6月20日に下北沢Shangri-Laにて行われた、<FILTER 10th Anniversary ONE MAN“Stand By Me”>。このイベントは、バンドの10周年を記念するライブであると同時に、FILTERにとって初めてのワンマンライブだ。
全員野球ならぬ、全員音楽の精神でここまで歩んできたFILTERと、彼らの音楽を愛するオーディエンスだけが集う待望のライブだが、この日はコロナ禍の影響で、身体がぶつかり合うことも、声を合わせることも許されない。そうした状況下で行われる「シンガロング」を大軸とするFILTERのワンマンは、一体どんなライブになるのだろうか?──その疑問の先にあった光景は、そんな一抹の不安を見事に吹き飛ばす、「これまで」への感謝と「これから」への希望に満ちた、明るく輝かしいものだった。
2021.6.20(SUN):
下北沢Shangri-La
FILTER
開演時刻を告げる暗転と共に、会場に英語のナレーションが流れ出したのだが、その演出は映画のオープニングのようで、「これから何が起こるのだろう?」というオーディエンスの期待感をみるみると煽っていった。そして、力強いビートが鳴ると同時に、ステージとフロアを分かつ幕の向こう側から、豊方 亮太(Vo/Gt)、葛西 達也(Ba/Cho)、木村 彰(Dr/Cho)、あベス(Key/Vo)、高野 優裕(Gt/Cho)の5人の影が映し出され、“Into the Fire”の歌い出しと共に幕が上がった。
堂々と放たれた「過去最高の一日にしよう!」という豊方の言葉が、始まりと同時に確信に変わるような幕開けを経て、“Serenade”、強烈なダンスビートが全身を打つ“Rio!”と“Brad pitt”を続けてプレイし、会場の温度をみるみると上げていく。初めてのワンマンに対する緊張や不安もあったという話をしつつ、豊方は「当たり前だけど、FILTERとみんなだけの時間です」と、ワンマンならではの特別感を噛みしめるように、オーディエンスのクラップを楽器のひとつとしながら“Friend Like Me”を作り上げていった。
この日の2曲目にプレイされた“Serenade”は、2013年にリリースされた1stミニアルバム『invitation to color』に収録されている楽曲だが、先日、リアレンジバージョンがサブスクリプション限定でリリースされた。現在のメンバーになる以前に生まれた、FILTERの始まりとも言える“Serenade”を、今の5人が歌い、鳴らすこと。そこに込められているのは、「今ならもっとできることがある」や「過去を乗り越える」といった反動的な想いではなく、「過去を愛し、受け止め、未来へと繋いでいく」というFILTERの包容力と決意だと思う。
10年越しのワンマンライブという経緯は、人によっては遅いように思えるかもしれないが、今のFILTERは、10年を懸けてじっくりと歩んできたからこそ得られた音楽的な基盤の強さに加え、10年分の想いも、経験も、繋がりも、仲間も、信頼も、全部持っている。だからこそ、FILTERの代名詞であるシンガロングを抑制されたとしても、その枷を一切感じさせない爆発的なエネルギーを、バンドとオーディエンスが相互的に放ち合えるのだろう。
オーディエンスひとりひとりが、久々にプレイされた“Day After Day”の高野のギターソロに歓喜したり、“Cold Mountain”の鋭いキメに合わせて拳を突き上げたりしながら、会場の一体感を高めていく光景は、まさにその証明だと思えたし、あベスが「FILTERは愛されているバンドだなと改めて思った」と話していたが、私も心からそう思った。
また、FILTERの音楽を通じて、そうした想い合いが10年も続いているのは、あベスの言葉を再び借りると「ついていったら面白いことがありそう! というワクワク感がある」という点だと思う。あベスがメインボーカルを務めるアーバンテイストな“All Night Long”や、ポップパンクサウンドが爽快な“All I Want”を聴けば分かるが、特に最近のFILTERは目に見えるような進化を遂げている。
FILTERは、これまでの活動の中で、「多幸感」という確固たるフィールドを築き上げてきたし、木村が「予算的に削られそうになっても、これだけはどうしても作りたかった」と語ったバックフラッグにも「THE CONCEPT IS EUPHORIA」と堂々と書かれている。けれど、自ら作り上げたその場所にじっと立っていることだけで満足せず、様々な方向に拡張すべくトライし続けているのが、今のFILTERだ。その過程には、楽しく踊れるFILTERの音楽性からは考えられないような苦悩や葛藤もあったと思う。
それでも、彼らから生み出される音楽がネガティブなものにならず、今もなお煌々と輝き続けているのは、5人が「音楽が好き/ライブが楽しい」という純真無垢な本質を見失うことがないからだろう。「10年、色々な音楽を聴いて、FILTERを進化させてきたけど、俺の中で変わらないものがあります。今でもパンクロックが大好きだ!」という豊方のシャウトの先にプレイされた“Teenage Riot”もまた、FILTERの根幹を担う重要なファクトだし、進化を選んでも、初心忘るべからず精神を大事にしながら10年間走り続けてきた彼らの意志表明のようであり、オーディエンスも爆発的な盛り上がりでその気持ちに応えた。
何事でも、10年も続ければ、どこかで慢心や飽きなどが邪魔をする瞬間が訪れるはずだけれど、その障害を吹き飛ばす程のハートの熱さと向上心が彼らにあるからこそ、「ただバンドが好きだからやっているし、そうしていたらいつの間にか10年経っていた」というフラットな心境でここまで進んでくることができたのだと思う。その上で、今回の節目を迎え、豊方は「人に認められたいという気持ちがあっての10年だったし、みんなに協力してもらう中で“ありがとう”という気持ちはもちろんあったんだけど、10年経った今、やっと“何かを還元したい”という気持ちが生まれてきています。ここまでFILTERを運んでくれたのは、みんなのお陰だと本当に思う」と、感謝の想いと共に、これまでの歩みがあったからこそ得た新たな気付きを率直に伝えた。
そして、「みんなも生きている中で、悔しい想いをいっぱいしていると思うけど、俺はその悔しさこそが前を向かせる力だと思っているので、真正面から向き合いましょう。絶対に、その先に何かがあるから。堂々と悔しがって、堂々と進んでいきましょう。そんな悔しさの中でも、“今、俺は変われた”と思う瞬間はあるし、このフレーズが生まれた時に俺は、『invitation to color』の頃の自分から生まれ変わりました」と、“TWILIGHT”を届けた。《きっと静かなこの夜は/光る朝焼けに続くよ》と希望を歌う、美しくて優しく、それでいて逞しいこの曲は、FILTERの音楽性そのものだなと、曲に身を委ねようとしたのも束の間、豊方がまさかのボーカルが入るタイミングを見誤るというハプニングが発生……! これには会場全員で笑いながらずっこけたし、なんというか、この決まりきらない感じもまたFILTERらしい。
そして「次の10年も共に生きて、ここに一緒に集まろう! こういう一日を俺たちが用意するから、そこで自分の何かを発散させて、共鳴していこう!」と、新たな約束を結び、美しき賛歌“Pray Tonight”、明るい未来への幕開けを確信させる“Symphony of Hope”、そしてラストに“Last Dance”を堂々とプレイし、満員のハンズアップの中で、文句なしの盛り上がりを巻き起こして本編を締め括った。
アンコールでは、「ずっとずっと傍にいてほしいという気持ちを込めて、最後に1曲歌います」と、イベントタイトルにもなっている“Stand By Me”を披露。リフレインするフレーズが徐々に強さを帯びていくこの曲が、FILTERと、FILTERを愛する人たちの明るい未来を示唆しているようで、最後まで私たちを勇気づけてくれたことに感動した。
その後、メンバーがステージを後にしてライブは終了するかと思ったら、前方にスクリーンが登場。そこに、この日を共に作り上げたスタッフの名前が載ったエンドロールが映し出され、放映と同時に、サッカーチーム・リヴァプールのサポーターズソングである“You’ll Never Walk Alone”が流れ出す。途中、豊方とあベスが退席して、木村と高野と葛西がMCを行ったタームを「ハーフタイム」と呼んでいたのも、この演出への伏線だったのか! と気付かされ、膝を叩いた。初めてのワンマンライブを普通のライブでは終わらせない! という彼らの情熱と愛情を、最後の最後までしっかりと感じることができた瞬間だった。
エンドロールを含めたこの日のライブは、「to be continued」の文字を以て終わりを告げた。節目には到達したが、FILTERの旅は、まだまだこれからだ。10年目以降も変わらずに、私たちに歓びとワクワク感を与え続けてくれるであろうFILTERの活動から、今後も目が離せない。
Photo by umihayato
Text by 峯岸利恵
RELEASE INFORMATION
Serenade
FILTER
6月1日(火曜)
各サブスクリプションサービスにて配信中