砂原良徳、LEO今井、白根賢一、永井聖一による4人組バンド・TESTSETが2作目のEP『EP2 TSTST』を10月9日(水)にリリースした。昨年1stアルバム『1STST』をリリースし、バンドとしての一体感を強めた彼らが、一度固まりかけた「TESTSETらしさ」に止まらず、新たなフェーズへと移っていく過程を記録し、各々の個性がより顕著に表れた挑戦的な作品となっている。10月20日(日)にZepp Shinjukuで行われるワンマンライブも控えたTESTSET、今回はメンバーの砂原良徳と白根賢一に話を訊いた。
INTERVIEW
TESTSET
“Sing City”は僕ららしくない曲
──まずは昨年のアルバム『1STST』がリリースされて以来、制作面ではどのように動いていましたか?
砂原良徳(以下、砂原) 日常的にデモみたいなものをなんとなくメンバーで回している状態なんですよね。ずっとやろうと考えているわけじゃないですけど、とりあえず常に制作状態のものが共有されているんです。
──特定の誰かからスタートすると決まっているわけではないんですね。
砂原 EPとかアルバムとか、そういう旗が立ったら誰かが何かを始めて。LEOくんが一番早いかな?
白根賢一(以下、白根) うん、永井くんも早い。
砂原 まぁ僕は一番遅い(笑)。というか、全然出てこない(笑)。
白根 大御所だからね。それで「みんな出せ!」みたいな(笑)。
砂原 いや、大御所とかじゃないんだけどさ(笑)。彼(白根)の方が大御所。
白根 歳だけはね(笑)。
──いくつかの過去のインタビューでは、砂原さんが最後に全体を見る役割を担っていると話していましたね。
砂原 TESTSETを始めたときからそうなんですけど、いろんなことのバランスの調整をやりたいとは思っていて。それは楽曲だけじゃなく、例えばジャケットのデザインやライブのときに流す映像、グッズとか全部含めて、バンドのトータルのバランスを見る仕事。それを言い訳にして出すのが遅いっていう(笑)。ただ、音に関してはマスタリング作業やミックスダウンなどをやることが多いので、そういう意味で全体のバランスを見る必要もあります。
──ちなみに取材している時点では先行シングルの“Sing City (Edit)”のみがリリースされている状態です。すでに反響は届いていますか?
砂原 いや。まだあんまり僕らがバンドをやっていることを知っている人がいないのかなって(笑)。
白根 反応以前にね(笑)。
砂原 バンドの日が浅いというのもありますし、僕たちは若者のバンドじゃないですから。若者のバンドってやり始めるとブワーッとエネルギーが放出されている感じがあるじゃないですか。僕たちそれなりにライブやったり制作やったりしているんですけど、なんせそれなりの年齢なんで、そういう「やってますよ」っていうオーラがあんまり出てないんじゃないかな(笑)。
白根 出てませんか?(笑)
──十分存在感があると思いますが(笑)。ちなみに“Sing City (Edit)”を先行シングルに選んだ理由はありますか?
砂原 「1曲だけ先に配信しましょう」という話になったんです。“Sing City”に関しては、いろいろデモがあった中でLEOくんが「この曲はちょっとTESTSET向きじゃないんだけど」と提出してきたんですけど、聴いたら意外性も含めて「こういうことをやってみてもいいかな」と思ったんです。ちょっとお試し的な意味合いでね。それでわざと僕ららしくない曲を選んでみたんです。
──「TESTSETらしくない」という自覚があったんですね。
砂原 これまでやってきたことを考えるとらしくないんじゃないかな。許容範囲だとは思うんですけどね。
──“Sing City”は爽やかさもありますが、歌詞も含め、ノスタルジックな感覚になる1曲で、たしかにこれまでのTESTSETにはなかったものかもしれません。1stアルバムのジャケットが自然の地形を用いたのに対して今回は人工的なもの(都市や車)になっていますよね。
砂原 人工、というか日常ですよね。別に毎日起きていることで、今も日常としてあるんですけど、子どものときにそういうときの印象を強く受けたりしているからなんとなく昔のことを思い出したりしちゃったりするという。そういう意味ではコンセプトはこれまでとちょっと違うかもしれないです。
あと“Sing City”は、フルで日本語というのが初めてで、それも「らしくなさ」としてあるかもしれない。メロディーやコード進行もこれまではもっとヨーロッパやアメリカの音楽の影響を強く受けたものの方が多かったですけど、これはちょっと東洋っぽさもありますよね。あと曲の構造が割とトラディショナルとも言えると思うんです。だからそういう意味でのノスタルジーでもある。
白根 砂原さんがトラックの要所に散りばめている共通言語のような80年代の感覚も個人的には感じていて。それはあくまで僕ら世代の血であり、肉であり、時代に関係なくずっと永久的に憧れている音なんです。
──なるほど。過去のインタビューでは「砂原さんと白根さんはテクノ/ニューウェーブおじさん」とLEOさんが話していたのが印象的でした。
白根 若い2人(LEOと永井)が90’sのロック好きおじさんで、僕らがテクノ/ニューウェーブおじさん(笑)。
砂原 彼ら若い方の2人はほぼいっしょの年齢で、ここ2人もほぼいっしょの年齢だからね。見てきた景色に共通項が多いですから、どうしても好みのムラがバンドの中にあるんです。
砂原 もちろん彼らもニューウェーブもテクノも知っているけど原体験じゃないですもんね。僕らは原体験だから。こういうことを話すときにいつも言うんですけど、例えばビートルズが大好きですごく詳しい、ビートルズが活動をやめてから生まれた人と、実際にビートルズが活動していたときにビートルズを見た人にとっての体験って僕は全然違うものだと思うんです。活動しているときに見たり聴いたりしているのとは意味が全然違いますよね。
白根 ライブで生音で浴びているという違いもありますよね。五感を使った体験。そういう原体験は、レコードを聴いて得たものとは違うかもしれない。
バンドのセンスは「歪さ」に宿る
──“Sing City Edit)”をはじめ、今回のEPでは方向を変えていこうという意識があったんですか?
白根 まだやっていないこと、まだ試せるものがあるんじゃないかと個人的には思っていて。今はそれぞれが無責任に曲を投げている感じなんです(笑)。でもそれを最終的に砂原さんがトータルでトラックの音を見てくれているから、そこでアイデンティティが保たれているというか。だからまだまだいろんな種類の曲が生まれるんじゃないかな。
砂原 今回はそういう意味では4曲ともバラバラですよね。アルバムを出すとフィジカルも作るからもう少しまとまっていないといけないんだけど、『EP2 TSTST』は配信だけだから気軽な部分もあって。「こんな感じで制作しています、今こんな感じです」という現状報告のような作品かな。
──1stアルバムと比べ、今回のEPは4曲それぞれに個性が出ている印象でした。
砂原 METAFIVEの流れもあって始まったバンドだったから、継続して聴いてくれている人もいると思い、1stアルバムはある程度想定の範囲でまとめていくのがいいのかなと思っていましたけど、もっと歪な部分があってもいいのかなと思っていて。どんな歪さを出せるかがバンドのセンスだと思うので、それを良い感じにできたらいいなとは思ってますね。
──1stアルバムでTESTSETとしてのアイデンティティを固めたわけではなかったということですね。
砂原 そうですね。まだアルバム1枚と4曲入りのEP2つしか制作していないので……まだわかんないよね?
白根 砂原さんが覚えているかわからないけど、「作品は途中経過で、ライブでやって初めて曲が完成する」と最初の頃に言っていたのを僕はずっと覚えていて。結局、曲が育ったり、熟成されるのはやっぱりライブなんだろうなと。ライブバンドとして作品は一つのきっかけに過ぎないという。
砂原 昔はアルバムとかの制作物が終着点で、ライブはそれのお披露目会のような考え方だったんです。でも、今は最終形がライブで、作品はライブの前の予告というか、メニュー表のような要素が強いかな。ライブでは映像もあって、演出もあって、いろんなものがそこに集約されていて、総合的な表現になっていますよね。
白根 いろんな角度があってね。
砂原 もちろん配信で聴くことも、フィジカルを買って聴くことも体験ですけど、体験の濃さという意味ではライブの方が全然大きいんじゃないかな。
──まだ固定していない、現状でのTESTSETらしさをあえて言葉にするならどうなりますか?
白根 最初はちょっとプロジェクトっぽい感じがしていたけど、ライブと制作物のやりとりでバンド感が出てきて、自分のバンドの一員としての自覚やモチベーションが大きくなっています。ライブが思っている以上に毎回違うから、意外とお互いの音を聴いてすごく触発されるんですよね。本当に毎回違いますよね?
砂原 そうだね、出来のクオリティーも毎回違うし(笑)。
白根 同じセットで同じトラックなんだけどね。少なくともカラオケに合わせて演奏するバンドではないなって。すごく有機的。本当に自分だけでは到底辿り着けないところに行ける日もあるし、もちろんそうじゃない日もあるんだけど。
砂原 創設当時よりももっと前、それこそMETAFIVEの後期くらいから、なんとなくLEOくんと僕の中で持っている要素が繋がり始めたんですよね。インダストリアルっぽい感じやダンスっぽい感じにちょっとロックやファンクのテイストが入って、というイメージ。それは未だにあるんだけど、TESTSETをやっていく中で想定していなかったことがいろいろ出てきて。まだ自分たちのことをわからない部分の方が多いんだろうなとは思っていますね。次にアルバムを作ったときにどういう変化があるのかなっていう期待というか、どんなものができてくるのか未知の部分が大きい。
それに、もうMETAFIVEよりもTESTSETの方がライブの本数が多いんです。だから、バンドらしいというか。これはアイツの担当で、こういうところは誰が気にしてくれているとか、そういう役割のようなものがはっきりしてきたし。「こういう感じだったら賢ちゃんはこう叩くよね」とか、みんなそれぞれが理解してきている。それもあって最近はステージ上のフォーメーションも変えたりして、やっとバンドとしてはある程度固まった感じがしますね。
──以前は元METAFIVEの2人がフロントにいた形で、現在はLEOさんと永井さんがフロントに立つフォーメーションになっていますね。
砂原 ライブの中で動きが多かったり、声を出す場面の多い人たちがセンターとか前にいた方が良いっていう、すごくシンプルな理由で変えました。永井くんは1stアルバムでは1曲しか歌っていなかったですけど、もうちょっとそういうことをやってくれるかなと僕は思っていて。彼ら2人を真ん中に置こうというのは僕の頭の中ではずいぶん前からあって、そのタイミングを見ていて、そろそろいいかなというときにそんな提案をしたんです。あの2人を対比で見ていると良いんですよ、全然違うから(笑)。
──今作では“Yume No Ato”で永井さんが歌っています。砂原さんの目論見通りだったんですか?
砂原 たまたま自分で歌う曲を作ってきて自分で歌ってくれるってことだったんで、自分の中では永井聖一のデビュー曲っていう位置付けですね(笑)。バンド内デビューです。前のはプレデビューで、今回が本格的なバンド内デビュー(笑)。
──永井さんからの提案だったんですね。
砂原 だったと思うんですね。入ってきたとき、それこそMETAFIVEの特別編成のときもコーラスとかやってたよね?
白根 やってたね。
砂原 そういうのを積極的にやってくれるんで、「ならやってよ」と。やってくれるならどんどんやって欲しい。永井くんが歌う曲、LEOくんが歌う曲、もしくは片方がハモっている曲で、火のついた爆弾を投げ合うようなフォーメーションをライブで見せたいんです。それこそMETAFIVEの“Don’t Move”のLEOくんと幸宏さんはそういうところがあったと思うんですけど、そういうフォーメーションってバンドの良さだと思うんです、少し隙間の空いたところにフッと別のメンバーが入って、また元の位置に戻ったり、そういうのが僕は良いなと思っているんですよね。だからああいう見せ場があるような曲は作りたいなと。
──“Yume No Ato”はトラックも永井さんらしい1曲ですね。
砂原 ミックスの時に「高野寛さんぽい」って誰かが言っていて。僕がオケを作るときに高橋幸宏の影響っていうのは捨てきれないわけですけど、それに永井くんの歌が合体したことで高野さんぽくなっているんじゃないかっていう分析をしていたんです(笑)。
ライブの中で「バンドの正体」に気づく
──ここまでお話を聞いてきて、やはりTESTSETの核にはライブを重視する姿勢が強烈にありますよね。
砂原 歳を取ったせいか、体験の価値というのはすごく強いと思っていて。いくらモノを所有しても自分と一体化できないじゃないですか。例えばフェラーリが大好きで、フェラーリの中に埋め込んで欲しいってくらい好きでもフェラーリと自分は一体化できない。でも体験は自分と一体化できる。だから体験の方が価値があるだろうなと。比較するのもどうかと思いますけど、体験こそが財産というか、自分の中に溜まっていくのは体験だけなんじゃないかな。若い頃はあのレコードも欲しいしこれも欲しいし、自分のところにとにかく置いておきたいという想いがありましたけど、今はレコードが全部燃えてもいいです(笑)。本当に最初に聴いたときの「うわっ!すげえ!」という感覚こそ価値で、それがたとえ金額的に20万円で取引されるようになっても、その体験には勝てない。20万円払っても、そのときと同じ気持ちにはなれないですよね。
白根 しかもその感覚って自分しかわからない。
砂原 どうしてもお金では買えないレベルのものなんです。最初の「うわっ!やべえ!」っていう感覚は。
白根 説明できないしね。
砂原 そう。ただ似たような経験をして似たような時期にして、似たようなジェネレーションだとまあなんとなくわかる部分はあるんですけどね。
──やはり原体験、初期衝動が今の活動まで繋がっているんですか?
砂原 僕はそうかな。でもね、歳を取ったらそういうことが一切なくなるわけでもないけど、今はテクノロジーの進化によって今まで見なかったようなことがすごいスピードで更新されていくから、刺激慣れという部分はどうしてもありますよね。例えばAIで作った映像を見て驚いたりとか。2、3年前だったら、「これやばい!」と思ったけど、少し時間が経ったら「AIでしょ、普通だよね」くらいになってしまう。その中でやっていく難しさはある。だから価値というものを考えるときに、「新しい」ことだけがその価値になっているとしたら、それってそんな大したことないというか。だって時間によってその価値は失われていくわけですから。けれども、「新しい」ことだけしか価値のないモノが世の中に溢れているような気はしますね。
──直近では10/20(日)にZepp Shinjukuでのライブを控えています。
砂原 我々は映像を使ってやる曲が多いから、あのバキっとしたLED(※Zepp Shinjukuには360度LEDビジョンが設置されている)でやりたいというのが今回のライブの理由の一つですね。これまでと全然違うことをやるわけではないですけど、自分たちが表現したいことを明確にできる場所なのかなと思っています。スクリーンが良いところでやりたいとは常々思っていたんですよね。
白根 その景色はまだ観てないんで、自分が360度の映像を見ながらライブするという体験をしてみたいですね。
砂原 そう、こっちからもスクリーンが見えますからね。いつもは後ろにスクリーンを背負う形だからあんまり見えない。
──観客は映像を見ているTESTSETのメンバーも見れると。ちなみにメンバーの皆さんはそれぞれ他のグループやソロ(DJ)などでもステージに立っていますが、TESTSETのステージとの違いはありますか?
砂原 最近の僕は主に1人のDJだから、他の人が入ってくることってほとんどないんです。なのでTESTSETをやる中でコミュニケーションが必要になってくるのは全然違うことですね。影響されるんですよ、やっぱり。例えば「あ、今日の俺、全然ダメだ」ってときでも、周りのみんながバシッとしてくれているとだいぶ助かったりする。
白根 その逆もありますからね。
砂原 だからそういうことが知らない間に今日いない2人も含めて起こっているのがTESTSETのステージで。思った通りにいくことなんか100%ない。すごく細かいところかもしれないけど、想定外のことは必ず起きるんです。
白根 ライブは思い通りにならない。だから良いと思うんですよね。もちろんセットリストがあってその順番通り曲を演奏するんだけど、結局お客さんが体感するのと同じように我々も体感している。そこには一つの「曲」という共通言語があるだけであって、毎回演奏も変わってくる。ただ届けているだけじゃない。受け手側、送り手側で分かれていなくて、僕らも体感しています。
砂原 あと個人個人のコンディションもそれぞれあるんだけど、それが全部集まったバンドのコンディションというのが存在しているよね。
白根 一個の塊としての別人格というか、第5の人格というかね。
砂原 それがバンドの正体だと思っているんです。
白根 そこに通じているときってエゴがない状態というか。たぶん良いライブってそういうときなのかもしれないですね。こういう風に歌わなきゃ、こういう風に届けなきゃとか、そういうのもなくなるとき。滅多にないけど、それが本当にバンドの正体かもしれない。
砂原 僕はそうだろうと思っています。近年の活動の中でも、今はこうしてバンドでライブをしているから、そういうことが自分の中でより明確になってきた感覚はあります。
──「良いライブだ」というのはどの時点でわかるんですか?
砂原 実はやっている最中は「自分はこう思っているんだけど見え方は違うのかも」と思っていたりするんです。自分では「今日は良かった」とは言い切れなくて、「今日良かった?」って周りに聞いちゃう。あとは終わった後でメンバーの顔を見たりスタッフと話して、それでやっと「ああこうだったんだ」とか「今日良かったんだ」とわかる感じ。やっている最中の自分のバンドの状態を評価する自分はあんまり信用できないですね。だってわからないことの方が多いから。
──観客の表情もあまり関係はないですか?
砂原 そういう問題でもないんですよね。だから非常に難しい。
──原体験の話で言えばTESTSETのライブも誰かの原体験になる可能性がありますよね。
白根 そうなればいいですよね。
砂原 自分たちがそういう場面を作れるかどうかっていうことよりも、自分たちが昔観た幸宏さんのライブで経験した「やべえ!」っていう感覚、無論それには及ばないかもしれないけど、そんな感覚は味わって欲しいから、いろんなことを考えては実践していますね。
──今後さらにライブの数は増やしていくんですか?
砂原 要請があったらいっぱいやりたいですね。10月に中国に行ってライブしますけど、中国に限らず、アジアの他の国でも機会があればやりたいです。
白根 声が掛かればどこでも行きます!
──遠征してライブをするとさらにバンド内の関係性が変わったりもしそうです。
白根 喧嘩したりしてね(笑)。
砂原 「アイツいらねー」とか言って(笑)。でも「アイツいらねー」と言えるほどメンバーがいない。1人いなくなったら難しいからね(笑)。