ここ近年、“ととのう”や“サ道”、“サ活”といった言葉はもはやサウナ好きだけにとどまらず、日常の会話にも登場するほど定着してきている。古くからある銭湯やサウナから、サウナに特化した宿泊施設が新設されるなど、サウナブームはまさに現在もヒートアップ中。そのなかでも“アウトドアサウナ”はこれからより着目されていくサウナスタイルのひとつだろう。ストーブやサウナストーンがセットされたテントサウナは、日本でも少しずつ浸透してきている。
この冬、ガーラ湯沢という誰もが知っている人気のスキー場に最高にクールでホットなアウトドアサウナが体験できるという話題を聞きつけた。その名も<GALA meets SAUNA>。2021年3月に2週間限定で実施された特別イベントだ。スキー場といってもそこは雪山、しかもテントサウナのある場所はゴンドラで上がったゲレンデのど真ん中にあるという。聞こえからして“ワイルドすぎやしないか……”と不安になりそうな環境だが、この<GALA meets SAUNA>は単にテントサウナが置かれたアウトドアサウナとは一味も二味も違う。ガーラ湯沢より、雪の造形設営のプロフェッショナル・チームが集まり、さらにアウトドアサウナの運営プロデュースをおこなっている「川とサウナ(スキーマ)」が運営サポートに入っていたりと、かなり本格的。雪山とサウナ、各分野におけるプロフェッショナル・チームが大集結し生みだされたハイブリッドなアウトドアサウナなのだ。
今回Qeticでは、<GALA meets SAUNA>の製作背景となる裏側に潜入レポート。『GALA meets SAUNA』の特別イベントを仕掛けたJR東日本の村上悠さん(JR東日本事業創造本部/アウトドアサウナ事業ファウンダー)と、橋本健太郎さん(川とサウナ/サウナフルネス/スキーマ取締役)に現地で話を伺った。“なぜスキー場にサウナを!?”、“アウトドアサウナの未来や展望”についてなど、雪山が溶けるほど熱い想いを語っていただいたーー。
また記事後半のフォトレポートは、ゲレンデの雪をあつめて作られた水風呂やテントサウナ設営の様子など、雪山とサウナのプロ集団による貴重な仕事現場を写真でおさめてきたのでここも要チェック!
INTERVIEW:
村上悠さん(JR東日本事業創造本部/アウトドアサウナ事業ファウンダー
×
橋本健太郎さん(川とサウナ/サウナフルネス/スキーマ取締役)
サウナに入るだけでない、
前後の特別な体験を提供したかった
━━まずはじめに<GALA meets SAUNA>の構想、立ち上げのきっかけはいつ頃からですか?
村上 悠さん(以下:村上) これだ! と思った出来事は、忘れもしない2018年の夏でした。宮城県丸森町のキャンプ場につくられた『MARUMORI SAUNA』に行ったんです。そこには木材で作られたサウナ施設のほかにも川があって、キャンプ場もあって。サウナに入って冷たい川にダイブして、外気浴をしようと石の上に寝転がったのですが、そのときの感覚が本当に最高だったんです。そこで初めて、アウトドアサウナをやりたい! と思いましたね。
橋本健太郎さん(以下:橋本) 僕はそんな村上さんに誘われてサウナにどハマりしたんです。2019年の2月ですね、下北沢の高架下に作られたサウナ<CORONA WINTER SAUNA SHIMOKITAZAWA>に誘ってもらって、それをきっかけにアウトドアサウナに急激にハマりまして、気づいた頃には自分でテントサウナを買っていました(笑)。
━━すごいどハマりしてますね(笑)。そのあとすぐに「川とサウナ」を立ち上げたのですか?
橋本 正確にいうと、下北沢のサウナの後に、サウナイベントにも行くようになって。そのなかで<Pop’ Up Sauna Festival/サウナ温め選手権>というイベントがありまして。この選手権は、サウナのストーブに誰が一番早く規定の温度までサウナを暖められるかを競う競技で、その日本初開催がなんと埼玉で行われたんです。ド平日だったのですが、どうしても行きたくて、そのときにテントサウナが売っていて勢いで購入したわけです。それで、「川とサウナ」を立上げました。
村上 2019年の4〜5月頃ですよね、橋本さんが「川とサウナ」を立ち上げるということで、僕もパートナーとして参加して。そこからこのチームでサウナ関連のことをいろいろとやるようになったんです。
━━すごい勢いですね(笑)。村上さんは趣味ではなく仕事としてサウナのプロジェクトを会社に提案したわけですよね? JR東日本でのサウナ事業、なかなかハードルが高そうですが……!
村上 「川とサウナ」立上げと同時期の2019年の5月に、企画書にまとめて会社に提案しました。アウトドアサウナ事業をやらせて欲しいと。でもその時はまだサウナブームがここまで大きくなる前だったせいか、なか なか賛同を得るのが難しかったんです。提案したときの社内でのリアクションでいうと「なんだそれは!?」って感じです(笑)。もう一歩で実現というところまで行ったのですが、最終的なGOは出ませんでした。
橋本 割と反対されていたんだよね。
村上 一部の方だけですよ(笑)。でも社内で僕が“サウナ、サウナ”とずっと言い続けていたら少しずつ、社内でサウナキャラが浸透していきました。その後、1年後にもう一度、アウトドアサウナ事業について再アタックをしたんです。そのときに、昨年の提案となにが違うのか? と問われたときのことも考えて、僕のなかでいろいろ仕込んで臨みました。提案の2ヶ月前に、ガーラ湯沢のゲレンデに「川とサウナ」で持っているテントサウナをプライベートで持っていって。実際に雪の上に建てて、これがアウトドアサウナです! というものをガーラ湯沢の人たちに直接プレゼンテーションしたんですよ。
橋本 そうそう。2020年は雪が少ない年でもあったのでスキーコースとして使われてないゲレンデがあったんです。そこでならテントサウナを建てられるってことでね。
村上 このときのトライアルをガーラ湯沢の人たちが見てくれて「これすげぇな」って良い反応もいただきました。雪山に水着の人たちがいる! っていう、ビジュアルの印象としてもかなり驚きだったと思います。
━━いや、それがすごいですよね。だってスキー場って基本はスキーやスノーボードをやる人だけが行く場所というイメージですし。
村上 使われていないゲレンデを活用できればガーラ湯沢としてもいいですよね。スキー、スノーボードをやらなくても雪山体験としてサウナに来るっていう新規顧客開拓としても面白いんじゃないかと。そのトライアルの実績を提げて会社にプレゼンテーションして、遂にGOが出ました。
橋本 「川とサウナ」チームとしてもサウナイベントをたくさんやってきて知見も溜まってきていたので、このチャレンジは良いタイミングでした。やっぱり場所ってすごく大事なので、ゲレンデを借りれるってことはそうそうないですし、JR東日本のグループであるガーラ湯沢にプレゼンして賛同してもらえたのは大きいです。
村上 実際にガーラ湯沢でサウナをやることが決まってからは、ガーラ湯沢のスタッフさんのなかでサウナに興味を持ってくれている人たちが手をあげてくれていたので、結果的にサウナへの熱量が高い人たちが運営チームとして集まってくれました。
━━<GALA meets SAUNA>のコンセプト、想いを改めて聞かせてください。
村上 コンセプトは、“いかに地域に貢献できるか”を大事にしています。サウナをハブにして、例えばスキー場やキャンプ場、もしくは山小屋。まだまだアウトドアの施設は稼働を上げられるはずです。もちろん施設だけでなく地域の食材だったり林業なども盛り上げていきたいです。地元の木を使って何か新しい取り組みもしたいです。例えば地元の木からヴィヒタを作るとか。<GALA meets SAUNA>では実際に、新潟県産の「クロモジ」や「ヒバ」のアロマオイルを使ってます。JR的な視点としてもそうですが、地域にちゃんと貢献したいという想いがコンセプトの根幹にありますね。今回はスキー場ですが、今までガーラ湯沢に行ったことのない人に行ってみたいと思わせることや、ただのサウナってことだけでなく自然のなかでの特別な体験がついてくる。そういう付加価値を提供したいと思っています。
橋本 今、テントサウナはすごく人気が出て、一年前と比べるとテントサウナを持っている人も全国各地にたくさんいる状態です。雪山でテントサウナをやっている人も実は結構います。その状況を踏まえて、サウナ体験だけでなく前後の体験も大事だなと。スキー場でのサウナ、ここをどう体験に落としこめるかを考えました。
村上 まさにそう。大切なのは圧倒的なロケーションでの体験価値だと思っています。雪山って本来すごく楽 しい場所だけどスキー、スノーボードをする人のコンテンツしかない訳ですよね。そこをもったいないなと 感じていたので、新たな体験価値を提供したかったんです。
橋本 スキー場の下ではなく上にサウナ施設をつくること自体も特別なんですが、スキーヤーやスノーボーダーとサウナのお客さんが一緒にゴンドラに乗ることや、ゴンドラに乗っている間に景色を眺めたり、そこからさ らにスノーモービルに乗って移動して……いざサウナに入る! っていう。この体験は他にないと思います。あとは今回でいうと水風呂もすごい。氷が張っている氷点下の水風呂! そこに向かう雪の階段もあって、これはヤバイです(笑)
ルールが曖昧だからこそルールをつくる、“愛のあるサウナ”を届けていきたい
━━サウナ前後の特別な体験、素晴らしいです。今回、「川とサウナ」が運営サポートとして参加していますが、普段はどういった活動をされていますか?
橋本 名前のとおり「川とサウナ」はテントサウナを使って川でサウナをするチームです。自分たちの地元の川はもちろんですが、川や自然の資源って全国各地あるので、テントサウナを持っていく、または持っている人がいればどこでもできる活動というのがポイントですね。最近だと「川とサウナと〇〇」という企画もやっています。例えば、「川とサウナとBBQ」だったり「花火」だったり。この「〇〇」のガジェット部分が結構なんでもハマるんです。
━━確かに、今回も「川とサウナとゲレンデ」ですね。日本全国でできそうです。
橋本 僕の地元は秩父なんですが、僕らの活動拠点も秩父の横瀬町にあります。横瀬町もそうですが、やっぱりキレイなロケーションと美味しい食べものって地域にそれぞれ絶対にある。そこにサウナがハマるとおのずと食べ物や土地の資源にフォーカスが当たると思っています。それに僕がテントサウナの人であることが伝わると、みんな「うちにはこんなうまいものがあるよ」とか綺麗なロケーションの話など、その土地の情報をたくさん教えてくれるんです。地域活性の可能性を感じましたし、サウナを通してすごく面白いことができると思いましたね。
━━アウトドアサウナ事業を実現させるために大切なポイントはなんでしょうか。<GALA meets SAUNA>の 経験も踏まえて教えてください。
村上 一番のポイントは先ほどもお話したように“体験価値”です。圧倒的なロケーション、移動のおもしろさ、自然のなかにあるサウナと水風呂、外気浴も寝転ぶことができるチェアを用意したり、焚き火を眺められるようにしたり付加価値となる部分についてはこだわりました。
橋本 そして今回きちんとお伝えしたいなと思うのが、サウナブームだからやっているんじゃないってことですね。今まで「川とサウナ」チームでやってきた知見をしっかり活かしたいと思いました。アウトドアサウナに対してももちろん「危なくないの?」という声もある。例えば火事を起こすとか、怪我をするとか、そういった問題が起きたら僕らだけでなく、アウトドアサウナ業界全体にいろいろ影響するわけですし。とにかくやっちゃおう!っていうのは、僕らがやりたいことと全然違います。
━━なるほど、ガイドラインをしっかり作りたいと?
村上 そうです。法規制がまだまだ曖昧であることも意識して、建築、消防、保健所などに通ってお話をしたり。どうやったら実現できるかっていうのを一緒になって考えました。特に保健所とは公衆浴場法の解釈について条文を照らし合わせながら議論してつくっていきましたね。
橋本 今回、僕らのチームで運営マニュアルを作らせてもらいました。やっぱりひとつきちんとベースがあることが大切ですよね。例えば一酸化炭素チェッカーを導入しましょうとか、安全のためのチェックリストを作ることもそうですし、誰かがそういったマニュアルをつくることで、次の人も活用しやすいし業界全体に広がればそれは盛り上がりにもなりますし。
━━ルールがないからこそ、しっかりルールをつくること。これって本当に大事な部分ですね。
村上 スキー場のように、何もないところに何かをつくることだけでも難しい。サウナというルールが曖昧なものを持っていくなら尚のこと。だからそこ、そこをしっかりしたいと思い、こだわりました。
橋本 今回のフォトレポートにも登場しますが<GALA meets SAUNA>は、雪の造設部隊がつくっているんです。普段、スノーボードのジャンプ台やビル級のキッカーをつくるくらいのプロチームです。彼らが日々メンテナンスをしてくれることも運営上大切ですし、ガーラ湯沢の技術力でのサポートはほんとにすごいです。
━━最後に、村上さん、橋本さんが考えるアウトドアサウナの未来。今後の展望などあれば教えてください。
橋本 もちろんガーラ湯沢でも、今回は2週間限定だったので、夏なども含めてやっていきたいですね。こういった機会をもって地域をどんどん元気にしていければいいなと。魅力のある場所にサウナを足していきたいです。駅とかも面白いですし、海外とかでもやりたいですね。
村上 そうですね。今後も、お客様に体験価値として提供できるのであれば、どこへでもいきたいです。今回もそうでしたが、ただただ作れば良いってものじゃなく、やっぱりこだわりたいのは“愛のあるサウナ”をきちんとお届けしていきたいですね。
橋本 ほんとに! やっぱりサウナブームに乗っかってあまりサウナ好きでないのに企画してしまう方々も割といるので。サウナに対して変な噂を提供したくないですし、サウナ愛がある人と一緒にプロジェクトを動かすことも大切ですね。
村上 今回最高に嬉しかったのが、「サウナ愛を感じた」っていうコメントをいただいたことですね。アウトドアサウナの気持ち良さを伝えていきたいという想いはありますが、やっぱり、サウナを通して自然を感じること、地域を知ってもらうことはこれからもコンセプトになると思います。サウナを媒介して自然環境と自己、あるいは地域と自己、人と自分の関係を少し見つめなおすというか。あるいは頭で考えていることと身体で感じていることとの間でサウナが機能するっていう、そういう体験をしてもらえるような取り組みにしていきたいですね。
PHOTO REPORT:
“ととのう”を超える氷点下水風呂
<GALA meets SAUNA>の完成形はこちら。快晴の日はゲレンデを眺めながら圧倒的なシチュエーション!
ゼロから水風呂のプールを雪で造設。重機を使いゲレンデから集めた雪を運び、水風呂の土台をつくっていく。巨大なプールを設置し、スコップで整え……重労働です!
完成形の水風呂はこちら。シングルプレイヤーも驚きの氷点下に達するガーラ湯沢オリジナルの水風呂です!
PHOTO REPORT:
体の芯まであたたまる本格派テントサウナ
雪山でも100度まであがる本格派テントサウナ、近年はロシア製のものがスペックが高いらしい。「川とサウナ」チームのレクチャーを経て、ガーラ湯沢のサウナチームによって組み立てられています!
4名でゆったり使えるテントサウナの完成形! 薪をいれたら30分程度で温まり、密閉性も高いのでしっかり身体を温めてくれます。
PHOTO REPORT:
ゲレンデを守る部隊、スノーキャット戦隊現る!
そして<GALA meets SAUNA>潜入レポートの最後に、ガーラ湯沢のゲレンデを守る部隊、毎日朝と晩にスキー場全コースの整備をしているスノーキャット(雪上車)が7台大集結してくれました! まるで戦隊モノの登場シーンをみているかのような迫力です!
GALA meets SAUNA 設営チームのみなさん
GALA meets SAUNA 仕掛け人&運営サポート
村上悠さん (JR東日本事業創造本部/アウトドアサウナ事業ファウンダー)
×
橋本健太郎さん(川とサウナ/サウナフルネス/スキーマ取締役)
アウトドアサウナ「GALA meets SAUNA」〜新しいサウナフィールド誕生〜
Photo by 大石 隼土
Interviewer/Text&Edit by Sanae Akechi/Asami Shishido
取材協力:ガーラ湯沢/JR東日本事業創造本部/アウトドアサウナ事業/川とサウナ(スキーマ)
一部写真提供:ガーラ湯沢・GALA meets SAUNA 公式/サウナランド