愛知県出身のビートメイカー・Sweet Williamの作り出す音楽を一言で形容するのは簡単ではない。だが、それを無個性と呼ぶのが完全に間違っているということはわかる。そよぐ風のようにやわらかく、かと思えば腰を揺らす力強いグルーヴがあり、甘く、ほろ苦く、爽やかでいて、気がついたら再生してしまうような中毒性のある……。

そんなえも言われぬ魅惑の音楽を作るSweet Williamが、来年1月31日(水)にニューアルバム『SONORAS』をリリースする。全編インストゥルメンタルの前作『Beat Theme』から約2年半の月日が経ちリリースされるアルバムは、一体どのようなものになるのか。来たる新作を受け取る前に、彼がこれまで生み出してきた音楽の一部を振り返ってみることで、心の準備を整えつつ、その音楽の魅力に迫ってみよう。

唾奇とのクラシック『Jasmine』

まず、2017年のリリースでありながら現在もSNSでバズを巻き起こしており、自分が彼の名を知ったきっかけの1曲でもある“Made my day”を改めて聴いてみよう。Sweet Williamが沖縄を訪れていた際に偶然出会ったという、沖縄でマイペースに活動を続けながら絶大な支持を得ているラッパー・唾奇とのダブルネームアルバム『Jasmine』に収録された本楽曲は、メインのループがピアノのフレーズと混じり合い、2つ目のヴァースの直前の声のサンプルも含め、ささやかでありながら決定的な動きを持つ1曲だ。

唾奇 × Sweet William / Made my day

そして、そういった展開は、当時はまだあまり名前の知られていないシンガーの1人だったkiki vivi lilyを客演に招いた“Good Enough”(『Jasmine』収録)を聴いても感じ取ることができるだろう。唾奇やkiki vivi lilyの声の特色を生かすような音の配置の仕方も巧みだ。

唾奇 × Sweet William / Good Enough feat. kiki vivi lily

Jinmenusagiや青葉市子とのコラボレーション

さらに2018年には、2016年の作品『Arte Frasco』収録の人気曲“Sky Lady”(kiki vivi lilyも参加)などでも共作した、ずば抜けたラップスキルとセンスでインターネットを通じて頭角を現し、どこにも囚われない縦横無尽な活動を展開するラッパー・Jinmenusagiとのジョイント・アルバム『la blanka』をリリース。リード曲“so goo”は抜けのいいスネアと、ところどころで鳴るサスティンの短いハイハット、メランコリックなウワモノがケミストリーを起こしているトラックが病みつきになる。

Sweet William – Sky Lady feat. Jinmenusagi Itto & kiki vivi lily

Sweet William & Jinmenusagi – so goo(Official Music Video)

Sweet William × Jinmenusagi – opium feat. Jin Dogg

リスナーを驚かせたのは、同じく2018年にリリースされたシンガーソングライター・青葉市子とのコラボ曲“からかひ”だろう。余白の多いトラックは環境音やギターのアタック感を鮮明に浮かび上がらせ、青葉市子の儚げな歌声が美しく映えている。エクスペリメンタルな要素を持っていながら、リリースされた8月の夏の夜にぴったりと合うような涼しげな空気と少しの怖ろしさが混在するこの1曲は、Sweet Williamという音楽家の底知れなさを一層強調させた。青葉市子とのコラボはその後も継続され、2019年には第2弾シングル“あまねき”をリリース。2人の相性の良さが一時的なものではないことを証明した。この2曲に顕著なのは、短い音の置き方だ。エフェクティブなものも含めて、あからさまではなく溶け合うように、それでいてたしかな存在感で用いられていて、そこにいくつもの起伏が生まれることで曲は強度を増している。

Sweet William と 青葉市子 – からかひ(Official Music Video)

Sweet William と 青葉市子 – あまねき(Official Music Video)

ここまで読んでいただいてわかったことでもあると思うが、Sweet Williamは個性的なアーティストたちと、ラップ/歌モノ問わず幅広くコラボーレーションしてきた。その振り幅も彼の魅力の一つだろう。ヒップホップ・シーンとポップ・ミュージックの領域に橋を渡す存在と言っても、もはや過言ではない。

Sweet William印のビート集
インスト曲がバイラルヒットを記録

2021年にリリースされた前作『Beat Theme』は客演アーティストなし。全編インストゥルメンタルで、隅から隅までSweet William印のアルバムとなっている。DJプレミアの影響を感じさせるヒップホップ・マナーなインストが中心にありつつも、細かな音の選び方や置き方、動きの繊細さも光り、彼のルーツと進化を感じることのできる多種多様なビート集だ。ちなみに、『Beat Theme』収録の“Please Think Twice”も現在SNSでバイラルヒット中。様々なシーンに合わせて曲が使用されている。

Sweet William – Please Think Twice

新境地からゲストを招いた
Sweet William & KOTA the Friend
“ME TIME”

最後に、直近でリリースされたニューアルバム『SONORAS』からの先行シングル“ME TIME”についても触れておきたい。NYはブルックリン在住のラッパー・Kota the Friendが客演で参加。彼のスムースなラップが、Sweet Williamによる切なげに空間を包み込むトラックと見事にマッチした1曲だ。この曲からも『Beat Theme』とはまた一味違った作品になるであろうことは予想できるし、アルバムから発表された最初の1曲に海外アーティストが参加しているというのも、客演の幅をさらに広げていることの示唆のはず。どちらにせよ、Sweet Williamの存在感をより多くの層に届けるような作品になることは間違いないだろう。個人的には、国内のヒップホップ・シーンの重鎮クラスと組んだ曲も聴いてみたいところだ。

今回は触れることができなかった、色をタイトルにしたEPサイズのシリーズ『Orange』『Blue』『Brown』などもぜひ最新作のリリース前にチェックして欲しい。

Sweet William & KOTA the Friend – ME TIME(Official Audio)

Text by 高久大輝