今年4月に、およそ7年ぶりに来日をするDIIV(ダイヴ)。新作『Deceiver』で、従来の深いリバーブがかかったドリーミーなサウンドとは正反対とも言える、ファズの効いたヘヴィな音像を打ち立て、生まれ変わった姿を見せた。今回はバンドとして初めてフロントマンであるザカリー・コール・スミス(Zachary Cole Smith 以下、ザカリー)以外のメンバーも作曲の段階から製作に加わり、濃密にコミュニケーションが取られていたという。
「自己責任」と「欺瞞」がテーマだという今作は、歌詞中でも環境問題や神についての言及があり、今までとは違った手触りを感じさせる。バンドとしてのエッセンスを保持しつつも異なるサウンドで再びシーンの中心に返り咲いた彼ら。アルバムリリース後のツアー真っ最中という多忙なスケジュールにも関わらず、ザカリーは快くビデオインタビューに応じてくれた。
Interview:DIIV
━━2016年にリリースされた『Is The Is Are』は、『Oshin』で確立されたDIIVの代名詞とも言えるドリーミーなリバーブサウンドと、ギターアルペジオのアンサンブルをアップデートさせたような作品でファンからも好評だったと思うのですが、リリース後の反応はどのようなものでしたか?
どうだろう……。あまり反応はわからないけど良かったんじゃないかな、覚えてないんだよね(笑)。
━━制作に関しては、すべて1人で行なっていたのでしょうか?
主にそうだね。
━━『Is The Is Are』は自分にとってどんな作品ですか?
当時はそこまで大切じゃないと感じていたんだけど、今になって振り返ると、全てのストーリーの一部分なんだなって思うよ。良くも悪くも僕らのカタログのひとつだ。
━━その後の体調不良によるツアーの中止は重い決断だったかと思います。療養中はどのように音楽に関わっていたのですか?
しばらくは音楽を流せない環境だったから、本を読んだりして過ごしていたよ。そのあとアコギを弾けるようになって、iPodも手に入ったから、いろんなものを聴いて、それをギターで弾くっていうのを繰り返した。人に聴かせてあげたりね。音楽の仕組みとかを再認識するきっかけにもなったよ。
━━なるほど。療養中も音楽を聴いて、曲を弾いて、音楽と密接だったんですね。
そうだね。療養中はプロフェッショナルに音楽をやっていた訳じゃないから、みんなと同じような距離感で、音楽と接していたんじゃないかな。
━━リハビリを経て、生活に変化はありましたか?
もちろん。たぶん日常の全てが変わったよ。
━━バンドとしても様々な困難を経たと思います。メンバーに対するスタンスなど、どのように変化したのでしょうか。
本質的なところがゆっくりと変化していったよ。些細なことだけど、バンドとして一緒に時間を過ごしたり、音楽を聴いたり、音楽について語り合ったり。そういうことを積み重ねていくと、物事がうまく運んで、コミュニケーションが取りやすくなったんだ。友達としての関係をイチから築きあげないといけなかったからね。共に色々乗り越えてきたから、もともと近い距離にはいたけど、変化を起こすには色々変える必要があったんだ。おかげで、前よりも協力的な姿勢やアプローチができるようになったよ。
━━かなり根気と時間がかかりそうですが、今は上手くいっているのですか?
順調だよ! 新しいアルバムもリリースして、みんなワクワクしている。
━━今作では初めて、ベーシストのコリン(Colin Caulfield)が持ち寄ったデモから、制作をスタートしたそうですね。アルバム制作に取り掛かろうと思ったきっかけはなんだったんですか?
あまり確かじゃないけど、完成したいくつかの楽曲を並べて眺めていた時に、アルバム制作が始まった気がする。僕らは長い間バラバラに過ごしてたけど、でも全員、その間もずっと音楽を作っていたんだ。だから、それぞれ作ったものを集めて、お互いに演奏して、どんどん改良していった。古い曲もあれば新しい曲もあるし、持ち寄ったものを組み立てたって感じだね。
━━マイ・ブラッディ・ヴァレンタイン(My Bloody Valentine)やナイン・インチ・ネイルズ(Nine Inch Nailes)のエンジニアであるソニー・ディペリ(Sonny Diperri 以下、ソニー)をプロデューサーに迎えていかがでしたか。
ソニーと一緒にできて光栄だったよ。彼は常に学ぶ精神を忘れない人だ。彼は僕らにとって通訳者みたいなもので、僕らが抽象的に何か要望すると、彼がそれを解釈して専門的に適したことを提案してくれる。このツマミをもっとこうすればとか、このギターを使えばとか。すばらしい協力者だったよ。
━━サウンドメイクに関して、これまでと変化した面を教えてください。
まず、今までとは違うサウンドにしたいと思ってソニーに相談したんだ。ソニーがこれまで携わった他のアーティストの作品もたくさん聴いたし、デトロイトのポスト・パンク・バンドのProtomartyrとかを聴いて、「この方向性に行きたい」って感じたものをレファレンスとして提案もしたね。
あと、今までの作品は様々なレイヤーをいくつも重ねる手法で、同じギターを2本3本と重ねたりしていたけど、今回はめちゃくちゃいいギターサウンドを、それぞれ各パート1本ずつ録ることに集中して取り組んだんだ。それが、よりラウドでクリアなサウンドの理由だと思う。
━━前作までとは打って変わり、ヘヴィで乾いた音像の際立つ今作ですが、そのインスピレーションはどこから得られたのでしょうか。
楽曲で語っている内容に合うようにした結果かな。あとは、最近僕らが聴いている音楽の影響もあるね。Deafheavenとツアーを回ったのはとても大きかったし、True Widowみたいな音の重いバンドからも大きな影響を受けているよ。Smashing Pumpkinsや、さらにいえばメタルバンドからも。
━━ヘヴィでさらに全体を通してダークな印象を持つ『Deceiver』ですが、そのテーマは何ですか?
いくつかあるけど、大きなテーマは「自己責任」だ。自分の行動に対する責任だったり、過去に対する責任だったり。あとはアルバムのタイトル通りで、「欺瞞」ももう一つの大きなテーマかも。でも、基本的には回復だったり前に進むことだったり、ものすごく希望に溢れたアルバムだよ。
━━なるほど。ポジティブなメッセージではあるんですね。
そうだね。ポジティブだよ。どんな問題にも解決策はある。
━━”Blankenship”の歌詞では、企業による環境破壊や、地球規模での環境の変化に言及しています。日本にも季節外れの巨大な台風が襲来し、甚大な被害を被りました。環境問題についてどう考えていますか?
楽曲内で環境問題について触れようと思った理由は、それも今回のテーマの「自己責任」と結びつくからだ。自分たちが消費しているものや、その影響にもっと注意するべきだと思う。解決策はあるけど、みんなそれぞれが大きな変革を起こさないと解決できない問題だよね。
━━“Acheron”はCodeineなど、スロウコアのバンドを彷彿とさせるダークなトーンを持ったミニマルなサウンドで、お気に入りの曲のひとつです。歌詞中、日本語で《shikata ga nai(仕方がない)》というフレーズがあり、初めてこの曲を聴いた際にとても驚いたのですが、なぜこの言葉を選んだのですか?
あの《shikata ga nai》というフレーズはジョン・ハーシーの本『HIROSHIMA』で知ったんだ(「戦争だったのだから仕方がない」という被爆者の発言が紹介されてる)。曲自体は神について言及してるスピリチュアルな内容なんだけど、あの一文は、神を信仰したくても“あんな悲劇を起こす神をどう信仰すればいいんだ”っていうことを歌っている。
――このアルバムは、自分にとってどんな作品でしょうか。
わからないね。でもメンバー全員、今までの人生でこれほど頑張って何かに取り組んだことがなかったから、これを世にリリースできたことが今とても誇らしいよ。演奏するのも楽しみだ。とにかく、言いたいことは全部アルバムの中にもう詰まってるはずだ。ここ最近、僕がみんなに伝えたいと思っていたことは全部アルバムの中に入れることができたし、それってとてもワクワクすることだよね。
Interview by Kazuma Kobayashi
Edit by Kentaro Yoshimura
RELEASE INFORMATION
Deceiver
DIIV
2019.10.04
¥2,200(+tax)
1.Horsehead
2.Like Before You Were Born
3.Skin Game
4.Between Tides
5.Taker
6.For the Guilty
7.The Spark
8.Lorelei
9.Blankenship
10.Acheron
EVENT INFORMATION
DIIV “Deceiver” Tour JAPAN 2020
2020年4月13日(月)
OPEN 18:00 / START 19:00
大阪・梅田クラブ・クアトロ
ADV ¥7500 / DOOR ¥8000 (各1D代別途)
2020年4月14日(火)
OPEN 18:00 / START 19:00
東京・恵比寿LIQUIDROOM
ADV ¥7500 / DOOR ¥8000 (各1D代別途)
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