Amazon Musicにて、プロデューサーにフォーカスした新シリーズ「PRODUCERS」が5月12日(水)より始動。第1弾として、トラックメーカー/DJのSeihoをプロデューサーに起用し、Hip HopやR&Bのアーティストを迎えたミニアルバム『CAMP』が、この度Amazon Originalで独占配信を迎えた。

客演としてKID FRESINO鎮座DOPENESSACOceroLUVRAW/BTB/ASOBOiSMといった多種多様な5組のアーティストが参加。また、マスタリングに砂原良徳、アートワークはとんだ林蘭が手掛け、盤石かつ遊び心ある布陣が揃う。

本シリーズのプロジェクト遂行のお題として“プロデューサー“、“HIP HOP”というキーワードが渡されたSeiho。このキーワードをどう解釈し、作品に落とし込んだのか。本インタビューでは、制作背景のエピソードだけでなく、Seihoが考えるアーティストの“裏方と表方”論や創作における思考の葛藤などを語ってくれた。

Seihoがプロデューサーとして“バグ“を仕込んだコンセプトアルバム『CAMP』を語る interview210511_seiho-main2

INTERVIEW:
Seiho

表方と裏方が共存するプロデューサーアルバム

━━今回はAmazon Musicの企画ということですが、どういうコンセプトでEPを作ったんでしょうか?

最初にAmazonさんからいただいたお題が、「PRODUCERS」ということでプロデューサーアルバムを作って欲しいということが1つ。さらにもう1つが、ヒップホップ的な作品をつくるということだったんです。でも僕はヒップホップのプロデューサーではないので、じゃあ何をしようかなって思った時に、一般的なヒップホップとは違ったある種の「バグ」を作れないかと思ったんです。例えばACOさんとヒップホップの関わり方でいうと、アルバム『irony』辺りをイメージするんですけど、あれってACOさんのアルバムの中でもバグっぽい感じがして。

━━バグを生むために、5組の人選もSeihoさんが決めたんですか?

そうです。ceroが使う日本語の言い回しも、ラップ的というよりかはもっとリリック的な感触が大きいし、KID FRESINOのラップもいわゆる日本語ラップっぽくなくて、語弊なく言うとしたら洋楽志向のようなラップに接続している気がする。そういうそれぞれのバグっぽい感じを狙って作りましたね。

━━面白いですね。確かにわりとポップにも聴ける作品だし、日本のヒップホップの文脈とも違いますね。

そういうバグって、アーティストが独自に作品を作っていける恵まれた環境があると、あんまり生まれない気がします。むしろ日本のJ-POPや芸能界がメジャーな社会だからこそ、異物としてそういうバグがたまに誕生する。それがものすごい好きで。

━━LUVRAW&BTBは付き合いも長いですよね。

出会いは大阪時代で、僕らが一番最初にINNITってパーティーをスタートした本町NUOOHっていう箱があって、okadadaがバイトしてたり、色々とつながっている場所なんですけど。そこでSugar’s CampaignとLUVRAW&BTBで一緒に出演したのがきっかけ。その後別のパーティやるときに一緒に曲を作ったりしてますね。二人が解散してからのそれぞれのソロの活動も見てるし、たまに現場で会うとまた一緒にやってほしいっていうのをずっと伝えていたんですが。このタイミングだったらいけるんじゃないかと思って、お願いしました。どうせならもう一つ新しい風を入れたくて、ASOBOちゃんに入ってもらったって感じですね。

━━結果的にEPはどんな作品になったと感じますか?

結果として、裏方と表方を両方とっているような人、5曲ともみんなそういう立ち位置になっていますね。表現が難しいですけど、王道のメインディッシュというよりは、癖のあるサイドディッシュ的な感じ。僕自身もそれを目指しているところがあるから。今回は制作スタッフについても交換可能な人たちで作りたくないって考えがありました。例えばドキュメンタリーを撮ったMESSくんも、ジャケット写真を撮ったとんだ林蘭さんもキャラが立っていて、そういう人たちを集めて作るってのが、今回のプロデューサーアルバムとしてやりたかったところです。

Seiho – “CAMP” (Documentary) | PRODUCERS | Amazon Music

往年のディスコ、シティポップに見る経年変化で芽生えるバグ

━━Seihoさんは自分でもプロデューサーや裏方っていう意識はあるんですか?

ありますね。group_inouのimaiさんと話した時に、「Seihoやtofubeats、okadadaってすごく考えて作っているし、よく喋りますよね」って言われたことがあって。今で言うとin the blue shirtの有村(崚)とかパソコン音楽クラブとかも同じですけど、よくよく考えるとそれは当たり前の話で。例えば楽器がうまくて、歌がうまかったら特に考えなくていいはずなんですよ。だってうまいから、あるいはうまいという定義がはっきりしているから。でも電子楽器という定義が曖昧な中で創作活動をしているから、自分が何をやっているのかを考えざるを得ない。だから考えて作っているというところが、癖のあるサイドディッシュに共通した部分なのかもしれない。

━━タイトルの『CAMP』はどういう意味ですか?

外の山に行くっていうCAMPの意味もあるんですけど、どっちかっていうとスーザン・ソンタグの『キャンプについてのノート』から取っています。ソンタグのキャンプって、ドラッグクイーンカルチャーに関しても書いているんですけど、ドラッグクイーンって結果として似てくるというっていう現象がある。例えばドラッギーな状態で書いた曲や絵も結果が似てくるというか。

━━確かにそういう側面はありますね。そこでいかにバグを生み出すかってことですね。

コロナ期間になってからリリースされたものにしても、巷のシティポップやヒップホップと言われるものにしても、やっぱり結果的に同じところに答えが集まってる気がするんです。そのことを考えていました。でも昔のディスコミュージックにしても、シティポップにしても、そうやってみんなが集まってきた結果、その中で差別化を図らなきゃいけないことを理由にバグが発生して、そのバグがその当時はウケなかったけど、時間が経つにつれて発見されるみたいなこと。

例えば浮世絵が海外で評価されたことに近いと思うんですが、元々商業的につくられていたものだけど、後々よく見たらこいつやばくない? って評価が上がるみたいな。その面白さですよね。

━━Vaporwaveの文脈でも、そういう掘り方でバグが発見されてきましたよね。

シティポップを最初に僕らが面白いと思ったのは大学生くらいで。このアレンジめっちゃ変だなとか、めっちゃ変なことやってた人がいたんだなって思って、ヒットしたA面じゃなくてむしろB面がやばいみたいなことで盛り上がってたんですよね。それがシティポップブームになったときにはA面だけがフィーチャーされて、またみんながA面に集まっていくみたいなことですね。

それは僕らが面白いと思っていたシティポップとは違うんだけども、よくよく考えたらメインディッシュが似てきたからこそそうしたバグが生まれてきたわけだから、メインディッシュ自体も否定できないってことに最近気づいたんですよ。だから、自分がJ-POPを好きな理由と苦手な理由が同じなんです。J-POPが苦手なのはすごく日本っぽくガラパゴス化してて、洋楽の要素を取り入れているけど日本的に昇華されているみたいなところ。でもJ-POPが好きな理由も同じなんで、じゃあどうしらいいんだって思ったりする。

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cero、LUVRAW/BTB/ASOBOiSM…多彩な音楽の交差点

━━今作は結構歌もの、メロの要素も強くありますよね。特にceroの曲とか。

高城晶平さんがどういう意味で「シャンティ」って言葉を使っているかわからないですけど、僕がイメージするシャンティとかユートピア、天国とか楽園とかって、僕が本当にこんな世界にしたいなって思う場所を作ったらたぶん地獄……出来上がったものは最悪みたいなことってあり得ると思うんですよ。

ちょっと話が飛ぶんですけど、おでん屋「そのとうり」を僕はやっていますが、店主のあきおとどんなお店にしたいかって話をした時に、客との境がなくて、客同士も境がなくてみんながそれぞれの楽しみ方している店がいいって結論になって。それに一番近そうなスナックに二人で遊びに行ってみたら、もう動物園みたいになってて。印象が良くなかった。僕らが想像してた楽園は酒池肉林の動物園だったのかって気づかされた。理性と本能が一致しないことって結構あるんだなってことですね。

━━そう言われると、シャンティって言葉にもある種の二面性を感じますね。

あれがシャンティじゃなくて、もうちょっと違う天国とか楽園的な言葉で歌われていたら、もっと快楽的に広がっていくイメージなんだけど、シャンティってどこか情緒や寂しさがある言葉なので、やっぱり高城さんはすごくセンスがあるなって思いました。

━━LUVRAW/BTB/ASOBOiSMについても聞かせてください。

この曲はあえて、昔、ウッチャンナンチャンがやっていたブラックビスケッツのようなJ-POP感を意識しました。あの曲ってジャミロクワイ(Jamiroquai)をオマージュしていたから、当時の音楽好きにとって本当にああいうのは嫌だったと思うんです。けど、時代が一周して面白く聞こえちゃうみたいな感じがある。ある意味、クラブでかかると嬉しいポップス、時代のアンセムみたいな曲を狙って作りました。

━━例えば、このEPをどんなふうに聴いて欲しいですか?

ヒップホップの曲ばっかり作っているプロデューサーを追いかけて行ったら、ヒップホップにだけ尖っていっちゃうと思うけど、僕自身も含めて今回のメンバーも、いろんな音楽への入り口を作ろうとするタイプの人間なんで。このEPをきっかけに例えばアイドルを聴いてみたり、テクノを聴いてみたり、そういう色々な音楽と出会う交差点になっていくといいですね。

━━そうやって間口は広くとるんだけど、単にわかりやすいものを作るってことではないんですよね。

わかりやすい「尖り」は、似かよった傾向になるんですよね。尖った音を一個入れるだけで耳が肥えてる人は何かにあてはめて解釈をしてしまう。それをさせないように、わかってるのにわかってないフリして喋ったりとか。わかってるないのにわかってるフリして喋ったりして、そこを錯綜させることが自分のクリエイティブの根本だったりします。

━━それは今回やってみて改めて分かったことだったりしますか?

そこはずっと意識していることです。でも今回も5曲できて、出来上がって聴いたときに、これをわかってるのかわかってないのか一番疑問に思っているのは自分だ、っていう一番やばい問題が発生するんですよね。自分でもわかんなくなる。

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Seihoが理想とするオーディエンスとの共犯関係

━━最終的にどうやって制作を着地させるんですか?

それはもう細野晴臣さんも言ってましたが、「名曲は締め切りが生む」みたいな話じゃないですか。一筆書きみたいに書いた曲がいいっていうのも分かる年齢になっているけど、昔みたいに自分が作ったものを100%いいって思える自信と、思えない自信のなさが共存しちゃうんですよね。若い時はもっと初期衝動に正直になれてたし、それは単純に世界が狭く見えていたって話でもあります。年齢を重ねていったり、キャリアを積んでいくとそうじゃなくなっていくけど、あの時の初期衝動忘れてはいけないって自覚もあるから。初期衝動をどうやって発動させるかっていう時に、締め切り待ちになってくる感じですね。

━━マスタリングは砂原良徳さんということで、お願いするのは初めて?

初めてですね。今回ACOさんに声をかけたのも、いわゆる大ヒットした“Greatful Days”のACOさんというよりも、その後のアルバム『irony』とか、砂原さんやAOKI takamasaさんといったエレクトロニカのアーティストたちと制作していた頃のACOさんの感じをぼんやりイメージしていました。

当時エレクトロニカの人が、ACOさんみたいなボーカリストをフィーチャーするアルバムが結構あったじゃないですか。ああいうのに僕は結構感化されていた部分があるし、それこそレイ・ハラカミさんもそうだし。逆に言うとその当時、澤井妙治さんも渋谷慶一郎さんも、AOKI takamasaさんも、ポップスにアプローチして行ったって本人は思ってたはずなんですけど、今聴き返したらポップスではないというか、むしろ変だし、バグっぽい。今回の5曲に関しても僕からしたら、どこまでポップスに落とし込むかってことは考えているけど、振り返って聴いたら全然訳わからないことをやってたんだってなりそうな気はする。

━━今後の活動についても、考えていることを教えてください。

『CAMP』に関して言うと、この「PRODUCERS」という企画とは別に、『CAMP』で捕まえようとしているコンセプトはもうちょっと考えてみたいと思っていて。この2〜3年クラブに対して思ってたことだったりダンスミュージックに関して思っていたことだったり、思考が散らかってて。それをもう一回統合・融合していくってのもいいかなって思っています。

睡眠の『DESTINATION』にしても『靉靆』にしても、僕の頭の中ではどこかで繋がっているところがあるんですけど、傍から見たらバラバラに見えているじゃないですか。もしかしたらこことここが繋がっているのかって、今ゆっくりわかり始めてる。

━━例えば『靉靆』のインタビューでは、演者に対する観客の関係性をもっと能動的にしたり、関係の対称性を壊したいといったことを話されていましたね。

まさにそれで。ライブとかパフォーマンスを見る客と演者の関係じゃなくて、ワークショップ的に空間を楽しんでいるDJのあり方に近づけたいし、観客が被害者で演者が加害者という関係性を壊したいということ。共犯関係にしたい。それは、僕がおでん屋「そのとうり」や、和菓子屋「かんたんなゆめ」をやっていることとも実はどこかで繋がっている。やっと見えてきたぞって感じていて、それをどうやって落とし込むのかを考えたいですね。

Text by 名小路浩志郎
Photo by Maho Korogi

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Seiho – “CAMP” (Official Video) | PRODUCERS | Amazon Music

PROFILE

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Seiho

大阪出身の電子音楽家、プロデューサー/DJであり、おでん屋「そのとうり」、和菓子屋「かんたんなゆめ」のプロデュースも務める。
2010年代の国内外エレクトロニック・ミュージック・シーンにおけるキーパーソン。
これまでにフライング・ロータス、ディスクロージャー、マシュー・ハーバート、カシミア・キャットらとの共演や、平井堅、Chara+YUKI、三浦大知、矢野顕子、PUNPEEらへのプロデュース・ワーク、Avec Avecとのポップ・デュオ「Sugar’s Campaign」としての活動など、表と裏の舞台を行き来しながら常にカッティング・エッジな音楽を提供し続け、その非凡な音楽性はもとより、アートや哲学領域にも精通する類稀なセンスには多方面から常に注目が集まる。

2021年5月、Amazon Musicの新企画「PRODUCERS」第1弾プロデューサーに選出され、ACO、ASOBOiSM、BTB特効、cero、KID FRESINO、LUVRAW、鎮座DOPENESSをフィーチャリングに迎えたミニアルバム『CAMP』をリリース。

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INFORMATION

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CAMP

Seiho
2021年5月12日(水)
Amazon Musicで独占配信

1. iLL feat. 鎮座DOPENESS
2. SHAKE feat. ASOBOiSM, BTB特効, LUVRAW
3. STAY feat. ACO
4. SHANTI feat. cero
5. IF YOU feat. KID FRESINO

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