1200年を超える歴史と伝統を培ってきた京都で、文化芸術の新たな可能性と価値を提示するKYOTO STEAM−世界文化交流祭−と<MUTEK>を主催するMUTEK.JPの共同プロジェクトとして、<NAQUYO-平安京の幻視宇宙->が2020年度〜2021年度の2か年度にわたり開催された。最先端テクノロジーを駆使した音楽とデジタルアートを用いて、音楽学者の中川真氏が著書『平安京 音の宇宙』で幻視した平安京のサウンドスケープを再現しようと試みるプロジェクトだ。
本プロジェクトでは、昨年3月に初のパフォーマンスを敢行。そして12月24日〜25日には集大成として、平安京のサウンドスケープを夢想するインスタレーションに加え、Kazuya Nagaya + Katsuhiko Orii、Junichi Akagawa + nouseskouの2組による実験的なパフォーマンスが披露された。また、DOMMUNEでも本プロジェクトをめぐる特集番組が2回にわたり配信されている。
Qeticでは、本プロジェクトの発起人の1人でもある長屋和哉氏と、パフォーマンスにも参加した赤川純一氏の対談を実施。京都各所に鎮座する社を象徴する梵鐘の響きに、豊かな四季折々を思い起こす自然の物音。この対談記事を機に、都市の作り出す音に耳を傾ける機会が生まれることを願う。
INTERVIEW:NAQUYO長屋和哉、赤川純一対談
時代・世代を超えて鳴り響く平安京の梵鐘・自然音
日本に生まれ育つ人々のルーツとなる音
━━パフォーマンス前にも2年がかりで実現したとおっしゃってましたが、長屋さんは2年前どのような形でプロジェクトをスタートされたんでしょうか?
長屋和哉(以下長屋) この平安京のサウンドスケープのプロジェクトをスタートさせる以前から、アイデア自体は持っていました。僕自身が考えていたのはもう20年以上前で、MUTEK.JPと共同で実現しようと決まったのが数年前。KYOTO STEAMの方がご興味を持ってくれてスタートしたんですが、いずれにしても最初は梵鐘の音をこの京都盆地の中でどのように再現するか、というテック的に物凄くハードルが高いところから始めました。プロジェクト自体は志を高く、と考えていましたね。
━━20年前とおっしゃってましたが、元を辿ればどのようなアイデアだったのでしょうか?
長屋 このプロジェクトにも入ってらっしゃいますが、原案となった中川真さんの著書『平安京 音の宇宙』という本がありまして、その中で四神相応と梵鐘のチューニングのことが書かれていて。いくつかある京都のお寺のうち、何%かが四神相応のチューニングに合致していたということを実証されているんですね。それを読んで、すごいなと。この梵鐘の世界をどうにかサウンドスケープとして現代に再現してみたいなと思いました。
━━中川さんの本を読む以前は、梵鐘に対してどのような認識をされていたのでしょうか?
長屋 僕自身はおそらく特殊な捉え方をしていたと思います。幼少期の頃の梵鐘に対する感受性というのは、おそらく僕も含めて日本に生まれ育った方はほとんど変わらないと思いますが、僕自身は若い頃に、今回の<NAQUYO-平安京の幻視宇宙->で笙を演奏してくれた折井克比古さんと一緒に作った音源を別名義でカナダの実験音楽のレーベルに送った際に、すごく恥ずかしい思いをしたんですね。なぜかというと、いわゆる西欧文化のコンテキストに乗っかった音楽をそのままやっていることに違和感を感じたから。僕は日本人なので、ちょっと引け目を感じるというか。若い頃は他人の土俵でやっているという自覚がありました。
そういう引け目みたいなものを感じなくて済むような音とか、音楽を作れるんじゃないかと考えて、梵鐘だったり、おりんのようなものに目を向けるようになり、それと同時に、いわゆる明治以前の物語に注目して読むようになりました。
━━日本に生まれ育った長屋さんのルーツとしての音を探していく中で、特に梵鐘というものに出会ったきっかけはなんでしょうか?
長屋 梵鐘はもちろん、おりんにも共通してますけど余韻が消えていく。音が消えていくと、徐々に静寂が大きくなってくる。人は願いを込めながら年末年始に除夜の鐘を聴いて、みんながみんなそうではないかもしれないですが、余韻が消えるまで聴こうとするじゃないですか。音を最後まで引き取るような。自分の身の回りの静寂もそうですが、どこか自分の内側に広がってくる静寂がある。特に梵鐘はそれが顕著なんです。除夜の鐘は参加型のコンサートのように1人ずつ鐘をついていくわけですけど、その姿も美しい風習だなと子供の頃に思っていました。
━━そういう気づきもあって、今回のプロジェクトをスタートさせるに当たって、まずその第一歩はどういった形で?
長屋 結局実現できなかったことなんですが、例えば東大寺で鳴った鐘は中世の時代にどこまで響いたんだろうと。それってITを駆使して調べられることなんだろうかという疑問から始めて、ロシアにいるAIを研究されている友人に聞いてみたりしました。あとは気候的な条件によって、梵鐘の余韻がどう変わるのか、とか。あるいはAIを使って架空の梵鐘を作れるのかどうかも調べたりしました。ヨーロッパのベルがどのように作られているから、こう鳴るっていう論文はあったんだけど……。
赤川純一(以下赤川) どういう形だと、どういう倍音が増える、とかそういう話ですか?
長屋 そういう感じですよね。で、ロシアの友人と一緒に見たりしたんだけど、結局職人しかできないって書いてあるの。再生技術がないから、架空であっても作ること自体が不可能だと。
赤川 明確な技術はなく、個人の感覚ということですかね?
長屋 そう。職人が手で作って……。
赤川 チューニングも個人の感覚で?
長屋 そう、そんなことが論文で書いてあって。じゃあダメじゃん、って。
━━では、ご自身の中でも作業にいきなり入るというよりは、概念を理解することを優先したということでしょうか?
長屋 そうなんです。僕としてはやりたいことが決まっていて、ビジョンが明確だったので、その上でMUTEK.JPチームとも話し合っていた。ただ、テックについてはどうしていいかわからないというのが現実的な問題としてありました。人工知能を利用してバーチャルに作るのがいいのか、それとも実際に梵鐘を叩いて反響を計測するのがいいのか、とか色々と考えました。それから僕がMUTEK.JPにテックに強い人を紹介してくれと相談したのがきっかけで、赤川さんも参加されて。音を再現するために、どうテックを使っていくのかというところを相談したりしました。
NAQUYOで描いたサウンドスケープの仕組み
━━今回の公演について、制作はどのように進められたんでしょうか?
赤川 まず(2021年)3月にパフォーマンスがありまして、京都の音風景、音宇宙というものをどうやって自分たちの中でパフォーマンスに入れていけるだろうと色々と考えて、一度作品にしました。3月までの間に梵鐘の音を録音しに行ったんですけれども、僕も長屋さんもお願いしていたレコーディングエンジニアの方に一緒について行って。梵鐘自体の響きも場所によってそれぞれ違いますし、梵鐘が置いてある場所の環境でどう響くかも違いますし。それに梵鐘の中に頭を入れて鳴らしても、外にいる時と違っているんですね。あとは、その録音している場所の風景がどんなものなのかとか。そういった印象からインスピレーションを受けて、パフォーマンスしました。その中で、方角に応じた鐘の音を使ったり、方角に応じた体の部位を振り付けの中に入れたり。中川真さんの本から読み取れる内容を僕たちなりに解釈したものを取り入れた作品になったんですね。
赤川 今回はその3月のパフォーマンスで受けた感覚をさらに発展させようという形でスタートして。京都の四神相応の方角に応じたモチーフというものは今回も使いつつ、ただし今回は僕たち演者も観客もステージ上の同じ空間にいることで、ステージと客席という距離があると伝わらないものも伝わるのではと思い、360°を音でサラウンドするステージングになり。nouseskouと僕はお客さんに囲まれた中でパフォーマンスする、という形で作っていきました。
━━初日のインスタレーションもそうですが、周りを音がサラウンドしていて、体全体で捉えられる音の感覚が実感できて、ある種錯覚に近いような聞こえ方を改めて考えさせられたパフォーマンスでした。360°を音で取り囲むというアイデアも長屋さん、赤川さんのお二人で考えられたのですか?
長屋 基本的なところは最初から決まってたんですよ。梵鐘は東西南北にあるので、それを誰が聴くのかというと、平安京当時は平安京の内部にいた人たちですよね。なので、スピーカーのサラウンドシステムだと、お客さんが中にいるという形になる。ですから、最初のコンセプトから自然発生として生まれてきたステージングです。
━━しかも実際の東西南北に配置された梵鐘の音が、それぞれの方角から聞こえてくるという。
長屋 そうです。その囲まれた空間を僕がどう使うか、赤川さんがどう使うかは別問題になってくるんですが、赤川さんはお客さんが取り囲むように中心を演者に充てた。僕のパフォーマンスの場合は、お客さんを真ん中に、という形にしました。
━━今回長屋さんは笙という楽器をパフォーマンスに取り入れてらっしゃいました。打楽器に比べると反響はそこまでダイレクトに感じられないように思いますけれども、空気の振動を感じたんですね。笙を取り入れたことについてお伺いできますか?
長屋 今回取り入れたのはもちろん個人的に好きだからというのもありますが、平安京をテーマにする中でヨーロッパの楽器は使えないけど、アコースティック楽器を使いたかったから。笙は本当に特殊な楽器なんですよ。いわゆる中国・アジアの南東部、ベトナムとかあのあたりの楽器で、ミャオ族の楽器。つまり民族楽器です。あちらでは死者の魂を呼んだり、特別に扱われていますが、なぜそれが漢民族の宮廷の音楽に取り入れられたのかちょっとわからないですよね。つまり辺境の民の楽器で、中国を通して日本に入ってくるんですが、おそらくそれほどすごく特殊で魅力的な響きだったはずです。笙ってどこから鳴ってるかわからない感じがするじゃないですか。音が空間を満たしていく感じ。
━━もともと長屋さんがお作りになった音に対して、今回笙の演奏で参加された折井さんはどのような形でアプローチしていったんでしょうか?
長屋 まずあれは古典曲なんですが、それを解体して再構成しました。それに合わせて吹いてもらったんですが、本来の古典曲はメロディがもっと速いんですよ。そうするとアンビエントにならないので、ゆっくり吹いてほしいとお願いしました。折井さんの思うゆっくりで、と話をして、それをもとに作り直しました。折井さんは大体原曲の半分ぐらいのスピードだとおっしゃってましたけど。
Photographer:井上 嘉和
Photographer:井上 嘉和
Photographer:井上 嘉和
NAQUYO-平安京の幻視宇宙-_NAQUYO#6 Immersive Sound Live Performance(ダイジェスト)【KYOTO STEAM-世界文化交流祭-(2021)】
昨年12月25日に開催された<NAQUYO-平安京の幻視宇宙->のパフォーマンスを収めたダイジェスト映像。Kazuya Nagaya + Katsuhiko Orii、Junichi Akagawa + nouseskouの2組による幻想的なパフォーマンスが40分にわたり収録されている。
━━今回インスタレーションで初めて長屋さん、赤川さんのお二人が共作されたわけですが、どのような形で作業を進められたんでしょうか?
長屋 赤川さんはデジタルでプログラムを走らせて作っていて、ジェネレーティブなものを使っていたので、回ごとに内容が変わっていました。僕の方は完パケで作るっていう。それを赤川さんが参照しながら、映像を加えていったという形ですよね?
赤川 そうです。
━━なるほど。先に長屋さんが先に制作を進められたということですが、当日赤川さんの映像を見てどう感じられましたか?
長屋 最初見た時は「多分これ変わるだろうな」って思いながら見てました。最初ははっきりした線があったので、多分ご自分でもっとぼやかしたりとか、曖昧な線を作ったりとか、フラジャイルな動きにするんだろうなと。かなり変わりましたよね?
赤川 はい、変わっていきましたね。インスタレーションもリアルタイムで映像を生成しているので、完パケの映像を流すわけではなく、長屋さんの音楽に合わせて映像を操作していました。長屋さんから音をいただいたのも実は結構直前で。それを聞いた上で音に合う素材を用意していましたが、僕自身音に映像を反応させるというのが得意なので、どの音に映像を反映させようかなと考えていたんですよ。今回梵鐘の音だけを僕に送ってほしい、という話もしていて、梵鐘の音に映像が反応するのが面白いかなと。
でも最初のリハーサルであの空間で音を聞いた時に、そもそも映像いらないなって思うぐらいの感動があって。それこそ梵鐘の音なんて、一回鳴り響いたのを聞いてその余韻に浸る方がすごく贅沢で、そこで映像が揺れてたりしても「絶対いらないな」って思ったんですね。結果的に、長屋さんの楽曲の中にも方角を伝えるための音だったり、季節を伝えるための音のマテリアルが入っているんですが、僕はそっちに寄り添おうと思い、構成を変更しました。
なので、水の音だったり風の音だったり、ちょっと特殊ですけど百鬼夜行だったり。梵鐘以外のところに寄り添って、余韻とかアンビエントとか空間を演出するような感じで変えていきました。多分1日目の初回なんかははっきり線を出していましたが、2日間通して12回やりましたけど、どんどん僕の映像が薄くなっていって。見えるか見えないかギリギリのところですが、その瀬戸際が音楽を聞いた上で僕の出す映像とリンクするところで。そこから先の何かを想像できるように、と音に合わせていたら気がついたらそういう曖昧な映像になっていました。何度か繰り返していくうちに、自分の中でも多分チューニングされていったんでしょうね。
━━初めにもおっしゃってましたが、洋楽的なコンテキストを使わない日本の音楽として四季を描くという意味でも、ヴィヴァルディの『四季』に対する日本からの回答のような気もしました。
長屋 僕の頭には三島由紀夫の『豊饒の海』がずっとあったんですよ。『春の雪』から始まる四部作ですが、四季をベースにして描かれている。僕9月25日が誕生日なんですけど、その日に15年ほど一緒に暮らしていた僕の大好きだった犬が死んじゃって。でも誕生日に死んでくれて、僕の生命の日じゃないですか。僕は永遠に忘れないでしょ。生きてる時からその犬に「また子犬になって生まれ変わっておいで」ってずっと言ってたんですよ。だから応えてくれたような気がして。それもあって、三島も何か思っていたんじゃないかと思うんです。『豊饒の海』を書き切って、そのまま市ヶ谷駐屯地で自殺したんですけど。だから彼も輪廻のことをずっと考えてましたよね。そうした自分の経験もあり、僕もめぐる命のことをずっと考えていました。
Photographer:井上 嘉和
Photographer:井上 嘉和
Photographer:井上 嘉和
世代・時代を超えてつながる都市の音風景
━━四神相応について、守り神がいるそれぞれの方角で梵鐘の音のチューニングが違うことを先程もご説明いただいたと思うんですが、それぞれの方角を表す音と映像がシンクロナイズドされている様子も印象的でした。この二つを組み合わせるのにどのような形で作業を進められたんでしょうか?
長屋 まず僕のパフォーマンスに関して言えば、梵鐘は方角が決まっていますので、この梵鐘は東から出す、という風に京都の地形をなんとなく念頭に置いていて。例えば東の梵鐘が鳴れば、西と北で響くとか、そういう考えのもと、東は東山、西は嵐山、北は船岡山とそれぞれのエコーを入れていきました。
映像は、4方向のエレメントをモチーフにしています。東のエレメントは竹で、南は火ですから滝の映像を赤く色付けて火に見えるように。北は水ですから、水草の映像を淡々と流して。西は金なんですが、これが最も大切で、非常に難しい。いわゆる浄土信仰とあいまって、西は阿弥陀如来の浄土にあたります。日本各地でこの信仰が広まりましたが、そういう意味でも西というのは特別な方向です。なので、今回の映像では仏様を映し出しています。声明(しょうみょう)※も多くは西に入れました。
※声明:仏教音楽の用語のひとつ。仏教儀式で経文を声に出して読む、諷誦することを指す。
━━直接足を運ばれた場所もあるんでしょうか?
長屋 映像のためには足を運んではないんですが、梵鐘の録音のためには行きました。高台寺、法然院、勝林院、来迎院、往生院、法輪寺、大徳寺、仏国寺と全部で8つ。
━━やはりそれぞれ音が違うのでしょうけれども、そんな中で気づきというものはありましたか?
長屋 それぞれ全然違いますね。気づきがあったとすれば、年月が経つと余韻が消えていくということです。来迎院の一番古い梵鐘は余韻が短い。あれはすごく問題だと思います。我々人間は見えるものは大切にするんです。文化財は目に見えているから残っています。音は目に見えない分、大切にする人がすごく少ないんですね。
━━長屋さんがおられて赤川さんがおられて、公演中にも黒子としてアシスタントしていた京都芸術大学の学生さんがおられて、世代がすごく幅広い作品ですよね。このプロジェクトの中で若い人からある程度キャリアのある方までを揃えるということを最初から長屋さんは気にかけていらっしゃったんでしょうか?
長屋 いえ、僕の考えではありませんでした。いわゆる産学協同プロジェクトみたいなことで、それがKYOTO STEAMの取り組みなんですよ。そこからKYOTO STEAM側で京都芸術大学と、という話になり学生たちと、という流れです。サウンドインスタレーションで百鬼夜行の音を作ったのも学生たちのアイデアです。
━━実際に学生の方々と現場で作業なさっていかがでしたか?
長屋 本当素敵な人たちで、スポンジみたいですよ。前も何度か言ってますけど、平安時代の音を洗い出すような作業をしていて、若い学生たちが平安京の夢を見るようになり始めて。なんでも取り込むんですね。それはもう柔らかい感受性で素晴らしいです。
━━逆に気付かされることもあった?
長屋 ありますよ。一緒に糺の森でフィールドレコーディングしましたけど。僕が指定した場所よりも、彼女ら彼らがレコーディングしたいって言っていたポイントの方がもっと良かったりもしましたし。
━━公演後には「若い人たちに引き継いでいく」ということをおっしゃっていましたが、先程の「見えないもの」を継承していくことも今回のプロジェクトの大きなポイントだったということですか?
長屋 赤川さんも若いから赤川さんにも継いでいかないといけないんだけど、やっぱり学生たちに僕が持っているものを全部教えてあげたいですよ。僕が持っている知識だったり、あとは何が大切なのかを。彼女たちが歳を重ねると、僕の気持ちがわかると思うんですけど。人間の社会において、悪いものは簡単に受け継がれていく。でもいいものって伝えるのがすごく難しい。そのために僕らは努力しなきゃならない。
赤川 すごくわかります。具体的な鐘の音を残すこともそうですけど、僕はレコーディングに行った際も、制作している際も、「響いていく」とか「共鳴する」というキーワードを感じていて。時代を超えて共鳴することもできるな、とも思います。過去と共鳴できたら、今僕たちがしている表現を未来に遺すこともできるんじゃないかと。過去を思うと同時に未来を思うことになると思うので。
きっと平安時代に鳴り響いた梵鐘の余韻というのも常に残っているはずです。例えば梵鐘を鳴らした後に響く余韻も、聞こえなくなったなと思っても梵鐘の中に頭を突っ込むと「あ、まだ鳴ってる」とか、もしかしたらほぼ鳴ってないかもしれないけど、頭の中では鳴り続けるとか。それって文化だったり、いろんなことにも言えるなと。そういったものを意識するいい機会になったなと思います。
━━今回のプロジェクト全体を通して、具体的に若い世代に伝承していきたいこと、伝えたいことはあったんでしょうか?
長屋 僕が一番伝えたかったことはやっぱり愛情を持ってほしいということ。携わった学生たちにも伝えましたが、ささやかなものの中にいろいろなものが詰まっているから、どんなものにも愛情を持ってほしい。
赤川 僕というか、nouseskouとの作品だったので、僕たちはという表現になるんですが、何かを伝えようと思って作品を作ってないんですね。でも平安京のことを考えるということにおいてもそうですけど、何かしら僕たちは影響を受けていると思います。自然の中で映像を撮りに行ったり、映像を撮らずにずっと喋っていたりとか、いろんな場所に行って感じられたことだったり。その影響を受けた僕たちがステージに立つことで、そこで見てくれた人たちと何か共鳴しあえるんじゃないか、そこで繋がっていけるんじゃないかと。僕たちと自然、そして過去・現在・未来が繋がって、そうやって溢れ出たものが誰かに届いて、さらにそこで共鳴が生まれればいいなと思います。
Photographer:井上 嘉和
Photographer:井上 嘉和
Photographer:井上 嘉和
Photographer:井上 嘉和
Photographer:井上 嘉和
Photographer:井上 嘉和
Interview Photo by 岡安いつ美
PROFILE
長屋和哉
これまでに12枚のアンビエントアルバムをリリース(2020年現在)。
初期の3枚「うつほ」「千の熊野」「魂は空に 魄は地に」は修験の聖地・吉野を拠点に制作された吉野3部作で、極限まで音を削り込んだ静寂の余韻を特徴としている。ストイックで凛と張りつめた気配が漂うアルバム群。
その後、八ヶ岳に拠点を移し、「シークレットライム」「すべての美しい闇のために」「イリュミナシオン/冥王星」「サレントガーデン」「光の響き」「Microscope of Heraclitus」をリリース。また、EP「cold moon」を日本のPropostからリリース。EP「Tokyo Unconscious」をスペインのレーベルIndigo Rawよりリリース。
アルバム「dream intrepretation」をドイツのレーベルSCI+TECH Recordsよりリリース。
ドイツのレーベルMinusから「Utshuho」その他リミックスをリリース。イタリアのCognito PerceptiよりEP「On Lotus」をリリース。「Microscope of Heraclitus」をスペインのレーベルIndigo Rawよりリリース。
Plastik manのリミックスをMinusよりリリース。
「地球交響曲第6番」に出演。その他「地球交響曲」シリーズに楽曲を提供。
星野リゾート「星のや軽井沢」「星のや京都」「ブレストンコート」の館内音楽、イベント用音楽、教会の音楽などを作曲。
パリコレで、ファッションデザイナーIris Van Herpenと共演。
ドキュメンタリー「神々の響きを求めて 熊野・千年の時を超えてこだまする音」(BS-i)で主演。
著書では、エッセイ集「すべての美しい闇のために」(春秋社刊)、小説「ナヘルの鐘」(人間社刊)
小説「インディオの眩しい髪」で文芸春秋文学界新人賞佳作を受賞。
ヨーロッパを中心として海外公演多数。国内での公演も数多い。
赤川純一
オーディオビジュアルアーティスト・Ableton認定トレーナー。
2010年から2013年までベルリンを拠点に活動し、現在は京都在住。
Ableton Liveとmax for live、またopenFrameworksやtouchdesigner等を用い舞台作品のリアルタイム演出やインタラクティブな体験システムの設計から実装を行う。
これまで日本、ドイツ、オランダ、イスラエル、中国など国内外で公演を行い、身体、映像、音を基調としたダンス作品”Figure”では横浜ダンスコレクションEX2014にてイスラエル テルアビブ-ヤフォ・横浜文化交流賞を受賞。2019年には文化庁メディア芸術祭とMUTEK.JPのコラボレーションイベントに出演。
2017年にHz-recordsよりフルアルバム“Consistency Test”、2018年にはShrine.jpより“Dice from the Window”をリリース。