栃木県・那須の『アートビオトープ那須』は、ガラスと陶芸の本格的なスタジオを備えたアートレジデンス。ここに隣接する広大な土地に昨年6月、建築家・石上純也氏が手掛けるランドアート『水庭』が誕生した。庭の概念を変えるようなこのアート空間は、どのような経緯で生まれたのか? 総合プロデューサー・北山ひとみ氏に話を伺うとともに、アートビオトープおよび水庭が表現するライフスタイルを探った。
石上純也氏による、四季折々で異なる表情を見せるランドアート
アートビオトープ那須のオープンは2007年。以来、豊かな自然環境の中で“シンプル・ローカル・アットホームなおもてなし”を大切に多くのゲストを迎えてきた。 この施設は宿泊だけでなく、中庭に面したギャラリー兼カフェでは25マイル(約40km)圏内から届けられる食材を中心とした食事が楽しめるほか、本格的な創作体験をすることができる陶芸スタジオ、ガラススタジオも併設されている。
このアートレジデンスを含む『アートビオトープ プロジェクト』の総合プロデューサーである北山ひとみ氏は、栄光ゼミナールを展開する株式会社栄光の創業に携わり、退任後は“文化リゾートの先駆け”と呼ばれる二期倶楽部を1986年に設立。二期倶楽部を舞台に毎年開催していたオープンカレッジ“山のシューレ”では、北山氏曰く「すべてが商品化された現代において、人間同士が触れ合う新しい学びの場」を提供してきた。
その実践の延長線上にあると言えるのがこのアートビオトープ那須。オープン以来、人間が継続的に自然と関わり、新たな環境を生み出していくことへ積極的に取り組んできた。そして、その活動に共感した株式会社タカラレーベンが進めるCSR活動との共同事業として、2018年6月に誕生したのが『水庭』だ。
その作品づくりを任されたのは、日本建築学会賞、第12回ヴェネチア・ビエンナーレ国際建築展金獅子賞といった数々の賞を受賞し、世界から注目を集める建築家・石上純也氏。
「まず私は若手の作家さんの場合、少なくとも5年ぐらいは見続けるんですね。中には10年近く見続けて決めることもありますし、その時代に対する強いメッセージのある作家が好きなんです。石上さんは、2010年に資生堂ギャラリーで開催した展覧会(『石上純也展 建築はどこまで小さく、あるいは、どこまで大きくひろがっていくのだろうか?』)を見て、『庭というコンセプトで建築家に依頼するのならこの人しかいない』と決めていました。そこから依頼し、完成するまで約3年半。テーマは、「山のシューレ」のテーマでもあった「庭」。ある日、彼が一枚の絵を見せてくれて、瞬間的に『これでいきましょう』と決めたのを覚えています」(北山氏)
次ページ:四季折々で全く違う表情が楽しめる水庭
Text:ラスカル(NaNo.works)
Photos:安井宏充(weekend.)