2025年10月4日、東京・渋谷WWW。Eminataは地下の箱に、大きな美しい空を描き出した。ライブタイトルは、8月20日にリリースされたNew EPと同じ〈to be a bird〉。

生き延びるために鳴く、鳥 
今生きてる証を歌う、私 
マニフェストして言える、今 
‘to be a bird’

今回のワンマンライブに向けて、Eminataが残したコメント。そしてライブが始まる前の場内アナウンスでは、Eminata本人が「自由に動いて、自由に聴いて、自由に感じてください」と集まった観客たちに語りかける。その言葉通り、Eminataは誰よりも自由だった。飛ぶことを恐れず、傷をも抱えて空へ──渋谷の夜は、Eminataにとって〈飛翔〉を感じさせるステージとなった。

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自らの原点やここまでの成長を歌う
“Spare Time Love” 〜 “These Days”

暗転からゆっくりと立ち上がるイントロ。Eminataの伸びやかな歌声でスタートを飾った曲は、“Spare Time Love”。2023年の夏、フジロック直前に初めて彼女に行ったインタビューで、幼少期からの友人で〈slugger PRODUCTION〉の同胞でもあるpedestrianと最初に作った──と教えてくれた思い入れの深い曲であり、この日のスタートとしてもふさわしいナンバーだ。

静寂を経て、Desire Nealyのドラムがタイトに響き、BassのTakeshi Ochiai、KeysのHIYORI、Saxのerika uchidaの音が合流。バンドとしてのグルーヴに、Eminataの声が乗る。

“Rebels to the City”ではテンションを一段上げ、ベースリフ中心の都会的なソウル・グルーヴへ。2020年初頭に突如訪れたコロナ禍のロックダウン期に、閉じ込められた社会や愛から抜け出すことをテーマに書いた曲は、混乱を乗り越えた今でも普遍的なメッセージ性を放っていた。

テンポを変えて聴かせる“Goooood”を終え、MCで「8月20日に新EP『to be a bird』を出しました。その中の1曲で、コントロールできないくらい愛の気持ちがあって、どう行動していいかわからない、いつもより日常のスピードが5倍早く進んでいる、そんなときに書いた曲があります」と紹介して始まった“Tippy toe”では、Eminataの歌唱表現の幅広さを実感。軽やかなフットワークとともに紡ぐメロディには確かな輪郭があり、観客は心地良く左右に身体を揺らす。

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その後の“Waves”と“These days”が続く流れは、この夜の最初のハイライト。“Waves”は1stアルバム『Red』の1曲目であり、2024年に2度目のインタビューの機会に恵まれた際に、

「あの曲は途中まで自分の中でしっくりきていなくて、けっこうフラストレーションがありました。でも(アレンジのKazuki Isogaiが)いろいろアドバイスをくれて、そうしたら自分からもどんどん提案が出てきて。本当に“Waves”という曲名の通り、波に乗ってできた曲。磯貝くんとだからこそ曲の骨組みがいいものになったし、あれは本当に素晴らしいレコーディングでした」

と語っていた曲。波のように揺れるシンプルなサウンドゆえ、Eminataの歌声がとりわけ際立つ曲であり、観客は耳を澄ますことでしか得られない繊細な音像にしばし酔いしれた。

そしてKazuki Isogaiと“Waves”以来のコラボレーションで、4月29日に発売したニューシングル“These days”へ。落ち着いたテンポで歌い出し、中盤からはダイナミックな展開を魅せるこの曲でEminataは、“Waves”からのシンガーとしての成長をまざまざと魅せつけていた。

抱える想いをパフォーマンスで昇華
“Mr Heart” 〜 “Selfish”

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夜の中盤、曲のインスピレーションについてシェフを例えにEmiantaが話すMCを挟み、 “Mr Heart(Erykah Badu アレンジ)”へ。Eminataは受けた影響を循環させ、自身の音楽に変換する術を持っている。この曲ではソウルフルなグルーヴをベースに、自らの声を際立たせた。続く“Japanese”にもソウルに受けた影響が漂い、歌詞の細部には自意識が垣間見える。

ここで一呼吸。ライブ前日、自らの手でラインストーンをひとつひとつ付けたズボンや、こちらも手作りで制作したステージの装飾をキュートに紹介して会場を和ませるEminata。

そこから『to be a bird』収録の“painkiller kisses”と“Naitemo”が続く流れは、Eminata自身が抱える痛みや慰めのメッセージを伝えるセットだった。Eminataの歌は他者に寄り添うが、同時に自己肯定の光でもある。照明のゆらぎは、感情のゆらぎともリンクしているようだった。

「しんみりしたところで、出来立てほやほやの曲です。みんな、踊る準備できてる?」というEminataの誘い文句と力強いドラムでスタートした“odoru”から、バンドメンバーの奏でる音は跳ね、観客が自然と踊り出す時間に。ダンスビートの上で開放的に歌うEminataの姿に見惚れているうちに、自然とライブは“考える”ものではなく、“感じる”ものへと変化していった。

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温まった身体に、“Yoru”のメッセージとリズムがじんわりと染みる。Keys・HIYORIのピアノソロから始まる“134”もフロアを温めるだけではなく、観客を積極的に参加へ誘い、ダンスビートが重なり、身体の反応が声を追いかける。ここで印象的だったのは、バンドアンサンブルの精度だ。細かなリズムの隙間をメンバーそれぞれの音が埋め、Eminataはその上で歌い上げる。

さらにEminataを知る者なら懐かしく感じる“PBJT”の途中で、「友人からふたつの曲が似ている」と言われたエピソードを挟んで“Yellow”へ移る演出は、まさにライブならではだろう。

中盤の締めは、Eminataが『to be a bird』で書き下ろした“brain”と、FUJI ROCK FESTIVAL’23 “ROOKIE A GO-GO”でも披露した“Selfish”。Eminataは現在と過去を行き来しながら、自由の二面性や自己肯定の歓びなど、一貫して抱える想いをパフォーマンスで昇華していった。

解放のマインドでもっと高く、遠くへ
“Redemption Song” 〜 “ano kiss”

ラストに向けて、ここ最近のEminataにとって大きなトピックとなった曲へ。Eminata はこの夏、子供のころから慣れ親しんだレゲエコンペ祭〈Bob Marley songs day〉で優勝。 23年前に彼女の父が歌った曲で手に入れた栄誉であり、優勝者としてジャマイカ行きが決定している。

“ボブ・マーリーは言いました。自分の心を解放できるのは自分だけだ”

その言葉に続いて披露した“Redemption Song”。選曲自体がメッセージであり、レゲエを愛する者なら誰もが知っていると言っても過言ではないアンセムだ。Eminataはアコースティックギターの調べとともに解放を高らかに歌う。このタイミングで〈Bob Marley songs day〉で優勝したことは必然だったのだろう。バンドメンバーは、優しい表情でEminataを見守っていた。

父を思い浮かべた “Redemption Song”のあとは、弟への想いを込めた“Brother”へ。日差しのように柔らかく温かいEminataの歌声に包まれて、しばし目を閉じると見渡す限りの大海原が広がる。そしてEminataが初めて作詞作曲を自身で手掛けた弾き語りソング“赤い恋の歌(with ブリッジ)”が、さまざまな意味で終わりを感じさせる。“ここまで聞いてくれてありがとう”と。

ラストを迎える前に、ピアノとともにEminataはバンドメンバーを紹介。また、今回の5人で中国公演(10月17日に上海・ジャズリンカーンセンター、10月18日に北京・福浪Live House 浪)が決定していることや、改めてこの日に集まってくれた人々への感謝を伝えた。

満足感のある余韻と拍手で迎えられた本日のラストソングは、“ano kiss”。こちらは『to be a bird』で新たに書き下ろした曲であり、Emitanaはタイトル通りの甘く切ない歌声をやさしい笑顔で届ける。その表情は実に晴々としており、訪れた人々にポジティブを分け与えた。

Eminataは完成されたスターではない。だがそれが欠点であるとはまったく感じない。むしろ、彼女の未完成さこそが歌の核心だ。翼を広げるには風が必要で、その風はしばしば不安定。Eminataはその不確かな風を受け止め、自らの追い風とし、飛び立つための術を学んでいる。

同時に、先人たちの音楽や日々の暮らしからエッセンスを吸収し、日本語と英語、内省と解放、個と他者の狭間で自らの居場所を定めようとしている。Eminataが渋谷WWWの空間で奏でた歌という名の羽ばたきは、これからもっと高く、遠くへ飛んでいくための予感を含んでいた。

Interview & text by Rascal(NaNo.works)

Eminata – 〈to be a bird〉
2025年10月4日(土)渋谷WWW

セットリスト
01. Spare Time Love
02. Rebels to the City
03. Goooood
04. Tippy toe
05. Waves
06. These days
07. Mr Heart(Erykah Baduアレンジ)
08. Japanese
09. painkiller kisses
10. Naitemo
11. odoru
12. Yoru
13. 134
14. PBJT / Yellow
15. brain
16. Selfish
17. Redemption Song
18. Brother
19. 赤い恋の歌(with ブリッジ)
20. ano kiss

RELEASE INFORMATION

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to be a bird (Live at Shibuya WWW, 2025)

01. ano kiss (Live at Shibuya WWW, 2025)
02. tippy toe (Live at Shibuya WWW, 2025)
03. brain (Live at Shibuya WWW, 2025)
04. painkiller kisses (Live at Shibuya WWW, 2025)
05. naitemo (Live at Shibuya WWW, 2025)
06. These days (feat. Kazuki Isogai) [Live at Shibuya WWW, 2025]

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