『ボヘミアン・ラプソディー』の記録的大ヒットが記憶に新しい中、今年に入ってから次々と新たな音楽映画が公開されている。しかし、大ヒットしたアーティストの栄枯盛衰を描いたハリウッド映画だけが音楽映画ではない。
今回はドキュメンタリーに的を絞り、日常生活では知り得ない音楽業界の裏側を知ることのできるような映画ばかりを集めた。バンドマン、レーベル創始者、そしてギター職人という全く異なる三つの視点から音楽を見つめた三作品を紹介したい。
『DIG!』2004年
DIG! – 日本語版予告
当時全くの無名だったブライアン・ジョーンズタウン・マサカー(以下、BJM)とダンディ・ウォーホルズ(以下、DW)という2組のバンドに対し、7年間にも及ぶ密着取材を敢行して制作されたこの映画。癇癪持ちで偏屈なBJMのフロントマンのアントン・ニューコム、それに比べるとかなり地味なDWのフロントマンのコートニー・テイラーという盟友でもあった二人を中心に、撮影当時の1990年代アメリカのバンドシーンが描かれている。幾度にもわたるステージ上でのメンバーとの乱闘騒ぎやDWのメジャーとの契約を知り激怒する場面などをはじめまるで脚本があるかのような過激な行動を繰り返すアントン、対照的に順調にバンドとしてのキャリアを歩んでゆくコートニー。7年という時間の流れに伴って変化する環境や人間関係の移ろいが、フィクション以上に儚さを体現している。
『アップサイド・ダウン:クリエイション・レコーズ・ストーリー』2010年
『アップサイド・ダウン:クリエイションレコーズ・ストーリー』予告編
オアシス、プライマル・スクリーム、ジーザス・アンド・メリーチェインをはじめ数々の名だたるアーティストたちを輩出してきたロンドンの名門レーベル、クリエイション・レコーズとその創設者アラン・マッギーの半生を辿る作品。一介のインディーレーベルであったクリエイションがいかにして世界的成功を掴んだのかが、アラン・マッギー本人やノエルギャラガー(オアシス)、ボビー・ギレスピー(プライマル・スクリーム)等のインタビューや実際の記録映像を通して語られる。今まであまり公にされることのなかった結成当初のオアシスの映像やクリエイションの破産に至るまでの経緯など多くの貴重な場面を目にすることができる、全音楽ファン必見の一本。
『カーマイン・ストリート・ギター』2019年
『カーマイン・ストリート・ギター』予告編
変わり続けるNYの街で、変わることなくギターを作り続けるカーマイン・ストリート・ギターという小さなギターショップの1週間を切り取った映画。職人リック・ケリーの手によってNYの建物の廃材から生み出されるオーダーメイドギターは、ルー・リードやパティ・スミス、ボブ・ディラン、日本国内だと斉藤和義も愛用しているというほど多くの一流ミュージシャンたちから評判を受けている。次々と来店する大御所アーティストへのインタビューや、携帯電話を持たずインターネットも利用しないというリック・ケリーの生活、また同僚である母ドロシーと弟子のシンディとの関係性などが描き出され、単なるギターショップへの密着取材という域を超えたハートウォーミングな人間ドラマとしても楽しめる作品。
華々しい表舞台には表れない音楽業界の光と影を映し出すドキュメンタリー映画。一度その裏側を除けば、きっとまた新たな視点で音楽そのものも楽しむことができるだろう。
『DIG!』、『アップサイド・ダウン』はDVDレンタルにて視聴可能。『カーマイン・ストリート・ギター』は現在上映中。
『カーマイン・ストリート・ギター』
8月10日(土)より新宿シネマカリテ、シアター・イメージフォーラムほか全国順次ロードショー!
監督・製作:ロン・マン(『ロバート・アルトマン/ハリウッドに最も嫌われ、そして愛された男』)
扇動者:ジム・ジャームッシュ 編集:ロバート・ケネディ
出演:リック・ケリー、ジム・ジャームッシュ(スクワール)、ネルス・クライン(ウィルコ)、カーク・ダグラス(ザ・ルーツ)、ビル・フリゼール、
マーク・リーボウ、チャーリー・セクストン(ボブ・ディラン・バンド)他
音楽:ザ・セイディース 原題:Carmine Street guitars 2018年/カナダ/80 分 配給:ビターズ・エンド
©MMXVⅢ Sphinx Productions. bitters.co.jp/carminestreertguitars
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