音楽以外の責務も引き受ける演奏家
輝かしい受賞歴を持つ24歳のピアニスト・反田恭平(そりた・きょうへい)氏が株式会社NEXUSを立ち上げ独立。さらにプレイガイドである株式会社イープラスとの共同事業として、クラシック音楽の新レーベル、NOVA Recordを設立。以上の流れを若い世代の起業と見れば時代感に即したものと受け止められる。だが、音楽に身も心も捧げるイメージの強い演奏家が、音楽以外の様々な責務を自ら引き受けるのは間違いなく異例だろう。聞けばクラシックの著名な演奏家がレーベルを設立すること自体が国内初の試みというから、驚きは倍増していく。
異才あるいは異端。呼び方はどうあれ、突然現れた若き才能の持ち主はメディアが放っておかなかった。『情熱大陸』や『題名のない音楽会』など様々なテレビ番組で紹介されると、彼の注目度はクラシック音楽界の枠を超えて広がった。となれば多少気難しいところはあるだろうと思って対面したら、目の前の反田恭平氏は、おそらく24歳として等身大の緩やかさをたたえつつ、夢を形にしていく具現者としての決意を胸に秘めた、まぶしい若者だった。一方で時折、飄々とした振る舞いを見せるのは、彼の経歴が関係しているのかと勘繰ったりもする。いずれにせよその才能の呼び方はさておき、この人に特別な何かが具わっている空気は、対峙した瞬間からそこに漂っていたのである。
「音楽は2でサッカーが8」の少年時代
イメージに縛られるのはよろしくないとしても、演奏家として成功する者が本気で音楽を目指したのが12歳と知らされれば、誰でも耳を疑うはずだ。反田氏はその前年まで、「音楽は2でサッカーが8」の少年時代を過ごしてきたという。
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Text:田村 十七男
Photos:大石 隼土