フジロックの記憶は単なる音楽体験ではなく、音・ビジュアル・ライフスタイルが交差する場として、時代の痕跡が同居している。PARCO MUSEUM TOKYOで2025年12月26日から2026年1月12日にかけて、フジロックのオフィシャルショップ<岩盤/GAN-BAN>の25周年を記念して開催される『TIME CAPSULE 2025 : A FUJI ROCK Odyssey -時空を超えるフジロック展-』は、その記憶をアートの文脈で再構築し、来場者の既視感と共感を呼び起こす場となるだろう。
<記憶への入口>
映像やヴィジュアルで誘う“夏への扉”

この展覧会はディレクションを担うキュレーター・半田淳也の視点により、来場者自身の感覚を刺激する“時と記憶の空間”として設計されている。遡ると半田淳也は、N.HOOLYWOOD 在籍時の2007年にフジロック・コレクションの制作依頼を受け、独立後の2017年からもGAN-BANのショップデザインやフジロックのグッズデザインなどを数多く手掛けている。展覧会のロゴは、NASAのボイジャー探査機に搭載されたゴールデンレコードがインスピレーションの元。音声波形と映像データを象徴するふたつのカプセルは、観る者を「夏の回想」と「音の宇宙」の旅へと誘う。

展示の始まりは〈記憶への入口〉。初代GAN-BAN NIGHTのVJで映像監督の関和亮による作品が、来場者を迎え入れる。印象的な光と影の反復とともに映し出されるフジロックの映像は、記憶の奥底へと沈み込むような感覚を与え、観客の身体は共鳴する余白が生まれる。関和亮は、音楽と映像の融合をひとつの芸術形式として昇華してきた映像作家だ。彼の映像はフジロックという野外フェスティバルの体験を、身体的記憶から普遍的なヴィジュアルへと転換する力を持っている。
その映像が流れる向かいの壁には、2017年のポスターからフジロックに関わり始め、直近では2025年のキービジュアルも手掛けるデザイナー&アーティスト・渡辺明日香の作品が大胆に描かれている。それらの作品を見た時点で、渋谷にいながらも“夏への扉”はゆっくりと開いていった。


<タイムカプセル>
232枚のフジロックTと“記憶の部屋”
展示の中心となる<タイムカプセル>は、観る者の探究心を刺激する空間だ。過去へと遡る旅を示すかのように電車を模した導線が空間を貫き、歴代フジロックのビジュアルをプリントした232枚のTシャツ(非売品)や、膨大なオフィシャルグッズが無造作に配置されている。来場者はそこに散りばめられた展示物をじっくりと探索しながら、記憶の断片をひとつずつ紐解いていく。
このセクションを担当する美術作家・松本千広による乱雑なモノの配置は、いわゆる一般的な展覧会の形式からは逸脱し、空間全体を1枚のコラージュとして捉えていたように感じる。同時に、この空間の世界観は観る者の内的時間を刺激し、それぞれの記憶と現在を同時に立ち上げる装置としても機能していた。







<タイムカプセル>に関しては、とりわけ生で見た方がいい。ベンチにもたれかかる人、落ちたリストバンド、フジロック記事の切り抜き、色褪せたオフィシャルグッズなど、いくつかのキーワードだけを残そう。この空間には、あの夏の“わたし”や“あなた”が確かに存在しているはずだ。



展示空間では、GAN-BAN NIGHTを象徴するDJ・プロデューサー・ミュージシャンのSUGIURUMNが音響演出を担当し、音と記憶が交差する展示体験に重要な役割を担う。そして彼がメンバーであるTHE ALEXXの新曲“Beautiful Surrender”は、この展覧会のテーマソングとして制作された。ちなみに会場内で流れている音には、2025年のフジロック会場で収録した音が含まれているという。聞き当てるのはなかなかの無理難題だが、ぜひあなたの記憶と耳を頼りに探してほしい。
THE ALEXX「Beautiful Surrender – 2025 FUJI ROCK Odyssey Edition –」
<現在、そして未来へ>
GAN-BANの“実験性”や“遊び心”
最後の展示ゾーン<現在、そして未来へ>では、GAN-BANの初代店長であり現代美術家のShohei Takasakiによる、大胆なキャンバスコラージュ作品が眼前に広がる。過去のフライヤーやTシャツを重層的に取り込むことで、GAN-BANの歴史をひとつの絵画として表現していた。

そしてその向かいには、本展覧会のティザーを制作したグラフィックデザイナー・Kamikeneによる音波のインスタレーション作品が配置。形態と音響の関係性をアナログなギミックで探る作品は、不思議なほどに親和性を持っている。



展示の最後は、ビデオチーム・最後の手段による映像作品。現代のフジロックから未来へと視線を向ける効果を果たしており、音楽史と未来志向が同時に立ち上がる空間として巧みに設計されていた。そして、2025年のORANGE ECHOで木工ステージを制作したZERO ACTION ARCHITECTによるオブジェとともに、オリジナルグッズが並ぶミュージアムショップへ。ここではBLANKEY JET CITYやTHEE MICHELLE GUN ELEPHANTの限定Tシャツや、2018年から2025年までのフジロックコレクションなどが販売され、物販空間自体が展示作品として機能していた。




ミュージアムショップを巡り終えた先には、「フジロック・オフィシャルショップ岩盤/GAN-BANはみんなの夢を叶えます。」というメッセージが掲げられていた。それはフジロックにまつわる夢を書き込むことで応募できる企画であり、その想いに応える形で特別な何かが用意されているという。展示の余韻を胸に夢や想いを書き残してみるのも、この空間ならではの楽しみ方だ。
『時空を超えるフジロック展-』は単なる懐古的展示ではなく、映像・音響・グラフィック・空間デザインなど多様な表現が不思議な共存を果たし、観る者の身体感覚を刺激する場として存在していた。そしてその“実験性”や“遊び心”こそ、GAN-BANがGAN-BANたる所以なのかもしれない。

25年にわたってGAN-BANが築き上げてきた“音の磁場”は、渋谷の地で新しい形として再演された。来場者はこの展覧会を通して時空を越え、その先の未来、そう来年の苗場で会おう。
Text by ラスカル (NaNo.works)
Photo by SOUTARO SHIMIZU
INFORMATION
| 展覧会名: | 岩盤/GAN-BAN 25周年記念特別展 『GAN-BAN 25th Anniversary Special Exhibition TIME CAPSULE 2025: A FUJI ROCK Odyssey ― 時空を超えるフジロック展 ―』 |
|---|---|
| 会場: | PARCO MUSEUM TOKYO(渋谷PARCO 4F) |
| 会期: | 2025年12月26日(金)〜2026年1月12日(月・祝) |
| 開館時間: | 11:00〜21:00 ※12月31日 11:00〜18:00 ※1月1日・2日休館/最終日18:00閉場 |
| 入場料: | 500円(小学生未満無料) |
| 共催: | 株式会社パルコ、岩盤/GAN-BAN |
| 協力: | SMASH、FUJI ROCK FESTIVAL |
ARTISTS
▶ 展示キュレーション・アートディレクション
半田淳也 / Junya Handa @andwhatnot_design
▶ 展示参加アーティスト
関和亮
松本千広
渡辺明日香
最後の手段
SUGIURUMN
Kamikene @kamikene_
Shohei Takasaki @shoheitakasaki
ZERO ACTION ARCHITECT