【INTERVIEW】en こだわり抜いた和食で新たなケータリング体験を──新ブランド「en」を立ち上げた3人が語る美学と哲学
人と人をつなぐ「縁」をテーマに、日本の食文化を新しいかたちで届けるケータリングブランド「en(エン)」が始動した。寿司やおむすび、鍋といった「円卓を囲む食体験」と、人と人との出会いやつながりを意味する「縁」を重ね合わせたコンセプトは、既存のケータリングにはない温もりとライブ感を生み出すものだ。そのフードに舌鼓を打った利用者からは絶賛が相次ぎ、ケータリングでは異例の「飯待ち」すら発生しているという。
仕掛け人は、アパレル事業家のみならずInstagramでのフォロワーが30万人を超える人気アカウント「彼ごはんがうますぎる」の運営という顔も持つ野口勇磨、三軒茶屋のハンバーガー・ショップ「3pm」のオーナーでwisteria名義でのアーティストも行う佐藤辰哉、そしてIT領域から運営基盤を支えるエンジニアの清水創。それぞれ異なるフィールドで培った強みを持ち寄り立ち上げた「en」は抜群のコンビネーションによるものだ。今回はその経緯と革新的なケータリング、そしてその背後にある信念について訊いた。

──まず「en」というブランド名に込めた意味や想いを教えてください。
佐藤辰哉(以下、辰哉): そもそも、ご縁で会った人たちと始めたんですよ。僕は元々お店をやっていて、そこで会った仲間たちと一緒に始めようと思ったんです。
野口勇磨(以下、勇磨): そうですね。僕は本職がアパレルなんですけど、展示会へ呼ばれた時に、自分としては美味しいと感激できるケータリングと出会えたことがあまりなくて。オシャレなフィンガーフードとかももちろん良いのですが、やっぱり普通にお寿司とか食べたいじゃないですか。
それで初めてこの話があったときに、「お寿司とか置くの良いんじゃないか?」っていうアイデアを話してて、そこから始まりました。そして、自分としてはケータリングをやるなら「和食」であり、「和」の要素を使うことが初めから念頭にあったんです。
清水創(以下、創): 名前は、ご縁の「en(縁)」。それと、手毬寿司とかテーブルとか、「en(円)」をかけ合わせてみようと決めました。でも漢字で「円」って書いちゃうとダイレクトすぎるなって思って、それでローマ字にしました。

──別の業種で活躍している3人がケータリング事業を始めることになったのはどういう経緯なんですか?
辰哉: ある日、創くんがウチのお店に遊びに来てくれている時に、僕が子どもとの時間を増やしたいこともあって相談していたんですよね。その時に創くんが「ケータリングって良くないですか?」て提案してくれたんです。その時にちょうど勇磨くんとも出会っていて、僕もハンバーガー屋のアイデアを活かしたら良いものができそうな気がしたので、その日のうちに勇磨くんに電話したんです。
勇磨: 突然電話があって、「これから!?」って感じで。絶賛料理イベントの仕込みの最中でしたね(笑)。
創: 僕的な想いとして、辰哉さんがこれだけ広いキッチンがあって、まわりのメンバーも揃ってるので、「辰哉さん、ケータリングやった方がいいですよ」って伝えたんです。元々、僕は色んな会社の社長さんと一緒にゼロイチで事業を立ち上げることを何回かやっていて、そのうちの一つにケータリング事業があったんですよね。そういった背景もあって、ビジネスの仕組み的なポイントも見えていたところもあって、そこから辰哉さんとすぐに話が広がって、勇磨くんも今すぐ来てくれて、みたいな。
勇磨: それと、これはみんな一致したことで、海外の人に向けたサービスにもしたいなと。僕も「和食」への強い想いもあって、ケータリングにすれば、日本人だけじゃなく海外からのお客さんにも気軽に触れてもらえる機会になるんじゃないかと思いました。
創: 僕はアメリカのIT企業で働いてたんですけど、日本のビジネスで、特にITとか外資企業に勝てるものってマジでないと思うことも多々あって。その中で、唯一勝てるだろうって思ったのがまさに、日本の「食文化」「飲食業」なんじゃないかと。
──なるほど。特にいま、日本の食は海外から本質的にも注目されてますしね。
創: そうですね。特にいまは、色んな外国人が日本に来てくれる中で、大家族で来る人たちに必要とされてるようなサービスがないと思って。高級なお寿司を食べたいけど調べるのは難しいし、見つけたとしても本当の高級寿司店って英語を話せる人がいなかったり、大人数も厳しい。そういうのを考えてた時に、辰哉さんが和食の得意な勇磨くんを誘ってくれたので、最強のメンバーが揃ったというか。なのでインバウンドを見据えて、まずは日本人向けのケータリングから先陣を切って始めることになりました。
辰哉: ケータリング事業って、やることは簡単だけどホームページを作ったりデザインをするのってお金がかかっちゃうじゃないですか。それを創くんはパワープレイで、全部一人でやっちゃうんです。それもあって、色々とタイミングが重なったというか。
勇磨: ほんとに。これは、やらない手はないなと思いました。即決でしたね。

──人の縁や、それぞれが持っている強みの点をつなげて始まっている。「en」というブランド名にも納得がいきます。
辰哉: 三軒茶屋に店舗を構えてからの話ですし、僕ら3人が集まったのはここ1年くらいのことなんですよ。
──事業を進める中で、それぞれの本業とケータリングはどのように関係しているのでしょうか?
辰哉: 僕の場合は、3pmのおかげで色んな人と出会えるじゃないですか。そこでケータリングの話題が挙がることもあるんですけど、頼まれるのってハンバーガーではないんですよね。だけど縁があって話がもらえるのは3pmの店舗があるおかげなんで、おかげでニーズが幅広くなるなって思います。
創: 俺はエンジニアでありながら会社経営もしてて、アイデアを形にできる強みがあるんです。それに、自分の会社でもそうなんですけど、とにかく目立たないで誰かを立たせることに尽力するタイプなんです。相手チームのゴールキーパーがいないぐらいの状態まで持っていくことが役割なので、「en」でもその役割を担いたい。僕から見るふたりは、本当にキラキラしてるんですよ! しかもお互いの魅力がわかってるし、尊重しあえる関係値で。だからこそ、「この人たちのために頑張ろう」って自然に思えるんです。
勇磨: それぞれが理解しあって役割を担えているよね。僕も、例えば「en」のロゴのネオン管や、お皿のデザインとか、ケータリングを並べるときの雰囲気づくりのアイデアは、本業でいろいろ見てきた経験から持ってきてるかもしれませんね。
あと、僕の場合、『彼ごはんがうますぎる』という料理アカウントをInstagramでやっていて、その関係で、他の人のYouTubeの料理系動画もよくチェックしてるんです。そこで観る、外国人の人たちが日本の食に触れて感動しているシーンとかみて、あ~自分もこんな風にやりたいなと、そういう想いは自然にアイデアに落とし込まれていたりしますね。

──メニューや、ケータリング表現としてのコンセプトはどのように考えているんですか?
勇磨: やはりまずは「en」の色を出していけるようになりたいなと思ってます。「和」を立たせること。そのうえで、もちろん、ケータリングを依頼してもらえるブランドやお客さまのニーズに合わせて演出していきたいです。いまはまだ始まったばかりなので、ケータリングのメニューやそれを提供する流れなどは、事前にテストして、オペレーションを考えながら進めるようにしています。
辰哉: 勇磨くんが予め考えてくれたものをその都度アップデートしています。例えば、3pmで「en」のローンチイベントをやった時は、来てくれた人たちの反応をみながら、どんどん寿司のサイズを小さくして、最終的には1口サイズで食べれるくらいになりました。

創: あ、、僕はお酒飲みながら座ってるだけでしたね(笑)。料理が趣味で、食べるのがとにかく好きなんですよ。だから、「en」のメニューや表現には、エンジニアの目線とか入れたいなんて全然なくて。ただ単純に「美味しい!」とか「かわいい!」とか、それを大事にしてます。ただ「この見た目だったら、こう戦った時も差別化できそうだな」という視点においては、頭の中で自動変換されたりしています。
辰哉:さすが創くん、飲みながらそれ考えるの天才や(笑)。
──使う食材は季節によって変えたりしているんですか?
勇磨: そうですね。あとは「場所」もあります。ケータリングを提供する会場によって、ここなら、しゃぶしゃぶをやれそうって時もあれば、火を使わないものにしようとか。その中で、季節的に、出汁をさっぱりにして付け合わせにポン酢を出そうとか、真夏のときはレモンを出したりします。それは僕のアカウントの「彼ごはんがうますぎる」でも、ユーザーの方々が季節性を楽しんでほしいと意識していることで、「en」でもやりたいなって思ってます。
辰哉: 勇磨くんの本業忘れちゃう、完全に料理研究家だね(笑)。

──他のケータリング事業と比べて、最も意識していることってなんですか?
勇磨: そもそも、僕が知ってる中で、きちんと和食を提供し”続けている”ケータリングってないんですよね。メニューとしてあっても、「和食」を中心にしているっていう。それは大きく違う点だと思います。
辰哉: そうだね。あとは提供時の考え方とかですかね。寿司とか、ずっと置いてたらカピカピになっちゃうようなものをきちんと入れ替えていく、常に美味しくフレッシュで食べてもらう、味は絶対に大事にしたいですよね。
──何をするにしても3人にそれぞれ美学があるように感じます。
勇磨: そうですね。美学ってものというより、好きなんだと思います。昔から、自分の家に友だちが来た時も、ポテチだったとしてもしっかりお皿に載せて、ビジュアルとしても、「おぉ」って思ってもらえるように出したいとか。料理をふるまったり、テーブル演出したり、来たみんなが楽しんでもらえるような、”おもてなし”が好きなんです。強いて言うなら、その”振る舞う”ことで幸せを感じてもらえたらっていうのは大事にしたいです。
創: 僕自身思うのが、みんなの輪の中にいると自分のこだわりって、時に邪魔になってしまうこともあると思うんです。でも、「en」のように、3人で共通の目標があるときは、自分が手を抜いたら絶対にダメだって思うんです。それをしちゃったら続かないっていう思いがあるので……1ミリ単位でこだわらなきゃって思うんです。それこそが、自分としても参加する意義だと思ってます。
辰哉: 僕は二人のように、こだわりが強いタイプではないんです。その1ミリをズラしちゃうような人間なんで(笑)。だからこそ、僕の役割としては、柔軟でいることを心がけています。ふたりのおかげで日々勉強できますし、性格は正反対かもしれないけど、この3人でこうしてやれているって事実は、仕事関係のそれ以上に気が合ってるのかなって思います。この空気感や感覚は大切にしたいです。

──執着とかこだわらないからこそ、良い縁と出会えてるのかもしれませんね。
辰哉:確かに。よく言えば直感だけを信じてるタイプなんです。あと、行動力だけはあるかもしれない。「やろう」ってなったらちゃんとやりやり遂げたいんです、そういう意味ではこだわってるかもしれないですね。
──実際に事業を始めてみて、利用した方からはどんな反応を貰いましたか?
勇磨:めちゃくちゃ良いです。実際に体験してくれた人からはポジティブな反応をもらえてます。
辰哉:うん、めちゃくちゃ良いね。本来あってはならないと思うんですけど、イベントでも、ケータリングで待ちの行列ができちゃうっていう。しかも僕らがメインの場所ではなかったんですけど…(笑)。
勇磨: そうそう。皆さんはじめの30分くらいはちょっと取りづらそうにしてたんです。展示会でもよくあるんですけど、「これ食べていいのかな?」みたいな。だけど、何名かが食べはじめてリアクションを見て、徐々に増えて…、その後はもう一気にフードが無くなりました。
辰哉: イベントのケータリングは出しっぱなしが多いなか、新しく運ばれてくるスタイルに対して反響もよかったし、終わった後で「ウチでも入れたいです!」、「また頼みたいです!」という声もいただいて、ありがたいです。

──実際の声、イベントの場から得たインスピレーションはありましたか?
勇磨:インスピレーションというより、実践だからこその自身へのフィードバックは大きかったです。細かい話ですけど、料理の仕立ての方法や、置き方、お皿の下には何を引いた方が良いーーそういう細かな点で得られることが多かったです。それを次に試してみると、すごく良い結果になったり。行列や人数によって提供できるメニューの改善なども含めて、アップデートしていけてます。
創: 今までも、勇磨くんが何かを作る時の”こだわり”は感じてて、細かな食への追及や、撮影時のこだわり、想いの強さに、逆に「この人、相当やべぇな」って思いましたし(笑)。
何が言いたいかというと、勇磨くんが作る料理は絶対に美味いんです。来てくれたお客さんがみんな食べて「美味しい!」って言ってる姿をみて、僕としては「やっぱり、そうだよね!」って共感してます。
結果がどう出せるかがわからなくても、勇磨くんは、そこまでやりきる人なんです。それがイベント本番でも感じたこと。美味しいをやりきるっていう事に対しては僕もマインドセットされました。

──良い話ですね。最後に、「en」の目指す未来像について教えてください。
創: インバウンド向けに、日本が誇る食の力。日本に訪れた人たちにも、サービスについて知ってほしいですね。なので、BtoB以外でもケータリングを頼めるアプリのサービスはやりたいとは思ってます。
勇磨: まさに。海外から訪れた人たちが食べたいと思う和食、お店探しとか難しいと思っている人たちに向けて、僕らが出向いて提供できるようにするとか、そういうサービスをアプリを活用してやりたいですね。
創: その場合は、僕らだけがプレイヤーになるというより管理側にも回って、お客さんとプレイヤー(料理人や飲食業の方々)をうまくマッチングさせる、みたいなこともできるんじゃないかと。「en」の考えに賛同してくれる飲食業の方々と手を組みながら、みんなで広めていきたいって思われるぐらいのサービスとして作り上げたいです。役者は揃ってます!
辰哉: こうやって3人で、なにがダメとかそういうのは考えずに、とにかく面白いって思えるアイデアをどんどん出して、形にしていきたいです。

Interviewed by Asami Shishido
Edited by Ikkei Kazama
Photo by Itaru Sawada
INFORMATION
en catering|都内ケータリング専門サービス
オフィシャルサイト
https://en-catering.jp/
公式インスタグラム
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