新潟・燕三条地区のものづくり技術と、応募者の「あれつくりたい」「これほしい」というアイデアをつなぎ、リアルな商品開発へと発展させる『EkiLabものづくりAWARD』。第1回の2020年に引き続き、応募総数143作品の中から各賞に選ばれた受賞者を招いた『AWARD2021』授賞式が三条ものづくり学校にて開催された。その模様と主要賞に輝いた応募者の喜びの声。さらには式典で発表された第3回目の『AWARD2022』のテーマを報告する。
ものをつくりたい思いに前提条件不要を証明した式典
『EkiLabものづくりAWARD2021』授賞式の会場となったのは、新潟県三条市の南小学校をリノベーションした三条ものづくり学校の、元は体育館だった多目的ホール。当初この式典は、2022年3月26日に行われる予定だったが、まん延防止措置等々の関係で延期となり、晴れて4月16日に開催の運びとなった。開始時刻は13時30分。会場に集った各賞の受賞者を眺めて、改めてこのコンテストのユニークさに感じ入った。そこに傾向と呼ぶような偏りがなかったからだ。
『EkiLabものづくりAWARD』に設定されているのは、一般/クリエーターと小学生・中学生の2つの部門。いずれも公平性重視の観点から、審査は個人情報を完全に伏せた状態で行っている。それだけに作品を送ってくれた人物像は、式典で顔を合わせるまで想像の範囲に留まるわけだが、リアルな受賞者たちは年齢や性別などでくくれない幅の広さを見せた。一定枠を具えた小学生・中学生の部でも似た状況だった。何かをつくりたい思いに前提条件など不要であること。その事実を図らずも証明しているのが『EkiLabものづくりAWARD』ではないかと思った。
回を重ねるごとに高まる商品化への意欲
「受賞者の皆さま、おめでとうございます。このアワードは、燕三条から新たな商品をつくっていくことをコンセプトに掲げていますが、今日は商品化一歩手前の受賞作をここでお披露目できるのを大変うれしく思っています」
これは、『EkiLabものづくりAWARD』並びに授賞式の主催者である株式会社ドッツアンドラインズ代表の齋藤和也さんが開会に向けた挨拶だ。言葉通りアワードには、2020年の第1回から一般の部/クリエーターの部のグランプリにアイデアの商品化。同部門のJR賞に試作までのサポート付き商品開発が特典として用意されている。現に第1回グランプリの日本酒をガチャガチャで販売する『酒ガチャ』は、開発過程で『ガチャぽん酒』に名を改め、2022年夏の実装を予定している。一方で、電車のシート間に装着するパーテーションを立案しJR賞を獲得した『安心シートで旅ライフ』も改良を重ねた末に実用化され、東北新幹線での利用が始まっているという。
「応募されたアイデアを形にするだけでなく、適正なパッケージデザインや販路の確立も含め、実際に販売し、使ってくれる人を増やし、商品価値を高めていくことがこのアワードの最大の目的です。いわば我々プロの仕事として」
そんな齋藤さんたちの意欲は、第2回目のアワードでさらなる高まりを見せた。商品化特典のない一般/クリエーターの部の優秀賞2作品までも試作品を製作。式典の参加者に実物を披露した。その理由を斎藤さんは次のように説明している。
「今回は製品化を意識した作品が多かったことから、こういう形になりました。応募者のクォリティの高さを多くの人に知ってもらい、驚きと感動を与えたかったんです。何しろアイデアの商品化はスピード命ですから。今後は小学生・中学生の部からも、応募者と相談の上で実用化できそうな作品は商品化に向けた動きをとっていきたいです」
グランプリとJR賞を獲得した受賞者の声
授賞式で表彰されたのは、小学生・中学生の部のグランプリ、優秀賞の計6作品。一般/クリエーターの部からはグランプリ、JR賞、EkiLab賞、優秀賞の計5作品。7名の審査員が2部門から選んだ審査員賞7作品。この中から、グランプリとJR賞を獲得した受賞者に喜びの声を聞いた。
小学生・中学生の部 グランプリ
大事な物をしまえるマクラ/齋藤夢桜さん(新潟県)
「賞があることをパパから聞いて、パッと思いついて応募しました。誰でも使えるのがいいかなあと思って。パパも金属加工業をやっていますが、いつも遅くまで働いて大変そうなので、私は将来美容師になりたいです。キレイになったお客さんが笑顔になるのがいいと思うからです」
一般/クリエーターの部 グランプリ
卓上メタル杵&臼/川越健矢さん(新潟県)
「かなり重いものからリアルな臼のディテールを生かしたものまで、現段階で3タイプの試作品をつくっていただきました。段階的に機能性が上がりつつ、改良の余地はまだあると思いますが、必死で試作品を仕上げるスタッフの方々の熱量に感動しています」
一般/クリエーターの部 JR賞
はこノート/中野瑚都さん(東京都)
「自分で試作したものよりかわいらしく仕上げていただいて、とてもうれしいです。JR賞ということで新幹線のデザインを追加してくださったことや、難しい形の場合は展開図を添えるというアイデアも、私では思いつきませんでした。商品になるのを楽しみにしています。どんな人が手に取ってくれるかを考えるだけでワクワクします」
『EkiLabものづくりAWARD2022』のテーマは“運ぶ”
約2時間に及んだ授賞式は、各審査員の総評で締められた。最初に登壇した東日本旅客鉄道株式会社新潟支社長の小川治彦さんの印象的なメッセージを紹介する。
「物を使う人が喜ぶ笑顔や、使われる場所で起きるドラマが想像できるような作品が多かった。これが今回の特徴でした。次回もまた、今回を上回るぶっ飛んだ作品を期待します」
これですべてが終了かと思いきや、ステージ奥の壁に映像が現れた。動画の中でカメラ目線の齋藤さんが、いささかもったいつけるようにして語り始める。
「今度は“運ぶ”です!」
これが『EkiLabものづくりAWARD2022』の正式なテーマ公表となり、6月中旬に予定している応募開始などの詳細は、随時オフィシャルホームページで発表していくそうだ。1年目が「旅」。2年目が『箱』。そして3年目が『運ぶ』という、どこまでも広がりそうなテーマを投げかけるのもこのアワードの特徴である。齋藤さんは期待しているという。この世にまだなく、しかしこの世界が必要としているものが、このアワードから飛び出していくことを。
Text by 田村 十七男
Photos by 大石 隼土
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