今年、結成20周年を迎えたONE OK ROCK。2月にリリースされた11thアルバム『DETOX』を引っ提げ敢行された南米ツアー、そして過去最大規模となった北米ツアーを経て、『ONE OK ROCK DETOX JAPAN TOUR 2025』で堂々の帰還を果たした彼ら。本ツアーおよびバンド史上最大規模で挑んだ日産スタジアムの初日公演を振り返る。

8月30日(土)。横浜・日産スタジアムには、日昼の気温を上回るほどの熱気と高揚感が充満していた。アルバム『DETOX』のリリースから数えること約半年、南米最大級のフェス<Tecate Pal Norte 2025>への出演、そして史上最大規模となった全米ツアーを経てのジャパンツアーは、凱旋帰国であり最早来日というに相応しい様相だ。
開演時刻を過ぎた18時10分、客入れBGMが止み、照明が暗転。開幕を前にすでにヒートアップ気味の観客席から轟くような歓声があがる中、スクリーンにはアルバムジャケットに描かれたフラッグに続いて、『DETOX』と書かれた本の表紙が映し出される。語られるのは、絶えない紛争、ウィルスの蔓延、AI信仰といった現代社会の混沌を隠喩するファンタジー。それまで響いていた歓声とは対照的な、無機質な人工音声が「平和な国があるのは、平和でない国があるから」と静まり返った会場に突きつける。そして、物語はこう締めくくられた。「ワンオクロックは音楽の力で世界を浄化する」――。『DETOX』の大命題であり、ONE OK ROCKが自らに課した使命が高らかに宣言されると同時にステージにメンバーが登場。ここで沸き起こった喝采は、ライブへの期待感を超えた7万人の同志たちの共鳴そのものであった。
<先攻か後攻で決まるような 馬鹿げたペテン師のゲームに 実際踊らされて狂わされ 騙されたあげく They want to make us pick a side>と力強く突き抜けるTaka(Vo.)の声を号砲に、「Puppets Can’t Control You」で幕を開けた日産スタジアムに爆炎があがる。アグレッシブなリズムと深く重たいベースに鋭くギラついたギターリフが絡む凄絶なサウンドに興奮が渦を巻く。ライブではすでにお馴染みとなった2曲「Save Yourself」、「Make it out alive」では、Takaの「もっとイこうぜ!」という煽りにオーディエンスがシンガロングとヘドバンで応える。Toru(Gt.)とRyota(Ba.)もスタジアム中が一斉に頭を振り乱す圧倒的エネルギーをステージ前方で浴びていたが、一方でどこか覚悟を決めたような強い眼差しが印象的だった。

怒涛の勢いで3曲を披露、この日初めてのMCではTakaが「今日この瞬間を、僕たちはずっと待っていました。四角く広がったこの空は全部僕たちのもの。一夜限りの勇気を与えたいと思います」と語りかけた。
一体感がさらに高まった会場で続いて披露されたのは、2015年発表のライブ必須アンセム「Cry out」。バックスクリーンには<Cry out〜>と声を合わせるオーディエンスの姿が映し出される。空を揺るがすほどに鳴り渡る7万人のシンガロング、あの壮大な光景は今思い出しても鳥肌が立つほどだ。さらに続けて、『DETOX』のオープニングを飾る「NASTY」で畳み掛ける。Tomoya(Dr.)が打ち出す地鳴りのようなビートに、Ryotaのゴリゴリと唸るベースラインと空間ごと切り裂くほどに鋭いToruのギターが重なる。目を見開き全身全霊で怒りを叫ぶTakaの姿にONE OK ROCKというバンドの原動力を見た。

「ひとりひとりのエネルギーが届いています。この景色は、ここまでの積み重ねだと思っています(Ryota)」と、各メンバーから本ツアー最大規模でもある日産スタジアムでオーディエンスとの再会が叶った喜びが語られたあと「古い曲をやります」というTakaの言葉に続いて披露されたのは「Living Dolls」。ファンのあいだでは名曲と名高いミドルバラードの同曲は、今回のツアーでおよそ10年ぶりにセットリスト入りしたこともあり、Toruのギターイントロがなるや否やどよめき混じりに感嘆の声があがった。20周年の記念すべきタイミングにライブで聴く同曲は、オーディエンスにとって最高のサプライズになったはずだ。すっかり空も暗くなり涼しい風が吹き始めたころ、メランコリックなギターを聴かせる抒情的な「Party’s Over」では、入場口で配布されていたLEDが一斉に点灯。演奏に合わせて波形が変わる幻想的な光景が、このスペシャルな夜に彩りを添える。



今回のライブを観て、スタジオ音源のクオリティを生演奏で届けるスキルには改めて驚かされた。スタジオ音源というひとつの到達点を基点とするからこそ生まれるオーディエンスとの一体感によって“今ここで『DETOX』が完成しているのだ”と感じられる場面が何度もあった。MCの際、Ryotaが「今日の僕たちは仕上がりすぎなくらいに仕上がってます」と笑っていたが、緻密に構築された楽曲を、スタジアムという音響的にシビアな環境で爆発的なパフォーマンスとともに再現する力量は、まさに凄絶というほかない。
Takaにいたっては、超人的とも言えるほどの声量と歌唱力でスタジアムを圧倒していた。そのボーカリストとしての表現力を存分に発揮したのが『DETOX』収録曲の中でもメロウなギターリフと哀愁ある歌声が異彩をはなつ「Tiny Pieces」、ゲストメンバーGakushiのピアノ伴奏で歌いあげた「All mine」、「Renegades」そしてTakaにとって“愛を教えてくれた人”と語る祖母に向けた曲「This Can’t Be Us」だ。

「アルバムのテーマからは外れてるけど、僕的には想いがたくさん詰まった曲。僕の気持ちが今日もこの日産スタジアムからおばあちゃんの病室まで届いてくれたらいいなと思って、心を込めて歌うんで、みなさんも周りにいる大切な人たちを思い浮かべて、ここに一緒に来てる人たちはしっかりと絆を深め合いながら、この曲を聴いてもらえたら嬉しい」と語った「This Can’t Be Us」には、心の奥底にまで沁み入るような感動があった。スクリーンに映し出される日本語訳と、小さなころから祖母が注いでくれた優しい眼差しを表現したアニメーションも相まって、曲の終わりには拍手とともに啜り泣く声も聞こえた。
深い余韻に浸る観客に向けて、楽器隊によるインストが後半戦の始まりを告げる。凄まじい手数で怒涛のドラミングを見せるTomoya、5弦ベースを唸らせるRyota、舌を出しギターを鳴らすToruは、まさにギターヒーローと呼ぶにふさわしい存在感を放っていた。
ここで、観客席から真っ赤なギターを掻き鳴らすDAIDAI(Paledusk)とCHICO CARLITO、ステージにはKaito(Paledusk)が登場。爆炎があがるなか膨大なエネルギーが激突する「C.U.R.I.O.S.I.T.Y.」に、先ほどまで静かな感動に包まれていたスタジアムは一転して混沌へ。座席がなければアリーナ席には巨大なサークルモッシュが発生していただろう。「これだけのメンツが登場してくれたんですから。やっちゃおうぜ!日産!」と、続く「One by One」ではKaitoの全身全霊のシャウトとCHICO CARLITOの斬り込むフロウが絡む激烈コラボを披露、会場の熱量は一気に沸点へ。メンバーたちの顔に浮かんだこの日一番の無邪気な笑顔が、最高の瞬間だったことを証明していた。
スタジアムを燃やし尽くした3人が去ったステージで続いて披露されたのは、彼らの無二のスタイルを世に知らしめた「The Beginning」。この曲だからこそ感じられるバンドの成熟とオーディエンスとの絶対的な一体感が印象的だった。余談だが、序盤には「今日は佐藤健くんも見てきてくれています。TENBLANK対バンしましょう」というTakaのMCも。会場には歓喜の声があがっていたが、ぜひ続報に期待したい。

16曲目、「Delusion:All」が始まる前に、Takaから観客へ向けて、「この汗のぶんだけ、みなさんの愛情をすげえ感じてます。さらっとスタジオなんてさっき言ったけど、当たり前なことだとは思ってない。だけどね、なぜか不思議と緊張してねえんだ。それは、俺らとお前らの信頼関係があるから」と、今日この場に立つことへの想いと感謝を語り、さらにこう続けた。「今回のアルバムは、ものすごく政治的なアルバムだしONE OK ROCK的にも強い表現で臨んだ。次にやる曲は俺らにとっても今の日本にとっても大事な曲だと思ってる。俺は、それがいいと思ったら右でも左でもいい。でも、そこを超えたところでなにかがおかしくなってることは事実だし、俺はONE OK ROCKを愛してくれているみなさんたちとこの混沌を乗り越えていきたい。いろんな考え方があるから、僕はそれを尊重します。でももし、心の中には溜まってるものがあるんだったら、次の曲で思いっきりぶち撒けてください」
アルバムの核心部というべき曲「Delusion:All」、Takaのハイトーンボイススタジアムを突破して夜空に響き渡る。<why does it feel〜those walls>と声を揃えるオーディエンスの姿、力強く音を刻むステージの光景は、革命絵画のような気迫と解放への渇望が満ち溢れていた。続く「Dystopia」では、スクリーンに映るメンバーの姿にリアルタイム映像合成を重ねMVさながらの世界観を演出。ドライブ感のあるサウンドが噴き上げた炎とともに憂うつもすべてさらっていく。怒りを原動力に、希望を掴み取っていく。そんなバンドの現在地が見てとれた。

<May this space heal you,Step into your personal sanctuary of peace.Your TROPICAL THERAPY.(この空間があなたにとっての癒しの場になるように。さあ、あなただけのトロピカルセラピーへ)>のメッセージに続いて披露された「Tropical Therapy」。力強くも哀愁を帯びたサウンドと楽園への逃亡を渇望するエモーショナルな歌声は、同志たちに希望を託す賛歌だ。モノクロームのスクリーンには、感慨深そうに声を揃えるメンバーたち、そして<I need a getaway>とレスポンスする7万人の姿が映し出される。ステージと観客席の垣根を越えて空間が一体化した「Tropical Therapy」は、間違いなくこの日のハイライトのひとつであった。
およそ1時間半に及ぶ本編のラストを飾ったのは、「The Pilot</3」。Takaの内面を投影した私的な歌詞であるとともに、途方もない怒りを燃やし尽くした先に掴んだ愛と学び、ONE OK ROCKが歩んできた20年を体現するこの曲に、この日のすべてが詰まっていたように思う。持てる力を振り絞るように楽曲に想いをぶつける4人の表情は、限界を突破した清々しさがあった。Takaの「I will fight for myself」というロングトーンに会場中が驚嘆の声をあげる中、ストリングスが加わる。壮大なサウンドスケープに7万人の感動が溶けていくあの光景は、ONE OK ROCK史のみならずロック史の伝説として語り継がれるはずだ。弦楽の音色を残し、マイクを放り投げ燃え尽きたようにサイドへ捌けるTaka、続けてステージを去っていくRyota、Toru、Tomoya。その背中に贈られる喝采の嵐は、しばらく止むことはなかった。

アンコールでは、「Stand out fit In」、「+Matter」そして、不動のアンセム「We are」を披露。本編とはまた違った多幸感のあるパフォーマンスと打ち上がった花火とともに非の打ち所がない大団円を迎えた。終演後、名残惜しそうにステージに佇むメンバーの姿を眺めながら、みな一様に前進し続ける彼らの現在地に立ち会えたことの喜びを噛み締めたのではないだろうか。怒りの先でたどり着いた愛と学び、バンドが背負うべき大きな使命、そして世界とは自分自身であるということを啓示する『DETOX』。この日、この場に立ち会ったすべての人が受け取ったものが、ONE OK ROCKの軌跡そのものなのだ。
最後に、本編ラストを飾った「The Pilot</3」前にTakaが語ったMCを記しておく。
「僕は、この今の世の中が許せません。思い返すと、俺の人生はいつもなにかを許せない人生でした。生まれてからこの方、自分のことを許せなかったことがある。両親のことを許せなかったことがある。時に本気で世の中を許せなかったことがあって。強い感情を持ち続けて前に進むときって、すごいパワーがいるし、自分自身が燃え上がっている。あまりにも強いパワーを持ち続けて前に進み過ぎると大事なことに気づけない瞬間があるんだ。今この世の中は、許すという気持ちを忘れはしかった人たちが多すぎる。少なくとも許せないことの連鎖がこの混沌とした世の中を作っているんだと僕は思っています」
「俺は悲しいしツラいし、でも自分もそうだったなと思うと、なかなか大きな声で、ましてアルバムにすることってすごい勇気のいることだったんだけど、いつも背中を押してくれたのはみなさんたちでした。要はなにが言いたいのかと言うと、人間許せないという気持ちをいつまでも強く持ち続けると、それはいつか、今度はあなた自身が誰かに許された人になってしまうということ。それを俺は、俺らの音楽を聴いている皆さんたちにはわかってほしいなと思いました。これが今回のアルバムの裏のテーマです」
「右があるから左があります。左があるから右があります。それでひとつの道です。僕はそう信じています。だから、みなさんたちの未来がこのアルバムを聴いて、僕はより明るいものになってほしいなと切実に思って作りました。今日皆さんたちがここに来てくれたこと、心より感謝します。そしてこの僕らの魂の叫びを、みなさんたちが少しでもキャッチしてくれることを切に願っています。明日からみなさんたちはまた戦場に戻ります。でも、忘れないでください。ONE OK ROCKはいつもここにいます。明日からがんばりましょう。ONE OK ROCKでした、また会いましょう」

INFORMATION
ONE OK ROCK DETOX JAPAN TOUR 2025
set list
1:Puppets Can’t Control You
2:Save Yourself
3:Make It Out Alive
4:Cry out
5:NASTY
6:Living Dolls
7:Party’s Over
8:Tiny Pieces
9:Renegades
10:All Mine
11:This Can’t Be Us
12:C.U.R.I.O.S.I.T.Y.
13:Mighty Long Fall
14:The Beginning
15:Delusion:All
16:Dystopia
17:Tropical Therapy
18:The Pilot /3ONE OK ROCK setlist posterONE OK ROCK tour dates
encore
19:Stand Out Fit In
20:+Matter
21:We are