ソロアーティストとしてはもちろん、多岐に渡る面々の楽曲を手がけるプロデューサー、様々なアーティストのライブを支えるサポートミュージシャンなど多くの顔をもつShin Sakiura。

シーンから乞われるマルチさで近年活動の場を広げ、SIRUP、向井太一、chelmico、Rude-αらとの共演でも知られている彼が、12月7日(土)に代官山UNITにて自身史上初のワンマンライブを行うこととなった。

洗練されつつも柔軟な音楽性をもつ彼の作風が生まれるまでにはどのような軌跡があり、また彼は今立つ現在地から何を見ているのか。
三軒茶屋のとある静かなカフェで、本人に話を聞くことができた。

Shin Sakiuraが持つ無数の顔 — 初期衝動と現在地、ワンマンライブを語るインタビュー interview_190909_shinsakiura_738

Interview:Shin Sakiura

──現在、自身名義の作品に加え、さまざまなシーンのアーティストと共演されているShin Sakiuraさん。R&B/ヒップホップチャートの上位にランクインしている楽曲のクレジットを見ると、「この曲にもShinさんが!」と驚くことが多々あるのですが、意外にも幼少期は「ロック少年」だったそうですね。

そうなんですよ。母親がUKロック好きで、家でごはんを食べているときもロックが流れていたので、少年時代はロックこそ音楽そのものなんだと思っていましたね。その後、学生時代にバンドが流行ったので僕もギターを弾き始めました。

当初は同世代のみんなと一緒にELLEGARDENやストレイテナーなど全盛期のオルタナティブロックをコピーしていたんですが、僕は母親の影響もあってレッド・ツェッペリン(Led Zeppelin)やザ・ビートルズ(The Beatles)が好きだったので、徐々に「昔のロックもかっこええんやで」と友人たちを洗脳していきました(笑)。

なので中高生のころの仲間内では、いい音楽に出会ったら周りに共有する習慣があったし、昔の音楽を掘っていって最終的に僕よりも詳しくなるやつもいました。

──幼い頃から素敵な音楽仲間に恵まれたのですね。その後、現在の音楽性に至るまでにはどんな音楽に親しんでこられましたか?

80年代の王道ロックから入り、日本で流行っていた邦楽のロックも聴いて、その後BOOM BOOM SATELLITESや80KIDZを聴き始めて、アンダーワールド(Underworld)やケミカル・ブラザーズ(The Chemical Brothers)にもハマり、ダンスミュージックの要素を持ったアーティストがかっこいい! と思ったんですね。

バンドしか知らなかった当時の僕にはシンセサイザーなんて意味不明で、「生楽器だけでは出せないはずのこの音はどうやって出してるんや?」と興味深々で。

それが高校2年生か3年生の頃だったと思います。そして大学に入ると周りにヒップホップが好きな人しかいなかったので、友人にヒップホップを教えてもらう代わりにこれまで親しんできたロックを教えたりしました。ロック、エレクトロ、ヒップホップとそれぞれにがっつり入れ込んだ時期があったので、それらが混ざり合って今の音楽性になっているのかなと、僕自身は分析しています。

Shin Sakiuraが持つ無数の顔 — 初期衝動と現在地、ワンマンライブを語るインタビュー interview_190909_shinsakiura_694

──なるほど。既存曲のコピーだけではなく、ご自身での作曲に興味を持ったのはいつでしたか?

ギターを始めた時から「弾くだけじゃなく、自分で曲を作りたいな」とぼんやり思っていて、当時組んでいたコピーバンドでも、アレンジについて積極的に意見を出していました。

大学に入ってバンドメンバーがばらばらになったので僕は何をしようか考えていたんですけど、DTM (パソコンを用いた作曲)をしている先輩の自宅に遊びに行った時に「曲を作れる機材が一式あるやん!」と感激して(笑)。触らせてもらってどハマリしたので、それをきっかけに自分でも少しずつ機材を買って作り始めました。

──いわば趣味の一環だった作曲がお仕事へと変わり、自身の作品のみならずさまざまな人々から依頼を受けて楽曲を作るようになられたわけですが、環境が変わったなと肌で感じることはありますか?

「こういうのをやりたい!」と思った音に向かって作り始めて、途中浮かんだインスピレーションに従っていろいろ試しながら、好きなことを丁寧にやるという過程は、先輩の家で初めてDTMを触った日から変わっていないです。

僕の仕事には色んな種類があるんですが、Shin Sakiuraという名前が世に出ないような作家業では自我を出すことはなく、そういう仕事は色んな音楽を作れるようになるためのスキルアップに繋げています。

逆にShin Sakiuraとして誰かのサポートで演奏したり楽曲提供をする場合は、共演(共作)するアーティストの方向性を尊重しつつ「こういうの良いと思うんですけどどうですか?」ということも伝えます。

よく一緒に音楽を作るSIRUPや向井太一くんは、日頃聴いている音楽が同じなので細かいコミュニケーションをせずともお互いにやりたいことがわかるんですよね。SIRUPのアルバム『Feel Good』に収録された“Crazy”も、1年半くらい前に彼と出会ったときに趣味が近いことがすぐにわかって、一気に5曲くらい作ったもののひとつです。
曲を作り始めた当初と環境が変わったとすれば、音楽をやる上で自分を理解してくれる仲間が増えたことだと思っています。

向井太一/声が聞こえる(Official Music Video)

──ご自身の楽曲に他のアーティストを迎える場合と、他のアーティストにプロデューサーとして迎えられる場合では、曲作りにおける心持ちにどんな違いがありますか?

自身名義の楽曲に誰かを迎える場合はあくまで僕の曲なので、自分のライブで演奏したときにその曲だけが浮いてしまわないように心がけます。

誰かに曲を提供するときは、「呼ばれている側」としてその曲が収録される作品全体の雰囲気と、その中で僕の曲がどういう位置づけなのかを事前に聞いておきます。さっきも話したSIRUPの“Crazy”は、アルバムの中ではイロモノ的な位置づけだと思うので、この曲でアルバムの幅が広げるためにはどういうトラックにしようか? ということを考えて作りました。

僕はかつてサラリーマンをしていた時期に発注をかける側と依頼を受ける側の両方を経験したのですが、どちらも今の仕事に通ずる部分があるかもしれないですね。

Cruisin’(feat.SIRUP)

──社会人を経験されたというのも驚きです。これまでにさまざまなアーティストとの楽曲制作やライブ活動を重ねてこられましたが、中でも印象的だったかたとのエピソードを教えていただけますか?

選ぶのが難しいですけど……、一緒にバンドをやったり僕の曲にもゲストボーカルに迎えたPAELLASのMATTONは、自分の好きなことをしっかりやりながらもかっこつけずに余裕があって、それが歌にも表れるという、客観的に見てもかっこいいなと思うアーティストです。曲を作っていて「こういうトラックだからこんなメロディーを入れてほしい」と伝えると、想像を超えるものが返ってくるんですけど、彼の歌やインスピレーションにはものすごく説得力があるので、一緒に作品をつくっていてとても刺激になりました。

そもそも彼との出会いは僕がDJとして参加したイベントにPAELLASも出ていて、PAELLASが大好きだったのでMATTONに「一緒に音楽やりたいです!」と話しかけたのが始まりです。彼くらい売れているアーティストなら「忙しくて時間ないから……」と、あしらわれてもおかしくないのに、まだ曲も作ったことのない僕が急に声をかけても「いいよ、やろう」と言ってくれるなんて、すごい人ですよ。

ある意味、誰かと曲を作るときにどのように進めれば良いのかは、MATTONが教えてくれたのかもしれないです。

Shin Sakiura “Sleepless feat. MATTON” (Official Music Video)

omit / u got a spell on me

──Shinさんの手がける楽曲にはさまざまなサウンドがありますが、ご自身が分析する、どの楽曲にも共通するような“Shin Sakiuraらしさ”はありますか?

僕は100%純粋なジャズやヒップホップをできるわけではないので、ジャンルに縛られている意識はなくただ幅広く好きなだけなんですよね。だから「これだけは揺るがない!」というこだわりはないと言えばないんですけど、あるとすれば「多少面倒くさくてもしっかりと手間をかけるところ」ですね。自分だけじゃなくアーティストの友達に聴かせたり、ライブで演奏しても「イケてる!」と思ってもらえるものだけを出そうと思っています。

──Shinさんのトラックにはボーカルの有無に関わらず印象的な音やフレーズがあるのですが、何度繰り返し聴いても負担にならない軽やかな心地よさがそこに共存していて、絶妙なバランスだなと思います。

ありがとうございます。ただ、僕の曲って完成形を聴くと成立しているけど、実はけっこうめちゃくちゃな作りかたをしているんです(笑)。

ライブのサポートで演奏するときに、そのアーティストの楽曲のパラデータ(楽器ごとに分かれた音声ファイル)をもらうので、他のトラックメイカーがどういうふうに曲を作っているのかがわかるんですけど、CIRRRCLEのA.G.Oくんのトラックなんかは圧倒的に整頓されていて緻密でびっくりします。

僕らは大学でトラックメイキングを学ぶわけではなく、それぞれがオリジナルの方法をとるから人によってやりかたがぜんぜん違うので、他の人の手法を知ると勉強になりますね。

Shin Sakiuraが持つ無数の顔 — 初期衝動と現在地、ワンマンライブを語るインタビュー interview_190909_shinsakiura_766

──お話にあったようにShinさんは様々なアーティストのライブをサポートされていますが、Shin Sakiuraとしてお1人で
ステージに立たれることもあります。演奏されているのはエレキギターと手元の機材だけという不思議なセットですが、具体的にはどのように音を出しているのですか?

エレキギター以外の音がすべてパソコンから出ています。手元で触っているのはAbleton Pushというパソコンの音を出すためのコントローラで、パッドやつまみにいろんな音や効果を割り振って自由に操ることができます。

僕の楽曲には人の声がぶつ切りになったような「声ネタ」が入っているんですが、ああいう音もパッドを叩いて出しています。僕はライブ中にフロアを煽ったりMCで喋ったりしないんですが、お客さんがすごく盛り上がってくれるのは嬉しくもあり、ちょっと不思議でもあります(笑)。

──先日ライブを拝見していたときにお客さんたちが話していましたが、ギターを弾いていてAbleton Pushに切り替えるときに、持っていたピックを口に咥えるのがかっこいいらしいですよ!

音関係ないやん(笑)! ピックを手元に置いちゃうとパッドを叩くときに邪魔になってしまうし、置いておく場所がないんですよ。でもあれが良いんですね……!

Shin Sakiuraが持つ無数の顔 — 初期衝動と現在地、ワンマンライブを語るインタビュー interview_190909_shinsakiura_756

──12月7日(土)にShin Sakiuraとして初めてワンマンライブを行われますが、この公演はお1人ではなくバンドセットで行われるそうですね。

初のワンマンライブなので、色々なアーティストのライブやレコーディングに参加しているドラマーの堀正輝さんと、showmoreのキーボーディスト井上惇志を迎えて初のバンドセットで挑みます。
今日もワンマンライブに向けてリハーサルをしてきたんですが、「だいたいこういう感じで……」とイメージの大枠を伝えるだけでうまく料理してくれる2人なので、すでにめちゃくちゃ良かったです。

このワンマンライブに来てくれるお客さんは、これまでに何かしらの機会に僕のことを知ってくれた人たちだと思うので、僕が1人でやってきたライブとバンドセットの違いを観てほしいです。バンドセットだとできることが増えるし、ワンマンライブを1度経験することによって今後の活動の幅が広がると思うので、楽しみです。

──今後広がりをみせるであろうShin Sakiuraとしての活動の中で、目標があれば最後にお聞かせください。

僕にはシンガーだったりフロントマンとしての感覚がないので、「このステージに立つぜ!」といった明確な目標はないのですが、いつか自分のやっている音楽が韓国やアメリカといった海外に広がる日が来ればいいなと思います。

Shin Sakiuraが持つ無数の顔 — 初期衝動と現在地、ワンマンライブを語るインタビュー interview_190909_shinsakiura_744

Interview/Text by Natsumi Kawashima
Photo by Kazuma Kobayashi

Shin Sakiura

東京を拠点に活動するプロデューサー/ギタリスト。バンド活動を経た後、2015年より個人名義でオリジナル楽曲の制作を開始。2017年10月に80KIDZ、TAAR等を擁するレーベルPARKより1stアルバム『Mirror』(2017年10月)、2ndアルバム『Dream』(2019年1月)、2枚のフル・アルバムをリリースした。エモーショナルなギターを基としながらも、HIP HOPやR&Bからインスパイアされたバウンシーなビートとソウル~ファンクを感じさせるムーディーなシンセ・サウンドが心地よく調和されたサウンドで注目を集め、SIRUPのライブをギタリスト/マニュピレーターとしてサポートし、SIRUPや向井太一、s**t kingz、showmore、Rude-α、miwaの楽曲にプロデュース/ギターアレンジで参加するなど活躍の場を広げ、アパレルブランドや企業のPV、CMへの楽曲提供も行っている。

HPTwitterInstagram

RELEASE INFORMATION

Shin Sakiuraが持つ無数の顔 — 初期衝動と現在地、ワンマンライブを語るインタビュー interview_190909_shinsakiura_Slide

Single 『Slide』

PARK 053 / released by PARK
01. Slide feat. maco marets
詳細はこちら

LIVE INFORMATION

Shin Sakiura 1st One Man Live

2019.12.07(土)
代官山UNIT
OPEN 18:00 / START 19:00
ADV ¥3,500(税込/All Standing/1Drink別)
チケット一般発売日:2019.10.05(土) 12:00 am 〜
お問い合わせ : クリエイティブマン03-3499-6669

イープラスローソンチケットチケットぴあ

詳細はこちら

SHOP INFORMATION

Shin Sakiuraが持つ無数の顔 — 初期衝動と現在地、ワンマンライブを語るインタビュー interview_190909_shinsakiura_776

nicolas

東京都世田谷区太子堂4-28-10 鈴木ビル 2F
16:00~24:00 (毎週火曜・第3水曜定休)
TEL : 03-6804-0425
HP