スタジアムへの道筋が見えるようなビッグでドラマチックなオルタナティブロックを響かせたメジャーデビューアルバム『Newspeak』から1年。NewspeakがEP『Glass Door』をリリースする。ディズニープラス スター オリジナルシリーズ『BULLET/BULLET』のエンディングテーマとして書き下ろした「Glass Door」を含む3曲の新曲と、「Glass Door」のアニメ放送バージョンの4曲を収録。文化が崩壊した世界の中での戦いを描くアニメと、情熱的なロックが見事にシンクロした「Glass Door」、ダンサブルなグルーヴとアシッドな酩酊感、ロックならではのダイナミズムが融合した「Lifedance」、爽快でメロディアスな「Coastline」と、結成時からのNewspeakらしい多彩な魅力が凝縮された作品ではあるが、そこには明らかな進化の跡が見られる。そこで今回は「Glass Door」を軸に、メジャーデビュー後の彼らの中に起きた意識の変化や新たに生まれたサウンドへのこだわりについて、語ってもらった。
INTERVIEW
Newspeak

「世界が広がったうえで、その覚悟を持てた」
――メジャーデビューアルバム『Newspeak』のリリースから1年が経ちました。Newspeakはオルタナティブロックを主なルーツとしながら、そこから吸収したものを広いレンジに届けられるものへと昇華することが、自分たちらしいロックだと信じてアウトプットしているバンドだと感じています。それは2017年の結成時から変わらないスタンスで、そういう意味ではメジャーレーベルのプロダクションがすごく合っているような気がするのですが、みなさんの中で気持ちの変化はありましたか?
Rei:そうですね。スタンスはずっと変わらず、それを常に更新しているつもりです。その中で、メジャーレーベルに所属できたことはとても大きいことだと感じています。制作やプロモーションに関わる人たちが増えたことで、いろいろな意見を聞くことができますし、選択肢も増えるので。でも、そこで変な折り合いのつけ方をしたら意味がなくて、けっきょく最後は自分たちで決めないと何も生まれないし、そうあるべきだと、今まで以上に強く思うようになりました。世界が広がったうえでその覚悟を持てたことが、もっとも変わったところだと思います。

Steven:うん。いろんな人たちの意見を聞くなかで、自分たちを客観視する能力が上がったことと比例して、意思を決定することへの意識も高くなったってことなんだと思います。

Rei:関わるスタッフが増えたことによって、いろいろな目線で僕らを見たときのおもしろさっていうのもあり、例えば、日本語詞が増えたのもそのうちの一つですね。Stevenはカナダ人、僕はアメリカ生まれで英語圏の音楽を聴いて育ちました。Yoheyもルーツのほとんどは洋楽だから、英語詞という選択はごく自然なことなんですけど、今は3人とも日本に住んでいるし、そもそも僕とYoheyは日本人。日本語を混ぜることもまた自然なことでカラーも出やすいんじゃないかって、そういう意見も出たんです。振り返ってみたら、自分たちだけでやっていた頃も日本詞にチャレンジしたことはありますし、もっとやってみたいと話したこともあって、おのずとその割合は増えていったんじゃないかと。だったらこのタイミングでもやってみようと、背中を押してもらえたような感覚ですね。
――今回の新曲「Glass Door」はディズニープラスの手掛けるアニメ『BULLET/BULLET』のエンディングテーマとして制作したということで、どんなことを意識しましたか?
Rei:監督は「自由にやってください。自分たちが作品から受けたインスピレーションをそのまま音楽にしてほしい」と言ってくださいました。Newspeakの楽曲をたくさん聴いてくださっていて、特に「Be Nothing」が大好きだという熱い想いも伝えてくれました。そこで「Be Nothing」のエッセンスも取り入れつつ、『BULLET/BULLET』から感じたことを、いかに自分のこと、バンドのこととして捉えリアルに表現できるかが鍵だと思いました。
Newspeak – Be Nothing (Official Music Video)
――『BULLET/BULLET』からどのような印象を受けましたか?
Rei:ポップなアニメなんですけど、文化が崩壊して荒れ果てた世界で生きる主人公のギアから湧き上がる感情や、仲間とともに成長していく姿が描かれたメッセージ性の強い作品だと思いました。
――ポップな中にさまざまな感情がうごめいている。まさにNewspeakの生み出す音楽と共鳴しているようにも思います。
Yohey:そうですね。だから方向性について悩むことはなかったんですけど、歌い出しにめちゃくちゃ時間を費やしてしまいました。

Rei:Aメロだけで2~3週間くらいかかったんです。僕が最初に作ったものに対してStevenが「なんかもっといいのあるんじゃない?」と言ってきたことから始まって……。確かに、作品に感じたポップなだけじゃない感じを、うまく表現できていなかったように思います。言われたときは「うるさい」と思いましたけどね(笑)
――そういうやりとりって、私の知るところだとNewspeakの制作にはよくあることですよね?
Rei:はい。誰かがそういうことを言い出すと、決まって最初は「うるせえな」って思うんですけど、できあがるといつも感謝するんですよね(笑)
Steven:Reiも「このドラムパターンはよくないね」とか、言ってくるよ(笑)
Yohey:お互いよくやり合うんですよ。で、とりあえず1回は「うるさい」と思うし言い返す。バンドらしいですよね(笑)。今回はテーマがすごくしっくりくるゆえに、強い気持ちが乗ってバンド内バトルになったって感じですね。でも時間がかかったのはAメロだけで、ほかはすんなりいきました。
Rei:みんなで同じテーマを共有することがあまりないし、基本的に曲のことについてあまり話さないんですよね。それぞれが感じ取ったことを擦り合わせていくっていう。でも今回は「サビはそういきたいよね」とか「終着点はガッツポーズしたいよね」 って、イメージを共有できていたからやりやすかったです。ほんとうにAメロだけ(笑)

――Yoheyさんの曲に添えるところは添えつつ、ときに口ずさめるようなフレーズも出てくるベースや、Stevenの大陸を想起させるようなドラムといった、Newspeakのシグネチャーと言えるサウンドが、今まで以上に極まってきたように感じましたが、アレンジに対する意識の変化について、聞かせてもらえますか?
Yohey:アンサンブルの中でベースの主張が激しい、出なくていいところまで出てくる感じがそもそも好きじゃなくて、基本的にあまり弾かないけどしっかり聞こえてくるところのフレージングはちゃんと入れたいみたいな感覚ですね。最近は特にそこを強く意識しています。まあそうじゃないしっかり主張している曲もあるんですけど、「Glass Door」は歌やメッセージ性の方を強く押し出すことが第一で、ベースはサビがちょっと効いてるな、程度のフレージングが入ってればいいかなって。
――その結果、むしろYoheyさんの個性が研ぎ澄まされて聞こえたような気はします。大声より囁きのほうが印象に残るみたいな。
Yohey:そうかもしれません。あと、Stevenの家(のスタジオ)で「よし、ベースやろうか」となったら、無理やりいろいろ弾いたりはするんですけど、そこでできたものを家に帰って組み立てなおすときには、ベースを触らないこともけっこうあるんです。 鼻歌を音にすることもあって、そうなると“刻む”感じのベースではなくなるんですよ。

――Stevenのドラムは、それだけでもNewspeakとわかるくらいのパワーがあると思っているのですが、そこもスケールが大きいという意味で共通している今までの曲と比べるとシンプルになっているからこそ、際立っているのではないかと。
Steven:前までは「難しいそうだから叩きたい!カッコいいでしょ?」みたいな、ちょっとセルフィッシュな感じが出ている曲がいくつかあったけど、最近は「そういうのは止めて、曲に合うフレーズを考えることをトッププライオリティにしましょう」っていうモードですね。僕の中で「Glass Door」のキーワードは“解放感”と“フリーダム”。そこにプレイヤー個人としてのエゴが入ってしまうと、伝えたい気持ちが伝わらなくなるから、手数を削いでシンプルに叩きました。
Yohey:Stevenは思考をシンプルにすればするほど表現力が増してくるところがあって、それって初期装備がすごいってことだから、心強いですね。
Rei:だからこそ、Stevenはセルフィッシュって言ったけど、足し算が活きてくることもあって。「Lifedance」はまさにそうですね。
――サイケデリックでダンサブル。「Glass Door」が名刺の表だとしたら、この曲は裏みたいな。すごくNewspeakらしですよね。
Yohey:もともとはこっちが表だった、みたいな。
Rei:Stevenに、「そこはドラムソロおもいっきりいけ!」って言ったら天邪鬼なのか、最初は嫌がってたけど(笑)
Steven:最終的にシンセとドラムをリンクさせたいっていうReiの気持ちが伝わってきたときに「そういうことか!」と思って、あそこのぶっ飛んだ感じはNewspeakにしか出せない魅力が詰まっていて、すごく意味があると思う。

「混沌のなかで、諦めずに考える」
――今回、オープニングテーマはちゃんみなさんの「WORK HARD」で、エンディングがNewspeakの「Glass Door」。「WORK HARD」はジャージークラブのビートをストレートに取り入れていて、曲全体の印象としても私たちがふだんクラブで聴いている音楽とあまり誤差がなく、アンダーグラウンドな要素をメインストリームで鳴るポップミュージックとしてナチュラルに落とし込むセンスが、すごく今っぽいなと思ったんです。ジャンルは違えどNewspeakの音楽にも近いものを感じていて、みなさんはロックアーティストとして、そのあたりのバランスをどう考えていますか?
Yohey:僕らのバックグランドは深いところを見れば見るほどバラバラになっていくんですよ。だから、重なる部分の趣味はメインストリームの音楽が多いから、そういう音になっていくんじゃないかと思います。
Rei:そうだね。そのあたりのバランスや方向性に関してはあまり深く考えていないというか。メインストリームで輝く音楽も、そこを目指していない音楽も大好き。その中で特にタイアップとなると、話さずとも「そっちじゃないよね」っていう共通意識を持っているんだと思います。そこのディレクションが最初からはっきりしているうえでの、ちょっとずらすおもしろさみたいな。
――歌詞もまたアニメの世界とNewspeakのイメージがシンクロする熱い内容になっていますが、どんなことを考えていましたか?
Rei:歌詞を書く前提で何かを観るという経験はなかったけど、そのせいで苦労するということはなかったですね。世界において正しいとされていることに乗るのか反るのか。他人や多数が唱える正しさに倣うのではなく、自分の意志で選択してやりたいことをやる。自分で選んで始めたことの理想が近い者同士が集まってゴールを探す。それってすごくバンドっぽいし、Newspeakっぽい物語だったので。そんな世界の大きな動きに合わせて生きていくことに違和感を持っている人たちのための曲であり、自分たちを奮い立たせるアンセムになったと思います。

――今の世界は息苦しいですか?
Rei:息苦しくないときなんてほぼないです(笑)。でも、いつの時代も、誰かが似たような悩みを抱えていて、ブチギレてる人がいて、そういう意味ではけっきょくずっと変わらない。でもなんとか変えようとする人、変えられると信じている人がいる。
Steven:このタイプの質問なら、あと1時間くらい話せるよ(笑)。そうだね、「何が本当なんだろう」っていう気持がいちばん強いと思う。どのニュースも言ってることが違うし、同じ話なのに異なるストーリーが展開されている。本当のことがわからないって、かなりヤバい。めちゃくちゃ短く言ったらそんな感じ。でも、混乱のなかで事実を探して真実を追い求めていきたい。 諦めずに考えることが大切なんだと思います。
Interview&Text:TAISHI IWAMI
Photo:Kazma Kobayashi
INFORMATION

Glass Door
Glass Door
Lifedance
Coastline
Glass Door (Anime Version)
アニメ『BULLET/BULLET』のエンディングテーマの為に書き下ろした新曲「Glass Door」を含む、3曲収録のEPをリリース。「Glass Door」はNewspeakにとって初アニメタイアップとなる楽曲。心に秘めた力強い想いがNewspeakの奏でる広大なサウンドスケープによって大きく飛躍するエモーショナルな楽曲となっており、アニメの世界観とも共鳴し合っている。今作のEPに収録される2曲もそれぞれ新しいアプローチにトライした意欲作となっており、最新にアップデートされたNewspeakの魅力が凝縮されているEP。