コーネリアスが7月31日に3作品を同時リリースする。1994年リリースの記念すべき1stアルバム『the first question award』、そして現在のコーネリアスの幾何学的な音の配置からなる楽曲の起点となった2002年リリースの4thアルバム『POINT』のリイシュー(同時にサブスクリプション解禁もされる)。そして、約2年に渡る最新作『Mellow Waves』収録曲全てのミュージックビデオと、昨年10月に東京国際フォーラムで開催された実質的なツアー・ファイナルのライブ映像、そして国内外のツアー・ドキュメンタリーを収録した、いわば『Mellow Waves』シリーズの完結編とも言える映像作品だ。
ちょうど一昨年の7月の終わり。フェスティバルの狂騒の中で、4万人単位の観客一人ひとりの感性、感覚と対峙するようなライブを見せた<FUJI ROCK FESTIVAL>でのショーの記憶が蘇る。その後、ツアーを重ね完成度を上げていった<Mellow Waves ツアー>。演奏と映像のシンクロニシティへ驚きや各々のレベルの高さはもちろん、毎回終演後に胸に残る温かな何かーー個人的にはそれも他のクリエーターにはない新たな時代性の発露だったように思う。
今回は主に、映像作品『Mellow Waves Visual』をインタビューの軸に、なぜコーネリアスというアーティストが活動初期から映像など音楽以外のアートとコラボレーションする必然があったのか。進化するテクノロジーの中で何を重要視し、包括的なパフォーマンスを見せてきたのかについて話を聞いた。
INTERVIEW:コーネリアス
──今年で活動歴30周年なんですよね。
別に(リリースには)関係ないっちゃ関係ないんですけど(笑)、たまたま。
──(笑)。この3作品のリリースになった理由は?
『Mellow Waves』ってアルバムのツアーがあって、去年、国際フォーラムでライブをやったんですけど、そこが一応ファイナルで。その『Mellow Waves』のプロジェクトをまとめようということで、作ろうとしてて。この2枚(CD『the first queation award』、『POINT』)は、もともとポリスターってレコード会社で作ったアルバムなんですけど、その権利をワーナーが買ってくれてたんですね。それにたまたま去年『Mellow Waves』のツアーでアメリカに行った時に、『POINT』のアルバムをアメリカで再発しないか?みたいな話になって、で、じゃあアメリカも出すんで、日本もこの2つ権利を持ってたんで、出そうかと言うことで、同時に3つリリースすることになりました。
──『the first question award』はサブスクも解禁されるんですか?
うん。『POINT』もやります。
──『POINT』は全曲再現ライブをされるんですよね。『Fantasma』に続く全曲再現ライブですけど、今のタイミングで『POINT』なのは何故なんですか?
何故今なのかは言われたからっていうことなんですけど(笑)。前回、『Fantasma』はアメリカだけだったんですけど、今回は日本もやるってことで。まぁ、あと、今やってるライブのスタイルの割と原点となってるのが『POINT』ツアーから始まった感じで。今バンドもあの頃よりだいぶいい状態なんで。当時はこの『POINT』のアルバムを演奏するのはすごく大変で。やってはいたんですけど、全然できてなかったなと思うんですけど、今のバンドだったら割とちゃんとできるんじゃないかなと思って。
──プレイヤビリティもあると思うんですけど、何か技術的にクリアできて今ならできるという部分はありますか?
うーん、流石に慣れてきたっていうのと(笑)、あと、メンバーに大野(由美子/Baffalo Daughter)さんが加わって、よりバンドが安定して。演奏の幅も広がったっていうのもありますね。
──国際フォーラムのライブの映像と、『Mellow Waves』のミュージックビデオは見る順番によって感想が変わりそうです。
ああ、そうですね。コーネリアスの場合は作品は僕だけで作ってるんで、その録音されたものがちゃんと演奏されるのは、作品ができたあとなんですよ。それによってだいぶ印象が変わるんじゃないかなと思いますね。その、ライブの演奏とレコードの音楽とでは印象がだいぶ違うんじゃないかと。
──ミュージックビデオも全曲分作るのは最初から決まってたんですか?
うん、決まってましたね。
──小山田さんの作品ではおなじみになった辻川幸一郎さんとのタッグが多いですね。
うん、辻川くんは相変わらず。今回は「デザインあ」とかで一緒にやってる中村勇吾さんが初めて関わってくれて。オープニングの映像だったり、何曲かミュージックビデオ作ってくれて。あとはgroovisionsの住岡(謙次)さん。前のアルバムの『SENSUOUS』から関わってくれてるんですけど、その3人で。
──中村さんの作品はインターネット・デザイナーらしい作品で。
うん。動きの気持ち良さみたいなね。勇吾さんは、オブジェクトだったりタイポグラフィだったりの動きの気持ち良さっていうのが、特徴的で。それがすごい出てるんじゃないかな。
──ディレクションを誰にしてもらうかは楽曲ができた段階である程度、割り振りは決まってるんですか?
一応全部できた段階でオファーするんですけど、その時に、一番最初にみんなで一回会ったんです。それで「この曲やりたい人」みたいな。
──挙手制なんですか(笑)。
挙手制もありつつ、ま、振り分けみたいなのが決まって。最初の何曲かは僕が決めてて。最初に7インチで出した“あなたがいるなら”、は辻川くんで、“いつか / どこか”は勇吾さんで、それで“夢の中で”が住岡さんてのは決まってたんですけど、その先はみんなで話しながら決めて配分していったって感じですかね。
──一昨年の<フジロック>で拝見した時にすごく印象が強かったです。
うん。新しいからね。単純にこれ見て思うんですけど、新しいMVは解像度が違うんで、よりシャープに見えてくるんで、全然違うなと思います。
──それに改めてミュージックビデオとして見ると、こんな展開や絵もあったのか? と気付かされます。
すごい細かいんで、何度も見ないとわかんないと思います。ライブだと他に視覚的要素も多いからね。
──groovisionsの最近の作風も一つの驚きでした。
基本的なコンセプトは変わってないんだけど、より細かく、さらに発展させた感じになってて。前の『SENSUOUS』ってアルバムで“wataridori”って曲のミュージックビデオをgroovisionsが作ってくれたんですけど、横スクロールでシルエットがどんどん映るっていうミニマルなアニメーションの2Dの世界だったんですけど、それがより、3Dになったりアングルが変わったりする。コンセプト変わらず進化してる感じがgroovisionsっぽいなと思って。
──辻川さんの作品は作風のレンジが広い印象です。
うん。住岡さんはアニメーターでありディレクターなんで全部自分で一人で完結してるんですけど、辻川くんはディレクターで、手法も色々持ってて、撮影ものがメインだったりするんで、そういう撮影ものとCGものと、あと1曲“Melow Yellow Feel”って黄色い世界のクレイアニメーションがあるんですけど、あれは辻川くんが部屋で自分一人で全部作って。
──気が遠くなります(笑)。
そういうこともやるんで。辻川くんは幅広いですよね。ディレクションだけの場合もあるし。広告の仕事とかやってるからネットワークも結構あって、それぞれのエキスパートとつながりがあるから、CGの人もいるし。色々できる。
──個人的には“Surfing on Mind Wave pt2”が、演奏のノイズピットか? という音像とあいまって衝撃で。
ちょっと体験というかね、エキスペリメントという感じ。辻川くんが音像を映像化するときに、ちょうど過不足ない感じに落とし込むんで。「〜Mind Wave」は音楽というよりも体験みたいなことをライブでできないかなっていう、そういう曲ですよね。
──波の中に存在するというか、どういうインスピレーションであの映像を作られたのかなと思ってたんですけど。
あれは撮影じゃなくて、全部CGなんですよ。撮影では絶対撮れないんで。ずっとループの波の中をくぐり続けるってやつなんですけど。あのCGやってくれてる人は、その前の『SENSUOUS』の“Fit Song”っていう、角砂糖が動いたりするあれをやってくれた人で。そういう物理計算みたいなのがすごい得意な人らしくて。一つのものがどういう力を与えると次の時点ではどういうふうな形状になってる、みたいなことを映像に出来る。その人は東大出てて、頭いいんだけど、ドラマーだったりして、リズム感覚もすごいある、そういうすごい人がやってくれたんですよ。
──理系脳で叩くドラムっていうことなんですかね(笑)。
そうそう。でもなんかコーネリアスのリズムって理系脳のドラムって感じもちょっとしますよね。
──小山田さんは活動の初期からライブ演出における映像も込みでトータルなステージを作ってこられたと思うんです。あまり演者がフォーカスされないというか。その根本にある理由はなんなのでしょう。
ああ、あんまり見られたくないっていう(笑)、ことですかね。映像を使い始めたのは『Fantasma』のツアーからで、いわゆるシンクロライブみたいなのをやり始めて、その頃は映像は自分で作っていて。いろんな映画やテレビとか、映像をカットアップして作っていました。VHSには音声トラックがステレオでLRであるじゃないですか。片一方にクリックが入ってて、もう片一方にシークエンスとか音が入ってるんですね。『Fantasma』の頃ってまだそういうサンプリング・コラージュみたいなことをして音楽を作ってたんで、バンドの演奏以外の音も結構あったんですね。それもそこから出してて、それをステージ上で自分でビデオデッキにガチャっと入れて、スタートボタンを押してライブが始まるみたいな、初期はそういう感じでやってたんですけど、『POINT』の頃から割と今の『Mellow Waves』のツアーに近いような形になり、最初から最後までシンクロしてっていうスタイルが始まるんです。その中でひとつ大きかったのは『Fantasma』の頃にちょうど海外でライブツアーをやり始めて、言葉も通じないんで、そういう視覚的なコミュニケーションができるっていうか、言葉が通じない分、曲のイメージを補完したりするっていうこと、あとは照明的な役割だったり。他にそういうことやってる人たちもあんまりいなかったんで。そこからだんだんそういう方向になっていったって感じですかね。
──どんどんクオリティも上がり、映像のテクノロジーも上がっていくわけで。小山田さんは映像に関してどういうものを求めていて、今回のような作品になったと思いますか?音の構造物として曲を解釈したものもあれば、素朴なものもありますし。
うん。なんか色々あっていいかなと思ってあの3人の人選になったんですけど。そうですね……そのバランスっていうか、「どういうもの」って一個じゃないんです。自分の音楽のイメージを時には広げてくれたり、時にはすごくリアルに再現してくれたりっていうことなのかなと思うんですけどね。
──コーネリアスの表現の場合、先にテクノロジーありきじゃないように感じます。
そうですね。必要なことしかやってないですけどね。今、プロジェクターでライブやるのってそんなに最先端じゃないっていうか(笑)。みんなLEDとかで、プロジェクターは逆にちょっと古いみたいな。なんだけど、うちはプロジェクションの方が合ってるなと思って。プロジェクターを使ってる理由は演出の都合上、前に紗幕があって、そこと後ろを映したり、あと、体にも投影できるっていうところ。L.E.Dのモニターは解像度が高くて綺麗なんだけど、自発光なので後ろからしか光がこないとか、そういう理由なんですけどね。映像がより見えるのはきっとL.E.D方が見えるんじゃないかな。あと、コーネリアスはバンドで、いろんな環境でやらなきゃいけないんで、その場合はプロジェクションの方が楽だったりするんですよね。
──『Mellow Waves』のライブでは始まりの輪が投影され、そして演奏が終わる時に「Thank you,so much」っていうあのエンディングまで、何度見ても感動するんですよ。テクノロジーがあってこそ可能な表現ももちろんあるとは思いますが、ライブも映像も並大抵の作業じゃない、労作だからなのかなと。
うん。まぁテクノロジーっていうか人力ですからね、演奏に関しては。基本的なテクノロジーは『POINT』の頃からそんなに変わってないですよね。その頃はDVDでやってたんですけど、それが今回Blu-rayになったってぐらいで。画質とか解像度とか全然違いますけど、基本的にプロジェクションして、まぁそれとシンクして演奏するっていうのは、もう20年ぐらい変わってないですね。
──今回、Blu-rayには入らないんだと思うんですけど「Another View Point」のライブの表現がなかなか社会的というか、ソリッドな内容でもあって。
あれだけは僕が自分でやってて。コーネリアスのライブってファンタジックというか、ちょっと現実から離れるみたいな時間だと思うんですけど、その中に思いっきり現実を入れると、よりその現実も浮き彫りになって、ファンタジックな世界もよりわかるというか。あと現実が一番狂ってる事がわかる。そういう感じがするのかなと思って。あれを入れることによってだいぶ広がりが出る気がしたんで。ただ、あれはこういうソフトには収録できないんで(笑)。
──(笑)。一回性のものですね。
一回性のもので、しかもそのとき、一番新しいニュースとかが入ってるんで、よりそのタイミングで見ないと。
──それこそ一昨年のフジロックでエイフェックス・ツインがやっていたことも、そのときやるから意義があるという意味では共通点があるなと思いました。
うん。エイフェックス・ツインのライブ、うちらのあとだったんで見れなかったんだけどね。見たかったな。
──小山田さんにとって音楽以外のアーティスティックな表現は切っても切れないものですか?
まぁ、全部一つのプロジェクトというか、全部一緒に考えてますけどね。自分もそういう風に音楽を聴いたりしてたんで。音楽にまつわるもの全てというか、自分が子供の頃聴いてた音楽とかも、ジャケット眺めながら聴いてたし。ま、全部一緒だと思いますけど。
──手で触れるアートワークから、映像まで色々あるわけですけど、単純に物理の解像度だけでなくて、内容が迫ってくるものがあると思います。今のクリエーターの方達のバランスはすごくいいのもあると思いますが、『Mellow Waves』の映像作品の中でも小山田さんが一番ギョッとした作品ってどれですか?
ギョッとしたっていうか、辻川くんが、“Mellow Yellow Feel”を本当に一人で作ったっていうのを聞いて、すごい偉いなと思いました(笑)。偉いっていうか、ちゃんとしてるなというか。彼も元々は一人で映像を作り始めて、で、そこからいろんな仕事をしたりして、結構でかいプロダクションも仕切ったりするようになって。で、たまたまそのちょっと前に<Audio Architecture展>っていうのがあったんですけど、そこでいろんな若い作家の人の中に辻川くんも入って作って。その中の大西さんという方が、彼一人で頑張ってCGで作ってたんだけど、そういうところに辻川くんが触発されて。それで、あえて一人でやるみたいな作風に向かっていって「偉いなぁ」と思いました(笑)。
──それは仕事でもあるんだけど、コーネリアスの作品がクリエーターのモチベーションを上げる要因にもなってるんでしょうね。
辻川くんは初めて映像作ったのがコーネリアスで、そこからずっとやってくれてるんで、そういう意味ではモチベーション持ってやってくれてるんで。まぁもちろん仕事でお願いしてやってくれてるんだけど、もともと最初はただの友達だったんで。そのノリで今でもできてるっていうのがいいなと思いますけどね。
──クレイメーションはおそらくすごい根気が必要だし、どこで完成とするか? もその人のこだわり次第でしょうし。
うん。そういうことを今やってるっていうのがすごいなと。そういうところに出るなとは思いますけどね。
──本気とか熱意ですね。テクノロジーの進化だけでは表現できない感覚みたいなものがむしろあると思います。ところで、もしお金いくらでもかけていいんだったらどんなショーをやりたいですか?
え? わかんないですけど、ホール作りたいです(笑)。そっからやりたいですね。
──専用ホールですか?
専用ホール。コマ劇場のサブちゃんみたいな感じで(笑)。一週間ぐらいおんなじホールで、なんかやるスタイル。演劇とか、ブルーマングループとか、ああいう感じで、そういうのができたら面白いなと思います。
──会場を持つのは夢ですね。
そうですね。自分の会場を持つって。なかなかいないよね? ストーンズとかでも、ジェット機は持ってるけど。
──(笑)。
会場、オリンピック前で、全然空いてないからね。それにアリーナとかはライブには向いてないし。国際フォーラムは2年前に押さえたって言ってたもんね。2年後のスケジュールまで決まってるから、ちょうどいい会場を押さえるのが、今大変なんだよね。でも2年後のこと言われてもわかんないじゃないですか(笑)。
──(笑)。でも大体皆さん2年後ぐらいは考えて動いてるのかなと。
そういうの辛いですね。ほんとは何にも考えたくないんですけど(笑)。
──(笑)。余談ですけど、香港の<クロッケンフラップ>でデヴィッド・バーンのライブはご覧になりましたか?
ああ、見た見た。
──ステージ上にアンプや定位置の楽器がないという。
すごいね。デヴィッド・バーンはあのプロダクションを全部の会場に持ってってるんだもんね。あのプロダクションはすごい。毎回、デヴィッド・バーンのショーは面白いですね。ほんと誰もやってないことをやりますよね。
──しかも年齢上がるに従って、フィジカル的にきつそうなことをやるという。
うん。めっちゃ踊ってたもんね。70ぐらいだけど元気だったね。あの人もよりロックバンド的なものじゃないところに行ってて、ほんとパフォーマンスって感じですね。今見ると、「ストップ・メイキング・センス」とか普通にロックバンドだなと思う。あれも当時はすごく斬新なパフォーマンスだったじゃない?でも今見えると普通にロックバンドでやってるなと思うよね。ああいうちょっとロックバンド的なところから逸脱したロックバンドの元祖みたいなところだからね、あの人。
──コーネリアスの次のライブは楽器が消えるかも?
ま、アンプは消えるかもね。
──また何か意表を突くプロダクションを期待しています。ありがとうございました。
Text by Yuka Ishizumi
Photo by You Ishii