着用者のアイデンティティを引き出す黒縁眼鏡をアイコンに掲げる、日本発のアイウェアブランド〈Yin Year〉。「あなたの象徴、形見となり、継承されるもの」というコンセプトのもと、人物の記憶や時間に寄り添うプロダクトを提案している。
今回は、〈Yin Year〉のInternational Gallery BEAMSでの新規取り扱いに際して、デザイナー・池手晴紀、平澤究の2人と、バイヤー・井上透へのインタビューを敢行。ブランドの成り立ちや思想、取り扱いに至るまでの背景について聞いた。取り扱いを記念して2月6日(金)から開催中のポップアップストアも見逃せない。
影のように寄り添い、歳を重ねるアイウェアブランド

──まずは、ブランドを立ち上げた経緯から教えてください。
池手 平澤とは服飾系の大学の同級生で、卒業後に僕から平澤に声をかけ、2019年に〈Yin Year〉を立ち上げました。ブランドを始めようと決意した背景には、ある人との出会いがあります。当時通っていたカフェの常連だったおばあさんが、亡くなったご主人の眼鏡を毎日丁寧に磨いている姿を目にしました。その眼鏡は、想いや記憶をつなぎ留めるご主人の象徴のように感じられ、そのときに自分にとっても眼鏡が特別な存在になったんです。大切な誰かに届き、受け継がれていくものづくりをしたいと思うようになった原点ですね。
──〈Yin Year〉の大きな特徴として、黒縁の眼鏡をアイコンに据えている点が挙げられます。その意図とは?
平澤 〈Yin Year〉には、“Yin”=陰と、“in Year”=年を重ねるという意味があるように、ブランド名には「まるで影のようにあなたに寄り添い、ともに年を重ねてほしい」という想いを込めています。光と影は表裏一体で、影は決して前に出ることなく、いつもその人の後ろにある存在。だからこそ色は影と同じ黒を選んで、眼鏡が顔の上で主張しすぎず、人物を形づくる一つのピースとして成立するようデザインしています。
池手 それに黒縁は、人の顔に乗ったときに品を損なうことのない色だと考えています。実際のところ、眼鏡は人物の印象を形づくるうえでもかなり強く打ち出される存在。なので僕たちは、ある程度人物のアイコンとしての役割を果たしつつも、その中で人間性みたいなものを表現できるよう、曲線や厚み、サイズ感といった微差に徹底的に向き合っています。色を一つに絞ることで、その違いがよりクリアになるので、皆さんにもご自身に合ったものを選んでいただきやすいかと思います。

──生産背景やものづくりの姿勢についても教えてください。
平澤 眼鏡のデザイン方法、生産方法、かかるコストなどについて、全く知識がないところからのスタートでした。2人で手探りで図面を描き続ける中、千葉でセルロイドの眼鏡を生産されている80歳くらいの職人の方と出会ったんです。持ち込んだ図面を何度も突き返されながら、3年かけて対話を重ね、ようやく最初の5型が完成しました。そのときの経験と感覚が、今のものづくりのベースになっています。
──1stコレクションから継続してショートフィルムも制作されていますね。眼鏡ブランドとしては珍しい発表方式だと感じましたが、その意図とは?
池手 ブランドのコンセプトである「象徴・形見・継承」に関して、最初から考え方が固まっているというよりは、探求し続けるべき対象だと思っています。映像制作はその過程を可視化する手段です。ドキュメンタリーや物語などジャンルは固定せず、その都度異なるスタイルで「継承」の輪郭を掴もうとしています。最新作は台湾で撮ったドキュメンタリー作品『落葉帰根』。台湾で人生を過ごしてきた人々の、リアルな声を拾い上げています。
〈Yin Year〉とInternational Gallery BEAMSのこれから
──International Gallery BEAMSで〈Yin Year〉を取り扱うことになった経緯と、ブランドの魅力だと思う点を教えてください。
井上 International Gallery BEAMSでは、価格帯も含めてかなり厳選してブランドをセレクトしています。その中で〈Yin Year〉は、僕らのスタイルに自然とはまりそうだと感じました。過度にデザインが主張するわけではないのに、程よい違和感があって、その人自身の個性を引き出してくれる。加えて、日本人の骨格にきちんと合う点も大きな魅力で、アイウェアとしての存在感とバランス感がとても優れていると思います。今回のポップアップでは、通常展開する10型に加え、特別にカプセルコレクションもいくつか揃えてもらっているので、この機会にぜひ店頭で直接ご覧いただけたらと。
──取り扱いが決まったときは、どんなことを思われましたか?
池手 ブランドとして、自分たちの展示会でも、顔だけが映る鏡はあまり置いていなくて、全身が見える姿見で提案しているんです。眼鏡単体ではなくて、トータルコーディネートの一部としてどう見えるかを大事にしたいので。顔からつま先まで提案できるお店で扱っていただけるのは、アイウェアブランドとしてすごく幸せですし、面白い提案をしてもらえそうだなと楽しみにしています。


──最後に、〈Yin Year〉を取り扱うセレクトショップとして、〈Yin Year〉というブランドとして、両者の展望を教えてください。
井上 セレクトする側として、ブランドを一方的に選んで終わる関係性にはしたくないと思っています。〈Yin Year〉とも、今回のイベントのように提案を重ねながら、一緒に成長していけるのが理想ですね。すごく大きく、幅広く知ってほしいっていうことではなくて、 きちんと知ってもらいたい人に届けられればいいなと考えています。今回の取り扱い開始に合わせて、実際の着用者にフォーカスしたスナップ撮影も実施しました。〈Yin Year〉の眼鏡が、どんな人の生活の中で、どう使われているのかが伝われば嬉しいです。
池手 〈Yin Year〉として掲げている「あなたの象徴、形見となり、継承されるもの」というコンセプトを、これからも掘り下げ続けていきたいです。今は眼鏡と映像という表現方法ですが、その形は変わっていくかもしれません。その探求を続けること自体が、結果的に眼鏡のデザインにも良い影響を与えていけばいいなと思っています。


──〈Yin Year〉を選んだ理由は?
友⼈の紹介で展⽰会にお邪魔した際にたまたま出会ったのですが、こんなにフィットする⿊縁は初めての感覚でした。⿊縁が欲しくなり、その時は買わずに他のブランドの⿊縁を何種類か⾒に⾏きました。結果的に、ぶっちぎりで〈Yin Year〉のこのモデル(YY 3-19)でした。どんな服にも馴染み、気づいたらもう⾝体の⼀部みたいな感覚です。その後2⼈とは友⼈になり、魅⼒的な⼈柄に⾊々と納得しました。〈Yin Year〉と出会えよかったと⼼から思っています。
──〈Yin Year〉の眼鏡と古着やヴィンテージアイテムに共通する部分はありますか?
以前〈Yin Year〉の2⼈が、彼らが頭の中にあるモノをカタチにする過程の話をしてくれました。その内容は、性別、名前、年齢、⽣い⽴ちなどとても細かく⼈を想像するという話でした。存在しない⼈を想像して〈Yin Year〉の眼鏡が⽣まれている、その話に感銘を受けました。古着の痕跡から過去の持ち主を想像し、今へ繋ぐこの仕事の醍醐味は、〈Yin Year〉の眼鏡作りと共鳴します。存在しない人物を細部まで想像し形にする彼らの過程は、モノから人を辿る僕の視点と真逆のようで繋がっている。その部分を彼らも⼤切にしているということ、それが僕にとって何よりも嬉しい共通項かもしれません。なので、僕はずっとこの眼鏡をかけ続けるつもりです。そして多くの友⼈、お客様に継承(おすすめ)しています。


──〈Yin Year〉を選んだ理由は?
眼鏡はすごく好きで何本も持っているんですけど、⿊縁は私の顔には浮いて⾒えてしまい避けていました。ですが〈Yin Year〉は不思議とどれをかけてもしっくりきて、実は3本も持っています(笑)。眼鏡もそうですが、デザイナーの2⼈の笑顔がとても印象的で。まったく壁のない池手さんと、丁寧で⼀定なテンションの平澤さんが2⼈合わさってクシャッと私に笑ってくれた瞬間があって。そこでもうすぐに惚れ込んでしまいました。そこから今まで、変わらず2⼈のことが⼤好きです。
──どんな時に〈Yin Year〉の眼鏡をかけたくなりますか?
〈Yin Year〉の眼鏡はなぜか気が抜けている時につけたくなります。ちょっと寝癖がついてたりヘアスタイルの中に余⽩があるスタイルだったり、⾃分をよく⾒せたい時より、等⾝⼤でいたい時、ボサッとした髪型に〈Yin Year〉の眼鏡をかけると、気に抜けた中に「あ、これでいいんだ」ってその抜け感が逆にハマってくれる気がします。⿊縁ってカシッと決まりすぎちゃう気がするんですけど、〈Yin Year〉は逆にちょっと伸びた髪とかちょっと中途半端みたいな髪型が好きな私にすごくちょうどよくハマってくれる存在です。


──〈Yin Year〉を選んだ理由は?
平澤は⼤学時代からの友⼈で。彼が⾃⾝の眼鏡ブランドを⽴ち上げると聞いてローンチイベントに⾏った際、いまも所有している「YY 1-19」を購⼊しました。当時そもそも眼鏡はサングラスくらいしか持っていなくて、もちろん黒縁も初めてでしたが、彼に選んでもらった眼鏡は自分の顔に自然と馴染みました。「さすが長年の友人」とニヤけていましたが、そこから7年。いまいろんな人が〈Yin Year〉の眼鏡をかけているのをみて、改めてブランドの魅力を感じています。
──〈Yin Year〉のプロダクトやそのデザインをどう評価していますか?
イチ眼鏡ブランドとしての表現の枠を広げ続けている稀有なブランドだなと感じています。特に彼らがコンスタントに制作し続けている映像作品は〈Yin Year〉が掲げるブランドコンセプトの1つ1つが⾊濃く反映されています。プロダクトでいうと、僕が個⼈的に⼀番気に⼊っているのは眼鏡ではなく、眼鏡ケースで(笑)。⾸からぶら下げられるレザーケースは、眼鏡のテンプル部分を⾒せられる設計になっていて、眼鏡を外している時でもコーディネートの⼀部として⽴ってくれるところがデザインとして秀逸だなと。またジュエリーブランドとコラボして製作している「グラスカフ」は、眼鏡の表現を⼤きく拡張しているなと感じます。彼らが提案するプロダクト1つ1つに、そしてそれらを通して表現している思いや価値観に、とてつもない奥⾏きを感じ、いつも刺激をもらっています。
Interview&Text by Sana Tajika
Photo by Peso
Snap Photo by Kenichi Matsuo
EVENT INFORMATION
〈Yin Year〉 POP UP STORE
日程:2026年2月6日(金)〜2月15日(日)
場所:International Gallery BEAMS(原宿)
時間:OPEN 12:00 / CLOSE 20:00(土日祝 OPEN 11:00)
デザイナー在店日:2月7日(土) / 2月8日・2月14日(土) / 2月15日(日)
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