8月1日、突如公式SNSやWEBサイトが公開となった、謎の音楽プロジェクト「INF(アイエヌエフ)」。公開されている情報にはアーティスト写真やプロフィール記載などが一切なく、現時点で明らかとなっているのは、キングレコード内で2023年に設立されたレーベル〈HEROIC LINE〉から、8月27日に1st DIGITAL SINGLE“DAWN“をリリースするということのみだ。

「夜明け」という意味を持つタイトルの同曲は、四つ打ちを軸としたビートに、不思議な魅力を放つ低音ラップ&ボーカルが融合したダンスミュージック。INFはこの曲で本格始動し、テクノ/ハウス/エレクトロのジャンルを軸とした世界基準のデジタルサウンドを届けていくという。今回は謎多きINFのヒントを探るため、プロジェクトのコンダクターである、その名も“F”に話を聞いた。

Interview:F(INF)

【INTERVIEW】 INF|INTERNATIONAL FUCKIN’ AWESOME interview240826-inf2

ジャズの系譜を歩んできた先で、
辿り着いた「テクノ/ハウス」という新境地

──いろいろと謎の多いINFとFですが、まずはその名前の由来を教えてください。

私は元々「8」という数字にジンクスがあって、ふと8を横にしたら無限=INFINITYで、その略はINFだなと。さらに、IN“F”かと。音楽的な話をすると“F”は調号がフラットひとつで、ジャズプレイヤーがセッションをするときなどに最もスタンダードなキー。例えば「“FLY ME TO THE MOON”を何のキーでやる? Fか」みたいな会話が、JAZZ界隈ではよくあるんです。

自分がブルースのプレイをするときに最も得意なキーも“F”で、キーIN“F”とも言うので、それもいいなと。あとは日本で成功した上で海外でも活動したいので、“INTERNATIONAL FUCKIN’ AWESOME”=「世界的にクソやばい」音楽を作りたいという意味も込めています。

──そのFはジャズ・ボーカリストとしてキャリアをスタートさせて、ここ10年はバンドからソロまでさまざまな形で自身の音楽を表現してきましたが、今のお話の中に出てきた「海外でも活動していきたい」と思うに至るきっかけが何かあったのでしょうか?

日本のミュージシャンが「日本のマーケットはダメだね」とか言うのをよく聞きますが、自分はあまりそう言いたくなくて。シンプルに自分のやりたい表現を考えたときに、海外のほうが感じるリズムも含めてハマりがいいのかなと。

US西海岸のダウンタウンにある老舗の店に友人が連れて行ってくれたときに、オープンマイクで2人のジャズマンがギターとピアノの弾き語りでスタンダードでプレイしていて。その友人が「日本からジャズマンが来たからやらせてくれない?」と言ったら、「じゃあブルースをやるか。キーはFか? 歌はやるか? いいじゃん」みたいな感じで、急遽ですが一緒に2曲ほど演奏しました。

MCはできなかったけれど、歌った途端に大盛り上がりで、そのときに自分の居場所を感じたんです。例えば日本だとジャズやスタンダード・ミュージックに古いイメージを持つ人が多いので、盛り上がるのはなかなか難しいけれど、海外だと若い人も一緒になって盛り上がれるのが素敵だなと。その出来事は強烈にくらったし、生きた心地がしました。

──世界に目が向くきっかけとなる出来事がLAであったと。それもふまえてFにとってINFの音楽は、自身がこれまでやってきた音楽とはスタイルがだいぶ異なるそうですね。

私はこれまでロックンロールもヒップホップもジャズも、ずっとバックビートでした。基本的にバックビートを強烈に感じられるスイングの音楽と、そこからの派生。ただし今、「レイドバックを1拍と2拍の間でずっと続けていくとどうなるのか」というのが、自分の中で答えのような気がして。聴き心地と興味関心も含めて、頭拍の音楽がクソ面白いと思い始めたのが今です。

最近は抑揚のあるバックビートの強烈な音楽を聴かなくなり、プレイするのに鮮度を感じられなくなっていました。今はテクノやハウスという音楽に対して強烈に惹かれていて、深く掘るとその音楽性もジャズの延長線にあると思います。自分と呼吸が合う、スイング感が強烈な盟友のジャズドラマーにこのことを話したときに、「やっぱりそうなったか」みたいな反応でしたね。

私のことを昔から知る人がいれば、INFの音楽は意外かもしれませんが、自分としては真っ当なジャズの系譜を歩んでいるだけなのです。バックビートをあえて感じさせない音楽が、ジャズに聴こえてきた──それはもうギフトでしかないのかなと。自分としてはINFの音楽をやらされているわけではなく、自分の心の赴くままに、やりたくてチャレンジしているのは確かです。

「INTERNATIONAL FUCKIN’ AWESOMEだね」
と言える曲とライブパフォーマンス

──INFは基本的に、サポートメンバーを加えた3名の体制で活動するそうですね。

サポートメンバーに関してはまだ明かせませんが、最近とりわけ近しい間柄でいろいろなライブや音源も共にしていて、自分が影響を受けているふたりです。必然的な流れでそのふたりとやることになりましたが、あくまでもINFはバンドではなく、Fのソロプロジェクトです。

──INFは8月から本格始動ということで、まずは8月27日に1st DIGITAL SINGLE“DAWN”がリリースされます。この曲の制作はどのような流れで進めましたか?

自分としてもINFの曲のイメージはありましたし、サポートのふたりもビートを作るので、デモを15〜20曲ぐらい出し合って、レーベルの方も含めて話し合って決めていきました。

“DAWN”はサポートのひとりの作曲で、最終的なアレンジメントはFです。そのサポートはピアニストでもあり、歌心という部分をよく考えている人で、Fが歌ったらハマる曲をデモで上げてくれる。なおかつデモ段階の仮タイトルが“DAWN”で、夜明けという意味もINFのスタートにふさわしかったんです。当初はもう少しクラッシュしているようなエイトビートでしたが、四つ打ちにしたらどうかという話になり、整えてみたらハマってあの曲ができました。

歌詞で言うと、INFはダンスミュージックをやろうという話ですから、自分の人生だったり個人的なことだったりはお客さんを振り向かせるポイントではないので、あくまで抽象的かつ普遍的なことを書きました。発声に関しても、自分はこれまでレイドバックするジャズボーカルマナーのボーカリゼーションだったので、よりフラットに声色も変えて歌うチャレンジではありましたね。

@inf__official

2024.08.27 1st DIGITAL SINGLE 「DAWN」

♬ オリジナル楽曲 – INF_OFFICIAL

──先ほど四つ打ちに変更してと言う話がありましたが、サウンド面の特徴を、自身のこれまでのスタイルとの違いなども含めて、もう少し詳しく教えてください。

自分的に生で演奏するということにやや飽きていたので、動作としては生ですが、基本DTM。電子機器を使った何かということですね。例えばバンドだったらドラムを録って加工するとかはありましたが、元々ある電子なり波形をそのままバスドラにする、みたいなやり方は初めてです。“DAWN”に関しては、とにかく電子音楽であることを大事にして作っていきました。

──冒頭にもあるようにINFというプロジェクトはFの存在も含めて謎が多いわけですが、様々なことを伏せた上で、シンプルに音楽で勝負しようとする気概を感じます。

東京に出てきて、この10年でバンドやソロなどいろいろなことをやってきましたが、今すごく楽しいですよ。そして振り返って思うのは、これまでは傾(かぶ)いているようで、やはりどこか枠に囚われていたのかなと。その枠の中で、頑張っていた。音楽という芸事を生業にするとか、本当の意味で傾くのは今からなのだと思います。ようやく一筋の光が見えてきましたし、やらされている感覚もない。自発的にこういう音楽をやりたいと思って、今はやれています。

DAWN / INF(Official Music Video)

──“DAWN”以降のINFの動きはすでにイメージできていますか?

“DAWN”以外の曲も絶賛制作中なので、9月以降も次々とシングルカット級の曲をリリースして、年内にはINF、そしてFの全貌がわかるようなライブを開催したいと思います。

──曲のリリース時に、MVなどで顔見せ、みたいなこともないですよね?

ないですね。音楽だけで勝負するっていうのが本来の姿ですし、その力試し的な感じも今は楽しい。音楽だけを作っていればいいんなだと。あくまでも自分はジャズマンですし、今回のINFには自分がやってきたことのエッセンスはもちろん出る。その上でジャズマンがテクノやハウスをやったらどうなるかという新しいチャレンジなので、大事に、派手にやっていきたいですね。

──最後に、Fが思い描くINFのこの先のストーリーを教えてください。

みんなが「INTERNATIONAL FUCKIN’ AWESOMEだね」と言えるような曲とライブパフォーマンスを披露して、日本のマーケットでしっかり結果を残した上で、来年からは本格的に海外でやるチャンスをゲットしたいなと。日本、そして海外のフェスにも出たいですね。今、楽器を触り始めたキッズなような心境です。さまざまな面倒なことはひとまず置いて、興味関心のある音楽を掘って、やりたい音楽だけをやって、フェスに出たいとか。今までそういうことをあまり思ったことはなかったけど、Fだとシンプルにそう思えるのがいい。キッズです、Fは。

Interview&Text by ラスカルNaNo.works

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DAWN

2024.08.27(火)
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