オルタナティブなソウルやR&B、ジャズが枠を超えていく流れやサイケデリックロックのうねりなど、さまざまなジャンルや時代の息吹を、独自のプログレッシブかつポップなミクスチャー感覚で練り上げ、ライブハウス、ひいてはJ-POPシーンに新たな風を巻き起こす。大阪を拠点に活動するum-humは、2019年の春にバンドとして本格的に始動して以降、コロナ禍にあってコンスタントにリリースを続け、ライブを重ねることで持ち前のセンスを磨いてきた。
そんな彼らが、5月17日にリリースする『U-MOON』を皮切りに、連続でシングルリリースを重ね、最終的に2枚のEPに繋げる企画を発表。そこで今回はメンバー4人全員に集まってもらい、あらためてum-humとはどんなバンドなのかを紐解くべく、それぞれのルーツを振り返ることから始まり、バンドとしての指針、リリース企画の意図、未来のバンド像などについて話を訊いた。
INTERVIEW:um-hum
四者四様のルーツとインスピレーション
──まず、みなさんがどのような音楽やカルチャーに触れてきて、それらがum-humの音楽にどう作用しているのか、話を聞かせていただけますか?
ろん 音楽をやり始めたのは、indigo la Endや相対性理論、tricotのような、独自性の強いポップなセンスのあるバンドを好きになった頃でした。そこからしばらくして、僕の好きな日本のバンドやポップアーティストが、ロバート・グラスパー(Robert Glasper)のような現代のジャズに目を向けるようになっていく流れを感じて、そのあたりの音楽を聴くようになったんです。
彼やその周辺のアーティストが、トラディショナルなジャズがルーツにありながらもジャンルや形式に捉われることなく、自分たちのやり方で音楽性を拡張しているところに魅力を感じました。だからum-humも、um-humだからこそ作れる曲がどういうものかを追い求めています。
──今名前は挙がりませんでしたが、ろんさんの大きなルーツはビートルズ(The Beatles)だと公言されていますよね?
ろん はい。僕の根っこであり、今でもいちばんよく聴いていると思います。
──The Beatlesのどの時期が好きですか?
ろん 1966年~1967年、『Revolver』、『Sgt. Pepper’s Lonely Hearts Club Band』、『Magical Mystery Tour』期が特に好きですね。だからum-humが始まった頃は“オルタナサイケ”と自称していたんですけど、「そこまで言うほどサイケじゃないな」と思って、プロフィールからこっそり消しました(笑)。ほかにもザ・フー(The Who)や90年代だとブラー(Blur)など、UKロックからの影響は強いです。
──ザ・フーやブラーのどのようなところに影響を受けましたか?
ろん 曲を参考にしているというよりは、概念的な部分ですね。オアシス(Oasis)よりブラーみたいな。ザ・フーもブラーも、音楽的に一つのところで定住していないじゃないですか。一本で突き通さない、けどそこに圧倒的な“らしさ”がある。だからum-humも、キャリアを通して「こういう音楽がやりたい」みたいものはないんです。どんな音楽かをあえて言葉で説明するなら、宇宙人っぽい感じ。得体が知れないみたいな。
──小田さんはいかがですか?
小田 私はバンドをやっているんですけど、バンド音楽をほとんど聴いてこなかったんです。宇多田ヒカルや、湘南乃風、K-POPなどはラジオで流れてきたことがきっかけで、すごく好きになりました。でも、正直ぜんぜん詳しくないし、好きだからこそあまり知りたくないという感情もあります。
──知りたくないのはなぜですか?
小田 私は幼い頃から“何か作品を残したい”という気持ちを漠然と持っていて、小学校5年生あたりから、ピアノで気持ちいい音を探して弾いてみて、そこに歌詞をつけて歌う、みたいなことをしていたんです。そこで、あまり好きなアーティストについて掘り下げすぎちゃうと、引っ張られる部分も出てきちゃうじゃないですか。
──そうするとオリジナリティが失われる。自分の感性で書きたいという感情ですか?
小田 それもあるんですけど、自分がリスペクトする人から何かを盗んでいるような感覚になってしまうことが嫌だったんですよね。
歌詞の鋭さやシニカルなユーモアはどこからきているんですか? 例えば景色なのか、映画なのか、本なのか。
小田 私は自然に触れることや景色を見ることが大好きで、常に公園にいるんです。そこで空を見上げたときに、町の装いは変わったけど空は変わないままで、ずっと昔の人も同じ青色を見ていたんだな、とか思うんですよ。もしかしたら100年前の中原中也も同じような感じで詩を書いていたかもしれない。そんなことを考えながら、自然や景色から感じたことを書いていくことが多いですね。
──そう考えるとドキドキしますね。リズム隊のお二人は、um-humに入る前からプレイヤーとしての腕を磨かれていたんですよね?
Nishiken!! 小学生の頃、住んでいる地域のイベントでクラシックのブラスバンドの演奏を観た時に、めっちゃいいなって思いました。それで、中学から吹奏楽部に入ってクラシックをメインに聴いて打楽器を演奏するようになったんです。でもある時期から、楽譜通りに演奏することに飽きてきまして。ドラム譜も全部書いてあって、それを勝手に崩してよく怒られていましたね。
でも自分的には崩したことによってバチっとはまる瞬間があって、この感覚は何だろうって自分なりに調べてたところ、ジャズのアドリブに近いと気付いたんです。それでビッグバンドジャズができる高校に入って3年間を過ごしました。だから、僕のルーツは大きな編成のクラシックとジャズ。それがum-humという4人組バンドの音楽性に活かされているのかというとそうでもないように思いますけど、だからこそ、新鮮で楽しくてここまできました。
たけひろ 僕は父の影響で、小学校に上がる前から60年代のファンクを聴いていました。特に好きだったのは、パーラメント(Parliament)やファンカデリック(Funkadelic)、いわゆるPファンクですね。ほかにもいろんな音楽を聴くんですけど、ルーツは完全にファンクです。じゃあum-humの音楽を構成する要素として意識的にファンクを打ち出しているのかというと、少しニュアンスが違うような気がします。自分の体に染みついているものが自然に出ているような感覚ですね。
3年前から紡ぎ続けた構想
──そしてファーストシングル『Gum』をリリースしてから3年が経ちましたが、振り返ってどんなことを想いますか?
小田 「幼い頃から“何か作品を残したい”と思っていた」と言いましたけど、付け加えると、私はそれが長く生きることより大切だと思っているんです。不謹慎だと言う人もいるかもしれないけれど、納得のいく、満足できる作品ができたらいつ死んでもいい。それが28歳なんじゃないかって、ほんとうに昔から、なぜか28という数字がずっと頭の中にあって不思議です。
──28歳って、けっこうすぐじゃないですか。
小田 結局ぜんぜん満足できずに作り続けている気がしますけど。でも、作品は私が死んでも生き続けてくれるから、とっとと100パーセント満足できるものを仕上げて、私は死後の世界とやらを見に行きたい。そんな気持ちはやっぱりあります。じゃあ、私はどこで何を作ればいいのか。いろいろ考えていた時期もあったんですけど、今はum-humに全額ベットしています。保険みたいなものは作りたくなかったから学校も辞めましたし。
──小田さんにそこまでさせたum-humの魅力って何ですか?
小田 なんなんでしょうね?(笑)。そもそもバンドをするということ自体、私以外の3人も含めてよくわかっていなかったところから始まって、「eo Music Try」でグランプリを取れたとか、レーベルから声がかかったとか、お客さんからいい反応をもらえたみたいな、うれしい評価の積み重ねでモチベーションが上がっていった部分もありますけど、ろんが言った得体のしれない宇宙人みたいなところにワクワクするっていうのが、いちばん大きいですね。
ろん そんなこんなで気が付いたら3年。僕らは制作が好きで、曲を作っている間は時間を忘れるので、ここまであっという間でしたね。
──毎年シングルとミニアルバムをリリースし続けてきましたからね。
ろん 2021年の2月に『2O2O』を、2022年の1月に『steteco』とミニアルバムを出して、この5月からシングルリリースを続けて、2枚のEPに繋げる予定です。今回のEPはビートルズでいうところの赤盤、青盤的な位置付けですね。言わば名刺代わりのような作品。実は、ここまでの予定は2020年の段階で決めていました。
──なぜ決めていたのですか?
ろん 目先から二つ三つ先くらいまでを決めて、そこに向かってアプローチしたほうが楽しいと思ったんですよね。
──では、『2020』から『steteco』、そして今回までには、どのような流れがあるのでしょうか。
ろん 『2020』の1曲目“Ungra”という曲のタイトルの元は“アンダーグラウンド”。アンダーグラウンドな音楽と言う意味ではなく、活動当初のum-humの立ち位置を言葉で言うとしたら地下、みたいなイメージです。どのブッキングライブに出ても浮いていて、僕は対バンと積極的にコミュニケーションを取るタイプでもないので、いつも孤立していましたから。あとはコロナ禍の真っただ中ですごく疲れていましたし、作る曲もどんどんパーソナルに、閉鎖的になっていく。まるで地下の駐車場をのたうち回っているゾンビみたいな感覚でしたね。
小田 バンドから、なんか漂っていたんですよ。アンダーグラウンドなにおいが。
ろん そういうヤバい感じも好きなんでけすどね。でも、さきほども話しましたが、もっと宇宙人みたいな得体の知れなさや、宇宙を感じるような曲を作りたいという想いも強くて、それなら「Ungra」(地下)から地球を突き抜けて宇宙へと飛び立つような作品にしようと思いました。そして宇宙が見えてみた瞬間を描いた曲が最後の“space interval”です。
──そして2枚目の『steteco』では、一気にポップな強度が増したように思うのですが、それは地下から出たからですか?
ろん 『steteco』は地球を勢いよく飛び出したあと、ちょっと休憩がてら寄り道してみよう、みたいなイメージだったんです。だから『2020』のようにアルバムとしての流れが決まっていたわけではなく、気まぐれ、フィーリングで曲を作っていきました。そのなかで、全体的にもっとメロディが際立つ曲を作りたいという気持ちはあって、楽器の音を削ぎ落しながら作っていったので、ポップに感じられたように思います。楽器隊の良さを伝えつつ、いかに歌をプッシュするか。
──はい、まさにそうですね。
ろん リズム隊の二人はバックグラウンド的に、手数の多い技巧的なタイプなので苦労したように思いますけど。
たけひろ 確かに、聴いてきた音楽がインスト系ばかりだったので、歌をプッシュするためのアプローチはけっこう難しかったですね。
Nishiken!!! 僕もジャズやフュージョンが好きで、プレイヤーとしてもそっち寄りだったので、歌を際立たせるには手数が多すぎると思いました。だから頭をフラットにして、全部8ビートやシンプルなビートにして、そこからさらに引き算するのか、少し足すのか、そういう発想でアレンジをしていたんですけど、すごく楽しかったです。最近は、もう8ビートを叩きたくて仕方がない(笑)。個人練習では延々と叩いていますね。
たけひろ うん、シンプルな8ビートがいちばんカッコいい。手数で勝負するのって、けっこう日本人的な気がしますね。それこそロバート・グラスパーや、彼の参加するディナー・パーティー(Dinner Party)なども、完全に手数減らして聴かせにいってますし。
──小田さんは歌がフィーチャーされたことで、ご自身に何か変化はありましたか?
小田 私はum-humが最初のバンド/ボーカリスト体験で、それにしてはハードルの高い曲ばかりでなかなか大変なんですけど、『steteco』の曲は少し歌いやすくなっていたような気がします。あとは歌によりフォーカスを合わせたことで、フロントマンとしての意識がめちゃくちゃ変わりましたね。シンプルに責任感が上がりましたし、それによってライブで使うエネルギーも、今までの全力を遥に超えてきて、半端じゃない。それが楽しいんです。
──今度の2枚のEPが楽しみです。
ろん 『steteco』は地下から地球を抜けて宇宙的な世界観のなかで作った作品です。でも、地下のにおいがするum-humも好きだから、そういうドープな側面やパーソナルな遊び心を、それを後半で打ち出した作品でした。その結果「『steteco』の後半が好き」と言ってくれる人もけっこういるんです。
──私も、ドロッとしたサイケの質感とドリーミーなカタルシスの同居する世界観が凄く好きです。
ろん そうやって言ってもらえると、um-humの持つバリエーションやレイヤーが伝わった気がして、抱きしめたくなります(笑)。今回の2枚のEPは1枚で一つのアルバムになるイメージとボリュームのなかで、そういった宇宙的なum-humと深く潜ったum-humの魅力を、これまでとはまた違った今のモードで体現している部分もあって、かなり楽しんでもらえると思います。
──なぜ1枚にまとめなかったのですか?
ろん アナログ盤が好きで、でも今は配信が中心だからA面とB面で裏返せないじゃないですか。だったら二つにわけたほうが、それに近い聴き方ができるんじゃないかと思いましや。
──これからリリースがあって、2023年下半期は忙しくなると思いますが、さらにそこからどんなバンドになっていきたいですか?
ろん 音楽的な方向性についてはジャンルを気にせず足取り軽くいたいし、um-humにしかできないことをやっていきたい。そのマインドはこれからもずっと変わらずあるような気がします。とはいえ、ジャンルやシーン、コミュニティって、確かに存在するじゃないですか。
──はい。
ろん 例えばサブスクで、もともと好きだったバンドの関連アーティスト欄からum-humを好きになってくれた人もいるでしょうし、ファンベースの近いバンド同士が一つの塊として盛り上がっていくこともある。それらのバンドの間に共通した何かがあるという感覚は理解できますし、僕らも少なからずその恩恵を受けている部分もあるから、括られることが嫌だというわけではないんです。
でも、そういう音楽業界のムーブには乗りたくないという気持ちも強いですね。他のバンドと人間的には一緒にやっていこうという意志はあっても、音楽的には違うもの、um-humでしかない後世に残っていくものを、時代やシーンの流れのなかに、傷のように刻んでいきたいと思っています。
小田 今回の2枚のEPはこれまでの集大成。これはリスナーへの問いかけだと思っています。それで反応が悪かったら悔しがってまた必死で作るだろうし、反応が良かったら、きっと楽しくなってまた作る。作品なのでどう思われてもいいんです。私たちは作って問いかけ続ける。その繰り返しだと思っています。
Nishiken!! ワンマンライブをやりたいです。自主企画やブッキングライブの尺だと伝えきれないこともあるので、um-humらしさをしっかり感じてもらえる機会を作りたいと思っています。
Text:Taishi Iwami
Photo:横家暉晋
INFORMATION
um-hum
結成約2年の平均年齢21歳、大阪発プログレッシブR&Bバンド。
1st mini album「[2O2O]」が全国のタワーレコードスタッフが話題になる前の新人をお勧めする「タワレコメン」に選出。
そして、収録曲「Ungra(2O2Over.)」がJ-WAVE「SONAR TRAX」に選出され、TOKIO HOT 100にもランクインするなど、注目を集める。
全楽曲の作曲を手掛ける、ろんれのん(G)はビートルズ、ジャミロクワイ、ロバート・ グラスパー、川谷絵音などを筆頭に様々な音楽から影響を受けるも、その作風は一聴してもルーツが分からないオリジナリティ溢れる作品を作っている。
そして、ジャズ研育ちによる楽器パート3人全員による卓越した演奏と、ジャケットのイラストを全て手掛け、作詞の一部も行い、ライブパフォーマンス時にはイスを持ち込んで座りながらも、観る者の眼を捉えて離さない魅力的なステージングを繰り広げる小田乃愛が一体となって、20年代の音楽を鳴り響かせる!
Vo:小田乃愛
Gt&Key:ろん れのん
Ba:たけひろ
Dr&Samp:Nishiken!!