長野県松本に君臨するMASS-HOLEは、ヒップホップを体現する男だ。ラッパーとして、ソロから地元グループのKINGPINZとFOUR HORSEMEN、さらにISSUGI、仙人掌、Mr.PUG、YUKSTA-ILLらが名を連ねるコレクティブ、1982sで精力的に活動する彼は、MONJUやRC SLUM、KANDYTOWNの名だたるMCにビートを提供するプロデューサーでもあり、DJとしての腕前も一級品。ライブやDJとして各地を飛び回り、ローカルシーンと積極的に交流を図ってきた。

ソロ作としては、前作『PAReDE』から6年ぶりとなる彼のセカンド・アルバム『ze belle』は、コロナ禍で現場の躍動感が損なわれている今だからこそ、ローカリズムやこれまで培ってきたグラスルーツのネットワークというヒップホップの基本的に立ち返った作品だ。そのラップとビートに彼が託した思いを紐解くべく、MASS-HOLEと〈WDsounds〉のオーナーであるLIL’ MERCYに話を伺った。

INTERVIEW:MASS-HOLE

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前作からの変化と松本に対する思い

──前作『PAReDE』は、所属していたMEDULLAが休止中のなか、ビートアルバムをリリースしていたMASS-HOLEさんが初めて発表したソロのラップアルバムでした。6年前の作品を振り返っていかがですか?

MASS-HOLE 気づいたら6年、あっという間でした。『PAReDE』は当時の持っていた力が発揮出来たアルバム。好きな作品ではあるんですけど、いま聴くと粗が目立つところもあるし、ビートメイカーとのリンクがもっと強ければ、より良い作品になったんじゃないという改善点も目に付きます。

──リリックの面においては、内面の攻撃性を剥き出しにした前作に対して、新作アルバム『ze belle』ではMASS-HOLEさんを取り巻く生活や街のこと、地方都市で音楽をやりながら生活するのがどういうことなのかを浮き彫りにしています。

MASS-HOLE そうですね。自分の身の回りのことをトピックとして意識的に扱いました。今回の作品はコロナ禍ということもあって、いざアルバムを作ろうと思ったら、それが自分の生活なり、内面を見つめ直すタイミングになって、そこで考えたことが反映された内容になったというか。今までは週末のライブやDJがありましたし、「ちょっと遊びに行ってくるね。1、2時間で帰るよ」って出かけて、気づいたら6時間くらい経ってる、そんな生活だったので(笑)。色んな人から愛想を尽かされていた部分もあったんですけど、コロナの影響でそういう生活が出来なくなり、家族、家庭での生活をもう一度やり直す良い機会なんじゃないかなって。

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──お子さんは今おいくつなんでしたっけ?

MASS-HOLE 3歳になりました。生活を見直すなかで、子育ての大変さに改めて気づかされたというか、世のお母さんたちのスゴさを実感しましたね。ほぼ毎週末、家を空けていたので、なかなか遊ぶことも、世話することも出来なかったんですけど、コロナ禍でライブやDJはなかなか出来なくなる一方で、逆に家族と近くなれたのは良かったなと。

──東京から長野県松本に戻ってから10年目に発表した前作『PAReDE』以降、KINGPINZ、FOUR HORSEMENとしても活動するなど、ローカリズムに根ざしたスタンスが際立っていますが、地元に対する思いはどう変わりましたか?

MASS-HOLE 前作は地元にいながら東京に向けて音楽をやっているような、地元と向き合いきれない感覚もどこかにありつつ、MASS-HOLEが松本にいるということをアピールしたアルバムだったんです。それによって、松本といったら、WINTOWN=MASS-HOLEという認知はある程度浸透してきて。ここ最近は、KINGPINZのKILLIN’G、今回参加してもらったMIYA DA STRAIGHT、FOUR HOURSEMENのMAC ASS TIGERとか、各々で頑張って作品を作っている最中だったりしますし、Diaspora (Skateboards)にHAKASEっていうスケーターがいるんですけど、そいつが東京から松本に戻ってきてスケボーの店(CANOLA SKATESHOP)を始めたんです。そこからスケーターの数が一気に増えたんですよね。で、そういう子たちは必然的にヒップホップを聴くし、パーティーにも遊びに来る。飯屋をやってるやつにヒップホップ好きもいたりして、「今度、DJやってください」とか「CD置かせてください」って言われる機会も増えたり、そういう違うカルチャーとのリンクが増えたことが面白いですね。

──地方都市のカルチャーは人や場所の影響が大きいですよね。

MASS-HOLE そう。結束するしかないんだなって思ったんですよね。一人じゃできないこともみんながいれば出来ると思うし、つまらないって言ってるんだったら、みんなで集まって面白くするのがヒップホップの、カルチャーの力かなって。今の松本では、そういう動きがいい具合に作用してきているところなんですよ。

WDsounds MERCY ここ10年くらい松本に通うようになって、例えば、飲みの場で遊んでいる人たちのコミュニケーションが生まれてきていたり、今まで希薄だった松本のフッド感が熟成されてきていると思います。

MASS-HOLE 大きい街は、僕ら世代、その上の世代や下の世代の間でそういうフッド感は形成されていると思うんですけど、松本だと先輩はいても、フェードアウトしちゃった人が多かったりして、カルチャーが断絶されているというか、根付いていないというのが正直なところだったんです。でも、そこからようやくスタート地点に立って、歩き始めているなって。そういう手応えはあります。

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この音楽は人と出会うということ

──本来のカルチャーは、演者もオーディエンスもアーティストもリスナーもなく、みんなで作る場ですもんね。

MASS-HOLE あと、個人的には、どれくらいヒップホップを好きでいられるのか。街のなかで俺が一番ヒップホップ好きというのは自負出来るし、そこは負けたくない部分であって、それを証明するために作品を作っているところはあります。

──ヒップホップが好きでいつづけられる気持ちの源はどこにあるんだと思います?

MASS-HOLE 俺にとっては人に会うことですね。作品制作はビートメイクがそうですけど、一人の作業が多いじゃないですか。その状態が続くと、モチベーションを維持するのが難しかったりするんですけど、友人だったり、家族だったり、東京だったら、MERCYさんとか〈MIDNIGHT MEAL RECORDS〉のみんなだったり、人と会うと元気が出る。しかも、それがパーティーだったり、飲み屋だったりするとめっちゃ元気出て、別れた後にリリックを書きたくなったり、作りたい音が頭の中で鳴ったり、そのときかかってたヤバい曲を調べてみたり、人と会うことで得られるものはめっちゃ多いんですよ。それはSNS上のやり取りでは絶対に分からないニュアンスの話というか、相手の感情を読み取って、逆にこちらも感情を露わにして相手と対面して話すことで生まれるものが、音楽に大きく左右しているんだと思います。

──今回、Shoko&The Akillaをフィーチャーした“Home”で歌ってますもんね。<会いたい奴にはすぐ会いにいこう><Badなことがあったら酒を飲もう>って。そういう人との繋がりと外に向かって広がる意識に加えて、リリックのトピックも具体的になったというか、大都市のような劇的な変化が頻繁には起こらない環境で音楽とじっくり付き合っている日々が様々な角度から描かれていますよね。

MASS-HOLE そうですね。そんなに代わり映えもしないし、派手な生活を送っているわけじゃないし。ただ、働いてるにせよ、音楽をやっているにせよ、俺はB-BOYであり、ヒップホップをやってることに自信があるし、リリックのトピックなんて、どこにでも転がっているじゃないですか。そういうものを色づけたり、形付けていくのもヒップホップの一つの作り方であり、自分が得意とすることなので。例えば、(名古屋のラッパー)COVANとやってる“no party”なんかは、アイデアとしてはカニエ・ウェストの“No More Parties In LA”から来ていて。その曲は、胡散臭い音楽関係者やビッチばっかりだから、パーティーはもうやりたくないっていうリリックなんですけど、今はコロナの影響でパーティーが出来ないということもあるし、年を重ねていくと現場に行きづらくなったり、そういう色んな意味合いを含めながら、2人で作ったんですよ。そういう具体的なテーマを曲ごとに設定したのは前作と大きく違うところです。

──“G.O.A.T.”と“boast and attitude”のリリックでは、ヒップホップのセルフ・ボースティングとフッドに対するリスペクト、そこでのマナーが共存していますよね。

MASS-HOLE ヒップホップにおけるセルフ・ボースティング、自分が一番だというスタンスは、逆説的に“自分だけが良ければいい”という発想にもなりがちだし、かつての自分にもそういう独りよがりなところは正直あったと思います。でも、それだけでは生活や人生は成り立たないんだなって。みんながいるから、音楽が出来るところもあるわけで、“G.O.A.T.”と“boast and attitude”は背負うものが増えた今だからこそ歌えた曲なんだと思いますね。

MASS-HOLE “boast and attitude” pro. DJ GQ(Official Video)

新しい出会い、新しいビート

──MASS-HOLEさんって、今年で38歳なんでしたっけ?

MASS-HOLE そうですね。

──世代、価値観の違う若い才能が出てきて、下手すると老害みたいに言われる年齢だったりするわけじゃないですか。ラップを続けていく難しさは感じることはありますか?

MASS-HOLE 所詮、年齢なんて数でしかないと思っているし、若い子に対して上から物申すことなく、フラットに付き合っているつもりなので、自分はあまり感じないです。

WDsounds MERCY 自分はMASS-HOLEから若い子を紹介してもらうことが多かったりするし、「no party」とか言ってるけど、本質的にはクラブをハシゴするくら遊ぶのが好きだったりするから、感覚的には若いというか。作品を聴いていても根幹をなす音楽性は大きく変化しているわけではないんですけど、そのなかでも新しいものを取捨選択していて、細かい部分はアップデートされているんですよね。

MASS-HOLE 俺、地方でライブをやって、みんなで遊んだ後、明け方になると大箱のクラブに行きたくなっちゃうんですよ(笑)。それで若い子に連れていってもらうと、客がはけた大箱のフロアに客が5人とか、CYBERJAPANが来てるらしいから行ってみよう、とか(笑)。まぁ、そういう経験が作品に反映されることはないんですけど、ここ数年、現場やネットを介して、若いビートメイカーからデモをもらう機会が多かったんですね。コロナ下で時間がある時にそれを聴き返したんですけど、そのなかでキラッっと光るものを上手く作品でフックアップできれば、ビートメイカーも良い方向にいくだろうし、新しいトラックを使うことで、自分のレベルも上がるんじゃないかな。

──本作にビートを提供しているCeder Law$、METもそうやって知り合った2人なんですね。

MASS-HOLE そうですね。“G.O.A.T.”のビートを手掛けたCeder Law$はデモをやり取りしつつ、話していくなかで、銀座でやったストリートイベント<GL>で俺のライブやDJを観てくれていたことが発覚したり、彼はISSUGIくんのことが好きなんですけど、本人に会った時、「いつか一緒に仕事をしたいので、サインください」って言って、もらったサインを宝物にしている話を聞いて、微笑ましく思ったり。“tour life”のビートを手掛けた(5人組のクルー)Sound’s DeliのプロデュースをしているMETは地元が松本で、出会ったのは東京だったんですけど、もらったデモには自分にない色があったんです。それが大事な部分だったというか、“ze belle”、“home”を手掛けたTATWOINE、そこにフィーチャーしたShoko&The Akillaもそうなんですけど、自分にはないビート、音楽を欲していたんですよね。そこにはブーンバップ、トラップの区別もないし、基準は格好良い悪いだけでいいかなって。

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──キャリアのあるビートメイカーの人選も“money”を手掛けたKUT、“no party”を手掛けたMONBEE(〈BCDMG〉)の起用が意外に感じました。

MASS-HOLE その2曲はよく言われます。KUTさんとの“money”にフィーチャーしているSKYEEは(NYのレゲエ・レーベル)〈Wackies〉のオーナー、ブルワッキーの娘さんなんですけど、トラックをもらった段階ですでにボーカルが入っていて、曲が出来た後に誰なのかを知ったんですよ(笑)。それから今まで交流がなかったMONBEEは、実は長野出身で、〈BCDMG〉に所属してBADHOPをはじめ、メジャーな仕事を色々やっているんですけど、彼から送ってもらったストックのなかから俺が選んだのは異様に暗いビートだったんですよね

──そうした新たなコラボレーションの一方で、ラッパーにISSUGIさん、ビートメイカーにDJ GQ、DJ SCRATCH NICE、ニューヨークのSTU BANGASといった常連アーティストに加えて、スクラッチでDJ SEROW、DJ SHOE、DJ YMGの3人を迎えているところに、MASS-HOLEさんの揺るぎないヒップホップ観が表れています。

MASS-HOLE ISSUGIくんとの“82dogs”のビートを提供してくれたボザック・モリスはMERCYくんが提案してくれたんですけど、俺がミックスCDに入れるくらい気に入ってるコンウェイ・ザ・マシーンの曲もボザックが手掛けていたりして。俺の好きな遅いビートなんですけど、ISSUGIくんにとっては挑戦だったみたいで、レコーディングが楽しかったって。それから、スクラッチは、ヒップホップのなかで俺が一番好きな武器なので、そこはこれからも大事にしたいですね。ただ、ターンテーブリズムは近年、存在感が薄いと思いきや、去年出た21サヴェージとメトロ・ブーミンの『SAVAGE MODE Ⅱ』に入ってる“Steppin on Niggas”のアウトロでスクラッチが入ってたり、最近でもコンウェイ・ザ・マシーンとビック・ゴースト・リミテッドの『If It Bleeds It Can Be Killed』に収録されている2曲でD-Stylesがこすっていて。やっぱり、格好良いなと思いました。

exclusive MV “NEIGHBORHOOD”:MASS-HOLE/82dogs feat. ISSUGI

──こうしてお話をうかがってきて、このアルバムは、地元松本を軸に、東京や各地のシーンを支えるキーパーソン、NYのプロデューサーたち、旧友からニューカマーまで、全てが有機的に繋がっている作品なんですね。

MASS-HOLE 人と会う話ともリンクするんですけど、各地の現場で繋がって友達になったビートメイカー、ラッパー、DJたちは自分が今まで培ってきた財産でもあるので、そこは作品に活かしたかったし、みんなにも紹介したかったんですよ。例えば、“gro”win” up in the town”にフィーチャーしたEftraは、年1回のペースでDJ、ライブをやっている富山で出会ったラッパーで。やつは富山という規模の小さなシーンで自分たちの音楽を貫いて続けていて、“rumber jack”にフィーチャーしているうちの地元の若手、MIYA DA STRAIGHTと同い年なんですけど、下の世代は下の世代同士で一緒に曲を作ったりしてて、そういう話を聞くと嬉しくて。そういう人と人の繋がりを全てひっくるめたのが“tour life”という曲なんです。各地で新たな出会いや別れがあったり、楽しかったり、嬉しかったりする。そういったことも全ては一つのツアーなんだよっていう。そこからラスト曲“home”の流れは自分の中で一つの物語に落とし込めたなと思っていて、色んなツアーを経ながら、最終的に帰るのは地元であり、家なんですよ。

──まだまだ、先の見えない状況ではありますが、地元、家に帰ったその先というのは?

MASS-HOLE これで一つ物語を完結させたので、次はMIYA DA STRAIGHTのEPを作ったり、今は自分のビートでEftraとかMAC ASS TIGERといった若手を交えたコンピレーションを作っている最中ですね。もしアメリカだったら、俺くらいの年齢になると会社を作って、若いやつらをフックアップする裏方に回ることが多いと思います。日本ではキャリアを重ねて、ラッパーと言いつつ作品を出さないまま先輩面する、そういうスタンスは良くないなとずっと思っているので、今後も作品を作り続けるつもりです。

この音楽は人と出会うということ──MASS-HOLE、インタビュー interview210400-mass-hole

Text by 小野田雄
Photo by 堀哲平
取材協力:QUINTET
SP THX:WDsounds

EVENT INFORMATION

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「DEVIL’S PIE vol. 17」 

2021.06.05(土)
KICHIJOJI WARP
OPEN 17:00
ADV ¥2,500(+1d)/DOOR ¥3,000(+1d)

release live
MASS-HOLE

featuring guest
SHOKO&THE AKILLA

guest live
ISSUGI
MONDO BANDIDO
(MIYA da STRAIGHT,BOMB WALKER,Eftra)
J.COLUMBUS

live
ILL-TEE

dj
MET as MTHA2
TATWOINE
SIN-NO-SKE
SEROW

※入場制限あり

開催規模の縮小、スムーズなご入場のため、前売りでの販売とさせて頂きます。また、会場内での安全面を第一に考え、前売り券は上限数に達し次第販売を終了とさせて頂きます。当日券も販売致しますが、当日の混雑状況によっては販売を中止する場合もございますので、前売り券のご購入をお勧め致します。

詳細はこちらから

RELEASE INFORMATION

この音楽は人と出会うということ──MASS-HOLE、インタビュー interview210400-mass-hole

『ze belle』

2021.01.27(水)
MASS-HOLE
LABEL:WDsounds
品番:WDSD0046
¥2,800+税

Tracklist
01. ze belle(pro. TATWOINE)
02. rumber jack feat. MIYA DA STRAIGHT(pro. STU BANGAS/scratch. DJ SEROW)
03. gro”win” up in the town feat. Eftra(pro. MASS-HOLE)
04. vandana(pro. DJ SCRATCH NICE)
05. money(pro. KUT)
06. no party feat. COVAN(pro. MONBEE)
07. 82dogs feat. ISSUGI(pro. BOZACK MORRIS/scratch. DJ SHOE)
08. ice summer(pro. MASS-HOLE)
09. G.O.A.T.(pro. Cedar Law$/scratch. DJ YMG)
10. boast and attitude(pro. DJ GQ)
11. tour life(pro. MET as MTHA2/scratch. DJ SEROW)
12. home feat. SHOKO&THE AKILLA(pro. TATWOINE)

MIX&MASTER by ZKA(GRUNTERZ/BULL CAMP)
Artwork by DAICHI
Photo by TEPPEI HORI
Support by J.COLUMBUS

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