水曜日のカンパネラのプロデュースなどで知られるケンモチヒデフミ氏が次に手がける逸材がいる。その名もxiangyu(シャンユー)。彼女が主催し、その全容が明らかになった自主企画イベント<香魚荘827(シャンユーソー)>が8月27日(火)に開催される。彼女が招いたゲストアクトを代表して、気鋭のアパレルブランド・PERMINUTE を手がける半澤慶樹。そして3人組コントユニット・テニスコートの神谷圭介をゲストに迎えて、既存のジャンルに収まりきらず多岐に渡って活躍する彼らに、各々のルーツとイベントについて対談してもらった。
INTERVIEW:
xiangyu× 半澤慶樹(PERMINUTE)× 神谷圭介(テニスコート)
──今回xiangyu(以下、シャンユー)さんが「大家」としてイベントを開催するようですね。ゲストは音楽アーティストにとどまらず多岐に渡る領域で活躍する面々。どのように選ばれたのでしょうか?
シャンユー 単純に私が今一番好きな人たちを集めたイベントをしたいと思って選びました。私自身、現在音楽をメインに活動していますが、音楽家の方のいわゆる自主企画イベントって私、行った事がなくて。どうすれば良いかわからなかったんですよ。シャンユーというアーティストが世の中にほぼ知られていない状態で、自分がどういう人か知ってもらうには、と考えた時に、まずは私の趣味趣向が見えた方が良いかなと思い、こういった面々になりました。
──なるほど。では簡単にお2人について出会いのきっかけとご紹介してもらえますか?
シャンユー 半澤さんは今ファッションブランドの「PERMINUTE」を立ち上げて大活躍されているんですが、実は学生時代の同級生なんです。ただ当時は仲良かったわけじゃないんですけどね(笑)。彼が今手がけているブランドが可愛いのはもちろん、服作りに対するアプローチもすごく面白くって。「PERMINUTE」というブランドというより、半澤さん自身に参加してもらいたいなって思ったんです。
──そのアプローチ自体も特殊で面白いですね。依頼をOKするのに抵抗がなかったのでしょうか?
半澤 慶樹(以下、半澤) 彼女は学生時代から本当に優秀で、就職も普通に決まって、良い企業に入られて本当にすごいと思っていたんですけど、いきなり会社を辞めた辺りからおかしくなって(笑)。それから、歌うと聞いた時に、すごく意外で「この人、読めないな」と思ったのが率直な印象でした。
──唐突な展開に思えたと?
半澤 はい。しかも自主企画で僕に依頼するなら、ファッションブランドなんだし、コラボでライブTシャツを作るとかが一般的だと思うんですけど……。彼女は「ボク個人」に依頼してきた。そのこと自体が「この人マジでやばいな」というところで興味を惹かれて(笑)。とはいえ最初はどう絡んでいこうか迷ったりもしたのですが、依頼を受ける側、依頼する側という関係性を超えて、全体の空気感作りから一緒にやれそうだと思ってお誘いをうけることにしました。
──ではテニスコートとのつながりは?
神谷圭介(以下、神谷) 僕の大学の同級生が編集長を務める雑誌があって。その雑誌の絡みでシャンユーさんを僕の公演に呼んで見てもらったのが最初ですね。
シャンユー 「面白いコントをやる人がいるから」と紹介してもらい、観に行ったのがテニスコートさんとの出会いです。初めて公演を観たときの衝撃がすごくて、本当に今でも忘れられないんです。どんな公演でも、途中で退屈しちゃう部分ってあると思うんですが、テニスコートさんの公演は最初から最後までずっと面白いんですよ。それで私、癖になってしまって。
テニスコートのコント「オーディション」
神谷 それから3回くらい、公演に来てくださってますよね。
シャンユー 話の切り口は身近なものであっても、そこからの展開が面白くって。それでテニスコートさん3人の人間性に興味を持って。それもあって、今回お誘いしました。
──テニスコートはコント師でもあり役者でもあり、神谷さんは脚本を手がけたり。様々なベクトルで活躍されていますよね。シャンユーさんはそもそも企業に勤めていて音楽をやるつもりはなかったと他のインタビューで公言されています。それぞれどんなふうに今のポジションになったのでしょうか?
半澤 僕は教育系の両親に生まれているので、ファッションをやっていること自体がバグなのかも……(笑)。
神谷 教師?
半澤 そうなんです。高校3年生まで教師になろうと思っていて。
神谷 僕も両親が教師なんです。
シャンユー ええー。じゃあ私も両親教師にしようかな(笑)。
──いやいや(笑)。
半澤 あるきっかけで教育からファッションに進路を変えることになり……。最初は憧れていた企業に入りたいという思いがあったんですけど。でもそういう企業は自分がブランドを始めれば、「全部一緒に仕事できるんじゃない?」みたいに思って。内定をいただいてはいたんですが、それも辞退して。卒業してすぐブランドを始めました。それから3年経つんですけど、そんなことをしていたら、本当に小さなプライベートスクールですが、そこで今クラスを持って授業をしていて。あっ、全部できたみたいな。
神谷 早くないですか?
半澤 結構他のいろんなジャンルにも興味があって、でも、所謂クリエイティブに限らずなんですけど。今、短歌を調べたり煎茶の勉強をしたり……。ファッションという自分の興味を中心に、さらに枝葉を伸ばす生態系みたいなイメージで活動しています。
──では神谷さんの場合は?
神谷 僕は……全然人生設計をしてきませんでした。高校を出るときは、ファッションやデザインに興味を持って、作る側になりたくて美術大学に行ったんですけど。でもお笑いも好きだったし、結果、何かを作ることと自分が好きなものを一緒にやれるのがコントだったので始めた感じですね。意地になってやっていましたね。シャンユーさんも音楽をやっているけど、歌手っていう感覚はないですよね?
シャンユー ないですね。
神谷 僕らもコントはやるけど、芸人さんではない。そうなると、テレビに出てお笑いタレントとしてやらないといけない。演劇の人は俳優としてやらないといけないというので。そこをはっきりと分けていません。
──じゃあお三方の共通項というのは、肩書に囚われない所と言えますね。それではシャンユーさんは何故ファッションデザイナーではなく音楽に?
シャンユー ファッションの仕事の中でデザイナーって花形の職業って言われるじゃないですか。だから学生時代は漠然とデザイナーってかっこいいし良いなと思ってはいたんですが、そもそも私「服の作り方が知りたい」って気持ちだけで服飾の専門学校に行っていたので、ファッションの仕事しかしていない自分にしっくりきていなかったんですよね。それで24歳の時に、年女って事もあり、自分の人生について考え直したい気持ちになって。それで自分のこれからを色々考えた時に、一緒に音楽をやろうとずっと言ってくれている人のことを思い出して(笑)。
──また急ですね。
シャンユー はい。普段カラオケにも行かないどころか、人前で歌うこと自体が苦手だったので、そもそも「音楽をやる」という選択肢が自分の中にはなかったんです。でも人生は一度きりですし、飛び込んでみた方が面白いんじゃないかと急に思いました。
──普通、選ばない選択肢を取ってみた時に、何が起きるんだろうか気になったと。
シャンユー そうですね。
──企画当日は他にも、トリプルファイヤー、ぎゅうにゅうとたましい、あと古本屋店主のコメカさん、あとクラウドファンディングを運営している会社の社長の酒向萌実さんなど。組み合わせの妙は狙い定めているのでしょうか?
シャンユー 実はあんまり深く考えてないです。それが自分の良いところか悪いところか、分からないですけど(笑)。
神谷 狙いに行って外すのって、一番恥ずかしいですしね。
──何が起きるか、自分も見てみないとわからない。
シャンユー そうそう、わからないけれど確実に楽しいだろうなって。そういうノリが、お客さんも楽しめるんじゃないかなぁって。
半澤 仮にシャンユーさんがただただ「突飛なイベントをやろう」と思って、僕らを選んでいるんだったら、「ちょっと違うな」ってなっていたと思います。でも「単純に面白そうだし、やってみようよ」って軽いノリで来たから、僕らも軽いノリで返しました。それが彼女のすごいところかもしれないですね。だからチャレンジのための余白がちゃんと残されていて。
神谷 そうそう、余白って大事ですよね。
シャンユー その余白ってものを、今2人から学ばせてもらっていて。この2人の共通項って、2人とも切り口は日常にある身近なものからでも、終着点を全然違うところに持っていくのが上手なところだと思うんです。それって、肩の力の抜き方が上手だからこそ出来るというか。余白って言い方を使うと、余白がある方々だからやれるイベントだと思います。
──では最後に意気込みを。
半澤 やんごとなきイベントになると思います。
神谷 多分、親切なガイドラインがないんですよね。それが面白がってもらえたら。
シャンユー このメンバーでしか起こり得ない様々な広がりが見たいなと思って皆さんのことをお誘いしました。お客さんにとっても、私たち演者にとっても何か新しい発見があれば良いなと思ってます。
Photo by 横山マサト
Text by Hiroyoshi Tomite
Xiangyu(シャンユー)
2018年9月からライブ活動開始。 日本の女性ソロアーティスト。読み方はシャンユー。 名前はVocalの本名が由来となっている。10月に初のデジタルシングル「プーパッポンカリー」をリリース。Gqom(ゴム)をベースにした楽曲でミステリアスなミュージックビデオも公開。
2019年5月、初のEP『はじめての○○図鑑』をリリース。
関東を中心に勢力的にライブ活動を行なっている。8月27日には初の自主企画イベント香魚荘827を渋谷O-nestで開催。