甘美な歌声で、傷みや愛に向き合う日々の等身大を表現するSSW、ZIN。単身でNYへわたり、2018年に帰国するまでの約3年間、自身のルーツであるR&B、ネオソウルの本場でその表現力を磨き、帰国後は『BHOYZ』、『PINEAL GLAND』、『GINGER』と3作のEPを発表。さらに906との共作『KNOWN UNKNOWN』やKojoe & BUPPONとのアルバム『Scent』とコラボ作品もリリースし、このほか田我流 & Joint Beauty、ZIW & DJ Mitsu the Beats、VivaOla、Kzyboost、FKDと、枚挙にいとまがないほど、数々のアーティストと共演してきた。

SIRUP、Mori Zentaroら擁するクリエイティヴクルー、Soulflexの一員としても知られる彼だが、ソロでの魅せ方はクルーでのそれとまったく違っている。リリックはその人となりに間近まで迫れるような気さえするほど赤裸々で、歌声やサウンドは手触りを感じられるほど身体性を帯びている。きっとその人間味あふれるかざらなさに、共感を覚える方も多いのではないだろうか。

今回10月26日(水)にワンマンライブ<RUN>(すでにチケットは完売)の開催を控える彼にインタビューを敢行。新曲“Midnight Run”や目下制作中のニューアルバムについて、そして彼の作品に影響を与えている日常について話を聞いた。彼の言葉に、そして音楽に耳をすませば、その表現の種が見えてくるはずだ。

INTERVIEW:ZIN

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メンタルケア=夜半を“走る”

──10月26日にワンマンライブ<RUN>の開催が決定し、10月19日にニューシングル“Midnight Run”も発売されました。どちらも「Run」という単語が使われていますね。どのような意図でこのタイトルを選ばれたのでしょうか?

元々走るのが好きなんですが、昨年の9月に自然の多い河川敷沿いに引っ越してからは、気持ちが良くて日課のように走るようになり。エクササイズとしてはもちろんなんですが、走りに行こうと思う時ってメンタルが落ち込んでる時で。今年の6月ごろ、特にメンタルが落ち込んでいた時期だったんですが、走ることで自分のメンタルを整えていたんですね。その時期が今回のワンマンだったり、今制作しているアルバムの準備期間と被っていたので、<RUN>というタイトルにしました。

“Midnight Run”は一時期ソングライティングクラスの講師を担当していたことがあり、その際生徒の皆さんと同じトラックで曲を書いたときにできた曲で、元々リリースする予定もなく。その当時も「結構いい曲を書けたな」と思っていたんですが、最近改めて聴き返してみたら、赤裸々なリリックを書いているし、《midnight running》という歌詞も入っていて、今のモードに合ってるなと思ったんです。なので、トラックを一から作り直して、メロディと歌詞も調整してリリースしようと。この楽曲を先行シングルとして、新しいアルバムのスタートにできればと思っています。

──聖歌隊のコーラスのような音が一定のリズムで続いていて、走っている時の鼓動のように聞こえるのも印象的でした。一方でリリックはおっしゃった通り、赤裸々に心情や生活での実感を歌っています。そこに共感を覚えるんですが、ご自身は共感してほしいという考えもあったりするのでしょうか?

それは全くないですね。ただ僕すごくお酒を飲むんですけど、お酒を飲むと、シンプルに体調が悪くなるし、昼まで寝ちゃったりして病んじゃう時もあり(笑)。リリックでも《連日のアルコールで ボロボロのBody》と歌ってるんですけど、そういうことってきっと誰にでもあるじゃないですか。痛みを誤魔化すためにヤケ酒して、自滅するみたいな。あまりかっこつける必要もないと思ってるので、そんなところが共感してもらえる要素なのかもしれないですね。

──“Midnight Run”はセルフプロデュースの楽曲なんでしょうか?

2020年にリリースしたEP『PINEAL GLAND』の頃から共同で作業しているTyaPaTii(野村帽子)と一緒に作りました。いつもはTyaPaTiiがラフなビートを作って送ってくれるんですが、今回はフリートラックで書いた曲が元々あったので、それを差し替える段階から手伝ってもらいました。

──TyaPaTiiさんと作る機会が多くなったきっかけはあるんですか?

SoulflexのクルーでもあるFunkyが彼と一緒にレゲエのバンドをやっていて。僕もTyaPaTiiを知ってはいたけど、当初は知り合い程度の関係性でした。“The sign”が初めて一緒に作った曲なんですが、ある時突然「ZINに合うと思うから」って彼ら自らデモを作ってきてくれたのが始まりなんですよ(笑)。そのデモを聴いてみたら、めちゃくちゃ良くて。そこから意気投合して、どんどん一緒に作っていった感じですね。『PINEAL GLAND』は全楽曲、2人にプロデューサーとして協力してもらいました。2人には1から100まで説明しなくてもすぐに理解してくれるし、意思疎通もスムーズで。音の構成に関して、彼らと感じてるところが一緒だなと思う機会が多いんですよ。

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ZINの生活にひそむ表現の種

──近年リリースされている作品は、人間の身体性や知覚に焦点を当てたフレーズやアートワークが多いですよね。『PINEAL GLAND』は人間の脳の器官である“松果体“という意味ですし、『GINGER』のアートワークでは人同士が絡まり合っている様子が描かれていたり。身体の動きや、身体の感覚を作品で表現することを意識されているのでしょうか?

以前コンテンポラリーダンサーの方々の舞台(柿崎麻莉子演出作『WINGY』)に、シンガーとして出演させていただく機会があり。コンテンポラリーダンサーの方々って新体操やバレエが基礎にあったりするから、身体の動きがすごく柔らかい。一緒に公演している時にも、身体や肉体に意識を集中している感じが特に伝わってきました。肉体や筋肉や皮膚って、アスリート的な一面もあるけど、アートや芸術性に関わってくる部分なのかなとも思います。僕が鍛えたりする理由もそこにあるかもしれない。肉体も込みで見られたい、魅せたいという意識は働いている気がします。マッチョになりすぎると、僕が着てる衣装は似合わなくなるけど、逆に筋肉がなさすぎると、ステージングに迫力がないようにも思えてしまう。意識はしていなくても、身体性を表現の一部として認識しているのかもしれないですね。

──そんな一面がある一方で、作品を重ねるごとに内省的なリリックも増えてきているようにも思います。特にそうした変化があったのは『PINEAL GLAND』以降だと思うのですが…。

それ、他の人にもすごく言われるんですよ(笑)。あのEP以降めっちゃ変わったなって。

──ZINさん自身はその変化を実感しているんですか?

『PINEAL GLAND』を制作していた2020年の初頭は新しい出会いもあれば別れもあって、ちょうど人間関係が目まぐるしく変わった時期でした。それもあって、ある意味吹っ切れてやりたいことだけをやろうという気持ちがすごく強くなった。先行シングルの“The sign”を一緒に作った仲間とも話していたんですけど、受け入れられやすいような曲を作るとか、売れ線の曲を作るということは一切考えずに、本当にかっこいいと思えることだけをやるということを徹底したんです。それが意外と反応が良くて、これでいいんだと思えたというか。それ以降楽曲制作に向き合う上で細かい配慮はあっても、とにかくやりたいことをやると切り替えた瞬間でもありました。

改めて振り返ると、『PINEAL GLAND』以前の作品も自分を表現したものと言えるし、妥協したつもりは全くないけど、中途半端だったのかもしれないなとも思います。自分の中で方向性を探っていたというか。あの作品でこういう表現がしたいというものが見えた気もしますね。

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ZIN – Walk-in Closet(live from livestream “BUNKIES”)

──次回作のアルバムについてもぜひお話を聞いてみたいんですが、以前「フィボナッチ数列」※をベースに制作しているとおっしゃっていました。いつ頃から「フィボナッチ数列」に興味を持つようになったんでしょうか?

※フィボナッチ数列:「1,1,2,3,5,8,13,21,34,55……」と初項と第2項を1とし、第3項以後次々に前2項の和をとって得られる数列。数列の正方形を並べ、それぞれに四半円を描くことで、自然界にも共通するとされる黄金比の螺旋を形成できると言われる。

一時期家具屋で働いていたことがあり、仕事のうちのひとつとして、その家具屋のブログを書かないといけなくて。ある時、照明のブランド「ルイスポールセン」から発売されているペンダント照明についてブログを書くにあたり色々調べていたら、その照明がフィボナッチ数列に則って作られていることを知ったんです。フォルムの角度だったり、カバーの枚数も数列に当て嵌めながら作られているそうで。その頃ちょうど曲線だったり、自然に対して興味を持ち始めた時期だったので、面白いなと思いました。

──次回作にはどのように影響しているんでしょうか?

元々「曲線(curve)」を次のアルバムのテーマにしようと思っていたんです。自然界には直線がなくて、曲線しかないと言われています。一方で、人間が作り出すものは直線でできているものが多い。例えばスマホのような電器だったり、街中に並んでいるビルだったり。人って疲れると、海に行ったり、山に行ったり、自然を求めて都会から離れたくなる。その理由を考えていたときに、人間も曲線でできているなと気づいたんです。だから都会にいると交わり合わずに疲れてしまうんじゃないかと。本来人間が居た場所でもある曲線だらけの自然に還りたくなるという感覚ですかね。

京都のCINEMATIK SALOONというバーを経営されているジュニアさんに昔からお世話になっているんですが、昨年はCINEMATIK SALOONでライブさせていただく機会が特に多くて。ジュニアさんとは自然についてお話する機会も多いんですが、いつも話すのは、人間が勝手に「変わった」と思っているだけで、自然のサイクルは変わらないということ。花が咲くサイクルも常に変わらないし、「ただそこにあるもの」という感覚がある。一方で、突然台風が来たり、津波が来たりと、予測ができないものでもある。不変でありながら、常にそこにあるという自然のありのままに魅了されているんだと思います。どこか安心感を求めているのかもしれないです。

そういう感覚が音楽にもあるといいな、と思うんです。みんなが帰ってくる場所、安心感を求める場所を音楽で表現したい。なので、サウンドも機械的なイメージがあるビートより、人間が作ったグルーヴが感じられる生音を中心に作りたいなと思っています。今はサウンド面でも、楽曲のテーマでもいいから、自然に対して感じるような確固としたものがその中にある、という音楽を作りたいです。

──テーマがあるというのは過去作からもすごく伝わってきます。『GINGER』は特にそれを強く感じました。

『GINGER』は自分でもすごくわかりやすかったなと思います。タイトルの「GINGER」も言葉通り「ショウガ」のことなんですけど、見た目も地味やし、その辺に落ちていても気にならないじゃないですか。でもそのビジュアルの地味さに反して、たくさんの効能を持っていますよね。スパイスとしても昔から重宝されていたり、薬としても使われたり。臭み消しにもなるし、人を温めてくれたりもする。なので、『GINGER』には、人に寄り添うような温かみのある曲があったり、スパイスという意味で攻めたトラックを使った楽曲もあったりします。それに、ショウガってよく根っこの部分が活用されるじゃないですか。なので、自分のルーツでもあるネオソウルに立ち返った楽曲もありつつ。それでいて、自分をひけらかすような作品にはならなかったなとも思います。その作品を作ってるのはあくまで人間、という意味でアートワークではショウガのフォルムを表すように、裸体の男たちが重なり合っている様子を収めた写真を使っています。実はアートワークに写っている身体をなぞっていけば、ショウガを象っているようにも見えるようにしています。

今思えば、自分が思っていることややりたいことを、何か他のものに置き換えて例えながら表現したいのかもしれないですね。次の「curve(仮)」も曲線から派生して自分が思うことをイメージした楽曲が多くなるんじゃないかなと思います。

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ZIN – Buddies(Official Video)

生を実感できるライブ<RUN>

──ワンマンライブ<RUN>に向けて、お話をお伺いできればと思います。バンドメンバーの方々の方がご自身よりも気合が入っているんじゃないか、ということもSNSでおっしゃっていましたね。

本当に最高のバンドメンバーだと思います。僕がいないところで、僕の今後について話してくれたりしているみたいで(笑)。メンバーみんながそれぞれ第一線で活躍しているんですよ。でもみんなに共通しているのは、自分たちでなんでもやろうという精神性があること。今回のワンマンに向けても、今後の展開を見据えながらリハーサルしていたりして、みんなで楽しみながら進めていますね。

──それは音の話ではなく、今後どう活動していくかという話?

そう。マネージャーみたいですよね(笑)。本当は今回のワンマンも開催するつもりなかったんですよ。リリースもなければ、アルバムもできていないし、次開催するならリリースワンマンと思ってたから。メンバーにも「今年はアルバム間に合わなさそうやわ」って話してて。そしたらみんなが「ZINでバンドやりたいから、ライブやろう!」って言ってくれたんです。その言葉でリリースしてなくても、開催すればいいかと思えた。本当背中を押されて決めたような感じですね。バンドメンバーとの出会いも本当によかったことのひとつです。大阪のメンバーはSoulflexのクルーが中心なんですが、東京のメンバーも比べられない存在なので。1人でやってると言いつつ、すごく手伝ってもらってますね。

──サウンド面での意思疎通もスムーズに?

はい。僕すごくわがままなんで、みんなに甘えてるんですよね。でもみんな何も言わずに応えてくれる。なんなら自分も「ZIN」だって思ってるんちゃうかな(笑)。それぐらいのめり込んでやってくれています。

──前回のワンマンの際は香水も発売されていましたよね。今回もグッズは色々と準備されていたり?

そうですね。今回は、以前FKDに紹介してもらったyoqoeさんが手がけている『THE FASCINATED』というブランドにグッズをお願いしています。コロナ禍で人と繋がりたいという欲が改めて強くなっていたんですが、同じように思う人が多かったのか、むしろ新しい出会いが多くて。彼が立ち上げた『GOOD ERROR MAGAZINE』を知ったのもコロナ禍でした。そうした新しい繋がりも今後に活かしていけたらと思っています。

──最後に、開催に向けての意気込みをお聞かせください。

元々エンターテイメント性のあるショーとして、ミュージカルや舞台が好きなんですが、そういう表現を見せられたらいいなと思っています。作品でもコンセプトやテーマをしっかり決めて、自分の魅せたい世界観をその都度考えているんですけど、<RUN>も今の自分が感じている世界観を凝縮したものにしたい。さっきも話しましたが、走ることってストレスの捌け口として身体を追い込む行為じゃないですか。精神を回復させるために、肉体を疲労させるって矛盾しているけど、一番生を実感する瞬間でもある。人間って命を削りながら生きてるんだなと思うんですよね。そういう生々しさだったり、矛盾した生き方だったり、大袈裟に聞こえるかもしれないですけど生の実感をライブで感じてもらえたら嬉しいです。ただあくまでライブなので、遊園地に来たような感覚でとにかく楽しんでもらえたら。会場に入った瞬間からその世界観を感じられるようにグッズも用意していますし、音作りもオープニングからこだわって準備しています。会場で起こっている出来事ひとつひとつに興味を持ってもらえたら。

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Interview, Text:竹田賢治
Photo:Miki Yamasaki
取材協力:Dells CoffeeYoung

PROFILE

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ZIN

R&B/SOULを軸に活動するシンガーソングライター。そのスタイルは時に優しく、時にダイナミックに人間の深層を浮かびあがらせるような独自のサウンドを追求している。
ソングライティングに定評があり、様々なアーティストの客演や楽曲提供も行う。
2015年から約3年間のNEW YORK留学を経て、現在は東京を拠点に活動をしている。
また関西を中心に活動するアーティストコレクティブ『Soulflex』の一員でもある。

ZIN Instagram | ZIN Twitter

RELEASE INFORMATION

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Midnight Run

2022年10月19日 (水)
SoulflexのシンガーソングライターZINによる、ニューシングル”Midnight Run” ソロ名義としては約1年ぶりとなる今作はこれまでもZINの人気曲”Buddies”など多くの楽曲を手がけたプロデューサーTyaPaTiiと共に制作。ドラムにはSoulflexのRaB、ベースには同じくSoulflexのFunkyが参加している。ZINの真骨頂ともいえるハイトーンボイスと低音ボイスの混在する哀愁をまとったメロディラインと、叙情的なリリックが特徴的な曲となっている。

再生/購入はこちら

EVENT INFORMATION

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ZIN ONE-MAN LIVE『RUN』

2022年10月26日 (水)
OPEN 19:00 / START 20:00
渋谷WWW
出演者:ZIN / 井上惇志(Keys) / タイヘイ(Drums) / Keity(Bass) /朝田拓馬(Guitar) / KenT(Sax) / 山田丈造(Trumpet) / JYONGRI(Backing Vocals)

e+(イープラス)にて9月3日(土)AM10:00よりチケット販売開始

チケットはこちら Sold Out