと言っていいほど地味な描写に徹底している。後者のあの「何が起こるかわからない緊張感」も、たまらなく好きだ。
バイク事故前撮られた作品と言うのもあり、冒頭から死と諦観の匂いはプンプンと漂っている。個人的には、「3-4×10月」を思い出すシーンもあり、大好きな北野映画の一作だ。奇跡的に撮られたとしか言いようの無い美しいショットの数々、そして何より最高に格好良くて、カリスマ性があって凶暴で、色鬼の塊であるたけしの演技には誰一人として適うまい。。。通底している死のテーマから、再生の方へ(キッズリターン)向かうまでのメモリアル作品だと思ってもいいし、本当に女がミニウージーみたいな機関銃ぶっ放せるのかよ、、、と突っ込みを入れてもいいし、全てが愛おしい映画。
本作において、東京から沖縄へとアロハを着たヤクザたちは、たいてい何処かに流され、暇を潰しながらもきっとこんな残酷な結果が待っているんだろうなあ、、と言う残酷な現実、視点と共に海のあぶくの様に消えていく。だが、そんな彼らを見つめ続ける監督の視点も、冷徹ではあるがどこか非常に優しかった。アウトサイダーたちへの視点がとても優しくて、たとえ最後は残酷な現実が待っているのだとしても、フィルム越しからつい垣間見えるその狂気を孕んだ優しい視点に俺はいかれちまったんだと思う。何回観ても飽きない。そんな癖を持った映画です。是非、沢山の人たちに観てもらいたいですね。
Text by ART-SCHOOL 木下理樹