シンガーソングライター/ラッパーとして活動するクボタカイが、2024年の3作目となるシングル「アルコール」をリリースした。yamaやFurui Rihoの作品も手掛けるknoakがプロデュースしたこの楽曲は、失恋ソングでありながら、ストレス過多な現代社会も描写している。今回は楽曲の制作過程を中心に、アーティスト・クボタカイの現在のモードについて話してもらった。
INTERVIEW
クボタカイ
最近は感情を吐露することが多くなった
──Qeticでは2021年の『来光』リリース時にインタビューさせていただきました。そして今回リリースされた「アルコール」はラップの言葉遊び感がベースにありつつ、音楽性はだいぶ変化した印象があります。まずは、その間にリリースされた2023年のアルバム『返事はいらない』の制作はクボタさんにとってどんな経験になったかを教えてください。
おっしゃられた通り、もともと僕の軸にあったのはヒップホップの制作方法で、トラックに対して、ラップの譜割でメロディを乗せていました。でも『返事はいらない』からギターで作るようになりました。コードを覚えて。Bメロでコード変えていいんだって気づいたり。
──ヒップホップをやってた人がポップスや他のジャンルの音楽を作って、展開を作っていいことに気づくのは、一種のヒップホップあるあるですよね(笑)。
そう(笑)。地面があって僕はこれまでも歩いてたけど、『返事はいらない』で地面について学んだって感じですね。一口に地面とはいってもいろいろあるんやなって。サビは一番気持ちよくならないと、とか。それまで自分がやってた音楽と今作ってる音楽とだと、どうしても言葉数が減るんですよね。そうなると的確な言葉を選ばないといけない。なので『返事はいらない』を作って、自分の中にあったセオリーを崩すことができました。
──なるほど。『返事はいらない』以降、クボタさんの歌にエモーションが混じってきたような気がしたんです。
ちょっとふわっとした話になっちゃうんですが、自分でもそこはちょっと感じていて。たとえば昔の「ベッドタイムキャンディー2号」は状況説明しかしてなくて。《ヒールでずれる2人の距離/アルコール混じりの白い吐息》とか。そこでどう思ったかは特に言ってないんですね。聴いてくれる人が勝手に想像してくれればいいかなくらいの感じだったんですけど、だんだん自分の感情、何を思っているのかを伝えたいと思うようになってきて。良し悪しじゃないと思うし、曲によってどっちもあると思うんですけど、最近は確かに感情を吐露することが多く、また自分自身もそうしたい気持ちが強くなっている気がします。
──言いたいことが出てきた?
はい。昔はシンプルに音楽を作ることが楽しかったんですが、いろんな作品を作って、新たな方法論を学んでいく中で、曲の中に落とし込みたいことが出てきた感じです。
【MV】クボタカイ / ベッドタイムキャンディー 2号
──では「アルコール」はどのように作り始めたんですか?
鼻歌です。フックの《何%の》というラインの言葉とメロディがフッと降りてきて。「これいいな」と思って、ギターを弾きながら作りました。僕、この曲がすごく好きなんです。自分が楽しくなるメロディを思いつけて、そこからどんどん作っていけた感じといいますか。全部の曲がそういうふうに作れるわけじゃないし。
──プロデューサーのknoakさんとは初共演ですね。
僕はFurui Rihoさんの「LOA」がすごく好きで、その曲をknoakさんがプロデュースされてるんですね。そしたらワーナーのチームの方にご提案いただけて。「もう是非是非」みたいな感じでした(笑)。
──実作業はどのように?
僕はこの曲をお酒を飲んだ帰り道に聴いてほしかったので「歩きやすい感じにしてください」とお願いしました。knoakさんにお渡しした段階ではフォーキーな感じだったんです。しかも「だから大人は酒を飲むのです」みたいなネガティブさもある曲じゃないですか。お酒で例えると、デモ段階では芋焼酎の水割りだったのを、カクテルっぽくしていただいた感じ。
──めちゃくちゃわかりやすい。
ほろ酔いになれる感じ(笑)。あとサビはテンションを上げたいとお話ししたら、「ブラス入れてもいいかな?」というアイデアをいただいて。しかもブラスはサビのカウンターメロディになってるんです。お酒を飲んで思い出が出てくるイメージというか。
曖昧にしたいのに逆に色濃くなってしまう感覚
──「アルコール」というキーワードはどの段階で出てきたんですか?
結構最初の段階で出てきましたね。ずっと書きたかったテーマでもあったので。ほんとこの曲はストレスフリーと言いますか。スッと作れました。もちろん直したアイデアもあるけど、割と最初に思い浮かんだ口の気持ちよさを尊重して作れた感じですね。
──前回お話しを伺った時はラッパーという印象を受けていたんですが、現在はそこからもう一歩踏み込まれたような感じがします。
それはほんとにおっしゃる通りです。今自分がすべきはちゃんとしたメロディと、コードを作ることだと思っています。でももちろんヒップホップを忘れたわけじゃなくて。《何%の》と《考えるほど》とか。
──作詞における韻の使い方がものすごく進化していると思いました。
これは僕の感覚なんですが、歌にもドラムパターンみたいなものがあると思っていて、同じ場所に同じ音が来ると気持ちいいような気がするんですよ。あとヒップポップにはリアルという鉄則があるじゃないですか。仮に歌詞の状況がフィクションでも、感情で嘘はつかないようにしています。
──クボタさんはもともとクリープハイプがお好きで、かつバトル出身というプロフィールの持ち主なわけですが、そういったご自身の中にある音楽性がいい具合に融合されてアウトプットできているような気がします。
うわ、嬉しい!
──偉そうで恐縮なんですが(笑)。でも先ほどもおっしゃってましたけど、ラップよりも言葉数は少ないじゃないですか。
そうなんですよ。たとえば《君の名前は短い愛の詩》っていうラインとか。思ってること、表現したい感情をこの文字数に収めるのが結構難しかったです。どんなラブソングよりも君の名前のほうがグッとくるみたいな。ラップだったら細かく説明できるけど、そこまでの文字数はないし。なので、このラインに関してはしっくりした歌詞になるまでかなり考えました。
──確かに愛のささやきとして個人名ほど強いものはないかも。
そこに勝ちたかったというか。音楽をされてない方なら、行動なりなんなりで愛を伝えることができるけど、僕は音楽を作っているので、なんとかその甘さを表現してみたいと思ったんです。と同時に曖昧さも意識しました。生きてるとハッピーな時もあるけど、シビアで冷たかったり、しんどさを感じてる人も結構いると思ってて。なんか今の世の中っていろんなものが鮮明に見えすぎちゃってる気がするんですよ。でも僕はもっと曖昧でいいかなって思ってます。忘れたいこととか、嫌な気持ちを曖昧にしたくてお酒を飲むけど、逆に忘れられなくなっちゃったり、気持ちが色濃くなっちゃったりすることもありますよね。そのジレンマも表現したかったんです。お酒で自分の機嫌を自分でとってる感じ。
──すごく生々しい感情が込められた歌だとは思っていたんですが、こうしてお話しを伺ってるとどんどん解像度が高くなっていきます。
僕、デモを作ってる段階で勝手にMVを妄想してたんです。スナックみたいなとこで、サラリーマンの課長クラスくらいの方が1人でお酒を飲んでて、別れた奥さんのことを回想してるんです。お店には若い子もいて、それぞれ悩みを抱えてるみたいな。最後のサビでそのみんながカラオケを合唱するっていう(笑)。
──あいかわらず音楽のクリエイティブにも積極的ですね。ジャケのイラストもご自身で描かれたんだとか。
はい。iPadを最近ゲットしまして、いろいろ覚えながら描きました。建物を描くのにハマってます。描いてる時は無心になれる。僕は夜の街が好きです。あとさっき言った曖昧さも出したいなと。
──曖昧さって繊細で複雑だから、よりわかりやすさが求められる昨今だと、メッセージとして伝えるのが難しくないですか?
「アルコール」は「あんま背負い込みすぎんなよ」って言う歌でもあるんですよね。
──なるほど。しかしクボタさんはミュージシャンとしてものすごいスピードで成長されている気がします。
それは周りに素晴らしい方がたくさんいるからです。たとえば会議とかでも、「こんな感じ」ってギターを弾いてくださったりするんですよ。こういうのは宅録だと経験できないことなんですよね。音の長短。ベースを止める時に生まれるグルーヴ。そういうのを見て、日々勉強させてもらっています。
──では最後に2024年の目標があれば教えてください。
アルバムかな。今は心のチューニングを変えてるところ。でも基本的には楽しく作りたい。それこそ根詰めすぎず、曖昧さを大事に。ここ数年活動して感じているのは、気持ちをうまくコントロールすると、まず自分が納得できる曲ができるし、しかもリスナーの方たちにも伝わってる感じがするんですよ。僕はヒップホップで育っているので、これからも素直な自分の音楽を表現していきたいです。