訪れた土地で収めたさまざまな音や住民の声、映像を切り貼りし、そこにコードやメロディをつけ、アレンジを加える手法で独自の世界観を描き出す、フランス出身のアーティスト・シャソール(Chassol)。
彼はなぜ、そのようなスタイルに至り、作品を通して何を伝えたいのか。その魅力について、あらためて幼少期からの音楽遍歴を辿りながら紐解いた。
ビルボードライブ東京でのパフォーマンス直前、インタビューは20分という限られた時間での取材。そのなかで、一つひとつの質問に対して、できる限り丁寧に答えながらその場を楽しく盛り上げようとする、おおらかな人柄が印象的だった。
最後には、風呂敷を広げて現在制作中のニュー・アルバムについての話も。テーマは“ゲーム”。そこにもまた、彼ならではの興味深い視点があった。
Chassol, Brecht Evens et Céline Devaux – Live @ festival de la BD d’Angoulême
Interview:Chassol
━━4歳の頃から楽器に触れていたと伺いました。
父がサックスの奏者で、毎日音楽のことを教えてくれたんだ。4歳の頃にはピアノを弾くようになって、少し経ってからギターも始めて、いわゆるミュージック・アナライゼーション、音楽を分析することも幼い頃からやっていたよ。
━━10代の頃はどんな活動をしていましたか?
高校に入って友達と一緒にバンドを組んで、ジャズを演奏していたんだ。UKパンクに影響されたようなバンドもやってたね。
━━パンクのバンドを組んでいたこと、ご自身の作品にも参加されているユクセク(Yuksek)といったエレクトロニック畑のアーティストとの関わりなど、広義ではありますが、そういったオルタナティヴな音楽とあなたの音楽との関係性はどのようなものですか?
イーゴリ・ストラヴィンスキー(Igor Stravinsky)の“The Rite of Spring(春の祭典)”は、パンクに通じるエッセンスが含まれているし、ひとたびジャズの奏法を学んでものにすれば、どんなジャンルの演奏でもできる。ジャズやクラシックを学ぶということは、すべてのジャンルの音楽を学ぶことと同じなんだ。だからといって、そのパンクやエレクトロニック、オルタナティヴの持つエネルギーそのものまで表現できるのかとなると、それはまた別の話なんだけど、僕なりに咀嚼して取り入れているよ。
━━ジャズやクラシックのスキルについては、高校を卒業した後、どのように進化していったのでしょう。
大学に入ってからは、20人以上のオーケストラを率いるようになって、ストリングスとホーンとベース、自分がキーボードを担当していたんだ。ラロ・シフリン(Lalo Schifrin)とか、巨匠と呼ばれた人たちの音楽を、なんとか演奏しようとトライしていたね。
━━指揮者としてタクトも振っていたんですよね?
オーケストラに加わって演奏するだけでなく、オーケストレーション(管弦楽法)も学んでいたんだけど、自分が書いた曲をメンバーに演奏してもらってレコーディングしていたから、おのずと指揮をする必要に迫られたんだよね。大学を出てからCMや映画やテレビ番組の音楽を作る仕事をしていたんだけど、もっと音楽の勉強がしたくなって、アメリカのバークリー音楽大学に留学したときにも、コンダクティング科で指揮のことを学んだよ。でも、指揮者は向いてなかったね。
━━どうして向いていないと思ったんですか?
指揮者は前もってどういったビートがくるかを常に頭のなかで考えて指示を出さなきゃいけないんだけど、僕は踊ることが好きだから、ビートを先取るよりもオンビートで踊ってしまうんだよね(笑)。オーケストラは大所帯だから、指揮者である自分がそうなると、演奏はもっと遅れちゃう。
━━バークリー音楽大学を出たあとは、どのような活動を?
バークリー音楽大学を卒業したのが2002年。そこから、またフランスにもどって、アレンジャー(編曲家)やコンポーザー(作曲家)の仕事を始めたんだ。その頃に、フェニックス(Phoenix)やセバスチャン・テリエ(Sebastien Tellier)のライブにサポート・メンバーで参加するようにもなって、日本にも初めて来たんだ。
━━ご自身で訪れた土地を撮影し、現地の音や人々の声を編集して、それを音楽にしていくスタイルになったのはいつ頃ですか?
しばらくしてLAに移住してから、今のスタイルになったんだ。映像に音楽をつけたり、スピーチ・ハーモナイゼーション、すなわち言葉を切り取って音楽にするようになった。その後に、ヨーロッパのレーベル〈トリカテル(Tricatel)〉と契約して、最初にアルバムを出したのが2012年(『X-Pianos』)で、現在に至るって感じだね。
X-Pianos – Chassol
OBAMA HARMONIZED BY CHASSOL (FULL SPEECH)
━━訪れた土地の映像という視覚情報や、現地の人の声や歌、生活音や自然の音には、それだけで大きなパワーがあります。それらを効果的に曲に落とし込むのではなく、メインの素材として切り貼りしていくことと、楽器を演奏したりプログラミングしたりすることとのバランス感覚についてはどうですか?
そうだな、答えになっているかはわからないけど、まず僕は、最初に何が言いたくて何がしたいのか、自問自答して答えを見つけるんだ。今は”ゲーム”をテーマに新しい作品を作っているんだけど、じゃあなぜゲームなのか。その答えを見つけて、実際にゲームセンターに行ってみるんだ。例えば、遊んでいる人たちの声やボタンを叩く音といった、いろんな音をレコーディングして家に持ち帰る。それらの録音した音の一つひとつには音階があって、そこにコードやメロディをつけて、構築していくんだ。
(スマートフォンに収めた映像を見せながら)例えばこれは、友達のKOHHにゲームセンターに来てもらって、手を叩いて遊んでもらったんだ。そこにメロディをつけていろんな音を加えていくとこうなる。(と、大きな音で流す)
━━カッコいいですね。
ありがとう。テーマが“ゲーム”だし、日本のみんなもきっと気に入ってくれると思うよ。
━━これまでの作品ではニューオリンズでのライブ映像をもとにした『Nola Cherie』、インドを訪れた『Indiamore』、アンティル諸島をテーマにした『Big Sun』ときて、今回は特定の地ではなくゲームに。それはなぜですか?
まず1つは、ヘルマン・ヘッセ(Hermann Hesse)の『The Glass Bead Game(ガラス玉遊戯)』を読んだこと。主人公が想像上のゲームをすることで、クラシックや中国の伝統といった文化的な物事に対して想像力を広げていくような内容なんだ。あとは、数学と音楽を繋げていくような描写もあったことが大きかったね。
もう1つは、カナダに行ったときに、男の子がアメリカン・フットボールの練習をしていて、ボールを投げるときにいつも「タッチダウン!」って、楽しそうに声を出していたんだ。そこで、人が行動するときにはすごくいい音が出るんだって、思ったことだね。
━━ゲームから広がる世界をご自身の音で表現したかった。
そうだね。ゲームは人間の生活に欠かせないものだと思うんだ。
そこには4つの要素がある。
まずは”コンペティション”。どんなことにも競争はつきまとってくるからね。2つ目は”チャンス”。宝くじとか賭け事とかもそうだけど、ゲームにはチャンスを追い求める側面もある。3つ目は”アクティング”。自分じゃない誰かを演じるってこと。最後は”ファティーグ”。ローラーコースターみたいな遊具に乗ってグルグル回ったときの倦怠感みたいなもの。
次回の作品では、”コンペティション”と”チャンス”と”アクティング”と”ファティーグ”が肝になっているから、いろいろ想像して楽しみに待っていてくれるとうれしいな。
Photo by Kazuma Kobayashi
Text by TAISHI IWAMI
Chassol
フランス生まれの作曲家/鍵盤奏者で、現代音楽シーンの鬼才との呼び声も高いシャソールが登場。
キャリア初期でフェニックスなどのサポートに抜擢され頭角を現した後、鳥の鳴き声や人々の会話といった生活音が収められた映像にピアノでメロディを乗せるという独自のスタイルを創造。オバマ元大統領のスピーチや、インドで暮らす人達の記録映像を次々と美しい音楽に作り変え、その才能を大いに発揮してきた彼。独特の世界観を保ちつつ、近年では、フランク・オーシャンの『Endless』やソランジュの最新アルバム『When I Get Home』などにも参加し、ジャンルを超えて新たな表現づくりにも取り組んできた異色の音楽家が、どのようなステージを披露するか。ぜひ目に焼き付けて欲しい。