Tempalayとしての活動やソロライブを精力的に行いながら、2児の母として日々を過ごすシンガーソングライター/トラックメイカーのAAAMYYY。最新作『THANKS EP』は、妊娠・出産を経た彼女のリアルな日常と、その中で見つめ直した“創作”と“人とのつながり”が、全編を通して反映された作品だ。
子育てによる時間的制約、心身の変化、家族や周囲への感謝の気持ち──そうした感情を抱えながら、時には寺にこもって制作に向き合った経緯や、chelmicoや鎮座DOPENESSとの共作エピソード、パートナーに向けた楽曲「救世主」に込めた想いまで、本作にまつわるさまざまな背景を語ってくれた。
INTERVIEW
AAAMYYY

「“全部を自分で抱え込まない”というスタイル」
──今回の作品『THANKS EP』には、妊娠・出産の影響が色濃く表れています。まずは、ここ最近の心境や近況、この作品が生まれるまでの流れについて教えていただけますか?
AAAMYYY:昨年はTempalayの活動も多かったですし、自分のライブもあって、かなりライブ中心の1年でした。その合間での制作だったのですが、長女の保育園のお迎えがあったり、土日は預けられなかったり、なかなか制作に集中できる時間が取れなくて。ゼロからトラックを作るには、やはり“余白”の時間が必要でした。一人でぶらぶら歩いたり、ぼーっとしたり、ゆっくり休んだり。そういう“何もしない時間”が、実はすごく大切なんだなと改めて感じましたね。
しかも子育ては、毎日ずっと続いていくものじゃないですか。この先どうやって制作と折り合いをつけるかを家族と相談していたのですが、7月にビルボード大阪でライブがあった際、「そのまま関西に滞在しちゃえば?」と提案してもらったんです。それで、大阪在住のバンドTAMIWのメンバーが持っているお寺のスタジオに1週間こもらせてもらいました。その間、子どもは家族にお願いして、いろんな曲の原型を作ることができたんですよね。他のアーティストに提供した楽曲もいくつか生まれたし、自分でも驚くくらい久しぶりに「たくさん作れた!」と思えました。
──今回のEPは、コラボレーションの多さも印象的でした。“一人で作るのではなく、いろんな人の力を借りて作る”ことが、一つのテーマだったのかなと感じたのですが。
AAAMYYY:最初は単純に時間が足りなくて、人の力を借りざるを得なかったんですけど、そこから“全部を自分で抱え込まない”というスタイルが自然とできていって。結果的に、それが作品全体のテーマにもつながった気がします。
──歌詞にも、感謝や愛があふれている印象を受けました。それと同時に“変化”や“成長”、さらには“人生の旅”や“終わり”といった視点も感じられて。そのあたりは、お子さんを育てる中で芽生えた感覚だったのでしょうか?
AAAMYYY:それはすごくありますね。特に「拝啓生きとし愛おしきあなた」は、その気持ちが色濃く出ている曲です。たしか書き始めたのは、第一子が生まれて1年か1年半くらい経った頃。初めての出産で右も左も分からず、目の前の状況をどうにか乗り越えるような毎日で。睡眠不足もすごかったし、“この子の命を守らなきゃ”という感覚が常にあって。
自分がちゃんと見ていないと、生きていけない存在がそばにいる。その事実が、ものすごく重くて……。栄養や睡眠環境にも神経質になっていたし、悪夢もよく見ていました。そういった心の状態が、そのまま曲に出ていると思います。
──〈いつかは必ず来るさよならの時はできるなら/ありがと愛してるって笑ってたいからさ〉という一節が印象的でした。育児や日々の忙しさの中でも、人の死や人生の終わりに思いを馳せるような感覚が込められている気がします。
AAAMYYY:もちろん、今一緒に生きている子どもへの思いが一番にあります。でも同時に、これまでの時間がどんどん遠ざかっていくような感覚もあって。
──というと?
AAAMYYY:たとえば、以前は気軽に行けていた飲み会も、今はそう簡単には行けない。昔は(小原)綾斗たちと朝までどうでもいい話をして笑い合っていたけど、その時間があまりにも当たり前すぎて、「今日は行かなくてもいいか」なんて思えていたんですよね。
でも出産して育児が始まってから、ふと「ああ、またああいう時間を過ごしたいな」と思うようになりました。思い出がじわじわとよみがえるというか、「あの瞬間、すごく楽しかったな」「またみんなに会いたいな」って、気持ちの向け方が少しずつ変わってきた気がします。

「自分が苦しくなるような“正しさ”からは、ちゃんと距離を取っていい」
──第一子と第二子で、気持ちの違いもあったのでしょうか?
AAAMYYY:まず、心の余裕がまったく違いました。1人目のときは“理想の母親像”みたいなものを自分の中に抱えていて、それに近づこうと必死で頑張っていたんです。
でも、思った通りには全然いかなくて。産後って記憶力や集中力が落ちたりすることがあるんですよ。私も実際に忘れっぽくなったりして、「なんでこんなにできないんだろう?」って自分でも信じられない状態が続いて……。
──それが産後うつを引き起こすこともあると聞きました。
AAAMYYY:まさにそうです。パートナーに強く当たってしまうようなこともありましたね。「私ばっかりやってるのに、なんであなたは?」みたいに、つい比べてしまう。その差を埋めようと無理に“対等でいよう”として、でもそれってすごく不自然なバランスじゃないですか。結果的に、相手を責めるような言い方にもなってしまうし、攻撃することで自分の“正しさ”を確認しようするのは、自分を守るための本能みたいなものだったのかなと。
──子育てをされている人たちで、AAAMYYYさんのお話に共感する人はきっと多いと思います。
AAAMYYY:あと、当時の自分は“社会的な正解”みたいなものにすごく囚われていた気がしますね。さっきも言ったように、いわゆる“古き良き母親像”、。“こうあるべき”という価値観を無意識に引きずっていたんですよ。今はもうまったくそう思わないですけど。
もちろん、理想を持つこと自体は悪いことじゃないと思います。大事なのは、自分が苦しくなるような“正しさ”からは、ちゃんと距離を取っていいんだということですね。
──子育てを通して、他に何か気づいたことはありますか?
AAAMYYY:“人に頼ること”が自然とできるようになったことです。もちろん、ご迷惑をかけている面もあるとは思います。が、まわりの方が本当に優しく受け止めてくださっていて。ありがとうって思う瞬間が、毎日の中にたくさんあるんです。日々、感謝の連続というか。
──その感覚は、「リラックス」の歌詞にも表れていますよね。〈なんといってもこればっかりは/お陰様お互い様〉とか。
AAAMYYY:あれは鎮座DOPENESSさんが考えてくれたリリックなんですけど、本当に象徴的だなと思いました。言葉にしなくても、こっちの大変さをちゃんと汲んでくれていて、さりげなく寄り添ってくれるような。鎮座さんならではの優しさが詰まっていて、リリックを読んだとき本当に感動しましたね。
──先ほど、お寺にこもっていた時期の話をしてくれましたが、お子さんが2人になって、日々の生活の中で制作時間を作るのも大変ではないですか?
AAAMYYY:ほんとにそうですね。今回のEPのリリックがしっかり書けたのも、お寺合宿とは別に、実はお正月の5日間だけもらえた“ひとり時間”があったからなんです。12月末から年始にかけて、家族や周りの人にお願いして子どもを見てもらって、その間は家でのんびり過ごしてました。銭湯に行ったり、サウナに入ったり、サウナのテレビで箱根駅伝を観たり(笑)。「HAPPY」のリリックも、実はそのお正月のタイミングで浮かんだんですよ。実家に子どもを預けて草津温泉に1人で行って、雪景色を見ながら温泉に入ってたら、「あ〜最高!」って、やっと力が抜けて。その瞬間にリリックがどんどん湧いてきて。
世の中って「どれだけ頑張ったか?」が評価されがちだけど、「ちゃんと休むこと」「自分を緩めること」も同じくらい大事なんだなって、そのとき強く感じました。まわりを見ていても、そういうのはわかってるのに、忙しさに流されて自分を追い込んでしまう人が多いなと感じます。頑張りすぎてうつになってしまったり、自分を責めたり……。そんな人たちに向けて、「セルフケアしていいんだよ」「自分を大事にしていいんだよ」「あなたは幸せになるに値するよ」という気持ちを込めたのが「HAPPY」のリリックです。
AAAMYYY – HAPPY feat. chelmico [Official Music Video]
──この曲はchelmicoさんの普段の楽曲とはまた違ったテイストで、とても新鮮でした。お二人の新しい一面も引き出されていて、異色だけど印象的な1曲だと感じました。AAAMYYYさんご自身の楽曲としても、これまでにない浮遊感や明るさがあったように思います。
AAAMYYY:この曲のトラックは、お寺での合宿の時に作りました。これまでの自分の曲は、どちらかというと暗めで単調なものが多かったので、「もっとアゲアゲな曲もあっていいよね」という気持ちがあって。そこにさらに“陽”の要素を加えてくれる存在として、「これはchelmicoしかいない!」と思ってオファーしました。
私、彼女たちの曲がすごく好きなんですけど、今回はいつもの雰囲気とは違うこともやってみたくて。たとえばメロディを一緒に歌ってもらったりして、ふだんとは少し違うアプローチで、彼女たちの“今までにない魅力“を引き出せたらいいなという、ちょっとした下心もありましたね。


──「救世主」も、メッセージ性の強い、とても印象的な曲でした。
AAAMYYY:これは、完全にパートナーに向けて書いた曲です。さっきも話したように、私は当時“社会的な正解”を信じていて、それと“自分にできる現実”とのギャップを受け入れるのに結構時間がかかりました。もしかしたら、最初に産後うつっぽくなってしまったのも、それが大きかったのかもしれません。
そんな私に対して、パートナーもその家族も、本当に誠実かつ思いやりを持って接してくれました。自分の家族以外で、あんなふうに自然に優しく受け入れてくれる人たちに出会ったのは初めてでした。だから、「救世主」だなって思ったんです。
さっきも言ったように、昔の私は社会に絶望してるような暗い曲ばかり書く人間だったんですけど、彼らとなら自分も楽しく生きていけるかも、と思えるようになった。この曲は、そんな彼らへの感謝と、そうした気づきを込めた1曲です。
──トラックはMONJOEさんとの共作ですか?
AAAMYYY:今回は、MONJOEくんにほぼ丸投げでした。一応「こんな感じで」とリファレンスを渡していて、それはNewJeansだったんですよ。とにかくこの時はポップな曲が作りたくて。
彼は今すごくアクティブで、自費で韓国のソングライティング・キャンプに毎週のように参加しているくらい、制作が楽しくて仕方ないみたいなんですよ。私のソロライブでもDJをしてくれているので、音楽性や好みもよくわかってくれていて。「こういう感じで」と伝えたら、すぐにこのトラックが返ってきました。
──「そのまさか」では、冒頭にソーシャルメディアの話が出てきますよね。以前のインタビューでも、Xなどから距離を取っているとおっしゃっていましたが、最近はSNSとの向き合い方に変化はありましたか?
AAMYYY:私はもう、自己顕示欲がほとんどなくなっちゃって。“着飾る”とか“盛る”みたいな感覚が、自分の中からすっかり消えたんです。多分それは、“自然体でいる”ことに対して、今の自分がすごく肯定的になれているから。Xを辞められたことが、大きなきっかけだったと思います。今はInstagramも、上げたいときに上げるくらいの距離感。ビジネス的にはダメかもしれないけど、私にとってはすごく健やかなバランスなんですよね。
──この曲の〈はたから見たら外れた世界だが/誰も見れない景色が俺たちを待ってると/信じながらもまぁ気楽にいこうZ〉という一節が印象的でした。
AAMYYY:ミュージシャンって、ある意味水仕事だなって思っていて。Pecoriもちょうどこの間Number_iの「BON」って曲にラップ提供で参加して、それがすごく跳ねたんです。彼にとっても、大きな手応えだったんじゃないかな。ODD Foot Worksでずっと活動してきて、急にアリーナクラスのアーティストの曲に関わることになって。桁違いの規模を目の当たりにして、「ああ、音楽って本当にギャンブルなんだな」って。だから、あの歌詞にもそんな実感が滲んでいるのだと思います。
──Pecoriさんのリアルな感覚が反映されていたのですね。
AAAMYYY:音楽をやってる人って、極端な話、音楽しかできない人が多いと思うんですよ。私もそうで、音楽以外のことを人並みに器用にできない。でもなんとかこの世界でやってきていて、でも外から見たら“売れてないミュージシャン”もしくは真逆で“有名人”って思われがちだったりして。
──誰かに「音楽をやっている」と話すと、「食べていけてるの?」と聞かれることが多いという話はよく聞きます。
AAMYYY:そうそう。この間Tempalayが武道館をやった時も、今まで音楽にまったく興味がなかった親戚のおじさんが「武道館!?」って急に盛り上がってくれて。もちろん、作品を作ってそれでちゃんとご飯を食べていけるのが一番いいと思うんですよ。とはいえ、売れたら売れたで別の大変さも出てくる。そういうのを見ていると、程よく、楽しく、健康に音楽を続けるって、何より大切なことだなって思うようになりました。
もちろん、私一人じゃなくて、支えてくれるスタッフさんもいるので、その人たちがきちんと生活できるよう、みんなが音楽で食べていける健全なチームでいたい。そういう意味での熱量は、ちゃんと持ち続けていますね。そんな温度感で、これからもやっていけたらと思っています。


──AAAMYYYさんご自身のソロ活動には、今どんなスタンスで向き合っていますか?
AAAMYYY:最初の頃は、「ガーと行くぞ!」みたいな勢いでやっていました。でも、今は自分の状況もありますし、「ちょうどいいペースで続けていけたら」と思うようになりました。音楽って常に変わっていくものですし、そのときどきの自分のスタンスが一番色濃く反映されいてると思うんですよね。トラックも、歌詞も、その時の“ベスト”がそのまま出てくるというか。
インプットに関しては、子どもができてからは童謡やアニメの曲に触れる機会も増えましたし、音楽をじっくり聴く時間がなかなか取れないので、友達に「最近いい曲ある?」と聞いて、なるべく情報を集めるようにしています。リスニング量は減ったけど、そのぶん「人づての音楽」はすごく大事にしていますね。
──お子さんができたことで、たとえば子どもが好きな音や反応する音色・リズムを意識するようになった部分はありますか?
AAAMYYY:まだ成長の途中なので、好みも時期によって変わると思うんですが、今は実験段階という感じです。たとえば今は、車の中で私の昔のアルバム『BODY』を流すと気に入ったフレーズを何度も繰り返して歌ったりして。『バーバパパ』のサウンドトラックもよく一緒に聴いていますし、車のCDプレイヤーに入れている小原綾斗とフランチャイズオーナーのCDの中に、“同じことをずっとリピートしている曲”があって、それを延々と歌ってたり(笑)。
ちゃんと流行りもキャッチしていて、「Bling-Bang-Bang-Born」や「APT.」なんかも踊りながら聴くし、もちろんアンパンマンも大好き。でもだからこそ、自分が「これはいいな」と思って育ってきた音楽や作品も、ちゃんと触れさせてあげたいなと思っていて。親の好みも、さりげなく混ぜ込むようにしています。

Interview&Text:黒田隆憲
Photo:Kana Tarumi
Stylist:渕上 カン
INFORMATION
THANKS EP
2025.3.26
AAAMYYY
Track List:
1. HAPPY (Feat. chelmico)
2. リラックス (Feat. 鎮座DOPENESS, Neetz)
3. 救世主 (Feat. MONJOE)
4. そのまさか (Feat. Pecori, Yohji Igarashi)
5. 拝啓生きとし愛おしきあなた (Feat. Zatta)
配信はこちらAAAMYYYAAAMYYY Instagram
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